高分子材料を学ぼうとするときにそのプロセシングから学び始めるとよいように思っている。当方はゴム会社に入社した時に樹脂補強ゴムの開発をバンバリーとロール練りで行っているが、高分子技術を体得するために大変役立った。写真会社へ転職し、混練プラントを半年で立ち上げなければいけない状況になった時にこの時学んだ知識でフローリーハギンズ理論に反するようなプロセスを開発できた。この書にはその時活用したゴム会社の暗黙知を退職後に経験知と形式知へ具体化した。本書にその一部を公開している。特に二重のパーコレーション転移制御をシミュレーションした結果は高分子材料開発に携わる技術者には参考になると思う。学会発表も論文発表もしていない最近シミュレーションした内容である。
カテゴリー : 高分子
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ホームズとコロンボ、この二人は異なるパラダイムで犯人逮捕を行っていることに気がつくと、問題解決をいつでも科学的に行っていては効率が悪いと理解できる。
なぜなら、ホームズの小説では読み終わる時間を必ずしも一定にできないがコロンボではきちんと90分でドラマが終わる。
だから、実務の問題ではホームズのパラダイムではなくコロンボのパラダイムに合理性がある。これは冗談で書いているわけではなく、事実そうなのだ。
人は考えるときに推論を展開する。これは人類が登場してから日々の生活で少なからず行ってきた営みで、人が人であることを示すアイデンティティーの一つである。
「人間は考える葦である」という名言を誰が言ったかは忘れたが、「考える」時には推論を展開している。
人が異性に恋しているときにも推論を展開しており、時には肉体に推論の様子が現れたりする。そして悩み小説が生まれてきた。
この時、推論には向きがあることに気がつくはずだ。異性に向かう推論と自分に向ける推論だ。
一般の問題解決で言えば、問題からその解決策である結論に向かう前向きの推論と、結論から問題に向けて展開する逆向きの推論と二つある。
方向が定まっていない場合は推論ではなく単なる夢想だ。恋愛を単なる夢想で終わっていると結婚できないように、問題解決でも問題とそのゴールである解決策を明確に決めない場合には、すなわち夢想していては問題解決できない。
ホームズでもコロンボでも事件と犯人という二つのターミナルが存在し、犯人をゴールと捉えると、ホームズのパラダイムでは、前向きに推論を展開してゆくことを特徴としているといえる。
これに対し、コロンボでは常に犯人周辺の情報を集め事件との関係を考えているから逆向きに推論を進めていると言ってもよい。
カテゴリー : 一般
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ゴム会社で勤務した12年間に、Y取締役とU取締役、I取締役の3人による研究開発マネジメントを体験している。
Y取締役とI取締役は典型的な研究者であり、U取締役は技術職ではあったが、実務肌の濃い経営者だった。3人とも中途入社であり、Y取締役はBR01と呼ばれる合成ゴムで成果を出され、U取締役はFRP水槽はじめ建材部門の事業で、I取締役はラムダと呼ばれる新幹線の騒音を音響工学で低減する防音壁の成果を出されていた。
いずれの研究開発本部長とも直接お話しする機会や食事をする機会があった。Y本部長の時代に、SiCの研究で世界的に有名だった無機材質研究所へ留学している。しかし、Y本部長はSiCとは無関係の専門分野である米国留学を希望されていたので、留学中に受験した会社の昇進試験で当方はそのしっぺ返しを受けた。
ところが、昇進試験に落ちた結果、無機材質研究所で1週間という短期間であるが高純度SiCの企画を実現できるチャンスを頂けて、当方は成果を出している。これは後に30年続く事業となるが、「あなたが実現したい新事業は何か」という昇進試験の問いに対する解答の一部に書いたこの発明に対してY本部長は冷ややかだった。
その後留学中にY本部長からU本部長に代わり、U本部長からすぐに会社へ戻るよう打診があったので3年間の予定だった留学を1年半で切り上げ、復職して高純度SiCのパイロットプラント建設を行っている。
気分よく復職できたのは、2度目の昇進試験で1度目の昇進試験と問題が異なっていても同じ答案を提出して満点を頂き昇進できたからである。この出来事でY本部長と人物の違いをすぐに理解できた。
Y本部長の時代にファインセラミックス分野へ進出する社長方針が出されても何ら研究所方針を変更しないばかりか、社長方針に従い提出した企画に対しても応答が無かった。ところがU本部長は、生まれたばかりの高純度SiCの技術について、事業化のためにいろいろと丁寧にご指導してくださった。
Y本部長からU本部長に代わり当方の周辺にはA新規事業部長はじめ多くの偉い方が上司となり、たった1g程度の高純度粉末ができただけにもかかわらず、手厚いサポート体制が作られていった。
(注)新入社員研修中、夜のアルコールの場で研究所の経営上の問題について人事部担当者からいろいろと伺っていた。そこへ配属された当方が見た研究所の姿は、アカデミアよりもアカデミックな環境だった。もし研究所を企業の組織の一部とするなら、その運営は社長方針に従うべきだろう。もし、研究所を社長方針から独立した運営としたいならば、別会社にすべきである。しかし、人事部から説明を受けていた研究所の位置づけは、あくまでも社長方針に従うべき組織体であり、社長方針は社内のTVで直接全社員に伝えられていた。当方の留学中に定年前のY本部長がU本部長へ交代となっているが、これは妥当な人事だったのだろう。しかし、研究所の風土は、トップの交代でもすぐには変わらない。やがて研究開発本部における研究部門は縮小されていくが、風土はそのまま残った。アカデミック並みの研究を理想とする研究者が企業の経営を理解する、ということは難しい問題なのかもしれない。当方のFDにいたずらをした人物は、経営を理解していないばかりか仕事のやり方においても悪事を働いているとの感覚が無い優秀な研究者だった。
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新型コロナウィルスのPCR検査について、TVによく出ておられる岡田春恵特任教授が、先日朝のワイドショーである政治家から聞いた話として、「感染研OB」が検査結果のデータを自分で持っていたいという理由でPCR検査の民間への委託を妨害している、と発言されたらしい。
当方もゴム会社や写真会社でそのような悪人の被害にあってきたので、この欄で取り上げると愚痴をこぼすことになりかねず、この話題に触れるのを避けてきた。
しかし、この話題に関心を持っておられる方が多く、岡田氏の発言以来毎日のようにこの話題に触れた記事を目にする。
これだけ目にすると当方も一言いいたくなり、可能な限り愚痴にならないようにこの問題の悪人について書いてみたい。しかし、これは弁護ではない。
まず、この類の悪人を身近で見てきた経験から悪人について解説すると、本人は悪事を働いている、という認識になっていない。少なくとも当方が見てきた人は皆そうだった。
本人は悪事を働いているという意識は無く(注)、その人の存在や発言、行動が組織なり社会に害を生み出し悪になっていることには無関心なのだ。そしてその人の行動により、どれだけ周囲が被害にあっているのかを悪人は考えていない。
組織におけるこのような人物は、上司から何らかの指導なりペナルティーを受けるべきだが、社風によっては、あるいは縦の人間関係によってはこのような悪人を組織が守るような動きになる場合がある。
ゴム会社はそのような人物を生み出さない傾向の風土なり組織だったが、FD事件では組織のリーダーに問題があり、当方はそのリーダーに高純度SiCの事業(住友金属工業とのJV)がつぶされることが無いことを確認し、転職を決断している。
すなわち、このような悪人は、本人が悪事を働いているという認識が無い。その結果、悪人と利益を共有するような人物が多い場合には、悪人と分かっていても守られることになり、法律に触れない限りその人物は悪事を続けることになる。
昨今の高額でマスクの転売をしている人もそうだが、法律に触れなければ何をやってもよいと勘違いをしている人がいる。しかし、法律に触れなくても社会なり組織に害を生み出せば悪事であり、倫理に基づく判断が大人には求められている。
自己中心的な人は、他人の痛みに気がつかないが、自己中心的でなくても科学の研究に最大価値を求める人の中には、研究の前に倫理が優先されることを知らない人もいる。
倫理が最も優先されることを知らないで、研究のために国民の健康を危険にさらすような行動をとる人物は、法律に触れなくても悪人である。
今回のPCR検査の問題ではようやく民間の検査機関が動き出したが、それでもまだうまく機能していないという。今回の問題は政治家が何らかの「正しい対策」を取らない限り、悪人の妨害を受け検査体制は円滑に機能しない。
検査体制が機能しない原因が感染研OBの行動にあってもそれを罰する法律は無い。しかしその結果正確な陽性の人数が分からなくなっているだけでなく、検査を受けられない陽性患者が感染を広げるような事態になっている。
この事態が社会的な事件であることは明らかだが、法律が無いという理由で事件は放置されているのが今の日本だ。だから感染者数も韓国よりも少ない、と思われ、専門家による現状の考察が公開されている。
(注)第三者に指摘されても独特の論理を展開し、自己の行為を正当化する。例えば、静岡県諸田県会議員は、自分の経営する会社で仕入れたマスクをオークションで販売して利益を得ていたが、これは転売ではないから悪事ではない、と発言している。現在の事態を県議の立場で考えたなら、これを悪事である、と反省する人物であってほしかった。もし、マスクをオークションではなく病院に寄付あるいは適正価格で販売していたなら、おそらく感謝されたであろう。
社会なり組織では、社会や組織が良くなるように行動するのが基本だが、悪人が放置された社会や組織では誠実に行動している人物が報われない。本来利益があがるような会社で利益が上がらず、赤字を垂れ流す事業が放置されていたり、そのような事業を企画した人物が出世するような会社がある。そのような会社では高い貢献を行っても報われない。ドラッカーが働く意味は「貢献と自己実現」と述べている所以である。
若い人はそのような悪人に遭遇しても腐ってはいけない。自らの環境を変える勇気あるいは悪人に影響されず貢献と自己実現に努力してほしい。自分の人生は自分で守る以外にない。ドラッカーが誠実と真摯を解くのは、そのように行動しておれば善良な協力者が周囲に集まってくるからである。社会なり組織から報われることを期待するのではなく、自らが社会なり組織を良くしようと生きることは気持ちの良いことで、それ相応の新しい交流が生まれる。この欄で書いている高純度SiCの成果やカオス混合プラントなどの成果は実話であり、またこれらの成果で組織から満足な報いは無いけれど新しい交流がいくつか生まれた。さらに新たな交流の中には聖人と呼びたくなるような方との関係もでき、「神様はどこかで見ている」というのは本当だろう。逆に悪人にはいつか天罰が下るのかもしれない。
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刑事コロンボでは、最初に事件の全貌が描かれ、視聴者はコロンボよりも先に犯人を知ることになる。
視聴者は、犯人や犯行が行われた事件の全貌を知り、コロンボがどのようにこの情報を正しく集め、犯人逮捕に至るのかを楽しむことになる。
すなわち、ホームズの小説ではホームズ「とともに」読者は犯人逮捕までのプロセスを楽しむのだが、コロンボのドラマでは、コロンボが「どのようなプロセスで」犯人逮捕を行うのかを楽しむ倒叙探偵小説のスタイルになっている。
ドラマの中には、コロンボがいきなり犯人に事情聴取する場面が登場する場合もある。ただし、その時コロンボは事情聴取の相手が犯人であることを知らないので誤った情報を信じることになる。
いろいろ情報を集めていく中で、コロンボは集められた情報の中の矛盾点に気がつく。するとこんどは矛盾点を解消するために行動をはじめ、誤った情報を発信している人物に疑惑の目を向ける。
コロンボが犯人逮捕できるためには確実な証拠が必要であるが、時にはその証拠を得るために犯人に罠を仕掛ける場合もある。
すなわち、コロンボは実際に集めた情報(データ)をもとに犯人に迫るが、情報不足の時にはデータを得るために実験も行うのだ(データ駆動型捜査スタイル)。
データの突合せこそ論理的に行っているように見えるが、必ずしも論理ばかりではなく情緒的に判断したり犯人に近づいたりするシーンも登場する。
「ウチのカミさんがね」という口癖のあとに、科学の香りも論理もへったくれも無い格言が出てきたりする。コロンボはホームズとは異なる頭の構造である。これが技術ではスピード感のある開発を生み出す。
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今回の新型コロナウィルスの騒動で製薬会社の新薬開発名乗りを観察していてがっかりした。もしまだどうしたらよいのかわからない製薬会社は弊社に相談していただきたい。
昨晩武田薬品が新薬開発に名乗り出たが、中国で発生してから2カ月半、日本に騒動が広がってから1カ月半経過している。
てっきりできたのかと思っていたら、これから開発に着手するという。株価狙いの発表でも遅い。もし製薬会社でいまだにどうしたら良いのか分からないところは、弊社に相談していただければ、本日でも武田薬品程度のことを発表可能である。
これは株価のためだけでなく、人類への貢献と言う意味でも重要で、もし、当方が製薬会社の社長ならば、武田薬品程度の内容を社内の調整のうえ1月中旬には発表していた。
何故なら年末の段階で、ある程度新薬に必要な機能が見えていたからである。中国武漢の患者の様子から既存の薬あるいは血漿分画製剤を試す、という今回の武田薬品の発表内容ならば、12月中旬の段階でできたかもしれないし、特許も出願できていた。
はったりではなく、中国発のウィルス騒ぎは経験済みだからである。日本の水際対策に成功するかしないかに関わらず新薬開発の準備を製薬会社はすべきで、中国から患者の様態が伝えられたなら特許出願をしておくべきである。
製薬が専門ではない当方になぜそれができるのか。これこそ技術的発想法なのだ。すなわちタグチメソッドでいうところの基本機能に着眼すれば科学的発想法よりも早くできるのだ。
タグチメソッドでは基本機能を理解するのが難しい、とよく言われるが、それは科学的発想法で頭が慣らされているからである。
技術的発想法のコツがわかれば専門外の現象でもすぐに実験をスタートできる。これもはったりではなく、当方の開発経験の事例を示すことも可能だ。
ちなみに、高純度SiCの新規合成法は無機材質研究所長からGoサインを頂いてから4日めにモノができていた。電気粘性流体の耐久性問題では、加硫剤も何も入っていないゴムを開発せよ、と指示を受けた翌日には、そのテーマを破棄して界面活性剤で開発できることを示す結果を出していた。1週間後には特許ができていた。カオス混合装置は、混練装置の準備が必要だったので皆が認めるためには3ケ月かかっているが、自分で機能を確認するだけならば、既存の押出成形ラインを最大速度で稼働させて、PPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドを作ることに成功している。業務の担当責任者になる前、すなわち単身赴任前の出来事だ。これは実話だ。
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八年ほど前に電子ブックとして高分子のツボを出版しましたが、そのリクエストの問い合わせがありました。実は混練り活用ハンドブックにはその6割ほどが盛り込まれています。すなわち高分子のツボについてプロセシング部分を膨らませたような構成です。ご一読ください。
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今回の新型コロナウィルスの感染についてクラスター生成のシミュレーションがワイドショーなどでたびたび登場している。
このクラスター生成シミュレーションについては、計算方法の説明を聞く限り、山火事の広がりについて1950年代に数学者たちが議論していた浸透理論の応用と思われる。
浸透理論とはコーヒーのパーコレーター由来の名前、パーコレーションとも呼ばれているが、絶縁体の高分子に導電性粒子を分散し半導体材料を開発するときに観察されるパーコレーション転移がよく知られている。
当方はウィルスの感染についてこのシミュレーションにより考察することに対しどうこう言うつもりはないが、今回の起きている現象についてシミュレーションで考察するまでもないと思っている。
なぜなら飛沫感染を防ぐためには、保菌者を見つけては隔離し、非保菌者を可能な限り「塊」(クラスター)とならないようにばらけることが当たり前であり、それを社会でどのように実現するのかが一番の問題となるからである。
これまでの経験から対策の方向は見えているだけでなく、北海道について現在発見されている感染者の10倍という予測が専門家会議から出されているので対策を急ぐことこそ重要である。
今回学校を休校することに関し、反対意見や懐疑的な意見が出されたが、社会における大きな「塊」を解消する、という観点で政府の要請は間違っていない(注)。
今回のウィルスは子供への感染は軽微だから的外れな要請だという意見もあるが、ウィルスの人類への影響がインフルエンザほど解明されていない現状では、子供をまず守るという発想が重要となってくる。
ウィルスは、人類のDNAに大きな影響を与えていることが明らかになっているからだ。子供を守る対策については急ぐべきである。
この政府の唐突な要請に対して今なすべきことは、学校の休校だけでなく、社会における「人の塊」を可能な限り、無くす努力を国民がすることである。
飛沫感染がメカニズムであるとわかっているので、一定期間人の塊ができないようにすれば沈静化できるはずだ。
特にSARSと異なり、無症状の人でも発症者と同じ量のウィルスが検出され誰が感染者かわからない状態である。
ゆえに一定期間塊の無い状態を作りだし、感染者が減少してゆくようにしない限り、感染者は増え続けることになる。
科学的に難しく考えなくてもドッジボールや鬼ごっこの経験があればすぐにこれを直感で理解できる話だ。
現象に対し、科学的に解析することは大切であるが、対策が急がれる場合に、直観が正しい方向あるいは機能を約束すると経験的に納得できるのであればそれを実行すべきという判断は重要である。
武漢の状況を見る限り、対策の遅れは診療体制の破壊を招く。政府の要請は大きい効果があるかどうかは不明であるが、未来を考慮した場合には対策として間違っていない。
(注)子供の健康は第一である。その次に大切なのは、公教育である。しかし、今回の政府の対応をめぐる議論で、この二つがないがしろにされ、子供の面倒を見る問題や、子供の感染率は低いという議論がなされたのにはびっくりしている。見かけ上子供の被害は少ないが、ウィルスの脅威はまだわからないことが多い。子供の健康を守るのは大人の責任である。健康と、授業を二週間無くすことの議論が行われるなら納得できるが——
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今月はウィルス騒動の影響で1ケ月ほとんど空いてます。ゆえに電話あるいはスカイプ、弊社事務所への訪問(但し2m程度離れて対話できます)等安全格安で皆様のご相談に応じます。
時間その他につきまして弊社へお問い合わせください。個人のご相談にも応じますので相談費用等は、メールにてお問い合わせください。
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研究開発の管理業務は、企業によりその中身はさまざまであるが、ステージゲート法は、多くの企業で採用されているようだ。
ステージゲート法を採用していない企業でも、研究開発テーマを節目に見直すことを行っているはずだ。今どき、研究開発テーマを何も管理をせずに進められるような体力のある企業は少ない。
ここで面白いのは研究開発管理を厳しくすればするほど、企画に対して研究開発の成功確率が悪くなるというパラドックスが存在する。このパラドックスゆえに研究開発管理は成功体験のある研究者に任せるとうまくゆくのではないか、と誤解している人もいる。
1970年代の研究所ブームでは、経済成長が著しい時だったので売り上げの2%程度はドブに捨てるつもりで研究所へ投資しているような企業も存在し、79年に入社した会社も結構気前の良い企業だった。
また、研究所長は成功体験のある研究者で研究管理部門も研究開発畑出身者だった。研究開発出身のU本部長が研究管理部長になられたときに研究管理部門のメンバーが見直され、経理出身者も補強され営業出身者も採用された。
1980年代にはU本部長が研究部門全体を見られたが、バランス感覚に優れた経営手腕を発揮された。高純度SiCの事業もU本部長時代に住友金属工業とのJVがスタートしている。
しかし、基礎研究を担当している管理職にはすこぶる評判が悪かった。理由は、「まずモノを持ってこい」というのが口癖だったからである。
当方は、6年間このU本部長の指導で研究開発の死の谷歩いていたが高純度SiCのテーマを無事事業化できその後30年事業が継続され、2018年セラミックスを専門としている企業に事業売却された。
6年間死の谷を歩きながら幾つか基礎研究テーマを提案し、研究開発を一定期間続けているが、結局高純度SiC半導体治工具事業だけしか成功させることができなかった。
「まずモノを持ってこい」と言われて、仮の「モノ」を作って企画を成立させて研究をスタートさせても、その次の関門を通過できず、研究段階で白旗を挙げざるを得なかった。
このようにU本部長指導の研究開発管理は基礎研究部門にとって厳しすぎる管理ではあったが、経営と基礎研究のバランス感覚は優れていたと記憶している。
幾つか企画した基礎研究テーマを中断しているが、つぶされた、という感覚ではなく経営について学ぶ機会を得たと感謝している。
当方は感謝しているが、基礎研究部門の管理職の中には、「まずモノを持ってこい」というのは研究を理解していないアホとまで言っている人がいた。
しかし、基礎研究部門の管理職に歓迎された本部長が優れていたわけではない。「加硫促進剤も老防も入っていないゴム」などという現実無視のゴム開発テーマを承認したり、「電気粘性流体の耐久性問題を界面活性剤で解決できない」と科学的に完璧な証明を行った報告書(注)を高く評価するようなミスをしている。
(注)企業の研究報告書における結論では、たとえ基礎研究であっても常に事業を前向きに進める内容が高く評価されるべきである。この報告書の出された直後、当方は界面活性剤を用いて一晩でこの報告書の結論をひっくり返す技術を開発し、界面活性剤の検討テーマを復活している。この技術は特許出願され、電気粘性流体開発のプロジェクトを事業化へ大きく進めることに貢献している。その結果、実用的な電気粘性流体用粉体を開発するように指示を受け、傾斜機能粉体や微粒子分散型粉体、コンデンサー分散型粉体などを電気粘性効果の機能を実現できる粉体を短期間に開発し、この中で傾斜機能粉体が実用化に使われた。FDを壊されて当方が転職後電気粘性流体の事業がしばらく続いたようだが、本来コストを無視していた企画ゆえに事業は長続きしなかった。電気粘性流体のメンバーの多くは高純度SiCの事業を当方の転職後しばらくしてから担当している。
ところで当方が粉体開発を急いだ背景には、コスト問題解決の狙いがあり、難燃性オイルの開発にも着手したがその道半ばで転職の決断を出している。その結果電気粘性流体におけるこれらの成果では特許出願を行っているが研究報告書を一切書かせてもらえなかった。粉体の開発テーマにしてもいい加減な指示からスタートしている。それは、耐久性問題を一晩で解決できたなら粉体も簡単に開発できるだろう、というやや当方を小ばかにしたような指示であり、当方はそのような指示でも誠実に応えて最初の傾斜機能粉体を3日で合成している。この粉体は分析グループにより解析され、見事な傾斜構造だったことが証明された。
調査研究に必要な十分な時間をもらえず、住友金属工業との高純度SiCの事業化テーマを一人で推進している多忙な状態ながらこれらの無理難題のテーマを当時こなしていたのである。
不十分な管理状態では担当者は疲弊する。そのうえ会議前にFDを壊されたのでは仕事の継続は難しい。事業に直接影響しない研究部門と考えていたとしても、管理職も含め研究管理は経営であり誠実真摯に行うべきである。当方は高純度SiC事業について誠実真摯に考えて転職を決意している。その結果転職後20年以上事業として続いた。
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