2024.08/09 コンピューターサイエンス(2)
科学の方法で完璧な手順は否定証明であり、統計の帰無仮説はこの手順に則り行われ、有意性が議論される。学生時代に統計を学習した時に、帰無仮説を立案する方法を奇妙に感じたが、科学的統計と緒言に書かれていたので納得している。
現象を見て、「もし**ならば、ーとなる」という仮説を立案し、**の条件で実験を行い、実験でーが否定されると、この仮説が棄却され、現象で生じている真実が証明される。
しかし、技術開発では、新しい機能を開発することが目的であり、仮説をたてて実験を行い、仮説が正しいことで機能が市場で正常に動くに違いない、という否定証明と異なる科学的方法で実験を行っている。
イムレラカトシュは、このような方法を科学の厳密的な方法ではないが、科学と非科学との境界は時代により、変化すると述べている。
そもそも論理学が完成し科学が生まれた、と、「マッハ力学史」には書かれており、また、科学史でもそのように扱われている。マッハはニュートン力学でさえも非科学的としている。
ニュートンは、「リンゴが落ちるのを見て、万有引力の法則」を発見しているが、これは逸話であり、思考実験を多用していたようである。
この思考実験(重)とは、頭の中で、風が吹くと桶屋が儲かる式に実験を行う方法で、それゆえ、マッハは非科学的と称していた。ニュートン力学は非科学的方法であるが、高校の物理学で学ぶ力学は、ほぼニュートン力学である。
面白いのは、高校時代に、数学の教師が独自に作成したプリントで、半年間ユークリッド幾何学を指導してくれたことである。当方の卒業した高校では、3年間に学ぶ指導要領に準じた数学(注)を1年半で終わるカリキュラムであり、半年間はユークリッド幾何学を学び、1年間は、高校3年間の復習をやっていた。
このユークリッド幾何学を授業で行うにあたり、科学教育の観点から指導要領から削除されたが、幾何学の知識として重要なので特別に行うと話されていた。
確かに、ベクトルや座標系を用いて幾何学の問題を解くような手順では無い。最初にキモとなる補助線に気がつくかどうかで、解くことができるかどうかが左右される。しかもその補助線に論理的根拠は無い。なれるより仕方がない方法だった。
このことから、科学とは、誰でも論理学を正しく活用しておれば、問題を解くことを可能にしてくれる哲学とも言える。ユークリッド幾何学のように、補助線を引けなかったら問題を解けない、ということにはならない。
ゆえに、科学を用いれば自然現象をすべて解明できると誤解したのかもしれない。素粒子物理学の体系はそれで成功したかもしれないが、高分子科学の体系は、面白いように未だぐちゃぐちゃである。
(注)学生社というところが、難問集という受験参考書を発行していた。日比谷高校や灘高はじめ受験校と言われた全国の高校の試験で出題された問題で、難問と思われる問題を集めていた。当方の卒業した高校の数学問題も取り上げられていたが、幾何学の問題は、ユークリッド幾何学を知っているとたやすく解ける問題ばかりだった。経験知の有無で解けるかどうかが決まる問題と言える。
(重)重要なことだが、思考実験を自由自在にできるようにしておくことは、アイデア創出を容易にする。妄想と馬鹿にする人がいるが、思考実験ならばやりたい放題できる。お金がかからないので、大胆な思考実験も可能だ。仮説を用いず、こうした思考実験の組み合わせで高純度SiC前駆体の実験を直交表により成功させている。モノを創造するときに科学は必ずしも必要ではないのである。むしろ科学にとらわれていると新しいモノを生み出せない場合もある。当方がこの高純度SiCの実験を無機材研で成功させたときに、研究所の人から、エチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせを考えたが、フローリーハギンズの理論から否定された、君はそれを知らないセラミックスの専門家だから成功した、と言われたが、当方は指導社員からフローリー・ハギンズ理論とその問題まで丁寧に指導されていた。高純度SiC前駆体の発明は、非科学的思考の重要性を証明した成果だと考えている。科学的には否定されても、形式知が未完成のため、その現象が科学に反して起きることは高分子科学でよくあることだ。コアシェルラテックスは、高分子化学会技術賞を受賞している科学の成果だが、この成果の裏返しの技術、すなわちあたかもコアをミセルにしてラテックスを重合する技術を成功させている。PPSと6ナイロンはχが0とならないので、相溶しないが、カオス混合によりこれを相溶させてMFPの中間転写ベルトを完成させている。非科学的方法でも技術を開発することができる、というよりもその方が独創性の高い技術を生み出すことができる。科学的には当たり前の結果しか出せない。
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