カオス混合とは、パイ生地や餅つきで発生している機能との説明を受けた。すなわち急速に引っ張った(伸長流動)後折り曲げる(剪断流動)ような混練方法だ、と指導社員から教えられた。さらにロール混練ではそれに近い現象が起きているのではないか、とご自身の想像をまじえ混練技術に関する経験知と暗黙知を伝承してくださった。この指導には大いに感謝している。
当時すでに高性能な二軸混練機が世の中で普及していたのに、加硫ゴムでは、バンバリーとロール混練を用いるバッチ方式が使用されていた。指導社員は、高性能な加硫ゴムを絶対に二軸混練機では製造できない、と明確にその理由を経験知と暗黙知で説明された。
2005年末に二軸混練機に取り付けるカオス混合機のアイデアに成功したのは、この時の暗黙知がうまく伝承されていたからである。
技術の現場において暗黙知を伝承する方法は、経営の使命が企業の持続的成長、すなわち今の世代を次の世代に受け継ぎ発展させる行為にあるとすると、大切な問題である。しかしながらその実現は容易ではない。ノウハウが要求されるが、ゴム会社には伝統的にその風土が存在した。
設備の進歩以外に、ポリウレタンRIMの普及が始まり、高性能なTPE開発が活発になってきた時代でもある。当時の愛車セリカのバンパーにはPPではなく高価なポリウレタンRIMが使用されていた。加硫ゴムの技術が将来も残っていくのか、という議論が活発に行われ、樹脂とゴムのハイブリッドであるTPEが新素材としてもてはやされていた。
たとえ射出成型で作られるゴムが普及し始めたとしても、バッチ方式で混錬され、成形もたい焼き機のようなバッチ装置を用いた方式がゴムの高性能化には必要なプロセスだ、と指導社員はいわれた。しかし、高性能なカオス混合装置が発明されたなら、それで加硫ゴムの混練ができるかもしれない、と付け加えられた。
ゴムの混練プロセスというものが十分に解明されていなかったので、それをカオスと例えた人も研究所にいたが、カオス混合というのは、そのカオスとは異なり特殊な混練方式、というのが指導社員の説明だった。それを連続プロセスで実現できるのは君しかいない、などと時々からかわれたりした。これはカオス混合に興味を持ち考え続けるには十分な動機付けだった。
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プログラミング言語の解説において、最初に出てくるのはデータ型の説明だ。コンピュータはデータを電気信号のON,OFFの2値の塊で表す。すなわち、1,0のビット列でデータを表現し、それはコンピューターのメモリーを占有する。
ところでFORTRANやBASIC,Cなどのプログラミング言語ごとに、このデータ型の説明が異なっていた。プログラミング言語ごとにこのデータ型が異なるというのは、仕方がないことで、各言語の使用目的を考慮して、極力メモリーの使用効率を高くしようとしたからだろう。
ただ、過去のプログラミング言語のデータ型は生活習慣と合っており理解しやすかったが、C#では、コマンドのたぐいも含めすべてデータとして扱うという仕様だ。
すなわち、データ型とは、その型の実体(インスタンス)となるメモリー上のビット列のことを意味しており、数字以外のデータもすべてこの型の概念でC#は扱っている。さらに、型とは、メモリー上のビット列のどこからどこまでに、どんな意味が潜んでいるのかを説明しているという。
ものすごい概念の拡張だ。最初文法書を読んでいた時にこのあたりの感覚がよくわからなかったが、クラスの使用方法などを理解したところで、型が単に数値だけでなく、クラスやメソッドの一部にも用いられていることに気がついた。
すなわち、C#は、型に始まり型でおわる、と言っても言い過ぎでないぐらいに、型の理解が重要である。そして型の内部にフィールドとメソッドが定義されてプログラミングが進められる、というコーディングの雰囲気だ。
Cが登場したときに習得が難しい言語と言われたが、言語の予約語等文法の決めごとが少ないのでプログラマーの自由度が高く、関数を定義しながらプログラミングを進めるという仕様は、BASICよりも技術習得に容易だった。
しかし、C#はオブジェクト指向という難解さと言語仕様の奇抜さ複雑さで、その特徴を生かして使うには、敷居が高い言語である。敷居は高いが、一度その敷居を超えるとこれまでの言語よりもプログラミング言語として使いやすい。本欄でその敷居を少しでも下げられたらという思いで書いている。
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昨日元ソニー現桜美林大学原田節雄氏の講演を高分子同友会例会で拝聴した。高分子同友会は高分子関係の企業幹部経営者の集まりである。高分子学会の関連団体のため材料メーカーばかりだが、高分子材料ユーザー企業の幹部社員や経営者にも魅力的団体であるはずだ。
こうした団体に所属すれば、怪しげなコーディネーターなど頼らなくても事業パートナーを探すことが可能である。コーディネーターというコンサルティング業務は便利なように見えるが、本来は、企業が自らそのスキルを身に着け事業を推進すべきで、重要なのはそのスキルの指導なり伝承で、弊社はそのメニューも用意していますのでご相談ください。高分子同友会については無料で事務局等をご紹介いたします。
ところで昨晩の講演は、「経営の本質とルールメーキングビジネス」というタイトルで、他の講師による類似タイトルの講演を写真会社在職中に聞いている。しかし、昨晩の内容は、それとは異なり、むしろビジネス交渉術や会議術、闘争術の要素に関するもので、新事業を推進するためにも参考となる経営スキル指南だった。
そもそも企業にとって新事業ではスキル不足に陥りやすい。当方も高純度SiCの事業を推進していた時にこれを痛感したが、それよりも面食らったのは、マネジメントとして怪しげなコンサルタントを何人も紹介されたことである。
ほとんどがコーディネーターであり、技術の本質を理解せず、表層の内容で不要なユーザー企業を紹介してくれる。そのたびにやらなくても良い業務が生まれ、本来の事業推進には役立たない無駄な業務をたくさんやらされた、という印象である。
さらにそのコンサルタントを雇うのに支払われた金額を聞いて呆れたのである。およそ無駄な仕事を増やしているにもかかわらず、当方の年収よりも高い金額が支払われていたのだ。当方はこの時の経験を反面教師として、担当者に無駄な業務発生が無いようなコンサルティングを心掛けている。
そのためには十分な言葉が必要になるとは昨晩の講演の内容であるが、弊社のコンサルティングを理解していただくために十分な言葉をこの活動報告で発信している。すなわち、弊社は技術の問題を表層でしかとらえられない巷のコンサルタントと異なり、技術の本質から事業というものに迫るコンサルティングを心掛けている。昨今モノづくりに不安を与える不祥事が続き不安を抱えている方もご相談ください。5月には材料の信頼性に関する講演会を予定しています。
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カオス混合という混練技術について知ったのは、新入社員の時である。防振ゴムを樹脂補強ゴム(TPEと呼ばれている樹脂と同一構造だが、射出成型できず通常の加硫ゴムのプロセスで成形体が作られる)で設計するテーマを担当したときである。
一年の予定が、たった3ケ月のテーマとなったが、開発処方は特許出願されて製品化に成功している。このテーマを担当していた時に、指導社員から混練技術の実務について濃厚な指導を受けた。
特に、パイロットプラントのバンバリーを操作し、20kgノンプロ練したゴムから100gほど使い、ロール混練(プロ練)して評価サンプルを製造した手順には驚いた。使用しなかったゴムは廃棄するのである。
大抵はバンバリー1バッチのゴムで加硫剤などを追加して10水準ほどのゴムをプロ練するので1kgほど使用するが、残りはボイラーの燃料となる。
もったいないと思ったが、指導社員は、ニーダーを使えば小スケールで練り上げることができるが、そのプロセスで最適化されても実用化の時には、今以上の廃棄サンプルが出ることになる、それが加硫ゴムの混練だ、と説明された。
すなわちバンバリーを用いたときと小スケールニーダーを用いたときでは、同一配合でも出来上がる加硫ゴムの物性が異なる、というのだ。その結果、小スケールニーダーで素晴らしい物性のゴムができたとしても、実用化できない場合も出てくるとのこと。
小スケールニーダーで製造したゴム物性が、大スケールのバンバリーを用いて製造したゴムのそれよりも悪いならば良いが、そのような結果になることは稀で、たいていは量産化で物性が悪くなり、ひどいときには実用化できない場合もある、と実験をやっているときによく言われた。
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科学の研究で行われる実験には、仮説が必ず設定されている。すなわち、実験とは仮説を検証するために行うものだ、と学校で指導される。企業でもそのような指導をする管理職がいる。研究開発の職場ではそのような人が多い。
特に、昨今の働き方改革で、仕事を効率よく行うためには実験量を減らすことができるこの仮説設定後の実験という方法は歓迎されているようだ。
これに対して、技術では基本機能を中心に実験が行われる。これを効率的に行う方法として、昔は実験計画法が採用されたが、今はタグチメソッド(必ずカタカナで書かなければいけない)が推奨されている。
ただし、基本機能の選択は技術者の責任であり、どのような基本機能を選ぶのかが重要で、そのための実験なり思考が必要になる。ところがこの部分を合理的にあるいは簡単に行う方法が公開されていない。
先日のNHKの特番は、ボーっとしていることがアイデアのひらめきに重要と報じていたので、基本機能を考えるのにもボーっとしていることが重要だ。上司はボーっとしている部下を見て注意してはいけない。ものすごいひらめきを生み出す瞬間を奪うかもしれないからだ。
ボーっとしている以外に基本機能を考え出す、あるいは決めるために科学と同様に仮説を設定して実験を行うことも悪くはないが、その実験に失敗したらどうするか。これについては昨日書いた。技術者ならばそれを否定証明に使ってはいけないのだ。
それでは、仮説設定による実験の代わりに技術者はどのように実験を行えばよいのか。それにはコンセプトを設定した実験が有効である。これが具体的にどのようなものかは問い合わせていただきたい。技術者が最初に行う実験では、仮説設定よりもこのコンセプトに基づく実験が重要である。
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ボーっとしているときにアイデアがひらめく、とはNHK特番から学んだ役に立つ情報の一つだ。最近は、電車に乗るときに本を読むのをやめて、ボーっとしている。ところが座ってボーっとしていて眠ってしまい乗り過ごすミスをした。
こうなると、アイデアのひらめきどころではない。役に立つ情報のはずが、ミスを誘発するとんでもない教え、と評価が変貌する。人間とは勝手な動物である。ボーっとする行動は、「ながら」でしない方がよい。特に自動車の運転では要注意。老人の事故や違反は厳しく批判される。
実は、ひらめき以外にアイデアをひねり出す良い方法がある。昔ベストセラーになったカッパブックスの「頭の体操」という本にもいくつか書いてあった。それらを実践してみて、良い方法と納得していた。これらは現代の脳科学でどのように説明されるのか知りたい。
さて、写真学会から賞を頂いたゾルをミセルに用いたラテックス重合法は、当方のアイデアを引き出すコーチングにより当時の部下が発明した技術である。面白いのは、その部下以外は皆コーチングの過程で否定証明を展開していたことだ。
積み重ねられた否定証明の山に当方もうんざりしかけたが、その部下は突然、あっと叫び実験室から当方の提案していた「あるべき姿」のラテックスを持ってきてくれた。それは、コアシェルラテックスの検討過程で実験に失敗したサンプルだった。
ある目的でゴールを目指して実験を行い失敗をする。しかし、その失敗で気にかかる現象があれば、コンセプトを現象に合わせて見直し再評価する作業は、技術開発で現象から機能を取り出したいときに、アイデア創出法として有用である。
これは、科学でいうところの仮説の見直しとは少し異なる。何故なら、実験の失敗が否定証明として使われることからご理解いただけると思う。
技術では、目の前に起きた現象を失敗ではなく、新たな現象として捉え、そこから機能を取り出す行為を実行する。すなわち、実験に失敗してもそこに新たな機能が生まれていないのか、現象そのもを見直す。科学のように失敗を前にしてロジックを見直すのではない。
コアシェルラテックスの開発では、コアとして用いたシリカにラテックス成分がシェルを形成するようにうまく巻き付かず、単なるラテックスとして合成される現象が、たびたび起きていた。科学者はこれを実験の失敗としてとらえるが、技術者は、シリカの新たな機能としてとらえるのである。
製品化が迫っていたので、ゾルをミセルに用いたラテックス重合法として特許出願、量産立ち上げを急いだ。某学会賞を受賞していたコアシェルラテックス技術を用いた製品よりも品質の高い新商品を開発できた。
これは、コアシェルラテックスよりもゼラチンを変性する機能が優れていたからである。その後、ゼータ電位の測定はじめ、ミセルとして機能しているのか科学的な分析を三重大学川口先生のご指導を頂き実施し、その発現を確認できた。この成果は学会等で発表している。
このようなことは書くべきではないかもしれない。写真学会では、高靭性高弾性ゼラチンの開発成果として賞を頂けたが、新しいラテックス重合法として臨んだ高分子学会技術賞の審査会では某先生から当たり前と批判され受賞を逃がした。
ところがその二年後、界面科学に関する科学雑誌で他の研究者からも、世界で初めてゾルをミセルとして用いた現象の紹介がなされた。それで、高分子学会の審査員の某先生は不勉強だった、と理解した。
アカデミアには、企業の失敗で得られた技術に対し新しい現象と捉え真摯に対応される先生がおられる。技術者はこのような先生を尊敬するが、自己の権威から新しい現象を前に笑い飛ばすような先生を愚かと思う。科学の手法が見直されるべき時代と感じているので、厳しい書き方をしている。
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カオス混合のアイデアは、PPS/6ナイロンをマトリックスに用いた中間転写ベルトの押出成形を眺めていて、成形終了時の音の変化からひらめいている。ひらめきは一瞬だったが、しかもその一瞬は、ぼーっと眺めていたときなので、NHKの特番で山中博士が説明されていたアイデアがひらめく瞬間そのものだ。
しかし、このアイデアがひらめくまでに、30年近くの年月がかかっている。カオス混合について教えてくださったのは、ゴム会社に入社したときの、神様のような指導社員だった。
ただしカオス混合がどのような混練技術であるかを習ったが、どのように実現するのかは、教えていただけなかった。さらにそれを考えるのが当方の仕事と言われていた。そのような指導だったので、業務が代わり、指導社員が女性に代わっても、カオス混合の実現方法を考え続けた。
すなわち、材料開発においてプロセシングの機能に力点を置き技術を眺める日々となった。材料のプロセシングについては、化学工学あるいはプロセス工学という分野である。今、たいていの大学では独立した化学工学の講座を開設している大学は少なくなったが、工学としてアカデミアで扱うべき大切な分野だと思っている。
しかし、その学問分野は学際的であり、アカデミックな扱いが難しいのかもしれない。また、その昔学んだ時に機械工学とどのように異なるのかその差異が不明確だったように、アカデミックは何を研究したらよいのか理解していなかった可能性がある。
プロセシングは単なる装置の学問ではないのだ。材料がその過程で様々な変化をしている。すなわち材料の機能を生む出すため、作りこむための機能の学問でなければならない。このような視点を本来は大学で学びたかったが、残念ながらゴム会社で学ぶ以外に方法がなかった。
ゴム会社の最初の指導社員は、レオロジーの解析を電卓一台で常微分方程式を解きながら進める理論派だった。それゆえ形式知に関して厳しかったが、プロセシングがどのようなものであるかは経験知として指導してくれた。
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老化防止剤やワックスその他の配合剤を用いないゴムがどのようなものかは教科書を読んでいただきたいが、形式知や経験知の観点で実用性のあるゴムなどこのような処方で製造できない。
一方、界面活性剤で問題解決できない、と形式知の観点で完璧な結論が出ていた問題に対して、どうしてまた界面活性剤のアイデアがひらめいたのか。それは、当方がこの増粘問題を界面活性剤で解決できない、と結論された否定証明を知らされていなかったからだ。
さらにその後当方の界面活性剤技術を特許として出願しているが、その特許を書く時でさえ界面活性剤という言葉を使うな、と指示され、そこではじめて研究報告書の存在を知らされた。仕事を開始して数か月過ぎてからである。
この界面活性剤で解決できないという完ぺきな否定証明をお手伝いの依頼されたときに読んでいたら、アイデアなど浮かばず一晩で結論を出せなかった可能性が高い。それでも、配合剤の入っていないゴムというものが耐久性のないことを即座に説明するような無思慮な対応は、しなかった。
しかし、情報を知らされていなかったことが、素直なアイデアのひらめきと、それを確認する実験につながった。そしてこの実験結果は、一年もかけて研究したのに隠されていた報告書の内容を完全にひっくり返すような結果だったので、相手を怒らせたのかもしれない。さらに、その結果はたった一回の一晩静置するという簡単な実験からえられていた。
今冷静に考えるとこの時のマネジメントは極めて稚拙である。当時当方は一般的な職位でいえば係長の役職にいた。そのような立場の者に対して、ただ黙って仕事を手伝え的な依頼の仕方は非常識だろうし、少なくとも同じ社内で同じテーマを担当する研究者にテーマに関する情報をすべて開示しないという秘密主義もおかしい。
その非常識な依頼に対して、当方は臥薪嘗胆し、静かにそして謙虚に実験結果を示したのだが、このようなお手伝い依頼の背景では、否定証明をひっくり返したような実験結果となって、せっかくの忖度も、「モリカケ問題」同様に悪い状況を生み出してしまった。ゆえに忖度をしなくてもよい組織が理想であり、これはドラッカーの遺言でもある。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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高純度SiCの事業化を一人で推進していた時に、電気粘性流体の増粘問題が研究所で大きな問題として扱われていた。これは、その後当方が界面活性剤で解決した問題だったが、当時優秀な人材が一年かけて界面活性剤では問題解決できない、という結論を科学的に出していたのでややこしい。
ただ、この結論は電気粘性流体を実用化するときに避けられない問題であり、その解決策と問題そのものは極めて重要な形式知と位置づけられ、社内でも機密扱いにされ、本部内の報告会でも扱われなかった。
そしてこの電気粘性流体の増粘問題を解決するため、界面活性剤では問題解決できないという結論を出したメンバーにより、電気粘性流体を増粘させないゴム材料の開発という新たな企画がなされた。
その企画のお手伝い役として当方に一部仕事が回ってきた。住友金属工業とのJVを進めようとしていた頃だったので、何とか断りたかったが、本部長命令だという。高純度SiCの事業化は、本部長が交代した時に、どうでもよいテーマになっていた。
ただ、この時どうでもよいテーマになってはいたが、一年後には、当方の転職の決断で大きなテーマになり、現在まで事業がつづいている。電気粘性流体の増粘問題が、転職問題に変わったのは、このお手伝いがきっかけだった。
お手伝いを言ってきた人に、配合剤が電気粘性流体のオイルに抽出されないゴム=配合剤の添加されていないゴムという意味か尋ねたところ、それに近いという。すでにオイルに抽出される添加剤は解明されているので、それらを用いなくてもよいゴム(加硫剤も入っていないようなゴム)を開発するのだ、と真顔で、少し考えれば間抜けな説明をそのリーダーはしてくれた。
どこが間抜けかはここで詳しく書かないが、反射的に、増粘した電気粘性流体を欲しい、とお願いした。そんなものは実験室にたくさんあるから自由に使ってよい、と言われたので、耐久試験時間が一番長くヘドロの様なもっともひどい状態の電気粘性流体を頂いた。
そしてそれらを300個程度サンプル瓶にわけて、それぞれのサンプル瓶に手元にあった界面活性剤を一滴ずつ添加し、サンプル瓶をよく振ってから一晩放置した。翌朝配合剤の添加されていないゴム開発というテーマを担当しなくてもよくなる、素晴らしい結果が得られていた。
すなわち、電気粘性流体の増粘問題を解決するアイデアは、お手伝いを頼まれた仕事がゴムの常識から考えてあまりにもばかげていたので、ショックであきれた瞬間にひらめいたアイデアである。
常識にとらわれないアイデアとは、実現可能性が明らかに存在しないときに、それを聞いた人をびっくりさせる。しかし、それが素晴らしい内容の時には感動を呼びおこすが、ほとんど苦労してよく考えていないと思われるばかげた内容の時には、相手を忖度した行動を引き起こす。サラリーマンとして、150年以上のゴムの歴史から考えるとばかげた企画だと即座に断れなかった。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
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科学者は科学という哲学を頼りに仕事をしているが、技術者は第六感も含めたすべての感覚を働かせながら自然を眺めている。この時必ずしも科学という哲学は必要ではない。
科学者と技術者とがコラボした結果、うまく発展している分野がある。高分子である。当方が大学で高分子を学んだ時に一次構造、すなわち分子レベルの構造が重要と習った。
また、高分子の歴史的認識において、その分子の大きさが着目されてきたこともあり、ノーベル賞を受賞したフローリーの研究もずばり高”分子”に関する基礎研究であり、実用性の乏しい研究成果だった。
この一次構造に対して高分子の塊として現れる現象や機能性については、おおざっぱにとらえられて高次構造と呼ばれていた。
DNAの二重らせんを二次構造と呼ぶ科学者もいたが、当時はこれも高次構造の一つとして扱われた。
研究の着眼点として高分子を階層的に取り扱おう、という動きが出てきたのは技術者からである。技術者が高分子の機能と高次構造の関係の重要性に気がつきアカデミアへ相談するようになったのである。
当方が社会に出た1980年前後のころ、企業の技術者はすでに高分子を階層的にとらえていた(注)。アカデミアでは一次構造と高次構造だけであったが、技術者は、高分子材料物性の細かい機能性を取り出す必要性から、自然とその階層性を問題にしなければいけなくなった。
このモノの見方にアカデミアが飛びついたのだ(注2)。2000年の精密制御高分子プロジェクトや、20世紀末に行われた土井プロジェクトは高分子の階層性について一定の成果を出した重要なプロジェクトである。
高分子物理は、多少のおおざっぱさをその論理に認めつつ、素粒子物理とは少し異なる哲学で発展している科学として稀な分野である。
一方技術者は高分子物理の科学体系がうまくできていなくても自然を経験知や暗黙知で階層的に眺めることにより、上手に機能をそこから取り出すことに成功している。
(高分子科学は技術を科学が追いかけている状態だ。当方の開発したカオス混合機の機能については、いまだに科学で説明できない。しかし、この装置を使うとポリマーアロイをナノオーダーで美しくできる。当方が自然現象眺めていたのは科学という哲学とは異なる方向からで、それを具現化したのがこの装置である。)
恋は人を盲目にして既婚者も独身者も区別せず許される、というのが瀬戸内寂聴氏の見解であるが、仏教も科学同様の倫理と異なる哲学なのだろう。倫理という人の自由を束縛する考え方を排除しているのかもしれない。
高分子科学者はその昔、素粒子物理学者と同様に高次構造を区別せず細かくなる方向で眺めていた。しかし、40年ほど前まで一次構造を重要と言っていたことを忘れ、今はその階層性に心をときめかせている。
(注)当方の新入社員時代に担当した樹脂補強ゴム(一年間のテーマだったが)では、最も高次の構造は、ゴム相で島が形成され樹脂相で海となっていた海島構造が観察された。さらにその下位の構造として樹脂の結晶性が物性を支配していた。さらにゴムの架橋密度も他の力学物性に効いており、この階層性と機能の関係が商品設計の重要なツボであり、これを3ケ月でまとめた。指導社員は大変優秀な人で午前中座学で形式知の伝承を、午後は実技で経験知の伝承という指導方法だった。指導社員は定時退社される人だったので、翌朝までは自分の暗黙知を蓄積する時間となった。
(注2)セラミックスフィーバーで固体物理の分野が急速に発展した。強相関物質という概念が誕生し、これを高分子に応用した、という説もある。しかしセラミックスと高分子の両者の研究をしてきた立場から見ると、固体物理の強相関物質という分野をご存じない先生もおられる。それゆえ科学という哲学の視点よりも技術者の影響が強いと思っている。
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