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2014.12/12 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(8)

温度とエネルギーの関係の重要性をしみじみと味わったのは、半導体用高純度SiCの合成に初めて成功したときである。その実験では、炭素ルツボに少量仕込み、炭素ルツボの温度を計測しながらプログラムコントローラーで温度制御を行っていた。

 

ところが突然温度コントローラーが暴走し、慌てた当方は実験装置の非常停止ボタンを押した。当たり前の事だがその結果温度が下がり始めたので、実験を中断するのか手動で運転して実験を継続するのか悩んだ末、どうしてもその実験で結果を出さなければならない事情があって実験を継続することにした。

 

その結果驚くべきことに超微粉で粒度の揃った黄色に輝く高純度SiCが得られた。高分子前駆体を用いたこととエネルギーが均一に与えられた結果が目の前に現れたのだ。

 

その後温度を一定に保つ実験を行い、実験の再現を狙ったが、この時ほど粒度の揃ったSiC超微粉は得られなかった。すなわち高分子前駆体を用いても吸熱反応で進むシリカ還元法では反応エネルギーが均一に保たれなかった場合には粒度分布が悪くなることを学んだ。同時に急激な温度上昇で、吸熱反応にエネルギ-を加えることの有効性を知った。

 

ただ、この急激に温度を上げてある温度で平衡状態にあるエネルギーを加えるというテクニックは、科学的ではない。高純度SiCの合成条件でたまたまその様になっただけである。

 

しかし、吸熱反応の場合には系の容積がわかればエネルギーを瞬時に加えるテクニックとして使えるかもしれない、と想像した。

 

PENの巻き癖解消企画で用意したサンプル作成にはこの時の経験が生かされた。すなわちTg以上の高温度環境にPENフィルムを一瞬さらし冷却する、という方法でサンプルを作成した。

 

驚くべきことにPENフィルムはしわしわにならず、巻き癖だけが解消された。さらに驚くべきことにはできあがったPENフィルムの粘弾性特性がTg以下で処理したPENフィルムのそれと同じにならなかったのだ。

 

科学で考えていては思いつかなかった驚くべきことが重なりこの技術について特許出願までできた。同時にライバル会社の特許に抵触しないPENフィルムを製造できる技術の可能性が示された。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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