2017.02/11 高分子材料(30)
加硫ゴムは、加硫してはじめてゴム弾性を示す。未加硫ゴムは室温で流動性があり力を加えると大きく変形しそのままの姿で流動してる。Tgが室温以上の樹脂と性状の違いが著しい。
TgからTmまでの動的弾性率においてその温度変化は、いわゆる樹脂と呼ばれる高分子と加硫ゴムとして用いられる高分子で大きく異なり、樹脂ではもう一つ変曲点が観察されるが、ゴムでは何ら変化が無い。面白いのは、ゴムではTmよりも低い温度領域で普通に混錬したりするが、樹脂ではTm以上の温度領域で混練するのが常識になっている。
逆に樹脂をTmよりも低い温度で混練するというと常識が無いと笑われたりする場合もある。ゴムでは混練温度を柔軟に扱うが、樹脂はTmより低い温度だと分子の断裂が起きてだめだ、と強く否定する人がいる。カオス混合を公式の場で初めてプレゼンした高分子学会技術賞の審査会でも議論になったが、このような人と話すと疲れる。
分子の断裂が起きるかどうかはスクリューセグメントにも依存するので頭ごなしに否定するほうがおかしいが、PPSの中間転写ベルトを開発してみて、これは樹脂技術者の特殊性あるいは厳しい言い方をすれば偏屈ととらえたほうがよいと思っている。ゴム技術者のほうが樹脂技術者よりも柔軟な人が多い。
PPSは「カーボンを嚙みこみにくい剛直な分子」ではなく、柔軟でカーボンの分散制御も行いやすい分子に思われる。混練条件を注意深く変化させて実験をすればその様子を観察することも可能だ。またその実験方法はノウハウだ。
だからTm温度以下で混練してもスクリューセグメントさえデザインすれば分子の断裂を起こさず混練可能である。これを樹脂技術者の審査員は偉い!とうぬぼれているのか知らないが、10分間の審査会で頭ごなしに否定するような意見を述べられては、そこで審査の議論は終わる。6年たっても事業として続いている筋の好い技術を心無い審査員のためにだめにされた。
実は樹脂をTmよりも低い温度で混練するとTm以上の混練物と異なる性状の材料が得られることがある。実例を示すと退職時に実用化が決まった廃PETボトルを用いた環境対応樹脂ではPETのTm以上の温度領域で混練すると射出成型が可能な樹脂ができない。
ゴム会社で社会人をスタートできたのは幸運だった。もし樹脂材料技術を最初に担当していたらTm以下で混練しようなどと考えなかったと思う。今中国で樹脂技術を指導しているが、この混練温度の考え方も指導している。
機能を実現するのが技術であり科学とは異なる側面が技術にはあるので内心はもったいないと思っているが、学会賞の審査でも否定されサポインで3回も落選した技術ならば日本で不要なのかもしれない、と考えて中国でさらに磨きをかけている。
STAP細胞の騒動でも垣間見えた科学こそ命という社会風潮は、新しい技術の創造を阻害する場合もあるのだ。今の科学で説明できない技術でも機能を再現よく実用化できるのならそれを評価し受け入れる寛容さがほしい。
カテゴリー : 高分子
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