2017.07/07 ある技術開発のプロセス
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの開発で始末書を書いた体験談をこの欄で紹介している。工場試作に成功したにもかかわらず始末書を書かなければならなかったのが不思議だった。
始末書の問題以外に日々の仕事でも首をかしげたくなる上司の指導があった。このホスファゼン変性技術の開発では、軟質ポリウレタンの試作に成功した喜びよりも、奇妙なOJTのおかげで科学と技術の相違点を少し理解できたことが収穫だった。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの開発では、いきなり開発ターゲットの最も難燃化性能の高い発泡体を作り、その解析を進めるというプロセスで業務を行っている。ゴム会社に軟質ポリウレタンフォームの基盤技術があったのでこのようなプロセスをとれたのだが、最初に目標となるモノを作ったことに対して、「職人のような仕事をやるな」と主任研究員から注意を受けた。
ポリウレタンフォームの反応を考察すれば、ホスファゼンをイソシアネートと反応させてプレポリマーとして用いてポリウレタンの骨格に取り込み、反応型難燃剤として機能させた方が効率よく機能するというアイデアは容易に出てくる。できあがった発泡体を評価したところ、他の難燃化システムに比較して難燃剤の添加量は少なくても難燃効果が発現した。
この難燃化効率の良さを示すために、他の難燃剤を添加した発泡体の難燃性との比較を行った。しかし、ホスファゼンを企画になかった反応型だけでなく、企画立案時にメンバーと合意したホスファゼン添加型のサンプルを一番最後に作成したり、燃焼試験もJIS化が検討され始めたばかりの精度の高いLOIを最初に評価したりなど、当初の企画に盛り込んでいなかった実験を中心に行った。ところがこの手順に対して「趣味で仕事をするな」と注意を受けた。
企画書に書かれたロジックに基づき仕事を進めれば、グループ内でその結果を共有化するのは容易である。しかし、俗にいう「思いつき」の実験を行っている時に、実は新たなアイデアが生まれるチャンスのあることが知られていない。
「思いつき」の実験を行い、得られた結果をそのままにするならば、低次元なアイデア実験で終わる。しかし、「思いつき」であってもその実験結果について十分な考察を加えるならば有意義な実験となる。このときさらに考察を進め、企画書よりも優れた新たな技術戦略あるいは開発シナリオまで導けたなら、それは「思いつき実験」ではなくなる。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの研究開発で実施したいくつかの思いつき実験から、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームや高純度SiC前駆体技術の開発シナリオが生まれている。
(注)実験は仮説を確認するために行え、とはよく言われる。この実験以外に、仮説などなくアイデアとして思いつき「やってみなければわからない」ことを確かめる実験というのもある。このとりあえず実験で確かめる方法では、無理に仮説を設定しない方がよい。理由は実験がうまくゆかなかったときに仮説を棄却すると同時にアイデアまで捨てることになるからだ。やってみなければわからない実験を行うときには、前向きに実験を進めるのがコツである。どうしても使えるようにしたい機能を実験で確認する場合は、腹をくくってすべての条件で実験を行うべきである。その実験が試行錯誤のようで気に入らないならラテン方格を用いるとよい。現場でアイデアを思いついたときにすぐ実験できる環境ならば、思いつき実験を行った方がよい。それができないならば、実験ノートに枠を赤で書き、その枠の中に頭で思い描いたことを文章で書いてみることが重要だ。文章が難しければ漫画でも良い。技術者が現場で思いついた実験というのは素晴らしい機能を秘めていることがある。これを何度も体験している。
カテゴリー : 一般
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