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2013.08/05 科学と技術(13)

昨日の不思議な成功体験は、その後電気炉メーカーを交えて議論したが、原因が分からなかった。電気炉の暴走もその時の1回限りで、その後の実験では安定に動いていた。

 

当時シリカ還元法でSiCを製造するときに、粉末の粒度を揃える手段としてイビデンの技術が有名であり、化学量論比よりも多くカーボンを用いてシリカと混合しペレット化する方法が知られていた。しかし、有機無機ハイブリッドを用いた場合には、化学量論比のシリカとカーボンが混合された状態で、SiC化の温度条件を工夫しただけで粒度分布がシャープな粉末が得られた。

 

偶然見つかった条件であったが、この条件は、イビデン法が過剰のカーボンを取り除くために焼成処理を行わなければならないのに対して、それを不要にする。すなわちカーボンを取り除くときの酸素(空気)雰囲気下の焼成工程でSiCの表面が酸化される問題を解決できる。この効果はSiCの焼結で大きな意味を持つ。

 

当時プロチャスカの発明によるボロンを0.2%から0.6%、カーボンを2%程度助剤として添加する技術が知られていたが、一部のボロンが不純物のシリカにより酸化され助剤としての機能を果たさなくなる問題が指摘されていた。

 

有機無機ハイブリッドによる高純度SiC粉末では、不純物シリカが含まれていないので、0.05%という少ないボロンの添加量で焼結が進行した。さらに、ホットプレスであればフェノール樹脂を助剤にして、すなわちカーボンのみで焼結できた。これは現在商品化されているヒーターやダミーウェハーの技術である。

 

最初の実験条件は「お祈り」という極めて非科学的な手段で見いだしたが、その後お祈りが無くともその温度パターンで行えば再現よく高純度SiC粉末が得られた。お祈りで見いだした温度パターンが適していることは、その後の研究で、シリカ還元法ではSiCの核が生成する時に誘導期間が存在することを動力学的解析で見いだし、その反応機構を用いて説明ができた(注)。

 

不思議な成功ではあったが得られた結果は科学的に説明ができ、技術的にもイビデンの技術と完全に差別化可能な重要な成果となった。しかしお祈りで電気炉が暴走した原因は今でも不明な不思議な現象である。

 

(注)弊社の問題解決法を考案したのもこの時である。すなわち怪しい体験で得られた実権条件ではあるが、科学的なSiC化の正しい反応機構を理解していればたどり着くことができた実験条件でもある。しかし、その正しい反応機構は当時不明であり(学位取得を目指した動機である)、通常単純に思いつく実験条件とも異なっていた。考えられる全ての温度パターンを実験したときにたどり着ける実験条件である。科学的に全てが解明されていない現象を技術開発で取り扱うときには、可能性のある全ての条件を実験で確認する必要がある、と痛感した。仮説による一部実施は科学的な方法だが、正しい仮説を誰でもいつでも立てられる保証は無い。毎回神頼みではそのうち神に見放される、と思い、技術の問題解決法としてまとめた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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