「何が問題か」という問いは、有名な故ドラッカーの言葉だが、彼は正しい問題を見出せば、それで問題解決の80%が完了する、と述べていた。
何か問題が発生した時に目の前の問題を安直に解く人がいる。間違った問題の正しい答えほど意味のないものはない、もドラッカーの言葉だ。
目の前の問題がいつも正しい問題とは限らない。目の前の問題を引き起こしている原因あるいは他の見えていない問題が真の解決すべき問題かもしれないのだ。
科学の問題でもしばしばこのようなことが起こる。界面科学が関わる現象において、界面活性剤を用いて解決しなければいけない問題は多い。
界面活性剤についてその特性はHLB値で表現される、と教科書に書かれている。そこで、HLB値の異なる界面活性剤を試してみて問題解決をはかって、目的を達成できない問題が発生する。
このとき、「さまざまなHLB値の界面活性剤を用いても問題解決できない」という問題を解こうとする科学者がいる。恐らく、彼はきめ細かく様々なHLB値の界面活性剤を集めて実験を行い、この証明に成功するだろう。
科学の研究であれば、現象の否定証明を行い論文を書けばそれで終わるが、技術者は、問題解決して人類に役立つ技術を創りださなければいけない。
彼は恐らくHLB値にとらわれず、世の中に存在するあらゆる界面活性剤を集めて試してみて、何とか機能する界面活性剤を見出す努力をする。
試行錯誤で泥臭く実験を進めても良いが、今の時代はコンピュータを利用できるので試行錯誤を効率よく実施可能だ。
30年以上前、電気粘性流体の耐久性問題でこのような出来事があった。ドラッカーが述べていたように優秀な人たちが否定証明を行い成果を出せなかった。
問題解決では、優秀かどうかよりも問題に対して誠実真摯に向き合うことができるかどうかが重要である。イムレラカトシュは科学の問題の証明で完璧にできるのは否定証明だけである、と警鐘を鳴らしている。とかく科学者は完璧さを求めることを好む。
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高分子材料の耐久予測技術は未完成のままである。金属やセラミックスでは、破壊力学が有益な情報を提供してくれる。しかし、高分子材料では非線形破壊力学が提案されてから進歩していない。
このあたりを正しく理解されている技術者は少ない。その結果として、ハイアマチュアカメラとして知られたN社のF100の裏蓋フックが防湿庫で自然に壊れてしまうような出来事が起きる。
このF100の裏蓋フックの破壊はショックだった。システムを揃えるのに50万円以上かかった、というケチな理由からではない。
ほんの少し注意深い実験をN社の技術者がしていたならば防げたからである。この「ほんの少し注意深い実験」とは、機能に着目した実験である。
これを行わず、クリープ破壊寿命予測から材料設計していた可能性が高い。フックの破壊は、破面観察から典型的なクリープ破壊と考えられる。
金属では実験による寿命予測式がそれなりの信頼性を築いてきた歴史があるが、高分子材料では、40年前から懐疑的にみられている形式知だ。
問題はこのような形式知が未だ修正されず、高価な専門家向け教科書に掲載されていることだ。1970年に材料メーカーから密度が0.02高くなるとクリープ破壊応力が約2倍となる実験結果が報告され、WEBに公開されている。
このレポートの意味するところは、密度が0.02下がっただけでクリープ破壊応力が半分になるということだ。
F100の裏蓋フックの密度の基準がどのようであったかは知らないが、クリープ破壊強度から寿命予測を行う方法は良く用いられるが、このような問題があることに目が向けられていない。
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冬には静電気の発生が多く、帯電による電子製品の故障に気をつける必要がある。電気製品にはアースがついており、アースがとられている場合には良いが、これが不十分であると静電気故障を引き起こすことがある。
パソコンを自分で修理する人はご存知と思うが、CPUはほんの少しの静電気で壊れる。完全に壊れてくれればよいが、CPUの場合に一部だけ壊れていると不安定な動作としてその現象が現れ、壊れたことに気がつかない場合があるのでやっかいだ。
静電気のいたずらで悩まされるのは電気製品だけでなく、人間の肉体も同様で、冬場かゆみが多くなる人は静電気を疑ってみるとよい。
これは、全身に保湿剤を塗ると防止できるから容易に確かめることができる。すなわちかゆみ止めが入ってない保湿剤を全身に塗ってみて、かゆみが起こらなかったなら、静電気が原因と理解できる。
射出成形体の静電気防止も同様であり、コンパウンドに保湿剤となるような界面活性剤を添加してやれば、帯電防止が一応可能である。ただし、界面活性剤が成形体の表面にうまくブリードアウトしてくれないと、帯電防止の機能が発揮されないので、少し技術開発が必要となる。
注意しなければいけないのは、帯電防止のために添加した界面活性剤が、ブリードアウトしすぎると表面がべたべたになるブリードアウトという品質問題を引き起こす。
ブリードアウトの問題を回避する必要がある用途では、成形体そのものの体積固有抵抗を10の11乗Ωcm未満の半導体としなければいけない。
絶縁体高分子の場合には導電体を混練したコンパウンドで品質要求を満たすことが可能となるが、この時パーコレーション転移に配慮する必要がある。
耐トラッキングが要求される分野では、この帯電防止技術の難易度が上がる。科学的に考えると不可能ということになるので、技術で帯電防止できる条件を見出すことになる。
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日産オーラが納車されて1か月近くになる。昔からの習慣で、1か月点検前なので遠出をしていないが、車の安全装備に驚いている。
とにかくやたら警報音が鳴るのだ。50年車を運転してきた当方の習慣が安全基準を満たしていなかったようだが、警報音のおかげで1cm程度のギリギリの幅寄せができなくて困った。
我が家の駐車場の端にガスと水道のメータがあり、この検針が容易にできるようにするためには、後尾を塀ギリギリに寄せて、少し斜めに駐車する必要があった。
結局警報音の我慢できる駐車位置をもう一度検討しなおし、壁際10cm空けられる位置を探し出したのだが、障害物だけではない。
道路に書かれた白線についても、運転中に踏むと警報音が鳴る。また、徐行運転中近くに人や自転車が来ても鳴る。驚いたのは野良猫が横切っても検知したのだ。
今のところ運転者が気がついている状態で警報音が鳴っているので、騒音以外の何物でもないが、都内で全くこの騒音を聞かないように努力する運転が難しいことに気がついた。
細い道を少しでもスピードを上げると警報音が鳴るのだ。高速道路の自動運転が可能なので、かなり安全側に車の設計がなされており、今は車に安全運転の指導を受けるつもりで、ハンドルを握っている。
当方は素直なので車の指導音に従っているが、運転者にはこのような自動車からの警報音を有難迷惑に思う人もいるかもしれない。
まだ、警報音に感謝するような状況を体験していないが、進入禁止マークなども検知してくれるので、一方通行の多い都内の道路では、誤って逆走するミスを防いでくれると期待している。
こうした安全装備以外にナビの案内もきめ細かくなった。案内のレベルは運転者が設定できるので、従来程度のレベルにすることも可能である。しかし一人で運転していて眠気が来た時など話しかけてくれるようなものなので最高レベルにしている。
これで都内を走っていると、ナビの女性が疲れるのではないかと心配するぐらい語りかけてくれる。警報音とナビの声で、せっかくのBOSEサウンドで運転中音楽を楽しめない。
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目前に発生した問題について、どのように解決するのか。試験問題ならばあらかじめ決まった答えに対してひたすら考えて解くことになる。
しかし、試験問題を撮影し、外部の援軍に解いてもらうような離れ業が登場したのでびっくりした。情報化社会の仕組みをうまく利用した方法だが、これはどう解釈してもカンニングである。
高校時代の英語の発音問題で、発音が間違っているものに×をつけよという問題で、すべてが正しい発音だったテストがあった。当方は10問中3つに×をつけてしまったが、満点がいなかった、と満足していた教師の顔を時々思い出しては、目の前の現象を眺めることにしている。
ここは、嘘でもいいから申し訳ない顔をして欲しかった。一番少ない人でも二つ×をつけており、一つ以下の人はいなかったそうだ。教師を信頼している生徒の心理を考えたときに、一つも×をつけない決断は難しい。
ただ高校生の時にこのような問題を一度経験すると、人生の問題においてもそれなりの心構えができる。ドラッカーの、問題を前にしたときに何もしない決断も問題解決の一つ、という名言を英語の発音問題の前に知っていたら、と後悔した時もあった。
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21世紀初めての新たな戦争が始まった。ロシアは盛んに情報戦を展開し大義を世界に説明するが、ツイッターはじめSNSで現場の事実が世界に拡散するという前代未聞の情報化社会における戦争である。
故ドラッカーは、歴史が見たことの無い時代が始まる、と遺作に書いているが、まさにこれまでの歴史にはなかった、善悪の明確な戦争の始まりである。
戦争に至る経緯や、戦場におけるロシア兵のSNSへの投稿はじめ信じられないほど、この戦争に関する事実の情報が戦争開始前よりネットに溢れていた。5G時代となり鮮明な映像の送信を誰でも迅速にできるようになったためである。
驚くのはロシアが情報戦を展開しても現場の写真がネットに溢れてきて、何が真実なのか素人にも判別できてしまうのだ。恐らくプーチン大統領はこのような事態を想定していなかった可能性が高い。
本来機密のはずの戦争前のロシア兵の写真が拡散したり、戦争前からフライングして侵略している様子が民間人によりさらされたのでは、情報戦でロシアはすでに負けである。
戦争が始まるや否や早々とバルト三国の声明はじめ国際社会は侵略者ロシアの非難を始めた。歴史の評価を待つまでもなく、リアルタイムに真実の情報が映像として世界中に流れている。
昨日ウクライナの一部でロシアの傀儡政権が樹立され、ロシアはそれを国として承認した。かつて歴史の教科書で学んだような戦略である。この戦争が早く終了することをただ祈るだけだが、この戦争が起きた背景を分析するまでもなく、交渉で北方領土が戻る可能性など無いことが明らかになった。
第二次大戦後展開された日本の憲法論議への影響も必至であり、この戦争の今後の展開で北海道をどのように守るのか、という議論が荒唐無稽ではなくなる可能性も出てくる。北方領土は北海道の一部である。
また、20年以上前にウクライナは米国との安保条約と引き換えに世界三位の核保有国の地位を放棄したが、米国はロシアのウクライナ侵略を許してしまった。日米安保は大丈夫か。今進行中の映像を見ると他国に依存していては国民の生命や財産を守れない現実に恐怖感を覚える。
今回の戦争が、多くの識者が語るように単にロシアとウクライナの問題ではなく、国際秩序を維持できなくなった世界の到来を意味しており、迅速な終結が無ければ、戦火の拡大する可能性が高い。
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フィギュアスケート選手羽生氏の一言「報われない努力」がバズっているそうだ。当方も便乗してこの言葉に言及してみる。
まず、この言葉は羽生氏が発しているところに価値がある。これまでの彼の成果からすれば、どれほどの努力が積み重ねられたのか、だれでも納得ができるからである。
サラリーマンを長年経験した人ならば、努力だけでなく成果を出しても報われない現実を知っているので、この言葉に納得した後に「甘い」と感じている人もいるかもしれない。
努力にしろ成果にしろ誰でも報われたい、と思うのが普通の感覚に違いない。そしてそれらが容易に報われない社会であることを悟ると、努力を辞めて成果を出さなくなる。
一方、努力を奨励するために働き甲斐とかあるいは何らかの行為のやりがいを奨励したり強調すると、それをやりがい詐欺などと揶揄する東大の先生もおられる。
小生は、ある女性マラソンランナーが銀メダルを取った時に「自分を褒めてやりたい」といった姿を今でも思い出す。アップで映し出されたその笑顔は美しかった。
メダルの色はともかく、オリンピック代表選手として選ばれた経緯など含め苦難を越えた努力について自分を褒めてやりたいという言葉で、誰にも理解されないほどのプレッシャーがかかっていたことを理解できた。
努力にしろ努力の目標となる成果にしろ、それが評価され報われることは幸せなことである。だから社会には報償システムが存在しているのだが、当方の仕事の成果を他人の成果として審査する稀有な体験まですると、???????。
ドラッカーは人生において強みを磨く自己実現の重要性を説いているが、それが報われるかどうかまで言及していない。ただし、社会なり組織がそれを正しく評価しないときに成長が止まることを指摘している。
バブル崩壊後日本のGDPの上がらない原因がここにあるのかどうか知らないが、羽生氏の一言がバズる社会について各組織のリーダーは熟考した方が良いのかもしれない。
当方は報われようが報われまいが努力することに生きがいを感じるので、なかなか上達しないギターの練習でも一瞬うまく弾けた、その瞬間が心地よいという理由で続けている。
努力で成長できれば、報われるかどうか関係なくそれはそれで幸せ、と素直に感じる生き方は幸福につながる。努力による成長の跡を客観的に自己評価できた女性マラソンランナーは、メダルの色とは無関係に至高の幸福感を羽生選手と同様に味わったのだろう。
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高分子材料の寿命予測にアーレニウスプロットや時間温度換算則は大切な知識だが、これらが経験知であることを知っておくことは重要である。
アーレニウスプロットは反応速度論で利用されているので形式知と勘違いされている人がいるが、寿命予測に用いるときには、経験知と捉えた方が良い。
科学の問題についてトランスサイエンスという言葉が50年近く前に物理学者の言葉として生まれている。福島原発の問題が起きたときに、日本でこの言葉が一時注目された。
「科学に問うことはできるが、科学で答えることができない問題」という意味だが、高分子材料の寿命予測は、まさにトランスサイエンスと呼んでよい問題だ。
このような考え方に対して異を唱える人がいるので、ここではこれ以上書かないが、有料のセミナーでは、時間温度換算則の問題も含め説明している。
しかし、一度痛い目にあうと高分子材料の寿命予測に関して慎重になる。例えば「最高の品質で社会に貢献」という社是のゴム会社に入社した時に、「科学でタイヤはできない。技術でタイヤを造る」とCTOに教えられた。
写真会社で単身赴任するや否や、まさにこのCTOの教えを活かす出来事に遭遇したので迷うことなく火消を行っている。
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高分子材料のフラクトグラフィーをいろいろ経験すると、セラミックスでは体験できない現象に出会う。例えば破断面の構造をSEMで観察すると、脆性破壊したと思われるドメインの周囲を延性破壊したような構造が覆っているような構造に遭遇することがある。
SSカーブでは、マクロ的に脆性破壊していてもミクロの部分でフィブリルが存在しているのだ。このような構造にセラミックスでは出会ったことが無い。
あるいはポリマーアロイ、例えばPC/ABSで未溶融のPCと思われる大きなドメイン、すなわちABS相を含まずPCだけからなる相が観察されることもある。このような場合に厄介なのはそれほどの強度低下が無いために品質問題を見落とすことがある。
このような材料で成形体を製造すると、テープ剥離という品質問題が起きる。すなわち、未溶融のPCが表面に現れ、それがテープのように薄皮として剥離したりする問題だ。
テープ剥離という品質問題と樹脂の劣化寿命とが結びつかないかもしれないが、ウェザーメーターで耐久試験を行うと靭性値に劣化問題として観察されることがあるので厄介だ。
最初に紹介した脆性破壊と延性破壊のミクロ構造が存在するような材料でも、耐久試験結果が悪くなる場合がある。ただし、いつでも再現よく劣化するわけでもないのでややこしい。
このように、高分子のフラクトグラフィーを実施した時に訳が分からなくなるようなことも生じる。これを承知して実施すればフラクトグラフィーは有効な方法となるが、わけのわからない問題を生み出して悩むようであれば、場数を踏んだ専門家に相談した方が良い。
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金属についてその寿命予測はほぼ科学的に可能である、と信じられており、金属の疲労により生じた事故についてフラクトグラフィーによる解析が裁判の判例として存在する。
しかし、高分子材料についてその手法は未だに金属のように信頼できる手法として普及していない。しかし、品質問題が起きたときにその原因解析を行うために破断面の情報は重要である。
破断面の解析、フラクトグラフィーを成功させるためには、破断直後の汚染されていない破面が重要である。問題の起きている現場で、マクロレンズによる破面の写真撮影だけでも原因解明ができる場合がある。
最近のデジタルカメラは画素数が高いのでマクロレンズで等倍撮影後、デジタル画像を拡大することにより数十ミクロン以上のボイドあるいは異物を見つけることが可能だ。
そして、そこを起点にして同心円状の模様を探し見つかったならば、ほぼそこが破壊の起点となった可能性が高い。さらに、平滑破面と凸凹破面が連続して見つかると、その材料が破壊に至ったシナリオを描くことが可能だ。
すなわち、平滑破面では破壊エネルギーの伝播速度が速かったためにできた可能性が高く、凹凸破面はその速度が遅かったために形成された、と推定される。
これらは金属におけるフラクトグラフィーの手法をそのまま当てはめているのだが、樹脂材料ではよくあてはまる。加硫ゴムでも同様の現象が観察されたりするが、平滑破面かどうか悩む場合も存在する。
また、異物が見つかった時に異物よりも大きいボイドがその異物の存在していたところにできていたりして、異物が原因となったのかボイドが原因となったのか不明となる場合がある。
高分子のフラクトグラフィーでは、時に説明が難しくなる破面が観察されたりして、いつも成功するとは限らないが、材料の破壊で発生した品質問題を解決するときに有力な手段となる。ところが、科学的ではないという理由で解説書が少ない。
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