ブリードアウトについて科学的に研究すると、金属やセラミックス同様にフィックの拡散法則に従った結果となる。仮に拡散法則から多少ずれたとしても、そこを仮のパラメータを置き考察したりすることが研究として行われる。
科学の研究としてわかりやすい研究である。そしてこのような研究方法で球晶の中を低分子が拡散する現象を発見したという論文も存在する。球晶はラメラの凝集体なのでラメラ間にガラス相が存在することを考慮するともっともらしい結論に見える。
しかし、未だ誰も球晶の中を低分子が拡散しているところを直接観察した人はいないことを知っておくべきである。科学の研究で困るのは、シミュレーションにより考察された結果である。
当方もシミュレーションを時々行うが、あくまでも現場で起きている現象を理解するためであって、科学の研究のためではない。問題は研究のためのシミュレーションである。
仮説の中に全ての因子が盛り込まれていないシミュレーション結果を信じない方が良い。大抵は平衡状態のシミュレーションであることも知っておくべきである。非平衡状態ではシミュレーション結果より大きくずれる場合もあることを覚悟して結果を見る賢明さが欲しい。
ブリードアウトの実験は多くの場合に管理された条件で行われる。実験のやりやすさから、静的な実験条件となる。例えば昇温速度を変えたりしてブリードアウト現象を観察したりするような実験はあまり行わないだろう。
しかし、日常の使用状態あるいは保管状態は30℃以上の偏差があることに気がつくべきである。一度昇温と降温を繰り返しブリードアウト現象を観察したことがあるが、一定温度の実験よりも加速されることを経験している。ブリードアウトの品質故障では現場重視で取り組まないと原因不明となる場合もある。
現場における高分子材料の品質故障を簡単な実験で再現できる場合が多いが、樹脂の高次構造が少なくとも3種類できており、全く制御できない自由体積の存在を知ると、実験結果やその方法の見方が変わるはずだ。
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品質検査をしていると、樹脂成形体の物性がばらつくことに疑問がわく。金属材料やセラミックスと比較してそのばらつきが大きく、時には品質規格から大きく外れる製品があり、それを0にできない。
これは、樹脂の高次構造が、結晶相とガラス相、自由体積の3つの構造の中で、自由体積の割合を制御できないことが原因である。
自由体積の割合が増えれば密度は下がる。密度がばらつけば密度と相関する弾性率や誘電率はばらつく。弾性率や誘電率がばらつけばこれらのパラメーターと相関する他の物理パラメーター、例えば引張強度や靭性、屈折率などもばらつくことになる。
引張強度や靭性値は、欠陥の個数や大きさにも左右されるので、弾性率のばらつきよりも大きくなる。すなわち自由体積のばらつきが、樹脂成形体の品質ばらつきを大きくしている。
また、樹脂にはその性質を改質する、あるいは機能性を付与するために添加剤が加えられたりするが、これら添加剤は、自由体積に多く含まれそうだ、と言うのは妄想になる。
妄想であるが、ブリードアウトという品質故障を見ていると、そのような妄想が真実のように思えてくる。すなわち、設計段階ではブリードアウト故障が起きていなくても量産になったところ、添加剤の分散が不均一となり、添加剤を抱き込んだ部分が高次構造のあちこちにできる。
やがて、熱力学的に安定な構造に変化してゆくときに多く抱き込んだ部分から添加剤が押し出されることになる。添加剤の分散が自然に均一化してくれればよいが、不均一なまま押し出されると表面にあふれてくるような状態になる。
このような現象があればフィックの拡散法則からずれるので実験室でもわかるはずだ、というツッコミをされる方は現場で起きている現象をよく観察していただきたい。
簡単には樹脂の密度のばらつきが設計段階と同じかどうか調べてみるとわかる。密度ばらつきはフィーダーのばらつきがある以上仕方がない、と納得していてはこのような問題解決に苦労する。
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結晶性樹脂では、結晶相と非晶質相(ガラス相)ができる。そしてガラス相は高分子の運動が凍結されたガラス相と周囲の温度に相当するエネルギーで分子運動可能な自由体積部分の2種類の構造ができている。すなわち3種類の構造が高次構造としてできている。
昔、ゴム分子はらせん構造の分子と考えられていたが、最近のゴムと呼ばれる材料の分子について必ずしもらせん構造とは限らなくなった。しかし、ゴムと言う材料は、分子の架橋構造を共通した特徴として持っている。その結果、簡単にラメラを形成することができない。
この架橋構造が化学的な結合でできている場合と、ポリウレタンゴムのようにウレアと呼ばれる化学結合の凝集体でできている場合があるが、とにかくゴムと呼ばれる物質には、分子の一次構造に架橋構造があるために、それが結晶性高分子であっても結晶ができにくい。
しかし、引っ張ると規則正しい部分は並ぶことにより結晶化する。この時、エントロピーと呼ばれる熱力学的パラメーターが減少するので、全体のゴムのエネルギーが減少し温度が下がる。これは幅広のゴムを急激に引っ張ってそれをすぐに唇に当てると冷たくなっていることにより確認することができる。
ゴムがよくエントロピー弾性を示す、と言われたりする所以である。むりやり規則正しくしたものは、元のランダムな形態に戻ろうとする。人間も分子も同じである。無理やり規則を押し付ければ元の自由な状態に戻ろうとする。
ゴムは粘弾性体と呼ばれたり、エラストマーと呼ばれたりするが、ガラス転移点が室温以下でなければ、自由に変形できないので大抵のエラストマーのTgは室温以下に観察される。
樹脂ではTgが室温以上で観察されるので、樹脂とエラストマ-は、高分子材料の分類を示す言葉のように思える。しかし、未だに高分子材料を分類する形式知は存在せず、これがまた高分子材料を難しく感じさせる一因になっている。
セラミックスならば結晶構造で分類した体系が存在し、自分の知りたいところだけ形式知を得て、仕事ができるが、高分子材料では、まず全体をよく知らなければよい仕事ができない。
ゴム会社に入社し、樹脂補強ゴムの開発が新入社員テーマとなった時に慌てた原因でもある。指導社員はセラミックスの講座を卒業してきた当方に、優しく毎朝3時間半の高分子に関する座学をひらいてくれたが、マンツーマンできつい日々だった。
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高分子のガラス相について組み紐でできる構造から説明しているが、この組み紐モデルでうまく説明できないのが高分子の結晶である。組み紐が偶然規則正しく並んでいるところが結晶構造といってごまかすことができるが、実際の高分子の結晶は、ラメラと呼ばれる板状の結晶子の集まった球晶である。
これが、プロセス条件により、フィブリル状の結晶として観察されたり、シシカバブ構造の結晶として観察されたりする。結晶性樹脂では、単一組成の樹脂であっても高次構造として、結晶とガラス相、自由体積の3つの構造ができる。
これは重要な知識である。ところが高分子の教科書にこのような説明がないから困る。結晶性樹脂のブリードアウトを考えるときに、この3つの構造が頭に浮かぶかどうかで、出てくるアイデアに影響を受ける。
アイデアというものは、頭の良しあしだけで決まらない。中学校の時に通知表が1か2しかついていないクラスメートがいた。テストがいつも100点満点で10点前後しか取れなかったので仕方がないが、なかなかのアイデアマンだった。
技術家庭科とか美術でその才能は発揮されたのだが、教師はそれを評価できなかった。手先が器用で作品はいつも素晴らしかった。ただ、製作時間が長く、家に持ち帰って完成させていたので親が手伝っていると誤解されていた。
驚くのは、課題が出たときの着手の速さである。着手は早いのだが、仕上げに凝るのでいつも作品提出が遅くなった。しかし、いつも小生は作品の構想をまとめる作業で彼に勝てなかった。子供心にすごい才能だと興味を持っていた。
このような特異な才能に恵まれた人ならば高分子の高次構造モデルなどどうでもよいかもしれないが、凡人はアイデアを出すための下地を整えておかなければ、必要なときにひらめきとしてそれを活用することができない。
凡人が高分子材料技術についてアイデアを出しやすいように、ツボとしてこの欄で書いているが、不満な点は問い合わせていただきたい。
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昨日紹介したアイデアは、高分子のガラス相を理解していないと考え出すことが難しい。科学に精通している人の中には、頭から否定してくる石頭硬志のような人がいる。
石頭氏の言い分は、O/W型コロイドをW/O型に、あるいはW/O型をO/W型に変換するときには電荷二重層が不安定となりミセル内部の物質が凝集し沈殿する、と説明される。
この否定的説明は科学に基づくもので正しい。しかし、これはコロイドにおける変化であり、昨日の話は高分子ブレンドをコロイドに変換するプロセスの変化だ。そこで生じる現象が異なっている。
混合するときに用いる設備や設定条件で発生する現象は様々となる、やってみなければわからない世界である。二種の高分子のブレンドはコロイドとは異なり、組み合わせる高分子の種類により、あたかもコロイドのような海島構造となる場合もあれば複雑な構造で安定化している場合もある。
海島構造となった場合でも界面の構造は様々であり、面白いのはプロセシングによりそれが変化するということだ。例えば、複雑な組成のゴムをロール混練してみると容易にそれを経験できる。混練時間経過とともにブレンド状態が変わる。
この状態変化は、電子顕微鏡で観察してわかる場合と分からない場合がある。電子顕微鏡で同じような構造に見えるコンパウンドでも、加硫したゴムの物性を比較すると異なった物性を示す。
このことから、高分子のブレンドがコロイドとは異なるカテゴリーの混合物であることを理解できる。コロイドでは相界面に電荷二重層が生じるが、高分子のブレンドはその組み合わせにより界面の安定化構造は異なる。
高分子のガラス相では、2種以上の高分子の相溶以外に添加剤を溶解する能力がある。無機ガラスでは、他の組成のガラスを添加した場合に全体が新たな組成のガラスに変化する。その時ガラス相を形成できなければ、余分な成分から結晶が析出してくる。
高分子のガラス相は無機のガラス相と異なる状態変化を示し、これはモノマーが重合してできた長い高分子鎖、これを1次構造というが、この特徴ゆえの現象である。ちなみに、一次構造の上位の構造、すなわちガラス相はじめ高分子の作り出す様々な構造は、十羽ひとからげで高次構造と呼ぶ。最近はこれを階層的に分ける考え方が流行している。
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相溶という現象が高分子のガラス相で起きることを利用して、水に不溶性の低分子を水分散コロイドにできる新技術を紹介したい。古くからこの技術ではオイル分散法と呼ばれる技術が用いられてきた。
すなわち水に溶けない低分子をオイルに溶解し、これを界面活性剤でミセルができている水溶液に添加し分散する方法である。オイル分がその後のプロセスで不要であれば、オートクレーブをつかいオイルを抜いてやればよい。
例えば色素の多くは水に不溶性なので、これをゼラチンに分散したい時にこの技術を使用する。古くから存在する枯れた技術である。しかし、最近は環境問題があるので、色素を分散したオイルの環境負荷が大きい時には問題となる技術だ。
幸いなことにデジタル化で銀塩フィルムは少なくなりこのような技術も使われなくなってゆくと思われるが、写真業界以外でもオイル分散技術が必要な分野が存在し、この技術開発を5年前に行った。
100円ショップで実験装置を買い集め、新たな技術を開発している。コロイド系の実験では台所にあるような実験装置で技術を開発できる場合が多い。現在審査請求中の技術だが、特別にここで公開する。
それは二種類の高分子を用いる方法だ。片方はゼラチンのような水溶性高分子あるいは、水にコロイドとして分散可能な高分子Hである。もう一種の高分子は、HとSP値が近く低分子を溶解可能な高分子Zである。
少量の水と低分子、HとZを混練機で分散する(混練機が無ければ弊社にご相談ください。混合方法をご指導いたします)。SP値が近い、すなわちフローリーハギンズのパラメーターχが0に近いHとZの組み合わせならば、混練中に単相となる可能性(注)がある。単相とならなくてもWO型のコロイドとして水と低分子、HとZが構造を作る。
この時LもZもガラス相となっている。このコロイド混合物を大量の水の中に添加して高速攪拌すると相の反転が生じ、OW型の安定なコロイドとなる。この時生成しているミセルの内部は、水に不溶な低分子とそれを含有した高分子ZとHの一部である。
このようなアイデアは、高分子のガラス相の知識が無いと出てこないが、皮革の処理剤として利用可能で、皮革の鞣しプロセスに適合した薬液を製造できる。低分子として難燃剤を用いれば皮革の難燃化も可能である。
また、高分子を生体適合高分子とすれば、ドラッグデリバリーの手法としても利用可能で、ワクチン製造技術にも応用可能かもしれない。この技術のツボは、親水性高分子と疎水性高分子の二種類の高分子がガラス相を形成し混ざり合っており、水の量を制御することにより相を反転している技術である。
すなわち、水と親水性高分子、疎水性高分子からなる3成分の組成が持つ機能を活用しているのだが、水の代わりに油を用いれば、反転する系の組み合わせを変えることが可能である。高分子の結晶化速度が速かったり、結晶化しやすい高分子ではうまくゆかない可能性が高い。
(注)Hが水溶性高分子とZとのコポリマーが最も好ましい。
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高分子材料のガラス相には、無機材料のガラスには観察されない大きな密度分布が存在する。これが時間がたつとスカスカの部分はそのままで他のガラス相は狭い密度分布に変化してゆく。
ただし、これは当方の妄想である。ビデオで見たわけではないが、電子顕微鏡の静止画でこのように考えないと説明のつかない画像を見た経験がある。
50年ほど前は、静止画から動画への訓練をするには良い環境だった。今のようにあらゆるものが動画として溢れていなかった時代である。さらに財務省では黒塗りの書類が問題となっているが、50年前の男性週刊誌では黒塗り画像が当たり前に載っていた時代でもある。
50年前の時代は、静止画から動画を、あるいは黒塗り画像からそれがはがれた状態を妄想しなければ楽しめないような時代だった。ただし、現代のように動画が溢れていると妄想など必要が無いのであまり面白い時代ではない、と感じたりする。妄想がどれだけ面白いのか、一例を示す。
難燃剤の分布をリン原子を頼りに電子顕微鏡で観察する(XMAで画像観察すると)と、均一に分布している場合と不均一に分布している場合を観察できる。不均一に分布していても半年ほど放置してから観察すると均一な分布に変化していた場合があった。
これは、妄想を働かせてその気になってみないと見落とす変化である。しかし、電子顕微鏡の写真をさらに拡大して直線を何本もその拡大した写真に書き入れ、分布の状態を数値化してみると変化している様子をあぶりだすことができる(注)。
すなわち高分子材料のガラス相は室温で変化しているのだ。これは後日説明するがレピュテーション運動の結果だと思っている。電子顕微鏡でなければ確認できない難燃剤の分布変化だけでなく、目視でも確認できるマクロ的な変化が観察されることもある。
PPSと6ナイロンをカオス混合で相溶させて透明なストランドを製造し、高分子学会賞でそれを見せて説明したが、誰も信用してくれなかった。それから5年以上経過したらそれが少し曇ってきた。少し曇ってきたと思ったら1か月ほどで真っ白になった。
PPSの結晶化ではこのような長時間の変化とならない。また面白いことに真っ白になったストランドでも6ナイロンが相溶して透明な状態だったときと同様にストランドが柔軟性を持っているのだ。
フローリー・ハギンズ理論で否定されるχ>0におけるPPSと6ナイロンの相溶からスピノーダル分解により相分離し、6ナイロン相の島が析出する妄想を描いてみると、高分子のガラス相がどのようなものか理解される。
明らかに無機ガラスからの結晶成長とは異なるのだ。析出した6ナイロンは結晶化していなくてガラス相を形成している。すなわち高分子のガラス相では、ガラス相から異なるガラス相を析出する現象が起きるのだ。
これは無機材料のガラス相とは異なる。このような妄想に興奮できない高分子技術者は、少し勉強したほうが良い。相溶はガラス相だけで生じる現象であり、条件さえ整えばχ>0でも高分子は相溶するのだ。
ポリオレフィンとポリスチレンを相溶させたらもっと興奮できるのではないかと実験したところ20年ほど前にそれを安定に実現できた。若さの長所は妄想を夢としてそれに向かうモチベーションを高めることにより成長できるだけでなく実現できる大胆さを発揮できることだ。若さと言っても50歳を過ぎていたが。
(注)科学の姿勢として観察は重要と言われたりするが、時々公序良俗に反する観察がニュースとなっているように、科学に限らず人間の営みとして自然に行われる動作にもかかわらず、電子顕微鏡写真をただ眺めるだけで終わる人がいる。ただ眺めただけの比較で変化を理解できる場合には問題とならないが、現象のわずかな変化を電子顕微鏡写真から情報として取り出すためには、妄想を働かせその妄想を確認する数値化が重要になってくる。そもそも電子顕微鏡写真を撮影しようと思ったと時にある仮説があったにもかかわらず、平凡な写真しか得られなかった場合にあきらめる人がいる。画像のような情報は、それを数値化して比較すると目視では見えていなかった情報をあぶりだすことができる。変わり映えのしない電子顕微鏡写真でもパターン化して解析すると思わぬ発見があるかもしれないのだ。
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高分子材料の構造において密度分布のある非晶質構造をイメージできるかどうかは重要である。無機材料では、結晶で構成されている部分(結晶相)と結晶以外の非晶質な部分(非晶質相)を考える。そして非晶質相にはガラス転移点を持つガラス相とそれを持たない非晶質相に分かれ、結晶相とガラス相に関する研究が進んだ。
無機材料を学ぶときに基本となるブラベイ格子をまず暗記させられる。これは必ず無機材料の専門試験に1問関係する問題が出てくる。ブラベイ格子とともに群論をすぐ独学できると無機材料が得意科目となる。
無機材料では、まず結晶構造を熱力学とともに理解し「暗記」できれば試験で70点以上を確保できるが、高分子材料では、このような手堅い勉強方法が無いので難しく感じる。
学習が難しいにもかかわらず、50年近く前の高分子の授業では、教科書に一言出てきたフローリーハギンズ理論を説明せよ、と言う問題に30点も割く試験問題で単位を判定するお粗末な授業だった。追試の学生の多いことを厳しい指導と勘違いされていた先生がいた。
このようなテストを経験すると興味があったとしても高分子材料を扱う仕事に進まなくなる学生も生まれる。無機材料の方が高分子材料よりも簡単だという錯覚になる。確かに両者を真剣に勉強してみると形式知が体系化されている無機材料の方が易しいが、友人が患ったような高分子アレルギーを生み出す弊害も考慮する必要がある。
高分子材料では、特に実務を行う時に、と限定すれば、ガラス構造(非晶質構造)の理解が重要となってくる。しかし、この方面の形式知は無機材料よりもお寒い状況である。
フローリー・ハギンズ理論の対象としている相溶という現象も相溶と相容があり、という説明が書かれている教科書がある。このような教科書ではミスプリントが無いことが前提となるが、校正でサンズイを見落とすことは頻繁に起きるので、読者の頭の混乱を招く。
頭を混乱させる相溶と相容を区別することがどれだけ重要かは知らないが、いずれの現象もガラス相で起きる。また、可塑剤や難燃剤など高分子材料に機能を与えるために添加剤を混ぜるが、このときの添加剤もガラス相に存在する。ゆえに高分子材料ではガラス相の理解が重要となってくるが、乏しい形式知ゆえに経験知が重要となってくる。
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昨日結晶化していない高分子材料について、ガラス相に2種類の構造が存在することを書いた。高分子に限らずあらゆる物質はそれが存在する雰囲気温度に相当するエネルギ-を持っている。
例えば、空気は主に酸素分子と窒素分子で構成されているが、それぞれの分子は観測される温度に相当するエネルギーで回転しながら飛び回っている。圧力を感じたりするのはそのためである。
高分子を昨日組み紐で例えたが、この紐1本1本も同様に蛇のようにくねくねと運動している。溶融状態の高分子はあたかもウナギを大量に詰めたバケツの中で観察される光景のようかもしれない。
その温度を下げてゆくと、引っ掛かっているところを外せなくて運動が止められるが、スカスカの部分では引っ掛かるところが無いので運動状態をとることが可能だ。実際にぴくぴくと運動している。
多数の組み紐をくちゃくちゃに手の中で揉み床に放り投げてできたときに密度の高いところとスカスカな低いところができる、という認識は重要である。実務で遭遇する品質問題の多くはこの構造を想像できるかどうかで対策の考え方が異なる。
金属やセラミックスなどの無機材料でできる非晶質構造は球を積み上げたような構造だから、その非晶質状態に高分子ほど大きな密度分布はできない。
無機材料の非晶質構造には2種類あり、ガラス転移点を持つ非晶質構造とガラス転移点を持たない非晶質構造である。これは組成により変化するが、前者はガラスと呼ばれる。すなわち無機材料ではガラスとなる組成とガラスができない非晶質構造の組成が存在する。
ガラスができない非晶質構造を溶融後にゆっくり冷却してゆくと結晶質構造が現れる。また、ガラス構造をとる無機材料でも少し組成がずれるとその構造から結晶を析出し、結晶構造とガラス構造に分離する。
無機材料では、ガラス構造をとる組成と結晶構造をとる組成がある、とおおざっぱに材料を捉えることができる。そして無機材料の機能は主に結晶構造が発現し、それが活用されている。
アモルファス金属という非晶質の機能性無機材料も存在するが、市場で活用されている機能は結晶由来の場合が多い。そしてガラス以外の非晶質無機材料は、急冷条件で製造されている特殊な材料である。
ゆえに無機材料では、結晶構造の機能がまず重要となってくるが、高分子材料の非晶質構造は皆ガラスであり、この構造の理解が重要であるにもかかわらず、形式知では無機材料と同様に結晶について研究が進み、高分子の結晶はラメラと呼ばれる分厚い板状の結晶子の集合体である球晶が基本という体系ができている。
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高分子材料を扱っていて困るのは、教科書が実務的に書かれていないことである。また、よくわかる高分子とか名づけられているものは、わかった気になるがそれで目の前の高分子材料に関わる問題を解けないじれったさがある。体系的ではないからである。
学生時代の高分子科学に関する授業は重合反応が中心だった。あとはフローリーの「高分子」を教科書として用いた高分子物理が大学院の授業として行われている。
これらの教科書に書かれたどのような重要な理論よりも、もし手近に複数の組み紐があればそれを手の中でよく揉み、放り投げて床に落ちてできた状態を観察して得られた知識の方が役に立つ。
そこには、密度の高そうな部分Aとスカスカで密度の低いところBとができている。そしてよく見ると密度の高い部分では、紐がうまく重なっているところがある。密度の低い部分では、紐が自由に動きそうなほどスカスカの部分B2ができている。
結晶化していない高分子材料はおそらく全体が非晶質(ガラス)となっているが、無機材料のガラスと異なり、構造としてこのような密度のばらつきができているに違いない。
ガラス相でもぐちゃぐちゃに他の紐とくっついている部分(Bに含まれるがB2以外)は、分子運動性が拘束されている。一方、スカスカでくねくねと動けそうな部分(B2)は、実際に分子運動が行われており、自由体積と呼ばれている。
結晶化していない高分子材料は1組成の高分子材料でもこのような2種類の構造が必ずできる。そしてそれらの構造の比率も一定ではない。そのため高分子材料の密度はばらつくのである。
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