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2023.10/05 まず何から学ぶか(5)

電気粘性流体の耐久性問題を界面活性剤で解くことができない、という否定証明は、科学的に完璧な報告書だった。しかし、データの扱いは、統計科学の視点から問題があった。


日本を代表する高偏差値大学の工学博士が2名もいて、誰もその問題に気がついていないどころか、統計によるデータ処理を必要としない,とまで言い切っている。


恐らく、科学信奉者の多くは、仮説に適合したデータさえ得られればよくて、そのデータにばらつきがあっても、あるいは仮説に適合しないデータがあっても、帰納法で仮説をうまく説明できてしまうと気にならないのだろう。


これは、科学の落とし穴である(注)。もし、統計科学の視点で実験データを眺めていたら、当方が出願した特許の内容に気がついたはずである。特許の明細書案ができたときに、そんなことは当たり前として考えていたから発明者に名前を載せろと言ってきた。


特許を検索していただけばこの事実を確認できるが、微妙な問題もあるのでここには特許番号を書かない。とにかくその後様々な事件が起き、電気粘性流体の仕事に関わった当方の同僚3人が退職しているのだ。


大きな事件になってしまったが、人事部が積極的に推進していた統計手法の普及努力を軽視し、独りよがりの科学信奉を強制しようとしたメンバーだけでなく本部長も含め、その原因について深く考えようとせず隠蔽化へ動いた。


アメリカでは、トランスサイエンスが話題になり始めていたが、日本では偏った科学重視の研究開発が企業で行われていた。統計科学にも一応科学がついているので重視すべきであるが、ゴム会社ではQC手法と呼んでいたので現場の手法と勘違いしていた研究所スタッフが多かった。


データサイエンスにも「サイエンス」がついている。まず、「何から学ぶべきか」は、「統計の正しい意味」を知り、「実験のやり方には少なくとも二つの方法がある」ことに気がつくことである。


技術開発における実験について、機能を確認するために行われることを知らない研究者は多い。義務教育時代から学んだ、仮説を確認するための実験を企画しやすいからである。


タグチメソッドの学習シーンでは、しばしば基本機能とは何か、という問題で無限ループに陥る研究者を見てきたが、実験で検討すべき機能を見出せない人には機能のばらつきの意味を考えることもできない。


(注)「統計でウソをつく方法」とか「統計の落とし穴」とかいう記事が多かった時代でもある。今のようなデータ重視の考え方を否定する意見がもてはやされていた。例えば、映画「6デイズ7ナイツ」にも、主人公の女性のボーイフレンドが「統計数値を意図的に解釈している」と雑誌記者である主人公を責めるシーンがある。ビッグデータの活用がブームとなっている今の時代からは想像できないかもしれない。40年前には統計に批判的な書籍も出版されている。統計と科学の方法との関係について考える時に、このような時代があったことを知ると、科学の方法における統計の位置づけが時代により変化することを理解できる。統計がどのような学問なのか、それを学ぶと、科学の一分野であるが科学そのものではないことに気づく。故田口先生がタグチメソッドは統計ではない、と言っておられたが、タグチメソッドが統計学から生まれている点に注目する必要がある。自然の真理を明らかにするために実験を行うが、その実験と技術における機能との関係を明確にしたのがタグチメソッドである。統計学は、実験のやり方について、偏りのない方法を推奨しているだけであり、実験と機能の位置づけを明確にしていない。

カテゴリー : 一般

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