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2012.11/29 ゼラチンの靱性向上技術(2)

ゼラチンは脆い材料ですが、銀塩と安定な保護コロイドを作る、現像処理を水中で行う時に容易に水で膨潤するポリマーであるなど銀塩写真フィルムには欠かせない材料です。このゼラチン改質技術として、1990年前後にシリカゾルをコアにその周囲をラテックスで覆うコアシェルラテックス技術が開発されました。有機無機ハイブリッド技術としても取り上げられ、アカデミアでも研究されました。

 

しかし、コアシェルラテックスにも泣き所があり、粒子が通常のラテックスよりも大きくなる問題やゼラチンへの添加量の制御、特にシリカゾルとラテックスの量比の制御ができないという問題がありました。コアシェルラテックスによるゼラチン改質技術のポイントは、従来のようにシリカゾルとラテックスとを別々にゼラチン水溶液へ添加するとシリカゾルの凝集が少し生じ、その凝集体が破壊の起点になり、ゼラチンを脆くする問題を解決した点にあります。

 

要はシリカゾルの凝集を防ぐことが技術の目標にあったわけで、その目標達成のために凝集しやすいシリカゾルの周りをラテックスで覆っただけです。もう少し気の利いた解決方法はないのか、と考えて出てきたのが、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術です。すなわち、シリカゾルをミセルとして用いてラテックスを重合すれば、任意のシリカゾルとラテックスの量比の材料を作ることができます。

 

アイデアはよかったのですが、こうしたゾルをミセルに用いた技術は、2000年にLAGMUARという科学雑誌に研究報告されるまで存在しませんでした。また、頭で考えたようにうまくゆきません。コアシェルラテックスができてしまいます。早い話がコアシェルラテックスは当時先端技術でしたが、ゾルをミセルに用いる技術よりも優しかったので先に登場したわけです。冷静に考えれば、ゾルをミセルに用いた技術では有機無機ハイブリッド材料を設計するときにも自由度が広がります。ゆえにコアシェルラテックス技術よりも用途が広いわけで、技術が完成すれば画期的な有機無機ハイブリッド技術になります。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス合成技術の難易度がかなり高いことが分かりましたので、弊社の問題解決法で問題を解きましたら、技術を容易に開発でき、1995年に実用化できました。驚くべきことにゾルをミセルに用いたラテックスをゼラチンに添加してもシリカゾルの凝集体ができません。ゾルが安定なミセルを作っているためですが、さらに驚いたのは、ゼラチンの靱性が飛躍的に向上したことです。これは破壊力学の研究成果が公開されていましたのですぐに理解できました。すなわち固い超微粒子が均一に分散している材料の破壊挙動を解析すると、破壊エネルギーが超微粒子で分散され靱性が向上するという機構であることが知られておりました。

 

このゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は高分子学会技術賞に推薦されましたが、高分子の先生方はコロイド化学に疎いためか評価されず落選いたしました。しかし写真学会からは評価され、ゼラチン賞を受賞しております。おそらく当時は技術が先端過ぎたので信じてもらえなかったのかもしれません。

 

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カテゴリー : 高分子

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