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2016.04/21 高分子の融点(6)

Tg以下でも高分子鎖が運動しながら凍結されてガラス状態になる可能性、あるいは疎な部分のパッキングが進み密度が上がる可能性は、クリープやアニール(注)のメカニズムを考えるときに重要で、漫画的でもよいから頭に描けるようにしていると便利である。
 
例えば、結晶性高分子ならば結晶の量をDSCからおおよそ知ることが可能である。結晶の量がわかれば残りは非晶領域の量となる。
 
結晶の量を同一にした樹脂の比重を測定してみると、5%前後から多い時には10%前後さらには20%もばらつくことがありビックリする。これは、非晶領域の自由体積部分がばらつくためであり、ガラス相の量もばらついている。
 
ガラス相がほとんど存在しない場合も樹脂の熱履歴によりできる場合があり、それでDSCを測定した場合にTgがあらわれないことになる。
 
このように理解するとDSCのTgの現れ方が、Tcのようなピークとして観察されず、比熱の変化すなわちベースラインの変化としてどのような量がチャートに描かれているのか理解できる。また、この変化量であるエンタルピーが自由体積部分とかかわっていることも納得がゆく。
 
(注)高分子成形体のクリープしやすさをアニールにより改良することが可能である。過去に成功した体験として、PENフィルムの巻き癖を解消した技術がある。PENフィルムを鉛筆に何重もまき付け、1ケ月放置しておくと巻き癖がつく。この巻き癖の付き易さはPENフィルムの熱履歴により変化する。特にTg近辺での熱履歴には大きく影響を受ける。ゆえにTg近辺で熱処理(アニール)を行うと巻き癖を付きにくく出来る。これはフィルム会社2社からそれぞれ異なるアニール条件の発明として特許が出願され成立している。今や過去の話になったが、PENフィルムはAPS(アドバンスドフォトシステム)フィルムの支持体として使用された。この用途のために最初出願されていたのが通常のTg以下でアニールする方法である。Tg以下でアニールすれば、パッキングが進んでいない自由体積部分が変化し、巻き癖が付きにくくなる。こんなことが特許になった時代がある。Tg以下でアニールするのはあまりにも常識的で面白くないと思い、Tg以上でアニールする技術を開発し、特許出願した。フィルム成形をされた経験のある方ならばその非常識さが分かっておられると思う。Tg以上の温度でフィルムをアニールすることはできない、とまで言う部下がいた。当方は転職者でフィルム成形の経験が無かったので気楽にやってみなければわからんだろう、とトライしたら簡単にできた。しかもフィルムの巻き癖が付かないようにするためのTg以下のアニールが4日以上必要なのに対してたった数分で大丈夫だったのだ。さらに短時間で出来るのでは、と思い、いきなりラインで実験したら、できた。技術は自然界から機能を取り出すことが出来ればなんでもありの世界である。

カテゴリー : 高分子

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