2013.06/09 科学と技術(タグチメソッド4(動特性))
タグチメソッドの実験では直交表を使用する機会が多い。そのためタグチメソッドを実験計画法の一つと誤解されている人がいるかもしれない。しかしタグチメソッドを技術開発に用いるときには、直交表は必ずしも必要ではない。制御因子や調整因子を効率的に見つけるために直交表を利用するのであってそれを用いなくともタグチメソッドを活用できるシーンは多い。
タグチメソッドの実験で直交表はいつも必要ではないが、SN比を求めるのに動特性を用いることは必須と頭に入れるべきである。動特性を求めることができないときに、望小特性とか望目特性などを仕方がないから使う。ただその時でも基本機能の特性であることが求められる。
例えば直交表を使った実験で、外側因子として信号因子を使いSN比を求めるようにした実験と望目特性などを入れた実験では、制御因子の信頼度が異なる。タグチメソッドの一般の教科書にはここまで踏み込んで書かれていないが、田口先生も言われていたし、実際にタグチメソッドを20年近く使用した経験からもそれは教科書に書くべき事柄ではないか、とも思っている。
動特性でSN比を求める、とはどのような行為を言うのか。一般的に入力信号に対して応答する出力をプロットしたグラフを動特性のグラフという。タグチメソッドの実験を行うときにも入力信号を横軸に3水準程度とり、その入力信号に対して出力の値を求めるグラフを書く。そして実験で得られたグラフと理想的なグラフとの差異からSN比を求める。
一般的なタグチメソッドでは、理想的なグラフに対して直線を仮定し、その直線からのずれでSN比を求める。実験値についても一次線形のグラフを仮定し、その傾きは感度であり、理想的な直線からのずれがSN比になる。タグチメソッドの教科書に書かれた信号因子からSN比を求める方法の説明では、SN比の公式に感度が含まれている。
SN比とか感度は、ここまでの説明でその意味が漠然と分かってくる。特に感度とは一次回帰式の傾きのことだ、と言えば理解しやすい。またSN比は、理想的な直線からの誤差を示した値と理解できる。理想的なグラフを仮定できるためには、入力信号と出力信号は何らかの関数関係が成立していなければならない。これが信号因子の意味となってくる。信号因子の例として、電流電圧の関係とか延びと力の関係とかあるが、タグチメソッドで重要な信号因子は基本機能の信号因子だ、とよく言われる。
基本機能とは何か。実はタグチメソッドでこれが一番難しい概念です。科学的研究をやってはいけない、技術開発をやれ、基本機能の研究を行え、というのは田口先生の口癖で、この言葉から、基本機能の重要性とともに基本機能を見つける難しさが分かる。そして基本機能については何か、その具体的なことに関してタグチメソッドに書かれていない。田口先生は、基本機能は技術者の責任で見つける、と言われていた。
すなわち個々の技術で基本機能を技術者の責任で見いだし、その動特性のSN比でシステムの信頼性を議論する、これがタグチメソッドの重要なポイントと思っている。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般
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