活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2013.11/09 樹脂補強ゴム(3)

入社して初めての忘年会は憂鬱で暗かった。テーマが無くなったので他部署へ異動することになったのだ。忘年会は送別会も兼ねていた。テーマを早く進めることができたので褒められるのかと思ったら意外な展開が待っていた。厳しい会社である。それでも上司が間違えてプレゼンテーションしたおかげで成果がでたわけだから査定が良くなるのかと期待したら、入社2年間の業績では査定がつかない、と告げられ落胆した。ボーナスは新入社員お決まりの金額であった。

 

ただ、10月11月のがむしゃらな仕事の進め方で、多くの方の指導を受けることができ、密度の高い2ケ月間だった。また12月は指導社員が仕事をまとめてくれたので、1ケ月樹脂補強ゴムについてゆっくり勉強することができた。

 

樹脂補強ゴムはバンバリーとロールで混練していたが、当時熱可塑性エラストマーの新素材開発が盛んで、二軸混練機でゴムを混練する新技術が注目されていた。熱可塑性エラストマー(TPE)は1933年にグッドリッチにおいて軟質PVCで実現された歴史の古い技術であったが、性能が中途半端なため1960年頃までゴム屋はあまり注目しなかった。PU系のTPEの成功でTPEの学問的研究が盛んになるとともに市場も加硫ゴム分野に拡大してきた。1970年代には、ポリウレタンRIMを用いたウレタンタイヤが世界中で研究されたが、そのアイデアは実用化困難な技術であると、分かった時代である(注)。

 

1980年前後には二軸混練機の中でゴムの架橋を進める動的架橋技術の研究が始まり、技術と市場が大きく拡大することになる。すなわち、樹脂補強ゴムというのはゴム屋が考えた材料の呼び名で樹脂屋が考えたのがTPEである。また、二軸混練機を用いると生産性が著しく上がるので、動的架橋技術も含め、材料開発は二軸混練機中心に進むことになる。そして樹脂とゴムのあいの子の材料はTPEとして呼ばれるようになってゆく。

 

今でもTPE関係の特許出願は盛んで、特許の中心は二軸混練機の中で行うゴムの加硫方法である。ただ面白いのは最近プロセスの改良を進める特許出願も行われてきており、混練技術に対する関心も高くなってきているように思われる。もし現在の混練技術にご不満あるいはご興味のある方は弊社にご連絡ください。

 

(注)乗用車用タイヤは絶対にポリウレタンRIMで実用化できない、という結論を出すところまで徹底的にタイヤ会社は研究し尽くした。すなわちポリウレタンRIMは事業の根幹を揺るがす破壊的技術だったからである。その成果で遊園地のカートなどの遊具のタイヤはポリウレタンRIMで作られるようになりコストダウンが進んだ。しかし、公道を走る車のタイヤは未だに加硫ゴムである。ゴムという材料はプロセスが異なると性能が大きく変わるのである。樹脂の混練プロセスは、未だゴムの混練プロセス及びその哲学に追いついていない。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

pagetop

2013.11/08 樹脂補強ゴム(2)

指導社員の完璧な企画書で欠けていたのは、どの銘柄の材料で目標を実現できるのか、という答である。指導社員に質問したら、それが見つかればこのテーマは終了だという答が返ってきた。シミュレーションはあくまで仮想の物性についてその組み合わせを計算しただけであり、実際の材料について材料メーカーの技術資料にその情報が書かれていないから、まず材料のデータベースを蓄積する必要がある、と言われた。

 

データベースを作る意味があるのか、と尋ねたら、シミュレーションした結果の再現性を確認する目的にデータを収集するのでデータベースには意味が無く、物性を実現できる処方さえあれば良い、と明確な回答を頂いた。テーマは防振ゴムに最適な樹脂補強ゴムの開発だが、問題を整理すると市販されている樹脂とゴムの最適な組み合わせを見つける問題になる。

 

このような問題では、最適な組み合わせが存在しない場合には1年経っても問題解決できないことになる。シミュレーションではできることになっているが、シミュレーションに用いられた粘弾性曲線と仮説どおり一致する樹脂なりゴムが見つからない場合には不可能ということになる。もし最適な組み合わせが存在するならば、それを早く見つけることが最も重要な仕事になる。

 

シミュレーションデータを一晩眺めながら、実験時間を短縮できる評価法を考え出した。すなわち材料を製造するプロセスの時間短縮は難しいが、評価法はサンプル数を減らしたり評価時間を短くしたりすることで短縮できる。テーマで最も時間がかかるのは公開情報の無い粘弾性データの収集で、1サンプルの準備から結果が出るまで4時間かけることになっていた。それを20分ですませる方法を考案した。

 

指導社員に実験の進め方の変更を願い出たら了解が得られたので、その方法で実行したら2ケ月でシミュレーションに合致した材料を見つけることができた。即ち1年間のテーマを3ケ月で終了できそうな見通しが得られた。ところが完成した処方を指導社員の了解を得ないで上司が後工程にプレゼンテーションしてしまったので問題が起きた。すぐに商品企画会議でその処方をエンジンマウントに使うことが決定され、研究所のテーマではなくなった。すなわち残り10ケ月の仕事が無くなったのである。

 

------------------------------

(注)当時研究所はすでに成果主義のマネジメントが行われていた。実験手順も決まっていた完璧な企画書を前に、新入社員の立場で成果というものを考えたところ、開発期間を短縮することぐらいしかなかった。上司に確認したところ、もし年内(3ケ月)に処方が見つかればボーナス倍増ぐらいの成果、という冗談が飛び出した。その言葉に挑戦します、と応えたら上司は笑っていたが、後日本当に冗談だったのでモチベーションが下がった。明日はこのあたりについて。

 

また、弊社で研究開発必勝法プログラムを販売しているが、そのアイデアの基本構想はこの頃できた。指導社員の完璧な企画書は、確実に開発期間を短縮できる、と感じた。その企画書には、開発ターゲットが明確に記され、それを探索する手順まで示されていた。すなわち、開発ターゲットが明確になると、探索手順は複数あることに気がつく。明確な開発ターゲットの機能を実現する目的だけに絞ったときの手順は極めて簡素化される。iPS細胞を実現するヤマナカファクター発見に用いられた発想法である。

 

しかし、実際に開発計画を組む場合には、定常業務品である質評価の一部を取り入れて行う場合がほとんどである。開発ターゲットから考えを進めないからである。荒削りでも良いから最初に開発ターゲットを実現してからそれに合わせて社内規格で要求されるデータを集めれば開発時間を大幅に短縮できる。要するに数研出版のチャート式数学に書かれていた「結論からお迎え」というチャート式格言は受験数学だけで無く実務でも有効である。

 

弊社の研究開発必勝法は、「結論からお迎え」という格言を実務の中でどのように展開するのか、32年間の開発経験をもとにノウハウを一般化したプログラムである。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

pagetop

2013.11/07 樹脂補強ゴム(1)

ゴム会社で技術者としてスタートした。6ケ月間の新人研修の後10月1日に樹脂研究グループへ配属された。そこではスーパーフィラーに採用された樹脂補強ゴムの研究開発が行われていた。スーパーフィラーは、タイヤのビード部分に実用化された樹脂補強ゴムで硬くて弾力性のあるゴムだ。

 

硬いゴムを設計するには、架橋密度を上げる方法とフィラーであるカーボンブラックを増量する方法が知られていた。しかし、この両者の方法でゴムの硬度を上げると靱性が下がる。硬くて脆くないゴムの処方技術は当時ハイテク分野の技術であり、ミシュランが最初にその開発に成功し、半年遅れてブリヂストンが実用化に成功した。この時使われたのが樹脂補強ゴムで、樹脂は3次元化して硬くなる熱硬化性のフェノール樹脂が使用された。

 

この樹脂補強ゴムの高次構造は樹脂の海の中にゴムの島が存在する海島構造で、フェノール樹脂以外の樹脂でも同様の高次構造を取ることができれば、硬くて靱性の高いゴムを設計できるのだが、組み合わせる樹脂の種類によりゴムの高次構造が変化し目標物性とほど遠いゴムができたりするので、多種類の樹脂とゴムの中からその組み合わせを見つけなくてはいけない難しい技術であった。

 

樹脂補強ゴムは硬くても靱性の高いゴム、という物性の特徴以外に、動的粘弾性に一般のゴムと異なる特徴が見られた。すなわち樹脂補強ゴムでは損失係数が高くなる周波数領域が広がるのだ。例えば自動車では、アイドリング中と走行中ではエンジンの振動数が異なり、アイドリング時にも走行時にも対応してエンジンの振動を防ぐ防振ゴム材料の設計は難しい。しかし、樹脂補強ゴムでは広い周波数領域でエネルギー損失が大きいゴムを設計できるので、使用状態で振動モードが変化する機器の防振ゴムとして最適な材料を設計できる。

 

指導社員は材料物性に秀でた能力の方で、樹脂補強ゴムの設計について組み合わせるゴム物性と樹脂物性のあるべき姿をシミュレーションで明確にしていた。そして、その明確な方針の下で材料探索を行うのが新入社員としての一年間のテーマであった。指導社員の立案された開発計画と材料設計処方案は完璧であった。あまりにも完璧で、残されていたのは樹脂とゴムの粘弾性を評価し、それを組み合わせたときに粘弾性がどのように変化するのか調べる肉体労働だけであった。

 

そして目標通りの粘弾性カーブを実現するゴムができたときに、組み合わせられた樹脂とゴムの粘弾性のカーブがシミュレーションどおりになっていることを確認するだけであった。但し樹脂の分子構造とゴムの分子構造はシミュレーションでも不明だった。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

pagetop

2013.11/06 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(3)

有機高分子は実火災が発生すれば火元では600℃以上の高温度に曝されるので、空気が存在するところで必ず燃えてしまう。燃焼時の熱でガラスを生成する仕掛けを有機高分子の構造の中に仕込んでおけば、生成したガラスが空気を遮断し、炭化を促進するのではないか、という仮説を立てた。ガラス組成ではないが無機高分子であるアモルファスボロンホスフェートを燃焼時に生成する仕掛けを軟質ポリウレタンフォームの構造に仕込んだ。

 

モデル実験ではすべて仮説を支持する結果が得られていたが、ホウ素原子の難燃効果がリン酸エステルとの組み合わせでどの程度上昇したのか知りたかった。また当時のリン酸エステル系難燃剤には塩素原子が含まれていることが多く、塩素原子の効果との比較もしたかった。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせて添加した難燃性軟質ウレタンフォームは自己消化性を示した。商品として最適化するために市販されているリン酸エステルを組み合わせコストバランスを検討した。40以上の異なる配合と難燃性試験のデータが得られた。多変量解析を行うのに十分なデータ量である。

 

相関行列を見ると、リン原子と塩素原子の間に軽い相関が見られた。塩素化パラフィンを添加した軟質ポリウレタンフォームを数種合成し、全体のデータにおいてリン原子と塩素原子の間の相関を0.5以下となるようにした。ホウ素原子とリン原子の間の相関はほとんど無い。

 

LOIを目的変数として、リンの含有率(P)と塩素の含有率(Cl)、ホウ素の含有率(B)を説明変数とする重回帰式を組み立てたところ、LOI=2.95xP+15.17xB+0.14xCl+18.3という重回帰式が得られた。重回帰係数は0.84と十分な値である。

 

重回帰式の各係数には原子量の違いが反映されているので、このままでは係数から目的変数に対する寄与を見積もれない。各変数の偏微分である偏回帰係数を求めたところ、Pは0.65、Bは0.4、Clは0.11となった。驚くべきことにホウ素原子の難燃効果の寄与が塩素原子よりも高く、また単相関で求めた相関係数よりも遙かに高かったことである。

 

すなわちリン原子とホウ素原子の組み合わせ効果を重回帰分析を行う事で定量的に示すことができたのである。重回帰分析で得られる偏回帰係数により目的変数に対する説明変数の寄与率を知ることができる。また重回帰式は目的変数の予測式として使うことができるが、この時説明変数に用いたデータの変域に注意を払う必要がある。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2013.11/05 難燃化技術へ重回帰分析を適用した例(2)

ホウ酸エステルは、脂肪族のジオールとホウ酸を脱水しながら混合加熱すると容易にエステル化するが、加水分解しやすいという論文があった。加水分解しやすい材料では実用化が難しいだろうと考え、実験を行う前に分子モデルを組み加水分解しにくい構造をシミュレーションした。分子モデルなので20分もあれば1つ新規化合物を合成できる。

 

ジオールとしてジエタノールエミンを用いると、アミンの孤立電子対がうまくホウ素原子に配位し安定化する構造をとることがわかった。類似アミン類のモデルを作っては壊し、試行錯誤で見つけた構造だが、2mほど上から落としても壊れない。ものすごく安定だ。但しこれは丸善から発売されていた樹脂製の分子モデルキットによる考察である。

 

自前で購入した分子モデルキットを独身寮で組みながら、MZ80Kでインベーダーゲームをする生活は今でいう“オタク”そのものである。ただ、給与の大半をコンピューターに使ったので、これで何か有益なことをしたい、という思いはあった。またMZ80Kを購入した当初の目的も統計計算を行うことだった。諸々のことがつながり、重回帰式の偏回帰係数でホウ素の寄与率を求める実験シナリオが分子モデルを組みながら浮かんだ。

 

分子モデルで見いだしたジエタノールアミンとホウ酸のエステルは加水分解に対して安定なだけでなく、合成も簡単で、両者を化学量論比で混合し加熱撹拌するだけである。水を除去する必要もないことにびっくりした。通常のエステル化は脱水しなければ反応が進行しにくい。エステル化で副成する水はポリウレタンの発泡剤に利用できるので除去する必要も無い。カールフィッシャー法で定量すれば、不足分の水を追加してそのまま使用できる。

 

化学的に安定で合成も容易なジエタノールアミンの硼酸エステルでも問題があり、アミンのためポリウレタンの発泡反応が加速される。そのため10%以上添加しようとすると、スズ触媒を多量に添加して反応バランスを制御しなければならない。すると全体の反応が早くなりすぎて原料の混合が難しく、力学物性の良好な発泡体が得られない。アミン類のホウ酸エステルで加水分解の問題を解決できたが、扱いにくい難燃剤となった。またこの反応バランスを取る必要から10%という添加量の上限という制約が出てきた。

 

問題はあったが、難燃評価を行い得られたデータを単相関で評価したところ、ホウ素原子の難燃効果は小さかった。10%程度軟質ポリウレタンフォームに添加してもLOIで1から2程度の改善効果である。ばらつきも大きく、10%添加してもLOIの改善効果が見られないこともあった。しかし、リン酸エステル系難燃剤と組み合わせるとリン原子の難燃効果を安定に1.5倍程度まで高めることが可能であった。またチャー面にはボロンホスフェートが生成していること、そして添加したリン酸エステルに相当するリン原子の量が残っていることなど確認されていた。

 

実験計画法でも交互効果は現れていた。さらに熱分析装置を使った解析や、燃焼を途中で止めたり、窒素中の加熱実験などのモデル実験の結果では、すべてホウ酸エステルとリン酸エステルとが燃焼時の熱で反応していることを確認できた。感動したのは、モデル実験の一部のサンプルにチャー面がきらきら輝くことがあったことだ。その輝く物質のIR分析でボロンホスフェートの生成が確認された。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2013.11/04 昨日の日本シリーズ(2)

楽天が優勝してしまいました。MVPは無失点で日本シリーズ2勝した美馬投手です。そして驚いたのは9回に田中投手が投げたこと。ファンサービスにしてはやり過ぎです。しかし、田中投手の投球には、少しヒヤリとしました。

 

この日本シリーズで楽しめたのは、星野監督、男・仙一の采配です。第6戦でまさかの敗退。先行された2点は取り返し可能な得点圏内でも田中投手の希望に添って9回まで投げさせた。リスクを敢えて選んだ指揮官に7回以降0点で抑えて応えたその力投。田中投手を研究し尽くした巨人打線を気迫で押さえ込みました。そして第7戦では本人の志願により9回の登板。

 

さすがに疲れていたのか150キロ台は出ませんでしたが、得意のスプリットで走者を出しながらも0点で抑えた。小学校時代バッテリーを組んだ巨人坂本選手には3球ともスプリット。リアルタイムに投手の投球が説明される現在のシステムのおかげで鳥肌が立ちました。昨日の試合内容を考えると巨人は相当に田中投手を研究していたことが伺われ、この日の9回もランナーを出しながらの展開、その中で彼を3球3振で抑えたところはドラマとして、できすぎです。坂本選手の現在の状況ではファールで粘って投手を苦しめるか、あるいはフライでアウトになるのかが自然の流れのような。

 

確実に勝てると思っていた第6戦を落とし、160球も前日に投球していたら常識的には起用しない。また投手の立場でも疲労は本人が一番分かっているわけだから、負けたら大変な試合で志願する行動などできない。多くの人がその筋書きを期待していても常識ではあり得ない展開で、単にファンサービスという説明では語れない仰天のドラマでした。

 

この日本シリーズは想定外の筋書きでありながらドラマとして最高の展開にできた立役者は、ここぞというところでセオリーを無視した大胆なリーダーの采配と、それにチーム一丸となって応える理想的な組織プレーだったと思います。また、第7戦の田中投手の志願は、日常がセオリー通りのマネジメントで形式的な思考のリーダーであったなら、起こりえなかったことと思われます。

 

ISOの普及でビジネスがマニュアル化し、またマネジメントに関する勉強会も盛んに行われ、日々の組織運営が形式的になってしまっているのではないかと感じています。田中投手ははじめからスーパーヒーローではなく、彼より先行してイケメンのハンカチ王子というキラキラヒーローに隠れていた時代がありました。スーパーヒーローを育てる風土は常識やセオリーにはとらわれない大胆で情熱的なリーダーにより作られる、と思います。人を育てる風土からMVPの美馬投手も生まれたのではないでしょうか。

 

カテゴリー : 一般

pagetop

2013.11/03 昨日の日本シリーズ(1)

昨日の日本シリーズは、恐らく歴史に残るのではないだろうか。楽天は田中将大投手でまさかの敗戦だが、巨人は原監督が「マー君を倒して本当のV2達成」と日本シリーズ前に発言しているので、今日の第7戦の結果次第では昨日の試合の歴史評価が変わってくる。しかし、昨日の各選手の活躍に対する評価は永遠に変わらないだろう。

 

恐らく楽天のユニホームを着た田中将大投手を来年見ることはできないだろう。勝ったままメジャーにゆくのか、連勝が30でストップしてメジャーにゆくのか、日本シリーズの結果以外の楽しみがあった試合で、楽天や巨人ファンでなくとも昨日の試合を見ていた人は多かったのではないだろうか。

 

実は昨日は田中投手の負けを期待して試合を見ていた。巨人ファンでもなく、アンチ楽天ファンでもないが、田中投手の負けっぷりを見たかった。彼が先制点を取られ味方の援護無く敗戦投手となった時を彼の最後の試合で見たかった。

 

筋書きの無いドラマは残酷である。期待した筋書きよりも残酷な流れになった。先制点を取ったのは楽天である。プロ野球ではあまり見かけないロペスのトンネルのエラーで先制点が入ったのだが、そのロペスに同点打を打たれた。さらに調子の良くなかった高橋に決勝打を、6回にはまたもロペスに打たれ2点差にされた。

 

あまりにも格好悪い打たれ方である。凡人であればここでへこむであろう。あるいはプライドの高い天才であれば、腐って調子を崩すであろう。しかし、彼はそのどちらでも無かった。自ら続投を志願した。2点差ならばまだ取り返せる可能性があり、投手交代という判断が常識的な采配であったが星野監督はそれを許した。そして彼は監督の期待に応え7回以降0点でおさえ、9回には球数が160を越えても剛速球で三振を取った。

 

昨日はヒーローやドラマがたくさん生まれた。しかし野球にあまり興味の無い人でも昨日の田中投手の凄さ、それと責任感のあり方を9回の彼の投球から学んだのではないだろうか。田中将大投手は負けても勝ち投手のような試合だった。福島原発の事故以来、リーダーの無責任な姿を見続けてきただけに感動が大きかった。

 

楽天ファンには申し訳ないが、昨日の試合は2-0で田中投手が完投勝ちをしていたら平凡な試合だったのだろう、と想像する。責任感と誇り高きプレイヤーとそれを支える指揮官のあるべき姿、自分のエラーを自ら挽回する助っ人、力の落ちてきたベテランはどのように働くべきかなどサラリーマンが学ぶべき事例の多い試合だった。本日は、巨人の優勝よりも楽天の優勝のほうがドラマ性があり、銀次選手がMVPでもとれば最高のドラマになるのではないだろうか。その時の星野監督の優勝インタビューを聞きたい。美馬投手ガンバレ!

 

 

カテゴリー : 一般

pagetop

2013.11/01 多変量解析とタグチメソッド

多数の設計因子が複雑に絡んでいる問題は、ラテン方格を利用してタグチメソッドで解決される場合が多い。しかし多変量解析を用いて問題解決することも可能である。ただしその時にロバストの保証は工夫する必要があるが、現場の問題の中にはタグチメソッドで解きにくい問題もある。その様な時には多変量解析が役立つ。

 

例えば混練に用いた二軸混練機が異なると、その仕様が同一であってもポリエチレンの流動特性が異なることが知られている(注)ように、高分子材料の物性はプロセスの履歴に影響を受ける。これは、ポリエチレン以外の樹脂でも射出成形条件が樹脂のロットに左右される問題として存在し、とりわけ精密部品で深刻な悩みである。毎朝数ショットを試し打ちし射出成型条件を微調整してから生産を始める方法で問題解決している。

 

これらはタグチメソッドで解決できるかどうか、という議論とは異なる問題として捉え、どのように生産を早く立ち上げることができるのかシステムの工夫などのノウハウを見つけることこそ大切である。

 

コンパウンドをノイズとして扱い、成形プロセスの最適化を行えばタグチメソッドで解決できる、とタグチメソッドのコンサルタントは指導されるかもしれない。その手順で解決がつく場合もあるが、解決つかない問題も存在していることを認めることはタグチメソッドの信頼性を正しく流布するために重要である。

 

このことは、品質工学フォーラム創設時の会誌に竹とんぼの事例が載っており、タグチメソッドで最適化したけれど安定に飛ぶ竹とんぼを完成できなかった話題が紹介されている。正直な記事である。およそ何でも切ることができるハサミとか、どんな金属でも穴を開けるドリルとか、万能をうたっている商品には怪しい香りがする。道具は適材適所で使うのが原則で、タグチメソッドもそのような道具の一つである。

 

またタグチメソッドで解決つくかもしれないが、タグチメソッドで解決するよりも開発速度が速く、日々の生産も効率が良くなるノウハウが存在する場合も無理矢理タグチメソッドを用いる必要は無いと考えている。この時のノウハウとして多変量解析が使われる場合がある。

 

かつてNHKで放送された“ものつくりの現場”の番組で車の窓に使用されているゴムパッキン(ゴム枠)の押出工程の話題を扱っていた。ゴムパッキンの生産開始時には数度ゴムを押出し、図面で寸法精度を確認しながら金型の温調や冷却タイミングを決める、そしてその方法と金型設計が属人的ノウハウである、として紹介されていた。現場の紹介ビデオでは、金型と冷却ゾーンにモザイクがかかり怪しい雰囲気を醸し出していたが、金型からは多数の電源コードが下に垂れていた。

 

高分子の押出金型のヒーターを多数に分割し、金型内を流動する高分子材料のレオロジー特性を温度で制御する方法が知られている。このときヒーターの分割方法や金型の口金など金型設計はノウハウで高分子材料の成形を事業としているメーカーのコア技術である。

 

どのような材料が流れてきても設計図どおりの寸法のゴム部品を押し出すことができる技術は技の世界である、とNHKの番組は伝えたかったのだろうと思うが、この技術はタグチメソッドでも問題解決が難しい。むしろ融通の利く多変量解析でロバストの高い方法を探った方が問題を早く解決できる。

 

高分子材料はそれ自身ノイズを多く含んだ材料である、という感覚は重要で、未知のノイズが生産現場で突然現れることもある。現場の問題によってはタグチメソッドで解決するよりも素直に変動を認め多変量解析で安定生産を行うノウハウを構築した方が良い場合が存在する。

 

蛇足であるが、高分子材料に含まれるノイズは混練技術によりその変動を小さくできる。ゴムの混練はコストの高いバンバリーとロールの組み合わせプロセスで1世紀以上行われてきた。生産効率の高い多軸混練機が発明されても使用されていない。これはゴム部品の品質を安定化するためにコストの高い混練システムを採用しなければいけないからである。樹脂の混練技術者がゴムの混練技術に学ぶべきところは多い。

 

(注)これはタグチメソッドを用いても解決つかない問題の一つである。もちろん多変量解析でも解決はできない。システムを変更しなければいけない問題である。問題解決可能なシステムとノウハウがあるので弊社に相談して欲しいが、“システム選択は技術者の問題“というのは故田口先生の口癖であった。この意味の中にはタグチメソッドで問題解決できないシステムが存在する、という意味も含まれている。扱うシステムによっては、タグチメソッドで問題解決できる場合、多変量解析で問題解決した方が簡単な場合、そのシステムを諦めた方が良い場合等について問題解決の道具を使う前にまず考えることが重要である。

 

カテゴリー : 一般 連載

pagetop

2013.10/31 重回帰分析について

重回帰分析は、2変数の単回帰分析が実務でよく使われているので説明の必要は無いかもしれないが簡単に概略を述べる。

 

サンプリングされた2種類のデータ群、xとyの2変数の間の関係を求めるためにx軸とy軸の平面にデータ(x,y)の組をプロットする。そしてある一次式y=ax+bの直線のまわりにそのプロットが集まっていると、この二変数の間に相関がある、と仮定する。そして相関係数を求め相関の度合いを評価したり、求められた一次式から目的変数の推定値を求めたり、その推定値とサンプリングされたデータからのズレを評価したりして解析を進める。

 

この時、xを説明変数、yを目的変数と呼び、この分析方法を単回帰分析という。解析の結果、二変数の間に強い相関がありその相関を説明できる仮説がほぼ正しいと判明すると、一次式は現象の予測式として使えるようになる。現象を予測し、誤差分析を繰り返しながら真実に迫っていくのが単回帰分析の手法である。

 

単回帰分析に対して重回帰分析とは、その説明変数が多くなった回帰分析のことで、多変量解析の中ではよく使われている。重回帰分析で使用される重回帰式のyを目的変数といい、xを説明変数と呼ぶのは単回帰分析と同じである。そして目的変数を多数の説明変数の一次式の関数として求め解析を進める方法もほぼ同様であるが、ここで一次式である点を忘れてはいけない。

 

さらに気をつけなければいけないのは、説明変数を多数導入すると重回帰式の信頼度は上がるが、その結果お互いに相関のある説明変数を取り込む問題が出てくる。説明変数の間の相関が高くなると目的変数に対する説明変数の寄与を正しく評価できなくなる。説明変数の目的変数に対する寄与を標準偏回帰係数で求めるときに、各説明変数の間に相関が無く(これを一次独立という)信頼度が高い重回帰式が理想ですが、そのような重回帰式を組み立てられる場合は稀である。高い相関のある説明変数が取り込まれたときの重回帰式は目的変数に対する説明変数の寄与を求めるときには注意が必要である。

 

説明変数間に高い相関があり、どうしても全ての説明変数を入れた重回帰式を組み立てたい場合には、主成分分析と組み合わせて重回帰式を求める。すなわち説明変数について主成分分析を行うと一次独立の変数に変換できるので、この変換された新たな変数を説明変数として重回帰式を組み立てる。この手法にはコンピューターが不可欠である。

 

あるいは、説明変数を減らしても良い場合には、相関の強い説明変数のどちらかを棄却して重回帰分析を行う。これを自動的に行う方法もあり、段階式重回帰分析と呼ばれている。段階式重回帰分析では、一つづつ説明変数を取り込むときに説明変数の相関を評価している。技術開発では説明変数に対してある程度の重要度が決まっている場合が多いので段階式重回帰分析はあまり使用されない。

 

説明変数間の相関が低い重回帰式が得られたなら標準偏回帰係数(偏微分)を用いて目的変数に対する説明変数の寄与を調べる。ここで標準偏回帰係数を用いるのは単なる偏回帰係数では説明変数の単位にその値が影響を受けるので、用いることができないから。

 

このほか残渣分析を用いて回帰式がどの程度サンプル集団の説明ができるのか調べる手順は単回帰分析の時と同様である。昨日まで説明した主成分分析に比較して重回帰分析は単回帰分析に似ているので親しみやすい多変量解析手法である。

カテゴリー : 一般 連載

pagetop

2013.10/30 主成分分析の計算方法

主成分分析は元のデータ群に対して変数軸の回転を行い、変動が最大となる新たな軸でデータを眺めているだけである。

 

主成分分析ではデータの変動が最大となる軸、すなわちその軸でデータを整理するとデータが最も散らばってプロットされる。ここでは複雑な数式を書くことができないので軸を回転して新たな軸を求める計算方法を書かない。

 

ただし、計算の考え方を少し説明すると、ある条件の下で変動が最大になる条件、すなわちある条件の下で関数の極値を計算で求める。この時、ラグランジュの未定係数法が出てくる。

 

多変量解析の教科書で化学系の人間が読んでいて嫌になるのは学生時代にマジメにやらなかった線形代数の計算が出てくる点。改めて線形代数の教科書を買い込み勉強することになる。

 

線形代数を理解できると、主成分分析の計算は、ただ分散共分散行列の固有値を計算で求めているだけ、ということに気がつく。これは、ラグランジュの未定係数法の極値条件で最大値をとる必要条件なのだが、計算手続きとして主成分分析の計算を眺めると極めて単純である。

 

教科書では数ページにわたり式が展開され専門外の人間に恐怖を与えているが、固有値問題と理解すれば怖くない(このように書くと統計学の先生に叱られるかもしれない)。

 

分散共分散行列の最大固有値に対する固有ベクトルの成分が、元のデータに対する新たな第Ⅰ主成分の軸の方程式の係数となる。このようにして第二主成分、第三主成分と元のデータの変数に応じて新たな軸を求めてゆく。このようにして求められた新たな軸でデータを検討する方法が主成分分析である。

 

計算方法を理解すると主成分分析はデータのばらつきが大きくなる軸で整理しているだけ、と実感し納得できる。線形代数の詳細な計算の理解など不要である。むしろ計算された結果の考察が重要である。

 

教科書を読むと、新たな軸に名前をつけよ、とある。新たな軸に名前をつけると資料分析に役立つ、とあるがどのような名前をつければ良いか迷うことがある。子供の名前でも苦労したのである。日々の日常業務で命名に時間を使っていたのでは仕事が進まない。軸に名前をつけることにどれだけの意味があるのか執筆者に突っ込みたくなるが、昔の本である。

 

30数年間の開発で使っていたのは、主成分の方程式の係数を見て、大きい係数の項目のかけ算の表現を名前とする方法である。また、求められた主成分方程式の軸では無く実際にそのかけ算の値を軸として整理し直したこともあった(注)。

 

ビッグデータブームとしてテレビで取り上げられることが多くなった主成分分析であるがテレビで仰々しく報じているような科学の進歩の壮大な成果というほどのものではなく、その中身は意外に簡単なのである。

 

データが巷にあふれてきたので約半世紀前の手法で整理して眺めているだけである。しかし、それでインフルエンザの流行が事前にわかったりするのだから便利で、このような便利な手法を実務で利用しないのはもったいない。

 

(注)主成分分析では統計学的に分散が最大となる軸でデータを整理してゆく。しかし、実務的には新たに求められた主成分の軸よりも、その軸の方程式から推定される技術的な意味のある軸で整理しなおした方が理解しやすい場合がある。最大の分散でデータを眺めることにはならないが、データ群を理解するときに、主成分と異なるそのような軸で眺めた方が直感的に理解しやすい。また、その軸を求める過程で、アイデアがひらめくこともある。実務的には主成分分析で全てのデータを特徴付けることよりも、軸を変えてデータを見直すこと、すなわち視点を変えてデータを見直す作業そのものが重要である。

 

重要なポイント:

実務で主成分分析を行う意義は、目前のデータを異なる視点でまとめ直すところにある。その結果新たなアイデアが生まれることもあるが、新しい事象が見つからないこともある。後者の結果が得られたからといって主成分分析が無駄な作業という意味ではない。なぜなら、企業の研究開発ではあらゆる視点でデータを見直すことは重要な作業だからである。

 

 

 

カテゴリー : 一般 連載

pagetop