部屋の問題が解決したら、欲望を満たせるオーディオ技術が存在するかというと今度はスピーカーの問題が出てくる。
若いころにはオーディオのショールームに通い、今は音工房Zの視聴会に暇さえあれば参加しているが、100点満点をつけられるスピーカーに未だ出会っていない。
科学的にスピーカーを研究し、大学のベンチャービジネスとしてスタートしたBOSEは、音場再生に優れたスピーカーを提供してきたが、今販売されている製品は1機種のみとなった。
20世紀になんクリで有名になったJBLは、最近影が薄くなり、B&Wがスピーカー量産メーカーとして有名になった。
このB&Wのスピーカーについて驚くのは、価格と性能がうまく線形性をもって品ぞろえされている点である。
価格の安いスピーカーと高いスピーカーを比較試聴すれば、すぐにどちらが安いのかわかる仕掛けである。
これはおそらくスピーカーの科学的研究成果が商品に展開されているためではないかと想像している。
また、メーカーのホームページを見てみると、価格の高い商品が性能で優れていることをダイヤモンドで表現している。
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オーディオという趣味は死語に近くなった。家電量販店に行ってもそのコーナーは急激に縮小されている。オーディオコーナーの無くなった店もある。
オーディオ専業メーカーも倒産したところや事業提携、ブランドだけと様々で、家電メーカーでオーディオ事業を展開しているのはパナソニックだけとなった。
また海外のスピーカー専業メーカーの台頭は著しく、日本メーカはフォステクスとオンキョーのBtoBビジネスぐらいしか頭に浮かばない。
ただ、自作スピーカーについては、とび猫とか音工房Zなどの個人事業主の個性豊かな国産メーカーが誕生している。
それでは、オーディオ技術は完成したのかというと、実は未完成のままで、自然界の音を家庭内でそのまま再現することはもちろん未だに不可能で、コンサート会場についてさえ難しい。
我が家では、ライブハウスの環境程度を再現できる機器を揃えているが、それでもまだ不満で、俗にいうところのオーディオは底なし沼ではないかと思っている。
音量だけでも満足できるぐらいのエネルギーで再生したならば、おそらくご近所からクレームが来るだろう。
ROTELのアンプにBOSEとONKYOのスピーカーでそこそこのコストパフォーマンスの高いオーディオ環境を構築してみても、都内の住宅街では防音室でオーディオ専用ルームを作らないかぎり、商品性能を最大限に生かすことができない。
すなわち、オーディオという趣味は、隣人からクレームのこない専用のオーディオルームを作れるかどうか、で満足感が分かれるように思う。
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今年のプロ野球ドラフト会議の目玉の一つに34歳元メジャーリーガー田澤選手をどこのチームが獲得するのか、という話題があった。
ところがどこの球団も指名しなかった。その結果に対して様々な憶測の記事が溢れている。中には同情のあまり、球団を批判する記事もあったが、果たして酷な結果だったろうか。
実績は十分だったが、将来の活躍の可能性としては若い選手に比較すると34歳という年齢は大きなマイナス要因だ。
中継ぎとして即戦力の投手、という意見もあるが、昨年度の田澤選手の実績からは、50%の期待値となる。よほど投手を欲しい球団でない限り、リスクが高いので指名しないだろう。
興味深いのは、多くの記事で憶測の見解となるが、田澤選手が日本の球団を腰掛にしか考えていない、というのがあった。
せっかく獲得しても1年目で成績が良かったら、またメジャーへ行くのではないか、という見方である。また、彼の言動も日本の球団を見下しているところがある、とまで書いてあった。
各球団が田澤選手を指名しなかった理由を言わないので、このような憶測の記事が多く出る背景となっているが、学術会議の問題と同様にこれも人事の問題なので、各球団が理由を明らかにする必要はないだろう。
35歳でもユニフォームを脱ぐ選手がいるプロの世界なので、34歳という年齢がどのような意味なのかは、プロ野球ファンでなくとも理解できる。それを指名されるのが当たり前と思っていた田澤選手の関係者あるいはファンが甘い考えだと思う。
例えば、サラリーマンは65歳まで働ける時代であるが、もし65歳過ぎても働きたいならば、55歳ぐらいで次の仕事へ異動した方が希望通りの職種に就ける機会は多い。
当方は中間転写ベルトの仕事を最後に55歳で退職するつもりだったが、環境対応樹脂の開発をして欲しいと言われて、退職を1年延ばしてひどい体験をした。
1年前に2011年3月11日を勤務の最終日に設定したためであるが、帰宅難民となり、会社に宿泊することになった。このような不測の事態が起きてしまう不確実性の時代である。
田澤選手がもし指名を期待していたのだったなら、指名されなかった場合を想定して、年俸について贅沢な希望は言わないので、どこの球団でもよいから採用してくださいと、声明をだすべきだった。
おそらく直接メジャー球団へチャレンジし、華々しい実績を上げた選手なのでそれができなかったのだろう。しかし、日本では謙虚さは美徳となる国である。将来コーチとか監督とかを期待して採用に動いた球団がでてきたかもしれない。
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情報技術とAIを活用して新材料を開発しようという研究が盛んである。マテリアルインフォマティクスは、いまや材料開発のキーコンセプトの主流となった印象があるが、新しい概念ではない。
当方がゴム会社に入社した1979年には多変量解析を使用したゴム技術開発がすでに行われていた。また日科技連がまとめた新QC7つ道具にはその手法も入っている。
それでは、新しい特徴はどこかと言えば、AIの導入ぐらいである。ただしAIの導入と言ってもそのベースとなるのは人間の知であり、情報の論理的結合の効率化に利用しているだけである。
今のAIが人間のようにヒューリスティックな解を出せるわけではない。ましてや得体のしれないヤマカンなどAIに要求しても無理である。
当方は、世間で話題になっているこの手の研究について、無機材料への応用には有効性を認めているが、高分子材料については懐疑的である。すなわち、当たり前の成果しか出ないのではないかと思っている。
ただし、これがAIではなく人間の経験知や暗黙知を活用し、さらにヤマカン迄展開する、という話になれば、おもしろい。ただし、それでは1970年代と変わらない。
横文字にして目新しさを主張するぐらいなら、昔からゴム業界の配合設計で行われてきたデータ駆動の材料開発手法に、もう少し注目されたほうがよろしい。樹脂開発にも十分活用できる。昨日の多成分ポリマーアロイはその事例である。
このあたりについても希望があれば無料セミナーを実施しようと考えている。希望者があれば、問い合わせていただきたい。クローズドセミナーという有料WEBセミナーも開催可能である。
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ABSは3成分のポリマーで開発されたポリマーアロイである。3成分以上のポリマーを用いたポリマーアロイとして当方の開発したPET系のポリマーアロイがある。
このポリマーアロイは、カオス混合以外の方法ではロール混練しなければ性能が出ないばかりか、二軸混練機の混練だけでは外観不良の成形体となる。
カオス混合の効果が目視で分かる技術である。この多成分ポリマーアロイの特徴は、PETが80wt%配合されているにもかかわらず、PETとは異なる射出成型性と物性になっている点である。
今マテリアルインフォマティクスが話題となっているが、樹脂の情報を集めてみても、またAIを駆使してみてもこの配合系は見つからない。
当方の経験知と暗黙知から材料設計して、データ駆動の実験で基本配合を見出し、タグチメソッドで最適化している。
おそらく樹脂技術でこのような配合設計手法はあまり世間で行われていないと思われるが、ゴムの配合設計では昔から行われている。ただし、昔はタグチメソッドではなく実験計画法だったが。
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40年以上前からカオス混合は知られていたらしい。この呼び名がいつから使われたのか知らないが、餅つきやパイ生地練りで行われている混練方法である。
弊社にご相談いただければ、二軸混練機の先に取り付けるカオス混合装置を提供できる。二軸混練機1台ごとにその性能に合わせて設計している。
ところで、ブリードアウトについてカオス混合に変更して改良された時にびっくりした。LED用熱伝導樹脂を開発していた時の体験である。
10年近く前に熱伝導樹脂のブリードアウトの相談を受けて、カオス混合装置を二軸混練機に取り付けることを提案している。
この方法で改良されるかどうかは、提案してみたものの不安があった。ただ、ブリードアウトの発生状況から混練で改良される可能性がいくつか市場情報として存在した。
ただし、実験データがあったわけではなく、市場における現象と当方の経験知から、コンパウンドの混練ばらつきを疑った。
そして見事に解決したのだ。そもそもブリードアウトしにくい添加剤であったが、促進試験において稀に短時間でブリードアウトが発生する成形体が見つかっていた。
おそらく添加量がばらついているのだろうと考え、添加方法とかいろいろな対策を提案し、その中の一つとしてカオス混合装置があったのだが、促進試験でカオス混合装置の有無の差が出た。
ブリードアウトという現象は、べとつくような現象とか結晶化して表面に析出したりするような目に見える現象でない限り、それが起きていても市場で問題となっていない場合が多い。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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ブリードアウト現象と同様に悩ましいのがケミカルアタックという品質問題である。ケミカルアタックとはものすごい呼び名で学術用語ではなく俗称である。
当方が子供の頃よりこの言葉は存在した。今井模型が牽引したプラモデルブームの時に、ギアボックスを取り付けたプラモデルでケミカルアタックが多発した。
小学校低学年の時に突然壊れたギアボックス部分を購入した店に持って行ったところ、ケミカルアタックと言われ、グリースのつけすぎの注意を受けた。
すなわち、グリースはほんの少しだけつけなければだめで、ギアボックスにたくさんつけた当方のミスと言われたのだ。FDを壊された時よりも悲しかったのでよく覚えている。
さて、ケミカルアタックとは油成分が樹脂に付着した時に、その樹脂の力学物性を著しく低下させる現象である。ケミカルアタックについては、油成分のSPと樹脂の破壊強度との関係を示すデータが公開されている。
それによると、油成分と樹脂のSPが一致した時に発生することになっている。しかし、ブリードアウトと同様で、SPが大きくずれていても発生する時がある。
例えばポリマーアロイでは射出成型時に密度ムラが発生すると、密度の低いところでケミカルアタックがSPに依存せず発生する場合がある。
これを一度経験すると、ケミカルアタックは油成分と樹脂とのSPをずらせばよい、などと軽々しく言えない。一度評価試験をやってください、というのが正しい。
ケミカルアタックの評価方法は、各社各様である。痛い目に遭ったところは関門を2つ3つ設けたりしている。そのくらい慎重になったほうが良い問題である。
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最近昔ながらの加硫ゴム製の消しゴムを見かけなくなった。紙のケースに入ったTPE製の消しゴムばかりだ。この消しゴムのケースには、紙製のケースを取り外さないようにとの注意書きが小さく書いてある。
誤ってこの紙ケースを取り外して使用し、その後放置して事務机の引き出しのポリスチレン製(PS製)のトレイに消しゴムをくっつけた経験はないだろうか。
これは、PSと消しゴムが界面で混ざり合って完璧な接着状態になったためだが、この観察を行うとブリードアウトという現象が添加剤の溶解と添加剤の拡散速度の問題だけで考えていてはいけないことに気がつくはずだ。
高分子は室温に相当するエネルギー状態で様々な運動を行っている。Tgが室温以上の高分子でも自由体積部分では高分子の一部が運動状態であり、さらに全体にわたって一次構造の方向にレピュテーション運動が行われている。
そのため俗称樹脂消しゴムと呼ばれている消しゴムはPSと接着したのである。また、カオス混合装置を用い混練りすると、PPSと6ナイロンは相溶して透明なストランドを作ることができる。
ところが、これを室温で放置しておくと失透してきて6年経つと真っ白となる。これはPPSに相溶した6ナイロンがスピノーダル分解を起こし、遊離してくるためである。
PPSや6ナイロンのTgは室温よりも高いし、両者は耐熱用途にも使われたりするエンプラだ。それでも室温でスピノーダル分解を起こすことにびっくりするのだが、レピュテーション運動を理解すれば納得できる。
面白いのは6ナイロンが遊離してきてもストランドの柔軟性が失われないことだが、6ナイロンが10wt%未満であれば、相溶状態で測定された接触角も変化していない。
もっとも接触角の測定誤差は大きいので見かけだけの現象かもしれないが、ストランドの柔軟性が失われていない現象には驚かされる。PPSの球晶もナノオーダーで成長が止まっている可能性がある。
カオス混合で製造されたPPSへ6ナイロンが相溶したストランドはブリードアウトについてもヒントを教えてくれるが、二軸混練機にカオス混合装置を取り付けて混練を行わなくてはいけない。
かつては蘇州ナノポリスで実験を行うサービスを提供していたが、コロナ禍を機会に中国の仕事を整理した。おりしも米中関係が怪しくなり、中国で働く企業技術者やアカデミアの研究者に対する批判が週刊誌に書かれるようになった。
中国軍事産業に直接協力している技術者や研究者はほとんどいないように思っている。当方も民生用樹脂材料の研究開発を指導してきたのだが、民生用の技術が軍事産業へブリードアウトすると言われても責任を持てない。
しかしそこを問題としたならば国際協力などできないし、中国人を雇用したり、中国で生産すること自体も軍事協力しているようなものだ。
ある週刊誌が実名入りと称し、中国の科学技術に協力する日本の研究者の記事を掲載していたが、その意図がよくわからない。
国際協力の問題はブリードアウトより難しいので中国の業務を当面中断するが、どこかでカオス混合の研究の場を提供してくれるところがないのか探している。
国の補助金でも頂ければどこかに試作場所を確保するのだが、3回も提案して採用されなかったので蘇州で研究開発をしてきたのだ。7年研究してきていろいろわかってきたことがある。カオス混合は単なる伸長流動ではない。
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ブリードアウト対策として、高分子に対する添加剤の溶解度を調べたりする。これは間違っていないが、SPも適合させて添加量も最適化しても市場で品質問題を引き起こすのがブリードアウトという現象である。
もし、開発が終了し数年たってから問題が起きると大変である。すでに開発チームは解散しており製造部門で対策しなければいけなくなって技術課が途端に忙しくなる。
ブリードアウトの問題解決が難しいと理解できている経営者ならば改めて開発チームを編成するが、そうでない場合には、販売を担当しているチームで対策している場合もある。
ブリードアウトの問題は、科学的に対策すると大変な工数が要求される。その昔、電気粘性流体をゴムケースに封入して使用する製品を開発していたらゴムから添加剤がブリードアウトして、電気粘性流体の寿命を短くすることが分かった。
すぐに高偏差値の大学を卒業した博士2名を中心に高学歴メンバーを集め1年間投入して華々しい科学的研究成果を出した。「電気粘性流体の耐久性問題は、界面活性剤で解決できない」という科学的に完璧な否定証明の成果だった。
そして、高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げたばかりの当方に、開発チームから添加剤が入ってないゴム開発をしてくれないか、ととんでもない依頼をしてきたので、当方は一晩でこの耐久性問題を解決した。
ゴムから添加剤がブリードアウトする問題を解決するために、添加剤の入っていないゴムを開発しようという素晴らしい発想が、いかにナンセンスであるのかはゴム技術を知っている技術者ならばすぐに理解できる。
しかし、ブリードアウトの問題を純粋に科学的に解決できると信じている科学者には、そのナンセンスな発想が科学的にイノベーションを引き起こす素晴らしいアイデアに思われたらしい。
セラミックスの高純度SiC開発をしていた当方にアイデアの具体化を依頼してきたのもイノベーションを期待してのことだったと思いたいが、単なる工数として考えているとの噂が耳に入ったので、異なる方法(増粘した電気粘性流体を回復する界面活性剤をマテリアルインフォマティクスを活用し一晩かけて探したのだ。30年前の話。)で問題解決したのだ。
ブリードアウトの問題について、純粋に科学として捉え問題解決しようとするととんでもない問題を解決しなくてはならないケースも出てくる。
頭の良い人がなかなか成果を出せない、とドラッカーは嘆き、問題解決法の重要性を著書の行間で述べているが、頭の良い人が常識はずれの問題を起こすとは述べていない。これがきっかけで起きた問題解決のために当方は転職している。
当時は問題解決策として本当に正しかったのか検証できなかったが、高純度SiCの事業はその後30年続いているので、この事業を守るために転職した判断は正しかったのだろう。
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昨日ブリードアウトに関して無料セミナーを実施した。通常1日コースで行っているものを2時間に圧縮してご理解いただけるのか心配だったが、実務で困っている方から質問もあり、2時間のところ15分もオーバーした。
ブリードアウトの問題は、科学的には高分子に添加剤がどれだけ溶解できるか、という問題と高分子の添加剤がどれだけの速度で拡散するのか研究すれば対策可能と思われている方が多い。
たしかにこの現象を科学的に確認するための実験を行うと、論理的に納得のできる実験結果が得られたりする。また、その研究成果も学会で発表されたりしている。
しかし、現実は科学的な解と異なる現象が起きたりして、市場で発生すると慌てる厄介な問題である。だから技術セミナーでこのテーマは昔から比較的人気がある。
今回問題解決法の事例にも使えそうなので無料セミナーとして実施してみたが、講義する側の感想として、時間が少なくて苦労した、というのが実態である。
昨日の参加者に限り、メールによる質問を1件のみ受け付けようと思っています。無料セミナーと言っても当方の技量不足でせっかくの内容が伝わらなかったならご迷惑をおかけしたように感じています。
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