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2012.11/28 ゼラチンの靱性向上技術(1)

 デジタルカメラの普及で写真フィルムを身近に見ることが少なくなりましたが、写真フィルムの画像を記録する部分には、光に反応して画像を形成する銀塩の結晶を分散したゼラチンが使用されており、銀塩写真フィルムとも言われています。この画像を記録する層を保護するための保護層が表面に塗布されており、この層もゼラチンで作られています。すなわち銀塩写真フィルムは、ゼラチンでできた薄膜が、0.1mm前後の厚みのプラスチックフィルムに何層も積層された構造をしております。

 

また、ゼラチンはゼリーとして食用にも使用されているので、柔らかくて脆い材料という力学物性を身近に体感することができます。銀塩写真フィルムとして厄介なのは、乾燥すると簡単にひび割れる性質です。このように銀塩写真フィルムの画像形成層は、ガラスのコップよりも脆い材料でできています。

 

 銀塩写真フィルムは、撮影した画像を現像処理して目に見えるようにします。この現像処理は、水中における化学反応なので、ゼラチンは水を吸い、さらに柔らかくなり傷がつきやすくなります。また現像処理後の乾燥プロセスでは、乾燥速度を早くするとゼラチンは急速に硬く脆くなりひび割れます。銀塩写真フィルム開発の歴史は、画像技術以外にゼラチンの力学物性改良の歴史でもあります。

 

 この柔らかくて脆いゼラチンを硬くするために、ゼラチンへシリカゾルという硬い超微粒子を分散する技術が開発されました。シリカゾルを分散したゼラチンは硬くなりましたが、さらに脆くなりました。そこで脆さを改善するためにラテックスと呼ばれる柔らかいゴムの超微粒子をシリカゾルと一緒にゼラチンに分散する技術が開発されました。

 

 このようにしてゼラチンの柔らかさと脆さを改善するために技術開発が続けられ、シリカゾルとラテックスの組み合わせで力学物性のバランスをとる技術が1990年頃まで使用されてきました。しかし銀塩写真フィルムの現像処理時間が短くなるにつれ、銀塩写真フィルムを搬送するスピードが速くなり、従来のゼラチン改質技術では擦り傷が目立つようになりました。また、乾燥速度も速くなりひび割れしやすくなりました。すなわち、単純にシリカゾルとラテックスを組み合わせてゼラチンに分散する技術では、現像処理の時間を1分以下にすることができませんでした。

 

 

カテゴリー : 高分子

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