「追い出し部屋」と呼ばれる問題が人事権の乱用として批判を受け、デスクワーク主体の仕事から、肉体労働の必要な仕事などに異動させた社員を今秋にも元の職場などに戻すという記事があった。かつてバブルがはじける直前に某社の「座敷牢制度」が新聞に取り上げられたことがある。座敷牢という呼び名も凄いが、追い出し部屋という呼び名にも愛情が無い。
このようなニュースは、経営者やその会社に批判が集まりがちである。また新聞表現も会社側の対応に批判的になり、「追い出し部屋」とか「座敷牢制度」とか過激になる。しかし、この会社はブラック企業ではなく、優良企業である。また、このような施策で社内風土がどのように変質していくかは不明だが、少なくともひどい社内風土という評判も聞かない。
座敷牢と騒がれた会社では、新聞で問題が取り上げられた後、当方のFDへのいたずらが起き、数年後には新聞に載るようなとんでもないできごとが起きたりして、社内風土が入社した時から大きく変質していった。当方はある種の恐れを感じ写真会社へ転職したが、20年経過し、講演者として招待された時に、当方が入社した風土に戻っている変貌ぶりを見て驚き、経営者の努力と苦労に敬意を表したくなった。そして組織風土とは経営の努力で大きく変わると言うことを学んだ。
ゴム会社では買収したアメリカ企業の立て直しに10年以上の時間がかかり、その間血のにじむような経営努力がなされ、その過程で新聞が書き立てたような早期退職者問題が発生した。会社は倒産しそうな極限の状況であり、決して安易な判断で行われていたわけではない。新聞が騒ぎすぎている、と思った。しかしその厳しさは風土の変質を招いた。
ただし、企業としては早期退職者を募って人件費を削減したかっただけである。手順として新しい職場を紹介しており、無理矢理従業員を退職に追いやったわけではない。新聞の「追い出し部屋」という表現は少し過激すぎる。
ドラッカーは知識労働者の働く意味を「貢献」と「自己実現」にあると定義した。この定義に従えば、知識労働者は会社へ「貢献」する努力をしなければいけない。自らの存在が会社に迷惑をかけている、と思われたなら、「貢献」するにはどうしたら良いのか自ら判断しなければいけない。
当方はゴム会社で6年間苦労して育てた高純度SiC事業を住友金属工業とのJVとしてスタートし、これからというところで転職した。高純度SiCを製造する技術は完成し、当方でなくても開発を進められる状況だったので、自己の身の振り方を真摯に考えた。
その結果専門とは異なる分野への転職という道を選ぶことになった。辛い選択ではあったが、知識労働者が真摯に判断しこのような決断をしなければ事態の打開ができない状況だった。当方が自ら身を引いても高純度SiC事業は20年以上経った今もゴム会社で続いている。仕事を継続したかった思いは今でもある。
もし知識労働者が「貢献」と「自己実現」を真摯に考える習慣になっていたら、「追い出し部屋」や「座敷牢」と呼ばれるような手段を経営者は取る必要は無くなる。弊社の研究開発必勝法プログラムには、体験に基づきこのような知識労働者の問題を解決するプログラムについてオプションとして用意しています。
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小保方氏の学位論文には不正があったが、その取り消しには当たらない、という早稲田大学の見解が昨日新聞発表された。不正の方法と学位の授与との関係に因果関係が無いから学位取り消しに当たらない、という。おそらく裁判になった時を想定した解釈だろう。
新聞には丁寧な説明が書かれていたが、早稲田大学の学位審査は、多少の不正を行っても論文のロジックが厳密であれば審査には影響しない、と言っているような内容である。一方で、彼女の論文は正常な審査であれば通過しなかったが、すでに審査された学位論文を取り消すまでには至らないと、通過しないレベルの論文が通過したので許されるというおかしなことも述べている。
この姿勢は真理を追究する科学者を育てる、という視点から見ると大変恐ろしいことなのだ。すなわち捏造を行ってもそれが明らかにならない、ロジックで厳格に支持された捏造ならば許される、と言っているようなものである。
科学の世界では、新しい発見について科学的な証明を行うために実験は不可欠である。実験を行い新しい自然現象が再現された時に仮説が正しい、となる。早稲田大学から今回発表された見解は、厳密な論理で裏打ちされた実験ならば、誰にも分からない捏造をやっても良いですよ、と言っているのである。
もしこのような姿勢でSTAP細胞の実験が行われたならば、野依所長の晩節を汚すことになる。野依所長は捏造されたかどうか分からない実験結果を信じて判断を下す役目にあるからだ。
そもそも科学に携わる人間は一点の曇りも無い心の持ち主(追記)の天職であったはずである。性善説で科学の世界は動いてきた、といわれるのはそのためである。ところが分けの分からない科学的成果でもそれが人類に役立つ「かもしれない」と権威づけられたときに科学者が地位と名声を得られるような時代になってから、研究の捏造が増えてきたのである。
技術の世界では実際に安定した品質の「モノ」ができなければ地位や名声は得られない。だから他人の成果を取り上げるような不正は行われても、その成果にインチキな実験が含まれるという余地は少ない。
仮に捏造を行ったとしても実際に機能が実現される前提が保証されていなければ捏造の価値が無くなるのである(注)。ロジックが厳密で誰にも分からなくなる捏造を認めた科学の世界は、捏造が品質に影響してその結果が市場で影響の出る技術の世界とはもはや車の両輪に例えられない。
少なくとも不正を不正として認め、不正の無い状態の論文を受け入れる、というセレモニーを行うべきで、「まちがって下書きが製本され、それで学位審査が行われた」という言い訳が通用していてはおかしいのである。もっとも早稲田大学の学位とはその程度のレベル、と言うのであれば話はべつだが。
(注)企業秘密と成果の早期公開との問題を解決するために、学会発表でデータを黒塗りしたりすることは暗黙の了解となっているが。
(追記)下書きが間違って製本されそれが審査された、という言い訳が今回認められている。この言い訳の内容について、どこからアイデアが出てくるのであろうか。また、それを簡単に認めてしまう大学をどのように理解すればよいのであろうか。苦労して学位を取得した経験からはとても理解できないことが起きている。
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瀬戸物市には規格外の商品が山のように売られていた。瀬戸物は重要な輸出品であり、この規格外の商品の売り上げが日本のセラミックス産業を支えている、と親から教えられた。子供の頃この説明を素直に納得したが、米を食べるのはアジアが主体であり、お茶碗が欧米にたくさん輸出されていると思えない。瀬戸物市には瀬戸物のフランス人形や高級そうな洋風の水差しや花瓶なども売られていたので、親はそれらを説明していたのだろう。
しかし、当時の我が家はそのような洋風の商品を買わずお茶碗探しがもっぱらなイベントであった。瀬戸物市の翌日は食卓がリニューアルされる。家族おそろいの新しいお茶碗やお皿で皆食卓を囲むのは、少し贅沢な気分だった。古いお茶碗やお皿は保存され、食卓に並んでいるものが割れるとそれらで補充された。昔の瀬戸物は割れやすかった、という印象がある。ところが100円ショップの食器は割れる前に欠ける。
お茶碗の割れた思い出はあっても欠けた思い出は無い。すなわち100円ショップのお茶碗は絵柄がきれいに揃っていても欠けやすい。これはお茶碗を成形するプロセスの違いが現れている。100円ショップのお茶碗の見かけは瀬戸物市のお茶碗よりも良いが、力学物性は低下している、と思われる。ノリタケの森で買ってきた食器とぶつかると、必ず100円ショップのお茶碗が欠ける。ノリタケブランドのお皿は規格外品でも丈夫である。
ノリタケブランドの製品でも一部は射出成形で製造されていると聞いた。ノリタケの森では職人が手作りで製品を製造する様子を見せているが、射出成型による製品もあるという。しかしノリタケブランドのついた食器で欠けやすい食器を見たことが無い。落としてもフローリングの床であれば割れにくい丈夫な製品で、さすがにノリタケブランドと感心したりするが、おそらく製造プロセスだけでなく原材料管理も異なるのであろう。
ノリタケブランドの製品の優秀さは、瀬戸物市の規格外品や100円ショップの商品とは別次元である。それでは、これらの成形プロセスの違いがどこに現れるのか。おそらく成形された時のグリーン密度の均一性の違いが欠けやすさにつながっていると推定している。例えばノリタケブランドの製品の焼成前のグリーン密度は、その断面を肉眼で見ても分かるぐらいに緻密で均一である。
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STAP細胞の再現にむけて小保方氏がメンバーに加わってから、再現確認ができたとの報告が無い。200回以上もSTAP細胞を作ることに成功した、と会見で言われていたのでそろそろ再現成功の報告があってもよい頃である。
STAP細胞の有無はともかくその現象も含めて科学的に高度な内容でありながら、そこに一般の関心が集まる、まさに英知を結集しているテーマといえる。当方もお節介ではあるが、問題解決に役立ててもらおうとその生成機構に関係する可能性の高い論文を1ケ月前に提供させて頂いた。
当方が提供させて頂いたのは、細いスリットを通過するときに生じるレオロジー現象について考察された最も新しい論文で、キャピラリーを細胞が通過するSTAP現象を考察するときに必要となる考え方が書かれている。すでに報告されているようにSTAP細胞は細いキャピラリーを通過したときにできる。ただその再現が難しく、小保方氏以外では成功していないので問題が発生しているのである。
2相以上で構成された物質が細いキャピラリーを通過するときに、そこで働く剪断速度により、相界面などの微細領域においてレオロジーに起因する不思議な現象が発生する。例えば当方の発明したカオス混合装置はそこに着目し技術開発を行い、フロリー・ハギンズ理論(注1)に反する結果を8年前に発見してその開発に成功している。
この成果は退職前に元写真会社の子会社の工場でプラントとして実現することができた。そして、そこで生産された材料を使った製品が年間1000億円程度売り上げているとのうれしい話を風の便りに聞いた。科学的に未解明な機能を使った製品を送り出してから大きなトラブルも無くプラントが稼働しているのは、科学と技術の違いを30年間考え続けてきた成果ともいえるのでうれしい。
当時は細い隙間で発生しているレオロジー現象の論文も無く、ただ目の前で起きた現象をすなおに機能として活用してプラントを立ち上げた。研究を行わず技術としての完成を目指した(注2)ので無事成功したのである。この点が重要であり、さらに最近この時の現象を説明できる論文が公開されたので送ったのである。
植物の細胞と人間の細胞は、細胞膜の有無などその構造が異なる。植物ではSTAP現象が観察されるが動物では観察されない、というのがこれまでの科学の常識であった。しかし、STAP現象というものが微細領域のレオロジーが関わる現象ならば、動物の細胞でも起きる可能性がある。ただ、このレオロジー現象については、まだ科学的に不明な点が多い。
材料科学の成果である当方の仕事では送付した論文程度で現象をうまく説明できたが、生科学分野ではさらに精度をあげた実験が必要になってくる。生科学と高分子科学の境界領域の科学が一気に進むことを願って論文を送った。
(注1)ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。
(注2)技術としての完成を目指すために観察記録は重要である。しかし、当時開発期間が1年も無く社内のステージゲートもどきの研究管理に対応するため、実験ノートをつけるやいなや新しい現象をパワーポイントの資料としてまとめる必要があった。
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かつて日本には押出機や多軸混練機のメーカーが多数存在した。その何社かは廃業し、現在残っているメーカーは、それなりの特徴のあるメーカーである。根津にある小平製作所はロール専業メーカーとしてスタートし、現在は工作機械や各種プロセス機械も扱っている。
混練プラントを建設するときに建屋の費用以外にどれだけかかるのか。例えば1t/h程度の混練機を用いた場合に2億円前後あるいはそれ以上の見積もりが出てくる。この価格が妥当かどうかの判断力は、各社の生産技術を担当する技術者の力量に依存する。かつて1億円以下で混練プラントを建設した経験から、この世界も水商売だと思った。
信頼性が価格に入っている、とある営業担当が言っていたが、1億円以下でも退職までトラブル無しで稼働していた。1億円以下で担当してくれたのは日本の中小企業だが、他社が倍以上の見積もりを出してくる中、もの凄い根性を見積もり書から感じた。計量フィーダーも手抜きをせず一流品を使用していた。
先日中国の混練機メーカーを見学し、腰が抜けた。日本の1/5以下の価格で二軸混練機が販売されているのである。しかも納期は2-3ケ月とのこと。見学した工場には、完成した二軸混練機がずらっと並んでいた。説明を聞くと、シリンダーやスクリューの加工プロセスが日本のメーカーに比較し劣っていた。HIP処理を行っていないのである。
しかし、溶接部分やその他の加工を見ても中国品質としては丁寧な仕上がりで、その値段の安さが光っていた。500kg/hの吐出量の混練機の価格は、発売されたばかりのレボーグGTS300馬力一台購入できる程度である。スペックを見る限り、ガラス繊維などのフィラーが添加されていないコンパウンドであれば無理なく混練できるのではないだろうか。
スクリューセグメントもフルフライトスクリュー、各種ニーダーローダーからローターまで揃っている。形状や仕上げを見てもPEやPPなどのコンパウンドを問題なく混練できると思われる。そしてその実績もあるとの説明を受けた。日本では見かけたことの無いメーカーだが、欧米の有名な混練機メーカーの技術者がスピンアウトして設立した会社だという。
そしてグループ会社にはフィーダーのメーカーも存在し、この企業グループに頼めば5000万円以下でも新品の混練プラントを作れそうである。驚異的である。中国の技術進歩は二軸混練機にも見ることができ、産業用機械の分野では日本の技術に肉薄してきた。
カテゴリー : 一般 高分子
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ケミカルアタックという現象は、応力がかかっている樹脂に化学物質が付着して破壊に至る現象である、と思っていた。仮に応力がかかっていなくても、樹脂には射出成形時の内部歪みが存在するので化学物質が付着するとクラックが発生することがある。
この現象に初めて出会ったのは、小学校の低学年の時に水陸両用のスーパーカーのプラモデルで遊んでいたときだ。これは、サンダーバードの前に放送された人形劇「スーパーカー」に登場した車がモデルになっていた。
お小遣いを全て使い購入したプラモデルは、完成からわずか一ヶ月でギアボックスを固定していたボスが壊れ使い物にならなくなった。ギアボックスには付属していたグリースをたっぷり塗っていた。破壊したボスは少し変色していたのでグリースでプラスチックが腐ったのではないか(注1)、と疑問に思った。その後いくつかプラモデルを作ったが、例え異音がしてもグリースを塗るのをやめた。
中学校に進級し化学クラブに入部した。そこで真っ先に実験を行ったのはケミカルアタックの実験である。当時からケミカルアタックという言葉は存在した。また金原現象という言葉やパーコレーションという言葉も覚えた。そして大人になるにつれこれらの言葉がトラッキング現象や混合則という言葉との相違で悩み仕事に活かされていった。
ケミカルアタックは退職前6年間によく接触した言葉である。電子写真の複合機におけるボス割れでケミカルアタックという品質故障が多いのを疑問に思った。そしてこれが樹脂メーカーの責任逃れに便利な言葉であることをある一流メーカーの役員も含めた品質問題の議論の場所で知った。
一流企業の看板を掲げながら、現場の品質管理も不十分で「ス」の入ったペレットを納入し、それが原因でボス割れが起きていてもケミカルアタックと主張した凄い企業である。可能な限りのケミカルアタックを否定するデータを揃えても、ケミカルアタックでないことを認めなかった。挙げ句の果てはケミカルアタックを知らないのか、というところまで発展した。日本の樹脂メーカーの信用も地に落ちた。
また、ケミカルアタックという品質故障が正体不明の場合に樹脂メーカーが用いる便利な技術用語であることもこの時覚えた。子供の頃に覚えた意味では狭く、一流樹脂メーカーの技術者に馬鹿にされた(注2)。言葉は拡張されてゆくものである(続く)。
(注1)警察官であった亡父が泣いている息子を慰めるために言った言葉である。今から考えれば、科学者ではなかった亡父の冴えた推理である、と思う。
(注2)これは実話で、すでにこの欄でも過去に紹介している。中国の現場で二軸混練機のシリンダー温度が管理されず40℃も高い温度で混練され、「ス」の入ったペレットが生産されていた。証拠写真や正常に生産されたときのペレットとの強度比較、DSC、電子顕微鏡写真、IR、ガスクロなど会社で活用できるデータを使い、ペレットの異常を証明したつもりであったがケミカルアタックの一言で片付けられた。個人的には訴訟まで起こしたかったが、企業間の問題であり、結局ケミカルアタックという言葉で幕が引かれた。フロッピーディスクを壊された事件同様にサラリーマン時代の悔しい思い出の一つである。樹脂メーカーのこのような姿勢に成形メーカーは注意されたほうがよい。ただし、誠意が無いのは一部の樹脂メーカーだと思う。
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マツダが同社のリコールの原因は部品にある、として東海ゴムを訴えたという。これまでの日本における部品メーカーと組立てメーカーとの関係ではあり得ない訴訟である(注)。東海ゴムの利益がすべて無くなってしまう金額である。詳細については新聞記事をご覧ください。
以前この欄でも書いたケミカルアタックの問題もこのような事件と関係してくる。樹脂材料メーカーと組み立てメーカーの間では、品質問題が生まれたときに暗黙の了解で組み立てメーカーが責任を負っているケースが多い。すなわち市場の問題解決のためには樹脂メーカーの協力が必要で、迅速な解決を優先し樹脂メーカーと二人三脚で市場問題の解決に当たるために組み立てメーカーが譲歩してきた。
樹脂部品の接合部分には応力がかかるので、樹脂の製造ばらつきで大きく強度低下する場合には明らかに樹脂メーカーの責任であるが、そのような場合でもケミカルアタックという言葉が使われてきたケースがある。明らかに大手樹脂メーカーに過失があっても、ケミカルアタックとして問題解決した事例を少なくとも一度体験した。一度の体験で多くあるような書き方をしている、と思われると心外だが、担当者の話で樹脂メーカーにケミカルアタックと言われたらそれで終わりだ、という言葉もある。
この体験が元になり会社の品質問題のデータベースを見たところ、ケミカルアタックが原因となっている品質問題が多くびっくりした。ケミカルアタックは樹脂の接合部分で発生する原因不明の品質問題で使用するには便利な言葉のようだ。
マツダと東海ゴムの問題はケミカルアタックではない。ゆえに本欄の表題は、あたかもケミカルアタックが自動車のリコール問題と関係しているかの誤解を生む表現である。意識的にこのような表題をつけている。すなわち誤解を生み出す言葉の不思議さに気がついて頂きたいからである。業界用語の中には大まかな定義の言葉があり、当業者がその大まかな定義の中で納得しながら言葉を使用している。
ケミカルアタックは本来ケミカル製品の影響で樹脂部品の寿命が著しく低下した現象で使用されてきた言葉である。しかし、樹脂メーカーは原因不明の強度低下の問題にまでこのような言葉を使い始めたために、この言葉の意味は大きく拡張された。実際にあった話だが、現場で接合部分の強度低下が起きると、原因を調べもせずケミカルアタックとして処理していた。
言葉を適切に用いなかったために現場の感度が低下した事例だが、組み立てメーカーと部品メーカーとの関係においても、従来の慣習から見ると違和感のあるマツダと東海ゴムの訴訟のような刺激が必要になってきた時代かもしれない。すなわち材料メーカーや部品メーカーがあぐらをかいているとこのような訴訟が必要なように、不適切な言葉の使用でその場を繕っていると、そのうちこの言葉から大きなしっぺ返しを受けるかもしれない。
(注)海外では多い。
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タグチメソッドで有名な田口先生は個性的な先生だった。写真会社がタグチメソッドを導入するに当たり、田口先生をコンサルタントに招き、田口先生から直接学ぶ体制が取られた。当方も帯電防止技術やフィルム表面処理技術をテーマに直接御指導していただいた。
田口先生は基本機能の研究は認めたが、それ以外の研究について認めなかった。また、「タグチメソッド」を「田口メソッド」と書いていると、この書類は大きな間違いをしている、と指摘された。タグチメソッドはアメリカからの輸入品なのでカタカナで書く必要があった。
田口先生は、システムと基本機能を明確にせよ、とよく言われた。そして基本機能のロバストを上げることが技術開発であると。感度よりもSN比を重視するのがお約束であり、感度を最大にするような条件を選択すると叱られた。技術開発ではロバストが一番大切である、とSN比重視の技術開発と設計段階からSN比を評価することの重要性が田口先生の口癖であった。
帯電防止技術では、パーコレーション転移を田口先生にご理解頂くのが難しかった。ロバストの話をすれば良かったのだが、シミュレーション結果で話をしたので雷が落ちた。田口哲学を十分理解していないときだったので、議論は平行線になった。議論の過程で科学的現象ではなく、技術の話に絞れば良いことに気がつき、基本機能として低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値を提案したところ褒めて頂いた。
基本機能としてインピーダンスの絶対値のロバストを高めれば帯電防止層の接着力も同時に改善されているはずだ、と言われた。最初は力学現象と電気的な現象が同時に解決つくのか不安であったが、接着力の評価法を工夫し、インピーダンスの絶対値を基本機能にしてもその値に反映できるようにした。すなわち力学特性も電気特性も同時に計測できるようにしたのである。
科学的に開発を進めているときにこのような物性評価の考察を行わない。あくまでも科学的な情報がどこまで精密に得られるのか考える。技術では機能のロバストを評価するために評価技術が重要なのだ。
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昨日まで表題の討論会に参加していた。表題の討論会は、昭和30年代後半高分子の物性加工で分からないことが多かった時代に、学会が主催する講演会では時間が少ないのでゆっくり討論できる時間を取るためと官学交流の場として企画されたそうだ。
当方はゴム会社から写真会社に転職した20年前に東大N先生に紹介されて参加している。参加のきっかけは、ゴム会社で半導体用高純度SiCの冶工具事業を立ち上げ、FDを壊されるという事件で転職したばかりの頃、転職先の高分子技術のレベルが低く、当方が研究管理だけやっていたのではだめな状況だったから。
自らが技術を引っ張りあげなければレベルが上がらない、と考え、N先生にご相談した。N先生はゴム会社の先輩に当たり、当方のキャリアがセラミックスであったこと、そして学位を取得したばかりだったことなど考慮してくださり、この討論会を紹介された。
今回の討論会もそうだったが、学会の講演会と異なり、研究としてまとまっていない話題が多い。だから問題点が明確になる。面白い討論会である。また学会発表であれば聞きに行かないであろうテーマの講演もホテルに夜9時まで拘束されるので聞くことになる。
勉強の場として初めて参加したときにレベルの高さについて行けなかったが、門前の小僧習わぬお経を読む、のごとく、2回程参加したところ高分子の先端の話題を理解できるようになった(注)。門外漢には便利な討論会である。
ただ20年近く参加してきて感じていることは、アカデミアから新しい話題が無くなってきたことである。AFMの見直しや高分子の管モデルからの脱却、粗視化の工夫など温故知新的な取り組みには、期待できそうな香りがあったが。
環状高分子の精密合成のようなそれを研究して何に役立つのか分からないようなテーマと思われる講演もあった。ところが、20年近く聞いてきたので感動もしないと思われた環動高分子の基礎と応用で、環動高分子を微量添加したときの物性変化の話題が、このテーマと頭の中で結びつき、疑問に思っていたことが氷解し感動した。
科学の真理の中には、社会に役立つどのような機能に結びつくのか分からないものもある。だから基礎研究はもう不要というのは乱暴で、このテーマのように真理が確定したことで、それを活かすアイデアが生まれる場合がある。科学の研究にムダはない、といった物理学者がいたが、自然界の真理を確定する成果が出る限りにおいて恐らくそれは正しいのだろう。じっくり聞ける講演会の長所である。
(注)OCTAの世界を勉強できたのもこの講演会のおかげである。写真会社の後半の仕事に勉強の成果を活かすことができた。前半の仕事は、酸化スズゾルのパーコレーション転移制御のように「高分子」が無くても出せた成果が多い。
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カオス混合(12)の前に、科学的に未解明の現象が多い状態で科学的真理を導こうとしたときに生じる問題について、STAP細胞を例に考えてみたい。
つい先日、山梨大若山教授から否定証明により、ネイチャー誌に投稿された論文で使われたSTAP細胞が彼から提供されたマウス由来ではないことと、ES細胞だったことを示す科学的なデータが公開された。この結果は科学的に正しい結果だろう。しかも第三者機関が出したデータなので客観性もある。注意しなければいけないのはこのプロセスが否定証明である点だ。
気の早いメディアでは、この結果からSTAP細胞は存在しないという結論を掲載しているところもある。否定証明は、ある命題を否定しただけであって、全てを否定しているわけではない。仮に否定しようとした命題が間違っていたならば、否定証明で得られた結論も正しくないケースも出てくる。今回科学的な真実として示されたのは、現代の科学で証明された事実から導かれた、未熟な研究者が用いた細胞は若山教授が提供したマウス由来ではなかった、という一点である。
未熟な研究者は若山教授のマウスの細胞からSTAP細胞を作った、と主張しているので、現代の科学を元に判断すると、未熟な研究者は論文捏造だけでなくウソまで言っていることになる。もし、ここで理研からSTAP細胞作成成功という実験結果が出てきたら、単にSTAP細胞が存在する、という真実が示されるだけでなく、若山教授の真実まで疑わなければいけない状況、すなわち現在得られている科学の真実を再度見直さなければいけない状況まで生まれることになる。
これは、かつてゴッドハンドを持つ男と言われた考古学者が考古学の発見を捏造したためにそれまでの成果についてすべて見直しを行わなければいけなくなった事件と似た状況である。STAP細胞の論文捏造事件では、誰かがウソをついているのか、あるいは科学に誤りがあるのかどちらかとなる。
科学的に怪しい世界では、科学を厳しく見つめる技術者が必要になる。もし現在の科学の状況でSTAP細胞を作りたいならば、科学的アプローチではなく技術的アプローチを取るべきで、STAP細胞を作りだす機能をまず捜すべきである。そしてそのロバストを高める研究を行い、改めて科学的研究に入るのが正しい問題解決の方法である。
STAP細胞では細いスリットを通過させるプロセスが重要といわれており、このプロセスについては山形大学から最近発表された真理を知らないとその機能が見えてこない。すなわち生化学とレオロジーのクロスした地点がSTAP細胞の重要な機能になっている可能性がある。そしてこの機能が明らかになったときに、細胞刺激におけるレオロジーのような新たな学問分野が生まれるのかもしれない。将来必要となる科学についても(www.miragiken.com)で扱ってみたい。
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