2018.06/01 高分子材料の信頼性(1)
以前この欄で、防湿庫に保管していたニコンF100の裏ブタのフックが破損した話を紹介した。裏ブタのフックが壊れると裏ブタを閉めることができなくなりフィルムが感光するので、フィルムカメラにとってこのフックはキーパーツのはずである。
フラクトグラフィーを用いて、このフックの破壊について解析すると、典型的なクリープ破壊で進行していたことがわかった。このキーパーツの設計において、設計時の寿命予測として仮に10年程度を考えていたとしたならば、初期故障と分類してもよいような短命で、破壊の仕方もそのように推定されたので、うまく品質管理ができていない可能性を疑った。
ところが某中古店でヒアリングしたところ、このF100のフックについて展示していただけで壊れるケースが多いという。中古店情報なので破壊寿命やその様子は不明だが、最近はフィルムカメラの需要も少なくなったので、長期間裏ブタの開閉をしないカメラF100も多い。
いろいろ考察を進め、この裏ブタのフックについて、設計段階でどのような寿命予測試験を行ったのか疑問を持つに至った。もう10年以上過去の話なので時効と思われるが、写真会社に転職してこのようなゴム・樹脂部品についてアーレニウス型の寿命予測が多く用いられていることにびっくりした。
ゴム会社では40年以上前からワイブル統計で寿命予測を行うのが一般的だったので、設計者になぜアーレニウスだけで行っているのか尋ねたところ、いままでこの方法で行ってきて問題がなっかった、という。ところが、当方が豊川へ単身赴任したところとんでもない品質問題が発生した。
詳細は省略するが、1980年代のセラミックスフィーバではセラミックスの品質管理にワイブル統計を導入する検討が学会で真剣に議論されていたが、高分子学会でそのような議論がなされた様子をこの30年間見ていない。ゴム会社で40年前に導入されていたのでワイブル解析は常識と思っていたが、某樹脂会社の人からワイブル統計を御存じないと言われたのでセミナーを企画することにし、3年ほど前から行っている。
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