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2019.05/26 樹脂の混練温度

この15年ほど混練現場を見る機会が多い。学位論文には高純度SiCの研究が半分以上書かれており、専門は無機材料なのだが、現在の仕事は高分子関係ばかりである。

 

樹脂の混練温度について疑問に思っていることは、樹脂のTm付近で混練しているメーカーが多い点だ。以前この欄で書いているが、樹脂の混練温度は、モーターのトルクさえ十分にあれば、TmからTgの温度領域で混練可能だ。

 

二軸混練機のシリンダー温度をTg近くにして混練した経験もあるが、うまく混練できていた。そのような低いシリンダー温度で混練したら分子が切断される、という人がいるが、それは混練条件を整えればさけられる、ということを知らない人だ。

 

それから、二軸混練機のシリンダー温度がセグメントごとに変えられるということもご存じない。まず、何も考えずにすべてのシリンダー温度をTgに設定したらトルクオーバーとなり、混練機は停止する。すなわち混練できない。

 

これはノウハウであり技の内容を知りたい方は弊社に問い合わせていただきたいが、あくまでも流動状態にある樹脂をTm以下で混練する技、ということだ。

 

二軸混練機による樹脂の混練をご存知の方は、ここまでの説明で気ずかれる筈だ。この混練の技は、どのように樹脂をTm以下で流動状態にするのかと言う問題を解かなければいけない。そのためにはTm以下でも流動している樹脂を一度観察する必要がある。

 

なお、6月7日にゴムタイムズ社で開催されるセミナーにおいてこの技についても解説する。弊社へ申し込まれれば割引条件で申し込めるので問い合わせていただきたい。プロセシングの視点で高分子材料を眺めると理解しやすい。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/25 ガラス転移点(5)

高温度からゆっくりと材料を冷却してくる。この時材料が結晶性高分子ならば、最初に結晶化が生じ、その後ガラス転移点が現れる。

 

ところが、材料が無機ガラスならば、最初にガラス転移点が現れ、そのまま100%ガラス状態で室温に至る。ガラス転移点と室温の間に結晶化温度が存在しても、よほど結晶加速度が速い組成がそのガラスに含まれていない限り冷却過程で結晶は現れない。

 

室温でガラス状態になっている無機ガラスでも、結晶を構成できる組成が含まれていると長時間かけて結晶が析出してくる。この時結晶化温度でガラスをアニールしてやると早く結晶が析出してくる。

 

昔透明なガラス板の開発は、結晶化しないような組成を探す作業だった。それでも、雨風にあたり、アルカリ土類金属などが流されたりすると組成が変動し、結晶が析出したりした。耐候性の高いガラスも開発目標だった。

 

高分子では、結晶化が起きても100%結晶になることはなく、球晶にはガラスが含まれている。すなわち球晶を構成するラメラとラメラの間にはガラス相が存在する。そのためどんなに結晶化度が高い高分子でもDSCを測定するとTgは現れる。

 

DSC測定で偶然Tgが現れないことも経験するかもしれないが、その時はTgが出そうな温度から下のところで2-5分昇温を止めてやりTgが出ることを確認すること。これは先日も書いたコツである。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2019.05/24 ガラス転移(4)

無機ガラスではそこから結晶成長する様子をガラス転移点以下の温度で観察することができる。ただし、ガラス化する前に相分離して結晶成長している場合を除く。ガラス転移点よりも結晶化温度が低い無機ガラスの話である。

 

この時、ガラス相の組成と結晶質相の組成は異なる。すなわち、無機ではガラス相を構成する組成は決まっており、その組成が変化して結晶化が起きているのだ。そこでは原子の拡散も起きその拡散速度が問題になったりする。

 

ところが高分子のガラスでは球晶と組成が変わらない。これは共有結合でつながっているから当たり前だ、という人がいるが、これを当たり前の現象として見てはいけない。

 

また高分子では結晶化温度はガラス転移点よりも高いところにある。すなわち無機ガラスのガラスと高分子のガラスではガラス転移点という熱力学的共通項は存在するがその成り立ちが異なっている。

 

無機のガラスではその相を構成する原子の配位数の組み合わせが問題になるが、高分子では主鎖の運動性でガラス化温度が決まる。すなわち無機材料では非晶質になることはできても、ガラスを生成しない無機材料が存在する。無機の世界でガラスはガラスなのだ。

 

しかし、高分子材料ではすべての非晶質相はガラスである。ガラス化しない非晶質相は存在しない。ゴム会社でDSCを測定していた時に、Tgが現れない現象を見つけた。興奮して報告したところ指導社員から笑われた。そしてDSCを測定する時にTgの手前で3-5分昇温を止めるテクニックを覚えた。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/23 ガラス転移(3)

大学院の二年間は、3-4カ月に1報書いているような学生生活だったから、一年に1報パターン化した論文を書いているガラスの研究者を不思議に思った。

 

結晶成長に時間がかかるから、というのが彼らの言い分だったが、それならば並行して実験を進めればよいと厳しいことを先輩の研究者に言っていた記憶がある。社会を知らない学生は純真で正直であり、それが人を傷つけたりする。小説の世界のような非常識な学生だったと反省をしている。

 

たまたま某無機製品の会社役員が、所属講座の教授の世話で学位をとる、という話が聞こえてきた。びっくりしたのは、一年後にその役員が論文を7報発表し学位としてまとめたことだ。論文の共著者は主査の教授が末席を占めており、各論文には5名以上名前が書かれていた。

 

およそ一人でできる様な研究内容に3名以上の部下を動員して論文を書いていたその役員の神経に疑問を持った。会社を明らかに私物化している。論文の内容も、大半がガラスからの結晶成長を論じた研究で、DSCと電子顕微鏡写真がデータである。研究の形式にはなっているが、およそ役に立たない内容だった。

 

もっとも企業として価値のない内容だからすぐに公開できた、と言えるのだが、捏造とは異なった視点でこれも問題だと思っている。大学ならば多少は許されるかもしれないが、企業ならば会社の金を学位のためだけに使っているようなものだ。

 

当方は学位のもとになった研究はすべて自分で行い、さらにその内容は実用化された仕事から論文を書いており、学位審査料も自分で払っているので、会社への恩義は研究内容を公開することを許可してくれたことぐらいだ。論文をまとめるための時間を労働時間から割いていない。

 

それでも心から、多くの人のサポートがあり学位をとることができました、と答えている。しかし、この役員は、退職前に頑張って学位を取ることができたのでうれしい、ドクターコースに進まず社会に出る諸君も企業で頑張って学位を取ってください、と、講座で開かれたお祝いの酒席で学生たちを激励していた。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/22 ガラス転移(2)

セラミックス焼結体は、結晶を非晶質ののりで固めたような構造の物質である。この非晶質相を粒界相という。この粒界相にはガラス質のものもあり、焼結の機構を調べるためにもガラスからの結晶成長研究は研究テーマとして意味があった。

 

おまけに研究として取り組みやすかった。難しいところは皆研究をしないので同じパターンの研究論文ばかりだった。学位論文を読むと、誰でも学位をとれそうな気分になる論文ばかりだった。

 

すなわち、粉末X線で結晶を同定し、電子顕微鏡でその結晶を観察して、論文が一報出来上がる。気の利いた人は実際に結晶を作成して速度論の論文を継続研究として提出しているが、レベルの低い研究者は、例えばNaをCaに代えただけで同じ実験をやり、論文を書いていた。

 

だから1ケ月に1報論文を書けるような研究で7年かけて学位をとっている研究者もいた。当方は修士二年間に、ホスホリルトリアミドの重合研究やホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体合成、ホスフォリルトリアミドを用いたPVAの難燃化研究、ホスフォリルトリアミドのプロトン導電体としての可能性、各種ジアミノホスファゼンのNMRによる構造同定、ホスフォリルトリアミドとジアミノホスファゼンの共重合研究と一人で6報書いている。

 

修士二年間で、さらにたった一人で6報書いた学生は初めてではないか、と褒められたが、奨学金をもらい、授業料も無料だったので当たり前でしょうと応えている。

 

今なら、「先生のご指導の賜物です」というぐらいの言葉は自然と出てくる。若い時は謙遜という言葉をしらない傲慢さで自信に満ちていた。このようなときには自信が力になり猪突猛進でいくらでも成果が出るのだ。

 

ただ本音は論文のパターンが皆バラバラなので論文をまとめる作業が大変で必死だった。特にPVAの難燃化研究は、高分子の難燃化研究と言うテーマがニッチな分野であり、アメリカの工業雑誌に実務的な内容の論文が出ている状態だったので論文のひな型を探すのに困った。

 

研究論文と言うものは先駆者の論文をお手本にして書くものだと思っていたから、自分がその分野の先駆者になったときに論文をまとめる作業が大変であることを知った。そして、研究者にはなるまい、と思った。技術者の先駆者は研究者の先駆者よりも楽である。社会に新しい価値を創造し、そして役立つ「モノ」を造れば良いだけだ。

 

能力の限界を感じる前に技術者を目指すのは、精神衛生上健全である。研究者で成功するためには大変高い能力と運が要求されるが、技術者は誠実真摯に努力すれば、創造された新しい価値に自然と周囲の英知が集まり開発に成功できる。健全な組織で開発に成功すれば必ず成功の喜びを味わうことができる。

 

退職最後の仕事は回収PETボトルを複写機部品に応用する仕事だった。中国ローカル企業で立ち上げたのだが、この仕事を引き継いだ担当者が社長賞を受賞した時にその記念品のPETボトルを送ってきた。この出来事は大変うれしかった。ちなみにPETのガラス転移点は2Tcmax=Tm+Tgの関係があることが知られている、と1週間ほど前に書いている。

 

カテゴリー : 高分子

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2019.05/21 ガラス転移(1)

ガラス転移は相変化ではない。状態の変化である。これは無機材料でも高分子材料でも同じだ。ちなみにガラスの定義は、非晶質体でガラス転移点をもつ物質である。

 

無機ガラスは、溶融状態から冷却すると、まずガラス転移があって固体のようになる。よく無機ガラスは実は液体だ、と言われるが、これはガラス転移では流動性が極めて遅くなった状態だからだ。

 

氷は、液体か固体か、と聞かれ、真顔で固体と答えると、いや冷たいだ、という怪しいことを言っているのではなく、ガラス転移が相変化ではないという説明をしている。

 

昔、品質の悪い並ガラスは雨風によりNaが抜けてゆき、結晶成長が始まり、白っぽく(失透)なった。いまはそのようなガラスは見当たらないが、戦後すぐに建てられた小学校や中学校の窓ガラスは失透していたのでよい教材だった。

 

子供の科学という雑誌があって、そこにもこの窓ガラスの問題は毎年何処かで取り上げられていた。5年ほどこの雑誌を継続して読んでいたので、このガラスの失透現象、ガラスから結晶化が進行する話は、小学生のころから知っていた。

 

大学院時代に無機の講座で研究をしたが、その講座で何人かがガラスからの結晶化を研究していたのでびっくりした。セラミックス協会の雑誌を見てもそのようなガラスからの結晶化現象をテーマとして扱った研究が20%程度掲載されていた。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/20 混練の講演会

6月7日に都内で混練の講演会を予定しています。ゴムタイムズ社の企画ですが、弊社で割引のお申し込みを受け付けています。

 

ところで、この講演会では、特許が公開されたばかりのPH01についても使いこなしを解説します。従来の添加剤と異なる点が見つかっており、従来の混練の概念では性能を引きだせません。

 

樹脂の混練技術は、二軸混練機の開発の歴史のように思います。1980年以降二軸混練機の性能は著しく向上しました。ローターの発明が一役買っているのですが、ニーディングディスクでは実現できない混練が可能になりました。

 

しかし、問題はトルクが高くなるため非力なモーターでは、ローターを使えないケースもありました。中国ローカル企業を指導していた時にこの問題に遭遇しました。

 

カオス混合技術は一つの解であり、非力なモーターの二軸混練機にも取り付けることが可能です。しかしそれは内部構造が設計されていることが必要で、うまく設計されない場合には十分な効果が出ません。

カテゴリー : 宣伝 高分子

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2019.05/19 二軸混練機の回転数

二軸混練機の回転数を上げると吐出量はそれに伴って増加する。しかし、スクリューセグメントの工夫である程度はその増加率を制御できる。

 

吐出量を抑えて回転数を上げると混練が進むと考えがちであるが、コンパウンドの基本機能を評価しタグチメソッドを行ってみると、単純に回転数と一次相関しない場合がある。

 

ひどい時には、上に凸のグラフになったりする。これは、回転数を上げても混練効果が上がらなかったためである。

 

タグチメソッドでは、制御因子について幅広く振るように指導されるが、二軸混練機では、自分が使用したい回転数の範囲で振ったほうが良い。このようにすると一応は増加関数的になる。

 

しかし、配合処方によっては、それでも線形性が崩れて、その結果に悩むことがある。この場合にはスクリューセグメントを剪断流動重視にして組んでみることだ。単位時間当たりの吐出量は減るが、回転数に対して増加関数的になる。

 

剪断流動重視では無機フィラーの分散が、とか、ポリマーの切断が起きるのではないかとか、いろいろ不安が出てくる。二軸混練機は意外と使い勝手が悪い混練機であり、ロール混練が優れたプロセスであることを気づかせてくれるが一台当たりの生産性が悪い。

 

中間転写ベルトの開発を担当したときに最初はロール混練やバンバリーミキサーを使ってコンパウンドを混練し、あたりをつけてからカオス混合装置を開発している。これは混練機を扱うときのノウハウかもしれない。

 

ロール混練機は小平製作所がよいものを持っている。たかが二本のロール、と見ていてはいけない。二本のロールであるがその奥は深い。カオス混合装置も小平製作所と性能アップを図ってきたが、6月の講演会で説明する。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/18 粘弾性測定

高分子のレオロジーについて調べようとすると粘弾性測定装置が必要になる。粘弾性測定装置には、歪制御の装置と力制御の装置がある。

 

すなわち、歪制御の装置では、歪を一定にするように動作し、力制御の装置では、力を制御して歪を一定にしようと動作している。

 

10年ほど前の価格では、力制御の装置のほうが安かった。コンパウンドの品質管理用に購入したのだが、普通に温度分散を測定している分には問題なかった。

 

しかし、品質管理用にある特殊な測定をしたときに困った。少し挙動が異なるのだ。少し特殊な手順で弾性率の乱れ(偏差)を見ていたのだが、それが小さいのだ。

 

歪制御の装置で計測される偏差の20%ほどしかなく、品質管理用には感度不足となった。面白いことに測定モードを変更したところ、感度が上がった。

 

粘弾性装置だから変更すると言っても時間のファクターである周波数(振動数)だが、これを変更して歪制御の装置と測定結果が一致したのだ。

 

品質管理用なので、とりあえずこれで仕様を決めなおし、ことなきを得たのだが、測定データに対して時間温度換算則を使う時に問題が起きることに気がついた。

 

退職後聞いた話では、コンパウンド工場を移転した時にコンパウンドの品質基準を見直し、粘弾性評価を廃止したと聞いた。すなわち、5年間の品質検査で異常が起きなかったから不要な検査と判断されたらしい。

 

CDのために品質規格を見直し、不要な検査を廃止するということは常套手段である。しかし、品質評価項目の中には、機械の寿命とも関係している項目があることを知っておくべきだ。

 

すなわち、一般に設備が劣化すると品質のばらつきが大きくなってくる。当方は、それも管理できるように粘弾性装置をややトリッキーな使い方で品質評価するように決めたのだ。

 

残念であると同時に中古で導入した二軸混練機が心配になってきた。ゴム会社でQCの心得を学び、その思想でカオス混合という世界初のプラントを約13年前に稼働させたが、トラブルは何も起きていない。

 

しかし、その安定なプラントも管理技術が骨抜きになっていったらどうなるか。今のところ何も問題が起きていないので、過剰な品質検査だった、という評価になっている。しかし、この粘弾性を活用した品質検査を当方は過剰とは思っていない。

カテゴリー : 高分子

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2019.05/17 混練の講演会

6月7日に都内で混練の講演会を予定しています。ゴムタイムズ社の企画ですが、弊社でお申し込みを受け付けています。

 

ところで、この講演会では、特許が公開されたばかりのPH01についても使いこなしを解説します。従来の添加剤と異なる点が見つかっており、従来の混練の概念では性能を引きだせません。

 

すなわち混練技術依存性のある面白い添加剤です。これを欠点とするのか、ブラックボックス化技術とするのかは技術のとらえ方になりますが、これまでにない性能を実現できます。

 

PPSやPEEKは加工温度が高く混練や成形が難しい材料ですが、PH01の添加で加工温度を下げることが可能になります。

 

さらにPPSでは結晶成長を抑制する機能も見つかっており、PPSの結晶成長による物性低下でお困りの方はぜひセミナーにご参加ください。

カテゴリー : 高分子

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