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2014.02/09 神や仏は実在するか

昔小学生の家庭教師をしていたときに、教え子が社会のテストで世界の三大宗教を問われ、「神様、仏様、お日様」と書いて×をもらっていたが、この答には少し責任を感じた。日頃、日々の活動は神様や仏様、そして昼間なら太陽が見ている、と教えていた。キリスト教や仏教、イスラム教のいずれも信仰していないが、ここぞと言うときに何故か人は手を合わせてお祈りをする。

 

高純度SiCの開発に初めて成功したときに、神の存在を信じたくなるような出来事があった。前駆体を炭化処理し、SiC化の反応を無機材質研究所の新品の電気炉で初めて行った日のことである。

 

その電気炉は納入されたばかりの新品で、電気炉の昇温プログラムは担当されていたT先生がセットしてくれた。そして不測の事態が発生したら非常ボタンを押せばよいだけになっていた。SiC化の反応条件はT先生が論文から見いだした温度パターンをインプットしていた。

 

ビジターの立場で企画した最初で最後の実験になる、という状況だったので必死だった。プログラム制御で動いていた電気炉の前で祈りながら3時間何もしないで見ている予定だった。しかし、突然プログラムが暴走し、電気炉の温度が上がり始めた。T先生に実験室から電話をしたところ、PIDが不適切かもしれないのでしばらくしたら実験室へ来てくれることになった。

 

PIDの影響か、と安心して眺めていたらどんどん温度が上がるので慌てて非常ボタンをおした。すると当たり前だが温度が下がり始めた。プログラムされたSiC化の反応温度まで下がったところでT先生が実験室に来られて、生焼けで無駄にするのも何だからとスイッチを入れてくださった。

 

不思議なことにそこからきれいに何事も無くプログラムが始まり、その後は安定に動作して実験は終了した。記録計には、電気炉が暴走した温度パターンが残っていた。その後、原因を探るために同様の実験を行っても異常はおきなかった。おかげで学位論文のデータを取ることができただけでなく、驚くべきことは、電気炉が暴走し、たまたまできた温度パターンが最良のSiC化の反応条件らしいことも明らかになったのである。

 

電気炉の暴走原因は今でも不明だが、またタイミング良くT先生が実験室に来られたのも不思議なことだが、真黄色で粒度分布がシャープな粉末がたった一度の実験で得られた奇跡とその暴走事故のおかげで原因探索を兼ねて実験を継続することができた幸運に遭遇したことを思い出すと神や仏の存在を信じたくなる。

 

この時生まれた黄色い粉をゴム会社の社長に見せ、世界で初めてのレーリー法によらない半導体に使用可能な高純度のSiCとしてプレゼンを行い、2億4千万円の先行投資を決断して頂いた。新たな研究所建設も決まり順風満帆な高純度SiCの研究開発がスタートした。その後FDを壊される事件が起き写真会社へ転職することになる。

 

そして写真会社を早期退職した最終日(2011年3月11日)には未曾有の地震のおまけまでつき、人智の及ばない力で翻弄されたサラリーマン人生だった。またFDを壊されなかったら写真会社への転職も無く、高純度SiCの技術について日本化学会技術賞の審査時のコメントを自分が書くような珍事も起きなかっただろう。

 

神や仏の存在を信じたくなるが、神や仏がいなくともドラッカーは誠実で真摯に仕事を行え、と説いている。神がかりなことも含め仕事で遭遇する幸運は、誠実に仕事を行ってきたおかげかもしれない。

 

 

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