2012.09/11 樹脂補強ゴム(1)
以前新入社員の時に担当した防振ゴム開発について書きました。その時開発したのが樹脂補強ゴム。指導社員が企画し、その企画書にはレオロジーの理論によるシミュレーション結果がグラフ化されていました。シミュレーションに用いられたモデル構造は、樹脂の海にゴムの島が浮かんでいる、ポリマーブレンドの代表的な構造、海島構造である。
当時企画書の説明を聞き、驚いたことが2つある。1つはシミュレーションをすべて関数電卓1台でやられたことと、そのシミュレーションどおりの材料を開発するのが小生のテーマであったこと。
シミュレーションでは、マックスウェルモデルとかケルビン・フォークトモデルなどを組み合わせて数値計算を行いグラフ化していた。電卓による計算なので、途中結果も人間味あふれる文字でA4ノート1冊にびっしり残されていた。「コピーはするな、明日返却せよ」と言われた。すなわち1日で理解せよ、と言われたのと同じであるが、学生時代有機合成を専門とし、数値計算と言えば加減乗除の世界しか経験したことのない小生にとりましては拷問のようなものでした。
その日は定時退社し、独身寮にこもり説明の無い数値と難解な式が羅列されたノートと悪戦苦闘しました。30分ほどで明日までに全部を理解できないことに気がつき、あきらめることができました。理解できないならばすべて手で写そうと考えましたが、「コピーはするな」という指示を思い出しました。さて、どうするか考えていたら朝になりました。
翌日、独身寮にノートを持ち帰りましたことを叱られました。機密情報の扱いに関する注意かと思いましたら、「仕事は会社で、家では勉強」と指導されました。このノートでは勉強できないので無駄な時間を使うな、とも注意されました。ノートを渡された理由は、シミュレーションの結果である1つのグラフを書くためにどれだけの労力が使われたのか理解するためだったようです。1週間以上かかったように感じました、と感想を述べましたら、レオロジーを理解していないのなら1週間まず座学を行う、と言われ、すぐにレオロジーの講義が始まりました。実際には2ケ月ほど時間をかけられたようですが、指導社員からは費やされた時間については教えて頂けませんでした。
シミュレーションを何のために行ったのか、実験を開始し、すぐに理解できました。樹脂とゴムの組み合わせを選択しないとうまく混練することができないのです。当時フェノール樹脂とゴムとの海島構造のポリマーブレンドが製品化されたばかりで、最先端の技術でした。フェノール樹脂とゴムのブレンドでも防振ゴムとしての性能はでましたが、指導社員のシミュレーション結果は、その組み合わせよりも高性能の組み合わせが存在することを示しており、小生の仕事は、そのシミュレーションどおりのポリマーブレンドを開発することでした。
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カテゴリー : 高分子
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