2013.09/14 ケミカルアタック2
ケミカルアタックは、樹脂にオイルがついたまま放置すると樹脂がオイル(油)で膨潤し、オイルが可塑剤のように働き強度が低下する現象である。その名前から化学反応が起きているような錯覚を持つが、オイルの樹脂への浸透、拡散という物理現象である。
この現象は樹脂と油の組み合わせで起きるので、油に対する樹脂の溶解度を調べれば、ケミカルアタックを起こす油かどうかチェックできる。この溶解度についてはSP値という値があり、その熱力学的意味も充分に研究されており科学的に式が導かれている。そして油や樹脂のSP値の表ができている。似たような値にχパラメーターがあり、しばしばシミュレーションではχの値をSP値から求めているが、科学的に厳密な意味では別モノである。しかし教科書に明確に書かれていないから問題である。
χはフローリーハギンズ理論で高分子の相溶を議論するために「定義」されたパラメーターである。SP値は低分子の溶解現象を説明するために理論的に導かれたパラメーターである。ゆえに科学的に厳密な議論をする場合に、高分子であればχで議論するのが科学的に正しい。但しこれも科学的に正しいだけで、実務的に正しい値が得られる、と言うことではないので注意する必要がある。
SP値に関しては、低分子でよく当てはまるが高分子量の分子や分子の形状が複雑になってくると外れる事が知られている。すなわち、高分子と低分子の組み合わせや、高分子と高分子の組み合わせをSP値から推定すると外れる事が多くなる。経験的には6割前後の確率である。
だからケミカルアタックの品質問題を教科書に書かれたSP値から推定すると失敗する場合がある。ゴム会社にいたとき指導社員から高分子のSP値について必ずSP値既知の有機溶媒に溶かしてみて決定するように指導された。SP値は加成性が成立するので計算で求めることが可能だが、実技上はSP値既知の溶媒を用意し、その溶媒に高分子を溶解して決定する。溶媒には溶解度があるので、SP値の小数点以下の値は、SP値が1程度異なる2種の有機溶媒を混合し、その混合比率を変えてグラフを作成して決定する。
このように実際に低分子溶媒に高分子を溶かしてみて決められたSP値が、ゴム業界で使用されているSP値である。ところが公開されているSP値の表の中には計算値で作成されている場合が存在するので注意が必要だ。
ケミカルアタックは、SP値がかけ離れた油と樹脂の組み合わせでは生じないが、これがどの程度離れていたら大丈夫なのかは樹脂により異なるので厄介だ。実技的には、強度測定用樹脂サンプルをオイルにつけておき、引張試験を行い安全な油と樹脂の組みあわせを求める。
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