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2016.07/22 特公昭35-6616特許

ゴム会社から写真会社へ転職して感動した体験の一つに表題の特許との出会いがある。ゴム会社のキャリアはセラミックスの研究者であり、高純度SiCの研究は学位論文の半分を占めている。そのような当方にとって、この特許の存在とこの特許出願後の業界における技術開発の動きは小説を読んでいるような気分にさせてくれた。
 
この特許は、酸化スズという材料を透明導電体として用い、実用化レベルまでの技術へ世界で初めて完成したことを示している。転職した写真会社では、この特許を1件出願後関係する技術の出願を中止している。あたかもノウハウとして社内で蓄積しているかのような動きである。
 
ライバル2社からは、五酸化バナジウムやアンチモンドープの酸化スズを用いた技術の特許開示が30年間続いた。すなわち、透明導電体を帯電防止層に用いる技術は30年近く実用化されず、特許出願だけが続けられた。
 
しかし、転職した写真会社では、この間にアルミナゾルという絶縁体を帯電防止層として用いる技術を完成し、カラーフィルムに搭載している。これは、アルミナゾルに微量に含まれる不純物がイオン導電性を示すために実用化できた技術で、表題の特許とは技術が異なるように見える。
 
表題の特許では、電子伝導性を示す材料が使用されており、現像処理後もその導電性が残っているが、アルミナゾルを用いた帯電防止層ではイオン導電性のため現像処理後、キャリアであるイオンが抜けて導電性が無くなる。
 
しかし、驚くべきことに、アルミナゾルはパーコレーション転移を起こしており、クラスターが形成されていたのだ。これはインピーダンスを測定して明らかになった。すなわち表題の特許技術のキモは、このアルミナゾルの開発の頃(1980年前後)まで20年近く伝承されていたのだ。しかし、その10年後この技術の伝承の痕跡は、転職した会社でも無くなっていた(注)。
 
(注)この技術の担当部門から、カセットテープやフロッピーディスクなどのマグネ事業が起業されている。転職したときに、多額の赤字事業の状態を見てびっくりした。この状態を見て、高純度SiCを長い間一人で担当させられた理由を十分に理解できた。

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2016.07/21 とにかく明るい安村(3)

裸が重要と勘違いしたライバル会社は、あわててアンチモンをドープした酸化スズ(ATO)を用いた帯電防止層の特許を発明として出してきた。これは、当時インジウムをドープした酸化スズ(ITO)と同様に、透明導電体として知られていた。
 
すなわち、特公昭35-6616を比較例としたライバル会社の特許は、透明導電体というあたりまえの材料をあたかも特殊な技術のように書いた二番煎じの特許で、裸のお盆芸人と同じ発想に由来している。
 
特公昭35-6616特許に用いられた高純度酸化スズゾルは、合成条件により絶縁体から導電体まで変化する。さらに仮に導電体の酸化スズゾルを合成できたとしても、それを水溶性のバインダーとともに混合するとパーコレーション転移がおきにくく、その結果この混合液を塗布してできた薄膜は絶縁体となる。
 
特公昭35-6616特許では、パーコレーション転移を制御できて、すなわち、合成条件も最適化された導電性のある酸化スズゾルとパーコレーション転移制御技術と組み合わせて初めて技術として完成する複雑で難解な発明なのである。この複数の因子が重ね合わさって初めて帯電防止層の技術として完成する点が、とにかく明るい安村の芸に通じるところがある。そして、「安心してください」に相当するフレーズはパーコレーション転移である。
 
パーコレーション転移は、数学者が示したように確率的な現象で、制御できなければ技術として安心して使えない。特公昭35-6616は、これを安心して使えるように示した特許である。すなわち「安心してください、転移を制御していますよ」である。
 
とにかく明るい安村は、そのわかりやすい芸で日本中の笑いを取ったが、特公昭35-6616は、難解ではあるがその先進性でライバル会社を刺激し、300件近くのお盆芸人特許を出願させた。
 
しかし、多数の特許はすべて乳剤との組み合わせ特許で、一番のキモとなる、すなわち技術の要となるパーコレーション転移の重要性を示す技術に発展しなかった。約30年後当方が転職して、その特許と出会い、その技術の神髄を復活できたのは偶然(注)だった。この特許に出会い、転職時のもやもやは少し癒やされた。
 
(注)当方がセラミックスの専門家であったことと電気粘性流体の開発でパーコレーションという現象を調べていたことは、偶然のできごとである。当時材料関係の論文では、その考察を複合則で行っていたケースがほとんどで、パーコレーション転移で考察していたのは、東工大の住田先生の論文だけだった。しかし、その論文は少し難解だった。転職した会社で特許戦略による出願を終えると、すぐに日本化学会で発表活動を行った。その過程で当時の若手部下が講演賞を受賞している。また、初めてこの技術を実用化した印刷感材では印刷学会賞を、一方帯電防止層については日本化学工業協会から技術特別賞を受賞している。
 

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2016.07/20 とにかく明るい安村(2)

昨日のこの欄の内容について問い合わせがあった。安村氏の芸では裸が重要ではなく、裸は一つの因子だ、と述べた記事である。この話と酸化スズゾルの関係について問い合わせが来た。
 
繰り返しになるが、とにかく明るい安村の芸は、多数の因子の組み合わせにあり、「安心してください」という台詞が最も重要なポイントで、裸に面白さがあるわけではない。その比較例として素っ裸の状態でお盆を用いた芸を紹介した。
 
自然現象の観察や他社のリバースエンジニアリングその他技術開発ですばらしい機能に出会ったときに、その機能のすばらしさの本質を見誤り、本質とは異なる部分を真似て単なる二番煎じの技術を生み出すような技術開発をするケースがある。
 
ちょうど安村氏の芸で「裸」が万人にうけた原因と取り違え、お盆を巧みに操る芸を演じた芸人と同様のケースである。この芸は宴会芸としてはうけるかもしれないが、お茶の間のすべてをうならせるほどの芸では無い。「安心してください」という本質を真似ていないからである。
 
酸化スズゾルの帯電防止層の特許が初めて公開されたときの時代、1950年代は、酸化スズの導電性が発見され、その透明導電体としての機能が注目された時代である。ただし、1980年代になって、高純度酸化スズ結晶は絶縁体であることが無機材研の研究で明らかにされた。
 
酸化スズの導電現象がどのような機構なのかはこの30年間に十分研究されたが、アンチモンやインジウムがドープされたときにだけ、酸化スズに高い導電性が出ることは早くから知られていた。むしろ高純度酸化スズは絶縁体ではないか、という疑いがもたれていた30年間である。
 
ゆえに酸化スズの研究の歴史の流れからは、酸化スズを帯電防止材として用いることが可能、ということは昭和35年頃に勘の良い技術者であれば分かっていた。これは、小島よしおの裸芸がうけた状況と似ている。
 
「そんなの関係ネエ」という台詞が大受けしたのである。裸は、笑いの一つの因子であり、酸化スズではそれが導電性なのである。すなわち特公昭35-6616が長い間注目されなかったのは、単なる裸芸と勘違いされ、当たり前と受け止められていたからだ。(続く)
  

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2016.07/19 とにかく明るい安村

とにかく明るい安村が話題になっている。過去に不倫報道が流れたのだが、その後「安心できない安村」ということらしい。「安心してください、はいてますよ」は流行語大賞にもなった。しかし、今年はあまり話題になっていない。お笑い番組そのものも「笑点」以外低調である。
 
この安村氏の芸を初めて見たときに、そのばかばかしさに思わず笑った。安村氏ではなく美人の女性が演じていたならばこのような笑いにならなかったろう。ところで40年ほど前に写真家加納典明氏がラジオ番組で、自分の撮った写真を誰にでも見てもらいたいなら美しい女性をモデルにしたヌード写真を撮れば良い、少なくとも半数の人が見る、と語っていた。
 
常識的にはおよそ見たくもない腹の突き出た中年の裸を一年間日本中が見ることになる時代が来るとは、加納典明氏も考えていなかったろう。あの裸芸の凄いところは、ばかばかしさ以外に安村氏の体型や、キャラクター含めすべてが組み合わさっているところだ。おそらく何か一つの要素が欠けても日本中を巻き込んだ笑いにはならなかったろう。
 
当方は最初こそ笑ったが、あの芸を考え出した安村氏のアイデアに感心した。その後この芸を真似て真っ裸でお盆だけで隠す芸人を見かけたが、あまり話題にならなかった。やはり安村氏のすべての条件が揃って笑いにつながっている芸には、要素を抽出し練り上げた一発芸としての凄さがある。
 
裸で芸が行われているが、裸であることが最重要な要素ではなく、「安心してください」というフレーズこそこの芸の最も重要なポイントだろう。誰も心配などしていない。しかし、このフレーズでばかばかしさに気がつくのである。そしてそのばかばかしさに笑っているのだろう。
 
お盆で大事なところを隠す芸を考案した人はこのことに気がつかず、裸であることに着目し新たな芸を考案した。しかし、それは安村氏の芸ほどうけなかった。技術にも類似の出来事がある。例えば特公昭35-6616は、酸化スズゾルを透明導電体として帯電防止層に用いた世界初の特許である。
 
その後この特許を回避するためにアンチモンをドープした酸化スズ(少し青みがあり酸化スズゾルのような完全な透明導電体とならない)を帯電防止層として用いた特許がライバル会社から出願されている。30年ほどおびただしい数の特許がその会社から出願され続けたのだが、お盆で隠す芸同様にさほど話題にならなかった。
 
ところが特公昭35-6616特許の最も重要なキモはパーコレーション転移をプロセシングで制御していた点である。30年間だれもそのことに気がつかなかったわけだ。そこで1992年に複合則よりもパーコレーションの概念が重要であることを日本化学会の年会や帯電防止技術のセミナーなどで当方は講演し化学工業協会から技術特別賞まで頂いた。
 
その後絶縁体に導電体微粒子を分散するときの考察に複合則ではなくパーコレーションの概念を用いる考え方が普及し、今では微粒子の分散技術を考察する重要な概念としてそれは認められている。芸でも技術でもその凄さの本質を見いだし、真似ることは新たな創造につながるので大切である。 
 
 
(注)パーコレーションという概念は数学の世界で昔から研究されていた。材料関係にこの概念が用いられるようになったのは、1990年前後で当方がパーコレーションのシミュレーションプログラムを論文にしようとしたときに調査したら、1991年に雑誌「炭素」で同様の論文が発表されていた。また同じころ東工大住田教授の論文も発表されていた。しかし、当時、材料系の教科書には混合則が概念として用いられていた時代である。微粒子が分散するときのクラスター生成の研究ではパーコレーションの概念を用いることが今では常識となった。

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2016.07/18 セミナーのご紹介

この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致しました。
 

いずれも異なるセミナー会社の主催で行われましたが、リクエストがございましたので下記予定で7月と8月も開催します。一部内容は重複致しますが、過去の講演と同様に新規内容を盛り込み企画しています。また、弊社で現在展開しております二軸混練装置の販売につきましても状況をご報告させていただきます。
 
7月の講演会では、樹脂用の新添加剤のご紹介をさせていただきます。また、カオス混合技術につきましても過去の講演会同様に解説致します。
 

8月の講演会におきましては、シランカップリング剤の添加では問題解決できなかった熱電導樹脂を事例に、フィラーの分散制御技術の盲点を独自の視点で解説致します。
 
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。弊社で申し込まれましたお客様につきましては特典がございますので是非お問い合わせください。
   

1.機能性高分子におけるフィラーの分散制御技術と処方設計

(1)日時 8月25日  13時-16時30分まで

(2)場所:高橋ビルヂング(東宝土地(株)) 会議室 (東京都千代田区神田神保町3-2)

(3)参加費:43,200円
 

2.9月以降に機能性高分子の難燃化技術の講演会を2回ほど行います。お問い合わせください。

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2016.07/17 支持政党なし党

先週開票が行われた参議院選挙で支持政党なし党が注目を集めたらしい。64万票の得票である。ポスターに顔写真の無い点が気になっていたが、ポスターの位置も含め綿密な計算の上だったらしい。
 
代表の佐野秀光氏のインタビュー記事などを読むと泡沫候補ではなく、立候補に至った考え方も今の時代の政治を考えると、なるほど、と同意できる意見を語っている。この政党の考え方や主張が正しく理解されたのなら、ある一定数は当選するような党に成長するのではないだろうか。
 
佐野代表の語った活動方針を読むと、政策が無いという奇抜なアイデアを持っている。もし国会に議員を送り込むことができたなら、他の党が提出する法案についてネットで詳しく解説し、支持者の意見をまとめ、国会で意見を述べるのだという。
 
すなわち国政へ国民が直接参加するような状況を作り出す野心を持たれている。政治家が政治家として活動するのではなく国民の声の代表として活動するというそのままを実現したいようだ。
 
しかし、政治家には国民の声の代弁者という側面以外に、国をあるべき姿に向けてリードしなければいけない役目がある。その役目を放棄した政治家を目指そうというのがこの党なのだ。
 
面白いのはこの点で、このような発想に至った経緯を是非お聞きしたい。代表自身はこの点の問題について理解されているようで、自分たちが与党になったら日本がおかしくなりますよ、といっている。
 
投票前はいい加減な政党と捉えていたが、現代という時代をうまく捉えた政党のようでもある。特に応援するわけではないが、単なるパロディー政党にならないよう活動して頂きたい。

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2016.07/16 ジャニーズ事務所

SMAPがTBS「音楽の日」(16日)とフジテレビ「FNSうたの夏まつり」(18日)の出演を辞退していたことが14日報じられた。各テレビ局からジャニーズ事務所へSMAPの出演を要請していたという。
 
しかし、「今年は新曲のリリースをしておらず、十分なパフォーマンスができない」との結論に至り、両番組の出演を辞退したという。両番組ともNHKの紅白歌合戦とまではいかないが、夏の風物詩番組として定着している。
 
ジャニーズ事務所のこの対応に関していろいろ憶測が流れているが、素直に捉えると、ジャニーズ事務所が芸能界で安定した地位を占めている理由が分かる出来事である。
 
SMAPほどの実績があれば、新曲の発表など無くてもおそらく両番組の司会者が勤まるだろうと思われる。しかし、あくまでも歌手グループSMAPが歌番組で司会をするという点に拘ったならば、このような判断は、正しい。
 
しかし、TV曲は司会の力量を認めて指名で依頼しているので過去のいきさつからいろんな憶測が出てくる。それらを考慮しても歌手SMAPの価値に事務所側が拘ったとしたならば、ジャニーズ事務所は品質に厳しい事務所という評価になる。
 
ジャニーズ事務所にはSMAPのようなグループの若手が多数育ってきている。売れ筋の良品を多数抱えている企業ならではのマネジメントだろう。
 
かつてゴム会社ではCIを導入し、幾つかの新事業開発を1980年代にスタートしている。電池、メカトロニクス、バイオ、ディスプレーなどいずれも技術はそこそこのレベルまで到達し、新事業として育ちそうな雰囲気のテーマだった。ポリアニリンLi二次電池は日本化学会技術賞まで受賞して直後事業を撤退している。
 
その中で、担当者一人に減らされても細々と続けられた高純度SiCの事業は、30年以上続き、最近は、新事業扱いではなくなり化工品の一事業と扱われるまでに成長した。ゆとりのある企業は厳しいマネジメントを行うことにより、最高の品質を生み出す事業を世に送り出すことができる。
 
(追記)音楽の日の司会は、安住さんと中居君です。

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2016.07/15 石棺

東京電力福島第一原発事故の廃炉作業において石棺が検討されている。今更だが、原子力技術について関係者の無責任な仕事のやり方やアカデミアの軽薄さが伝わってくるニュースである。結局原子力技術は政治力無くして解決のつかない分野であることが明確になった。
 
当方が大学受験を目指した時代は二度のオイルショックの影響も有り、原子力工学科の偏差値は医学部並みのところもでるなど高かった。当時優秀な人材が原子力工学を目指し、優秀な彼らの努力の結果が福島の石棺となろうとしている。
 
福島の事故で最も反省しなければいけないのは、最悪の事態の想定が全く成されていなかったことである。これは誰が言い訳をしたとしても現実はそのようになっている。公害の経験が生きていないばかりか、PLさえも無視されている。
 
津波の可能性を統計で扱ったり、津波が防波堤を越えたときのための非常電源が建屋の屋上におかれず、防波堤よりも低い位置に置かれていたり、非常用電源のコネクターが規格品でなかったり、センサーの電源が外されていたり、発電所の全体像を把握している人がいなかったりと、事故当時に様々なヒューマンエラーが見つかったのにその責任は問われていない。
 
さらに最近では凍土壁の失敗で夏休みの工作感覚の対応である。福島の事故で原子力関係のアカデミアや技術者は本当に深く反省しているのだろうか。もし石棺にするようなことがあれば大問題である。それは日本の原子力に関わってきたアカデミアや技術者の怠慢の象徴となる。
 
原子力工学は他の学問と異なり、過保護過ぎた。その結果としてアカデミアも技術者も、そして事業責任者もあぐらをかいてきたのである。もし関係者にプライドと真摯に学問や技術開発を進めてきた自信があるならば石棺を回避し公園と海水浴場にするぐらいのアイデアを提案して欲しい。
 
原子力発電は発電方式として最もコストのかからない方式として説明されてきたが、石棺にした場合には、その周辺の価値の消失も含め発電コストを考えなければいけない。現在福島で行われている作業も含めると、本当は最もコストのかかる発電方式ではないだろうか。
 
(注)この欄は、7月15日早朝書きました。16日の朝のニュースで、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元理事長は15日、東京電力福島第一原発の廃炉に向けた戦略プランで、溶融燃料(燃料デブリ)を取り出さず原子炉を覆う「石棺」方式に言及したことに関して「石棺」の表現を削除する意向を表明した。」とのこと(16日追記)。
 

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2016.07/14 実験のやり方

科学的方法では、実験は仮説を確認するために行う。ゴム会社の研究所在職中には、仮説の重要性を厳しく説かれる方もいたが、指導社員のように、実験ではまず新しい現象を見いだすことが重要という方もいた。
 
その方によれば、仮説を確認するための実験は暇なときにやれば良く、新しい現象を見いだすために実験を行う、すなわち特許に書ける「驚くべきこと」が見つからなければと新しい技術を生み出すことができない、と教えられた。
 
京都大学理学部大学院を出てこられた方にしては「テキトー」な考え方に当初は感じたが、その方の仕事ぶりは「テキトー」ではなく、数値計算のシミュレーションを用いたエレガントなやり方だった。
 
ただ、ゴムという材料が計算通りの物性にならない、プロセスの影響の大きく出る材料という現実を体験し、独自の哲学に至り、その結果陰で泥臭い試行錯誤の実験をやる習慣になっていた。
 
その姿は弟子の立場でなければ見ることができなかった。なぜなら課内会議ではエレガントな報告だけ成されていた。そして実験は仮説を証明する最低限の結果だけでまとめられていた。
 
このような仕事ぶりが良いのか悪いのか、という議論はナンセンスで、科学的な仕事が推奨される環境では、このようになってしまう。
 
この方はアイデアマンで知られていたが、アイデアがなぜ豊富に出てくるのかを知っている人はいなかった。弟子として感謝しているのは、無駄知識を有益なアイデアに変換する手法をその方の仕事ぶりから学ぶことができた点である。
 
実験では時々「失敗」という無駄に遭遇する。しかしこの失敗には有益な情報が含まれている。仮に凡ミスであったとしても、それは予期せぬデータである。そこから学ぶべきことを抽出し、サンプルを廃棄する、凡ミスでも無駄にしない姿勢は大変参考になった。
 
実験を仮説の検証の方法と位置づけるのは科学の基本であるが、実験を自然現象との対話の機会として位置づけている人は、自然界から機能を取り出さなけれなならない技術者である。   

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2016.07/13 アイデアの生み出し方

昨日の耐熱可塑剤のアイデアは、ナイロンの相溶を実現したときに生まれた。PPSにナイロンが相溶するとTgが下がる。その結果PPSの耐熱性が下がることになる。PPSの耐熱性はそのままに溶融温度を下げ、混練しやすくできる添加剤はできないかというのが最初の着想である。
 
高分子に低分子を添加すると可塑化効果が観察される。すなわちTgやTmが下がる。しかし、うまく添加剤を設計してやればTgを下げずにTmだけを下げることができるのではないか、と考えた。
 
詳細は省略するが、新しいアイデアは常識を疑ったり否定したときに生まれる。科学の世界では、科学で正しいと思われていることを一度疑ってみると新しいアイデアが生まれる。
 
STAP細胞のアイデアもそのようにして生まれ、大騒動になり、STAP現象の存在がドイツの研究者らにより発表され、と面白い展開になっているが、教科書に書かれていることがいつも正しいとは限らないのだ。
 
教科書に書かれていることを疑うのは勇気がいる。ましてや、それを口に出すときには馬鹿にされることを覚悟しなければいけない。だから、現象が再現良く見極められるまではこっそりと実験を行う必要がある。STAP細胞は再現性が乏しい段階で口にしたから大騒動になった。
 
新しいアイデアを実用化するには多くの障害を越える必要も出てくる。高純度SiCの事業化経験はそのための貴重な財産である。アイデアをどのように展開し、実現してゆくのか、困っている方は一度相談して頂きたい。
   

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