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2016.04/22 高分子の融点(7)

面白いのはDSCでTgが観察されない場合が出てきても、TMAでは、Tgを変曲点として観察することが可能である。
 
DSCでは高分子材料のエンタルピー変化で構造の情報を得ようとしているが、TMAでは高分子材料の体積変化から構造の情報を探るので、高分子鎖の分子運動の情報がそのまま検出され、DSCで測定できなかったガラス相の検出を可能としている。
 
TMAについては針入モードの場合がJIS化されているだけでその他の測定モードについては標準化されていない。ゆえにデータを見るときに注意が必要である。ちなみに測定荷重によってもチャートに現れるカーブが変化する。
 
TMAは、標準化が進んでいるDSCよりも普及していないが、材料の耐熱性という実用面の情報が得られるメリットがあるので、そろえておきたい分析機器である。すなわち、実務上重要である寸法変化の挙動を直接計測可能なので、DSCよりも実用に即してマクロな測定法を工夫でき、便利な装置である。
 
高分子の融点の話であるが、TgのことをDSCやTMAなど分析機器を持ち出し説明しているのには理由がある。
 
そもそもガラスとは、過冷却液体のことで、液体状態から非平衡プロセスで冷却した時に結晶化温度Tcで結晶化できず、そのまま冷却され液体のまま分子運動性を失い固体になった物質のことである。
 
分子運動性を失い固体となる温度がTgであり、その温度で力学物性が変化するため実用上融点Tmよりも重要な温度という技術者もいる。また、プロセシングの設計を行う場合には、このTgをどのように認識するかで設計方針が変わる。
 
しかしおもしろいことに、このTgがあまり問題にされていない材料も存在する。例えば買い物袋のポリエチレンのTgは-125℃であり、Tgよりもはるかに高い温度の力学的用途で使用されている。
 
高分子材料を機械的用途に扱う時に、耐久性の上限温度をTgの温度にワンパターンで設定する技術者がいるが、高分子材料を使いこなす視点でこれは時として「もったいない」考え方となる。
 
工夫すれば耐久性の上限温度をTgとTmの間に設定できる場合がある。特殊な用途では、Tm以上で高分子の分解温度近辺まで耐熱性を設定できる場合もある。評価技術を駆使して高分子の限界性能ぎりぎりまで機能を絞り出す技術開発も高分子技術の醍醐味である。
   

カテゴリー : 高分子

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