ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドにより、分子レベルで均一に混合された前駆体の合成を1982年に成功した。これを用いて、世界で初めて成功した、経済的な高純度SiC合成実験では、電気炉の暴走が重要な役割を果たしている。
すなわち、最初の実験で設定された電気炉のプログラムで実現される温度条件では、未反応のシリカやカーボンが残存していたことが後日の実験で示されたからである。
最初の実験であったことや、その電気炉が納入されたばかりの新品であったことなどから、電気炉の扱いに手慣れた主任研究員の方が、実験条件のプログラムを電気炉に設定してくださった。
当方は、ただサンプルを電気炉にセットしただけで、運転開始もその主任研究員の方が操作された。しかし、SiC化の反応が生じる温度に達した瞬間に電気炉が暴走し始めた。この欄で以前この詳細について述べている。
この結果、高純度SiCの合成に成功したわけだが、暴走という現象が安全上の問題として研究所で検討された。またそれが納入されたばかりの電気炉という理由で、検収作業の疑義の問題にまで及んだ。
すぐに、安全委員会による調査が行われたが、異常が見つからなかっただけでなく、科学的に全く同じ動作で電気炉を運転しても異常は発生せず、暴走原因を解明できなかった。
プログラム運転中に温度センサーに異常が起こればPIDが正しく動作することも、また誤ってどこかボタンが押されたとしても電源が落ちる仕様だったので、何かエラーが発生したとしても今回の暴走のような事態に至らないことも確認された。
このような機械の暴走という異常は、それが再現されない場合に原因不明となってしまう。再現されて初めて科学的に原因を論じることが可能となる厄介な問題だ。
それをおそらく知っているのだろう。こともあろうに池袋で親子を横断歩道ではねた89歳の老人は、機械の暴走を原因として自分に責任がないと言い出した。
自動車では、仮に制御不能となったとしても、危険を回避し事故を起こさないように努める責任が運転者にはある。
車が暴走したならば、あらゆる方法を駆使して「安全に」車を止める責任が運転者にはあり、ただブレーキを踏んでいただけという発言から、それを果たしていなかったことは状況から明らかだ。また、運転者自身それをよく理解しているはずだ。
当方は電気炉の暴走が始まった瞬間に主任研究員に言われ、1度限りの大切なチャンスの実験であったにもかかわらず、非常ボタンを押して電源を落とし暴走を止めることを優先した。すぐに温度が下がり始めたが、断熱材の効果でそれは緩やかだった。
主任研究員が実験室に到着し、再度電源を入れたときに偶然保持温度のプログラムラインに炉体温度が乗ったため、電気炉はプログラムコントロールされ冷却動作に入った。
翌日温度が下がった電気炉の中には、最適条件でSiC化された高純度SiCが合成されていた。それは電気炉の暴走でもなければ見つからない反応温度パターンだった。
この時得られた高純度SiC粉末に対して2億4千万円の先行投資と研究所建設が決まっている。機械の偶然の暴走のおかげで幸運が訪れた。
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高分子材料で発生する品質問題の多くは、科学で正確に論じることが難しい場合が多い。また、正確に論じようとすると分析費用が嵩むので適当なところで妥協することになる。
品質問題が起きたときに、どこまで解析を行い対策を講じるのかは、大変難しい実務上の課題である。
一方、高分子材料の市場で発生する問題について、科学的にすべて解析可能と豪語する人について信用しない方が良い。
高分子材料を階層的にとらえた時に何が問題かさえも曖昧となるケースもあり、それでも具体的な品質問題として解決しなければいけない。
そのようなときに、間違った問題を科学的に正しく解かれても、品質問題を再発することにる。市場での品質問題というのは、科学的正しさよりも再発しないように解決することが一番重要である。
そのため、市場で品質問題が起きると、過去の事例との比較や他で起きていないかなどの調査から始めるのが一般的だが、故障に至る現場の状況調査が不明点の多さを理由に不十分となりがちである。
環境関係の法令整備が進んだので、製品における故障を素材レベルまでその素性をさかのぼることが容易となった。現場の状況調査では、高分子材料の生まれてから故障に至る履歴が重要である。
もし、破壊した状態ならばフラクトグラフィーは必須で、科学的ではないと批判されても現場情報をすべて盛り込んで仮の結論まで出しておくべきである。これは、高分子材料の市場における破壊を考察する重要なノウハウである。
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ケミカルアタックという言葉は学術用語ではない。ある種の溶媒が高分子材料に付着し、高分子材料を破壊に至らしめる現象である。
ある種の溶媒について、高分子材料を溶解させる溶媒と書かれた説明もあるが、高分子材料を溶解させなくても起きる場合がある厄介な現象である。
高分子と溶媒の関係について、溶解度パラメータ(SP値)が知られており、実験室で実験を行うと、SP値最大のところでケミカルアタックが起きやすいという結果が得られる。またそれをグラフ化したデータも公開されている。
成形体に何も問題がなければ、SP値を頼りに使用する油に制限を加えれば、ケミカルアタックを防ぐことができる。
しかし、ケミカルアタックについては、促進評価法を開発して個々の関係について調べた方が良い。特に成形体についてはそのばらつきについても注意深く実験を行うべきである。
例えば、成形体に歪がかかった状態では、SP値と無関係にケミカルアタックが発生することがある。詳細は省略するが、ブリードアウトと同様に科学的に論じることが難しい現象であり、品質問題が発生するとその対策に苦労することになる。科学的というよりも実務的な解決策となる場合もある。
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今年からプログラミング教育が必修化された。この教育では創造性とか協同する力など学校教育の共通項目以外に、目標設計力育成と問題解決力育成が目標となっている。
実はこの両者は弊社の問題解決法に含まれている。そもそも弊社の問題解決法は、当方の趣味の一つにプログラミング(日曜プログラマー)があったので、プログラミングの視点から生まれている。
プログラミング教育の目指すところはプログラマー養成ではなく、技術者養成にあると思われる。
そもそも20世紀の教育は科学一辺倒であり、非科学的な内容は排除されてきた。その結果、科学の純粋性に偏り過ぎた感がある。
イムレラカトシュが言うように科学と非科学の境界は曖昧であり、時代によりその評価は変わる。マッハはその著「マッハ力学史」の中で、ニュートンの思考は科学的ではなかった、と明確に書いている。
科学的ではない思考から、高校で学ぶ科学的なニュートン力学が生み出されている事実を十分に理解し味わう必要がある。
プログラミング教育は、これまでの科学教育では指導できなかった範囲を補完する教育とならなければいけない。
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今月無料で問題解決法に関する2時間セミナーを行う予定でいるが、無料セミナーとしては3回目である。
前回はヒューリスティックとタイトルをつけたが、今回はアイデアを出す方法に重点を置きたいので、ヒューリスティックというタイトルを外した。
しかし、セミナーではヒューリスティックについて少し触れる。これは当方の技術者経験において、現代の問題解決ではスピードが求められているからである。
かつて、科学的研究が重要視された時代があった。そして企業の研究所ブームがあり、アカデミアよりも基礎科学寄りの研究を行っていた企業の研究所も存在した。
今企業の研究所でそのような研究所は皆無と聞いている。一方で新技術創出を目的に新たな分野の研究をスタートした企業があるという。おそらくそのような企業では昔のような目標の不明確な研究を行っていないだろう。
また、新たにスタップ細胞や負の誘電率のような従来の科学では否定されてきた現象が世の中を騒がせている。特許も増加傾向で、当方もセミナーでこの現象を取り上げ、体験談を話し始めた。
このような状況を踏まえヒューリスティックというキーワードとアイデア創出が問題解決法を論じるときに重要となってきた。
2時間という短時間で両方を扱うことは難しく、前回はヒューリスティックに重点を置いたので、今回はアイデア創出について説明したい。
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高分子材料の難燃化技術について、2時間の無料セミナーを行う予定でいるが、テキストの購入をお勧めしたい。
もちろん無料セミナーなのでテキストの購入は義務ではないが、2時間という短時間では、十分な説明ができない。
例えば評価技術については、LOIとUL94規格の簡単な説明程度しかできないので、テキスト付属の予備資料でセミナー後の独習が必要となる。
また、混練技術についても説明できないので、予備資料の独習が前提となる。ゆえにこの無料セミナーはテキストを購入していない聴講者にとって少しハードルは高いが、テキストが無くても難燃化技術の勘所はご理解いただけるように解説する。
以前2日間コースと1日コースで実施した評価結果では、2日間コースの方が評価が高かったので、二時間コースでは、何だこれ、という結果になるかもしれない。
しかし、形式知が少ない分野であり、経験知の伝承の重要性を感じており、2時間の無料セミナーを行うことにした。
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今月質問の多い高分子のブリードアウトについて、2時間の無料セミナーを開催する。通常6時間ほどの内容からポイントだけ取り出して解説する。
高分子初心者のためには、なぜ科学の結果と実務における結果が異なるのか、という視点で解説するので、材料開発の経験が無くても得るものがあると思っている。
二時間のセミナーだが、テキストは、補助資料として解説できなかった部分を添付するので購入する価値はあると思う。
さて、ブリードアウトを理解するためには、二つの重要なポイントがある。一つは溶解現象とは何か、他の一つは高分子の高次構造である。
ブリードアウトという現象は拡散現象であり、その理解は重要だが、実務では拡散現象よりも高分子の高次構造と溶解現象の理解が不可欠である。
これは、教科書に書かれている解説と少し異なる。しかし、実務でブリードアウトという現象を扱った経験から、この二つを十分に理解したうえで拡散現象の理解が重要だと思っている。
すなわち、拡散現象だけでブリードアウトが制御されているのであれば、品質問題の解決は容易である。しかし、現実は実験室の結果が市場で再現されない。
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10月度無料セミナーで予定している問題解決法のセミナーでは、9月度に行ったセミナーのタイトルから「ヒューリスティック」を外している。
9月度と少し内容を変更し、アイデアの生み出し方を中心に構成しなおそうと思っている。
問題解決法について20世紀は科学的手法のセミナーが人気を博したが、その結果が21世紀の日本の技術の現状である。
科学という哲学に対する誤解がある。科学が命ゆえに非科学はダメという考え方が科学そのものをダメにしてきた。
イムレラカトシュは科学と非科学の境界は時代により変化すると述べている。すなわち科学と非科学の境界は曖昧なのだ。
21世紀には非科学的だと言われてきたあみだくじ方式の実験でノーベル賞受賞者が生まれている。
まったく根拠のないヤマカンではさすがに問題解決に役に立たない確率が高くなるが、根拠のあるヒューリスティックな解決法でアイデアも出てくる。
9月のセミナーではアイデアを出す方法について紹介例が少なかったが、10月度はそこに重点を置き、講義する。
頭の良い人が「間違った問題」を迅速に「正しく解いて」成果を出せない、とはドラッカーの言葉だが、頭の悪い人でも正しい問題を根性で正しく解けば成果を出せる、とは当方の経験談である。
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下記予定で今月WEB会議システムを用いた無料セミナーを予定しています。ご希望の方は弊社へお申し込みください。
10月19日(月)13時30分から15時30分 問題解決法
10月20日(火)13時30分から15時30分 高分子の難燃化技術
10月23日(金)13時30分から15時30分 高分子のブリードアウト
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昨日の続きになるが、水と油のように混ざり合わないものを混ぜようとしてもなかなかうまくゆかず、2相に分離するが、100℃ぐらいまで温度を上げてやると、油が少なければ油滴となって水の中に分散する様子を観察することができる。
すなわち、温度という因子は、それが高くなると物質が混ざり合うようにするような感覚に思えてくる。
温度が上がると水の分子運動が高くなるので、と説明すると教科書的になるが、混合のエントロピーの効果は、肉の煮込み料理を作ってみれば、教科書を読むよりも容易に理解できる。
男子厨房に入るべからず、は頭の固い昔の爺の考え方だが、男も料理をすべきである。率先して料理を行えばこのような物理現象を何度も観察できる機会に恵まれる。女性だけにそのような機会を独占させておくのはもったいない。
サラダドレッシングでも肉の煮込み料理でも100℃から室温まで冷却してくると、細かい油滴は連結して大きくなって相分離が明確になってくる。
この時油が少ないならば、大きな油滴が何粒もできるような状態になるが、水と油が同じような体積であると、水と油の二相に分離する。
少し難しい表現をすると、界面エネルギーが粗大化を支配する相分離では、このような体積割合の違いで共連結構造になったり粒子状構造になったりする。
もし、混ざり合わない(χが0でない時)AとB2種の高分子を無理やり分子レベルで均一に混ぜたとする。
A分子とB分子の接触した界面エネルギを下げるよう(混ざり合わないAとBが一緒にいるのは居心地が悪いはずである)に、すなわち界面を少なくするように力が生まれそうだ、と気がつくはずだ。
相分離が始まると、AとBの割合が変化、すなわち濃度変動を起こす。やがて許容できる、お互いに許しあえる濃度範囲で安定になる。しかし、最も安定なのは、A相あるいはB相単独であるはず(χが0とならないので)で、最終的にはA相だけあるいはB相だけになる。
このような相分解様式をスピノーダル分解と呼ぶ。高分子の相分離で見つかっているのは、多くがスピノーダル分解でありその他の粘弾性相分離などよくわからない相分離形式もあるが少ない。
当方が驚いたのは、PPSと6ナイロンは一般の混練機で混練する限りは、少ない成分が島となる海島相分離するが、カオス混合を行うとこれが相溶し、急冷しても5年以上室温で相分離せず安定であったことだ。
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