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2016.02/21 企画を実現する(5)

繰り返しになるが、企画を実現するコツは、貢献を軸に物事を考える習慣をつけることである。すると、人間関係に気を配ることの重要性を理解できる。また、企画段階から周囲にヒアリングするアクションは組織への働きかけのアクションであり、組織への貢献として重要であることに気がつくはずだ。
 
これまで書いたことだけでも実行すると、どんなへぼ企画でも実現できる。実際に写真会社でそのようなへぼ企画(注0)が推進され、コストが下がらずに困っている風景を見てきたし、当方の非科学的で企画として通過しないようなコンパウンド工場も実現している。後者はエセ科学者のへぼ企画とは大きく異なり、十分に事業に貢献している企画であるが、その内容はエセ科学者でも見れば猛反対したくなる企画だった。
 
企画を実現するために、良い企画内容を作り上げることを優先して書いてある指南書があるが、これは現場を知らない書物だと思う。企画によりイノベーションが少なからず起こされるわけであるから、企画実現で一番重要となるのは会社内の人間関係論だろう。
 
しかし、難しい専門の人間関係論は不要で、上司や部下、協力会社の人々に謙虚に接する努力こそが日々の活動で必要である。そのためには「聞く力」を養うことである。企画段階から周囲にヒアリングを行うことで企画内容の情報が流れるので、企画をあげたときに通りやすくなる。もし会社の風土に不適切な企画内容であれば、ヒアリングの時にアドバイスしてくれる人も出てくる。
 
例えば、立案しようとしている企画が大きすぎるときや、企画内容を受け入れる部署が存在しないか、あってもその部署が企画反対の立場を取りそうなときに、会社の風土に詳しい人にヒアリングすれば指導してくれる。
 
ゴム会社に勤務していたときに超伝導フィーバーがあり、ある若手Aが常温超伝導を活用した企画を立てていた。その企画書が経営会議にかけられる前に上司から当方に回覧されてきた(注1)。企画内容を見ると、あまりにも大きな夢のような企画で実現できそうにない内容だが、研究企画として書き直したら面白い内容だった。
 
しかし、上司から当方に言われたのは、若手Aが相談に来るまで動くな、という指示だった。残念ながら若手Aは、当方の上司にも相談に来なかっただけでなく、年齢の近かった当方にも電話一本かけてこなかった。もし、研究企画に書き直せば採用されたかもしれない企画だったが、投資額と事業規模の観点から検討されて企画は却下された。
 
この時の上司は、自分の部署が企画が通ったときに受け入れ先となり、若手Aも人事異動することになる問題を挙げていた。ちょうど高純度SiCの事業プロジェクトが縮小されたばかりで、上司は開発負荷につながる企画を避けたかったのである。ただ、世間の超伝導フィーバーとこの若手Aの企画の影響もあり、常温超伝導材料に関する特許を2ヶ月以内に数件書くように役員から指示が出た(注2)。
 
このように企画提案は、仮にボツになったとしても関係部署に少なからず影響が出る場合があるので、事前の根回しが企画実現のために重要となってくる。この点が、企画段階における広範なヒアリングが必要な理由でもある。ちなみに当時マイスナー効果の特許や超伝導体の酸素欠陥ができやすい問題を回避する技術、フレキシブル常温超伝導体など怪しげな特許を出願し、2件ほど成立している。
 
若手Aの企画が研究企画として提案されていたならば採用されていたかもしれない。恐らく経営陣の中にもそのように感じた人がいて、特許出願の指示が下りてきたのではないかと推定した。また、上司はその後異動となった。後味が悪い企画騒動だった。
 
(注0)技術に関する企画をいつでも正しく判断できる、と勘違いしている人が多い。機能の目標を明確にしても、その目標に巧妙な嘘があった場合には、判断を誤る。例えばPETフィルムの表面処理技術に下引き処理があるが、この下引き処理は、PETに機能性薄膜を接着するための接着剤の役目や帯電防止の機能をPETフィルムに持たせるために廃止できない。この下引き処理を廃止できる画期的技術が出来たとして、何年も開発が続けられ結局実用化できなかった実例がある。ひどいのはこの開発過程で、下引きは使用しないが応力緩和層というものをつけると実用化できる、などという企画も登場した。この応力緩和層と下引き層と何が違うのか議論してもかみ合わない回答を巧妙にしてくる。そのうち反対している当方が悪者扱いにされ企画が通っていった。ただ、この体験はPPSと6ナイロンを相溶させるカオス混合技術を実用化する時に参考になった。すなわちPPSと6ナイロンを相溶させる技術はフローリーハギンズ理論から科学的にナンセンスな技術と否定されかねない際物技術であった。だから技術開発するときにこの問題を応力緩和層のようにカプセル化してごまかしたのである(この結果は「ごまかし」ではなく技術が科学を牽引するような成果が出た。ただ、結果が出る前は「ごまかし」なので、正直に「ごまかし」とここでは表現している)。ただ、応力緩和層の技術と当方の技術では提案時の姿勢に雲泥の差があり、後者は実用化され現在も稼働し事業に貢献している。科学者の中には周囲が理解できないのをよいことにして経済性も無視した技術企画を平気で推進しようとする人がいる。注意が必要である。
(注1)どのような経緯でこの企画書が上司の元に回覧されてきたのか不明である。企画書の回覧部署には、研究開発部門が入っていなかった。しかし、この企画書が他の管轄を行っている役員経由で研究開発部門へ回覧されてきたことは、回覧部署名から分かっていた。回覧部署名が書かれていなくても検討前の企画書が回覧されたならば、貢献を軸に考えてコーポレートの研究開発部門は何らかのアクションを取るべきだろう。上司はそれが分かっていたので、当方が動くといけないので釘を刺したのかもしれないが、間違った指示だったと思っている。
(注2)この時特許とは権利書である、ということを実務として身につけた。常温超伝導体など結局未だに実現されていないが、特許は実現された前提で作成しなければいけないところに、この時の特許を書く難しさがあった。科学者の良心というものは不要で、必要なのは技術というものをどのように捉え権利化するために何をしなければいけないか、真剣に考えることだった。科学者の良心とは異なる軸あるいは視点である。指導してくださった上司は恥ずかしながらの姿勢であったが、今から考えると、なぜもっと素直に機能を権利化するために特許を書くと言われなかったのかと不思議だ。大学ではないのである。常温超伝導体ができた、という特許は嘘となるが、できたとして、このような技術が必要になるのでそれを権利化する特許ならば、嘘ではない。実際に当方が書いた酸素不足にならないように超伝導体を被覆して用いる技術は、他社において銀で実用化されている。当時そのような着眼点は初めてだった。弊社の研究開発必勝法を用いればこのような全く情報が無い新材料の場合における特許対応が可能である。

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