活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.09/06 模倣の勧め

先日使用中止になった東京オリンピックのロゴについて本人が認めないので模倣かどうかは不明だが、問題となったロゴとよく似ている点については誰もがわかる。しかしデザインでも技術でもよく似ているものを作ることは簡単ではなく、それなりのスキルが要求される。スキルが無ければ模倣で優れた複製を作り出すことは難しい。セシリアでは痛んだフレスコ画の複製を独創のタッチで修復したおばあさんが有名になった。
 
東京オリンピックのロゴの作者とセシリアのフラスコ画の作者と描いている絵のカテゴリーが異なることや、作業として前者は似ていないことが、後者は似ていることがゴールとして要求されたことなどから同じまな板の上で議論してはおかしいかもしれない。しかし、皮肉なことに前者は模倣と疑われ、後者は似ていなかったことが話題になって、両者は異なる問題にもかかわらず、「模倣」という同じまな板の上に載っているように見える。
 
そこで、ロゴとフレスコ画の問題を料理すると、スキルとは何かと言う疑問が出てくる。おばあさんは自称画家だそうだが、模倣という視点で見ると東京オリンピックのロゴの作者とのスキル差は大きいとみてよいだろう。残念ながらおばあさんの絵ではトレースがうまくいっていないが、ロゴではそれが完璧にできているように見える。
 
おばあさんは絵を書きあげた時のインタビューで、似せて書こうとしたが、あのようになってしまった、本当はもっと上手にかけたのよ、と嘆いていた。しかしどこを見て書いたら猿のようなキリストの顔になるのか理解できないばかりか、顔の大きささえも一致していないので画家としての模倣スキルは低いと言わざるを得ない。
 
ただ、模倣スキルが低かったおかげで世界的に有名になり、その町に観光客が押し寄せるようになって、おばあさんは町の人に感謝されることになった。おかしな顔のキリストの絵をシンボルにしたワインなども作られ、模写として失格という当初の問題は吹き飛んでしまった。
 
模倣しようとしたが、そのスキルが低いために似せるための試行錯誤が繰り返され、その結果模倣が創造になる、というのは、模倣から創造を生み出す一手法のプロセスである。
 
例えば、フェノール樹脂とエチルシリケートのリアクティブブレンドについては、ゴム会社のホームページに書かれているような高純度セラミックスを有機物前駆体から製造する、試行錯誤から生まれた独創技術である。ポリウレタンRIMの模倣技術だが、似ても似つかぬプロセスと材料が生み出された。
 
なぜ、セラミックス会社の技術をうまく真似るように粉体プロセスの基礎研究を行わなかったのか。それは1983年に無機材質研究所へ留学し、偶然のめぐりあわせからプリカーサー法を1週間もかからない短期間で完成でき、その半年後にゴム会社で先行投資が決まり、いきなりパイロットプラントが立ち上がったためである。「まずモノを持ってこい」精神の賜物だが、パイロットプラントができあがった時にその名言を言われた役員は「いきなりでかい装置をいれたのか」と驚いていた。
 

科学の無い時代の技術の発展がどのようであったかは、「マッハ力学史」にあるようにそれをたどることは難しいが、お金儲けを目的に技術を盗んでやってみたら、スキルがなかったために独創的なよい技術が生まれた、ということもあったかもしれない。
 
偶然も大切で、高純度SiCのSiC化の条件探索作業では、無機材質研究所で新品の電気炉が暴走してマニュアル運転したためにベストな製造条件が一発(実験を開始して3日めのこと)で見つかっている。その時は、コントローラーの操作方法を知らなかったので、非常ボタンとスイッチ操作を繰り返すしかなく、フレスコ画のごとくプログラムパターンとは似ても似つかぬ温度パターンになってしまった。本当は文献に書かれていたように1600℃30分保持を行いたかったがそれとは似ても似つかぬ条件が最良条件として得られた。
 

カテゴリー : 一般

pagetop