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2016.05/18 マネジメント(2)

職場の先輩から、指導社員が毎日就業後囲碁や将棋を指していることを教えていただいた。いろいろな職場の方たちと勝負しているとも聞いた。会社内でもその腕前はトップクラスでどこからか毎日対戦を求められているそうだ。
 
就業後は指導社員が必ずいなくなるので、当方は一人で自由に仕事ができた。最初の一か月は教えていただいたことを何度も何度も反復練習し、実技習得に努めた。おかげで社内の実験室にあるバンバリーやブラベンダー、ニーダー、二本ロールに三本ロールすべて使えるようになった。
 
タイヤのパイロットプラントにあるバンバリーの運転方法も習得した。これは指導社員から特に力を入れて教えられたことだ。そしてサンプルを作るときには必ずその設備を使うように言われた。大半の研究所の人は研究所内のブラベンダーやニーダーを使っていたが、それらはせいぜい練習用だ、と教えられた。
 
1ケ月が過ぎ、開発に使用する材料がすべて揃ったから、と工場の原材料倉庫に連れていかれた。そしてそこから材料を実験室へ搬入する手順やらを細かく指導されて、明日から一人で1年間かけてすべての材料を評価し、シミュレーションで導かれた物性が得られたならば教えてください、と言われた。
 
途中経過は、データがまとまっておればよく、とにかくシミュレーションと同じ物性の処方が見つかるまでは、報告しなくてよい、ケガだけは注意してくれ、と言われた。課内会議で、月報はどうしましょう、と尋ねたら、書きたかったら当方一人で報告してよいとも言われた。
 
指導社員の月報には、毎月座学の一部の内容が書かれていた。指導社員に「もしかして座学の内容は今年1年の月報のまとめですか」とたずねたら、「そうだ、これが僕の仕事の仕方だ」と答えられた。1年後には、樹脂補強ゴムができたことになっており、その処方も教えられていた。
 
この会話で、指導社員はすでに一つ、実用的な樹脂補強ゴムの処方を持っていたこと、そして当方の仕事は、その処方の裏付けデータを得ることであると理解できた。
 
しかし、指導社員は当方の仕事について単なるシミュレーションの実証実験という説明の仕方をしていなかった。あくまで新材料の開発が当方のミッションと言われていた。リーダーのこのような仕事の仕方を社会人なりたてのときに学びその後の人生に大いに役立った。
 
仕事について、一年後得られるであろう成果の見通しをあらかじめ得て、その戦略と戦術を仕上げておく、という仕事の仕方は当方のスタイルとなった。入社して4年後2億4000万円の先行投資を受けてスタートした高純度SiCの事業も、無機材質研究所へ留学する前に、リアクティブブレンドによる前駆体合成技術の成功を確信していた。

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2016.05/17 マネジメント(1)

「組織に成果をあげさせられるマネジメントこそ、全体主義に代わる唯一の存在」とは、ドラッカーの言葉である。そして彼の著書「マネジメント」には、賞罰こそ、組織の目的、価値観、そして自らの位置づけと役割を教える、と語り真の管理の在り方を示している。
 
組織社会において、知識労働者は皆エグゼクティブ、というのもドラッカーの言葉である。すなわち現代の知識労働者には全員に少なからずのマネジメント能力が求められている。そもそもマネジメントとは何か。これもドラッカーは、「人をして成果をあげさせる行為」と説明している。
 
また、知識労働者は一人で成果をあげることはできず、他の人に自己の知識の成果を与え成果を出す働き方になるとも書いている。
 
新入社員として10月に研究所へ配属され、物理が専門の指導社員と出会った。毎日朝1時間から2時間程度座学があり、その後実験室で実技指導があった。これが1ケ月ほど続いた。1:1の座学でも眠くなる時には睡魔に勝てない。しかし、指導社員は注意されなかった。1:1なので2分以上意識が無くなることはなかったが、こっくり頻度は多くそれでも叱られたことがない。
 
しかし、注意はされないが、一方的に講義を続けており、意識が戻った時にホワイトボードが消され始めるとあわてて、「待ってください」と叫んでしまう。そのとき申し訳ない気持ちになり、1ケ月後には会議中でも居眠りをしなくなっていた。
 
「気づき」で会社の居眠りが悪いことを学んだ。さらに、この指導社員は博学だった。当方の質問に対して答えられなかったことは3ケ月間一度もなかった。社内のこともよくご存じだった。恥ずかしながら、当方がこの指導社員と同じ年齢になった時、社内の半分もよくわかっていなかった。
 
新入社員実習でS専務に説教を受けたお話をしたら、S専務のキャリアと人脈を教えてくださった。どこからこれらの知識を得ているのか知りたかったが、それは教えてくださらなかった。ただ、この指導社員は就業時間の終了を知らせるチャイムが鳴ると毎日どこかへ姿を消す習慣があった。
 
 
 

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2016.05/16 研究開発の進め方

三菱自動車燃費不正問題で開催された複数の記者会見における回答から自動車産業における研究開発の進め方が見えてくる。
 
1980年代にアメリカで普及し日本に導入されたステージ-ゲート法(以下SG法)はどの産業でも使用されているようだ。しかし、その進め方、審議の仕方は産業ごとにあるいは企業ごとに異なると思われる。三菱自動車では役員が出席しない審議のゲートもあるとのこと。
 
30年間の研究開発人生でゴム会社と写真会社の二社を体験し、写真会社では写真フィルム開発や電子写真いわゆる複写機開発というそれぞれ異なる技術分野の商品の開発も体験した。それぞれの事業で研究開発の進め方は異なっていた。
 
写真会社ではSG法の導入は無かった。しかし、電子写真に用いる中間転写ベルトの開発では、デザインレビューと称するゲートが存在し、SG法のような進め方がなされていた。しかし、その審議方法は、ここでは書けないが、あまり適切な審議とは思えなかった。よくないから短期間にコンパウンド工場建設を行えるような仕事の進め方ができたともいえるが(この意味で、本当はよかったのか?)。
 
ゴム会社で、まったく異分野となる半導体用SiCの研究開発をスタートできたのはSG法が導入されていなかったおかげである。会社の50周年記念論文に提案してもボツになり、昇進試験の答案に新事業の夢として書いても0点をつけられたり(ただし翌年は同じ答案で100点になっている)散々な経緯があって、無機材質研究所における5日間の研究で会社の2億4000万円の先行投資が決まった。
 
これは無機材質研究所でちょっとした騒動になったが、STAP細胞の様な騒動ではない。留学中に会社の昇進試験に落ちた研究員のモラルアップのため許可された、1週間だけという制限付きの自主研究で大発明が完成した騒動である。真っ黄色の高純度粉体が5日間の実験で見いだされた簡単なプロセスでできたのである。それも回数で示せば、たった一回の実験で。
 
0点をつけられた昇進試験答案に書いた内容の方法で実験をした、と会社の人事部長に報告したら、会社も大慌てになった。ただし会社の研究所だけは、意地でも相手にしなかったという。
 
しかし、無機材質研究所のほうでは話がどんどん大きくなっていきそうな気配がしたので、人事部長に相談したら、すぐに会社へ戻ってこい、ということになった。
 
このあたりの経緯は書きにくいことばかり(注)だが、結局無機材質研究所で基本特許を書き、それをゴム会社が斡旋を受ける形でゴム会社の研究開発がスタートしている。
 
STAP細胞と異なるのは、再現の良い技術として出来上がっていた、という点である。その後最適化実験等いろいろ行ったが、無機材質研究所で行われた実験条件が最も良かった。この時いわゆるアジャイル開発という研究開発の手法を思いついた。ご興味のある方は問い合わせてほしい。
 
(注)会社の研究所では、反対者が多かった。現在でも事業が継続されている状況から、その時のことを事細かく書いたら傷つく人も多い。ただし経営陣の支援は現在まで事業が継続された力であると同時に当時も研究所で一人で頑張ることができた力でもある。会社には十分に貢献したがお世話にもなり複雑な気持ちで転職した。転職した理由はドラッカーの教えに素直に従っただけである。

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2016.05/15 日産自動車が三菱自動車を傘下に

日産自動車が三菱自動車へ30%以上の出資をするという。想定されたシナリオだがおそらく三菱自動車の技術者は大変だろうと思われる。「技術の日産」の傘下にはいるのである。
 
その昔、日産自動車の技術者と一緒に仕事をしたことがある。若いときだったのであまり憶えていないが、その時上司が、日産自動車には研究所が二つあって、今一緒にやっている連中と仕事を進めてもモノにならない、だから一度テーマを中断する交渉をしようと話していた。
 
実際テーマは中断されたが、その後の再開も無かったので、恐らく、二つの研究所は、前工程と後工程の関係で、前工程の研究所は可能性研究(FS)を進めているところだったようだ。雲をつかむようなテーマも並んでいた。
 
上司はコストダウンを図るために大量消費できる分野の実用化を急いでおり、後工程の研究所と交渉をしたようだが、相手にされなかったらしい。当方も担当していて、これは自動車用に実用化できない、と思っていたので日産自動車の後工程の判断は技術的視点に基づき出されたと思った。
 
確かに大量使用でコストは下がるが、その他の実用上懸念される点について科学的に大丈夫だと言われても、当方には不安が残っているテーマだった。一応自分たちで実車試験まで行ってはいたが、そのテスト結果には幾つか問題が出ていた。
 
ただそれらの問題については、実際の自動車の設計者から見てどうなのかを知るために、前工程の研究所と共同研究開発をしていたのだ。しかし、そこからあがってくるデータは自分たちで集めたデータと同じデータばかりだった。おそらく日産自動車社内でも議論はされていたと思われるが、科学的基礎データ以上の情報は頂けなかった。
 
そのような状況で、後工程の研究所からは共同開発を断られたのである。この出来事は、日産自動車の技術経営の特徴という印象で今でもよく憶えている。当方の直感と同じ判断が出されたから、というよりも、恐らく前工程の研究所と後工程の研究所とは社内で議論がされていたはずだ。
 
だから、たとえ科学的に機能が発揮されることが証明されても、日産自動車は技術の視点で厳しい判断をする会社、というイメージを持っていた。科学的にできそうに思えても、技術的に実用化は難しいと予想される技術は存在し、実技データが少ない段階では技術屋の心眼を働かせないとそれは見えない世界である。
 
逆に科学的にできないと予想されても、技術屋の心眼でゴールが見えたなら、そこへ到達するために自然界からうまく機能を拾い上げようと努力する傾向がある。PPSと6ナイロンを相溶(注)させて実用化した中間転写ベルトは、そうした成果である。また、科学の無い時代に発展した技術では、科学の判断など無く開発されている。
 
(注)フローリー・ハギンズ理論では相容しないと結論される。
 

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2016.05/14 帯電防止とインピーダンス(3)

フィルムを抵抗とコンデンサーのモデルで置き換え数値解析したところ、インピーダンスの周波数依存性のデータで低周波数領域で観察される異常分散には、モデルのコンデンサー成分が関係していることを理解できた。
 
実際に得られているデータから推測される抵抗とコンデンサーの値を入れて考察すると、コンデンサー成分が少なくなってゆく現象として低周波数領域のインピーダンスの絶対値の異常分散を説明できた。
 
ただし、20Hzのインピーダンスの絶対値が大きくなってゆくと灰付着距離が短くなってゆく現象について感覚的に理解できなかった。インピーダンスは交流の抵抗成分である。抵抗が大きくなってゆくと、帯電防止能力が上がってゆく、という矛盾を奇妙に感じた。
 
しかし、交流は直流と異なり、その抵抗成分にコンデンサーが含まれる。すなわち直流の抵抗成分とは数式の表現が異なるのである。直流でコンデンサーは絶縁体として測定されるので、抵抗成分として評価することはできないが、交流では、抵抗とコンデンサーを含む回路でインピーダンスとして評価される。
 
交流の抵抗成分の一つコンデンサーが少なくなるということは、直流の抵抗成分が多くなる、ということを表しており、このように解釈すると現象を矛盾なく理解できる。
 
すなわち、フィルムの帯電において帯電後の放電は直流的に放電するのではなく、低周波数の交流として放電している可能性がある。こうしてインピーダンスの絶対値について、数値解析で考察し得られたデータの解釈ができたのだが、ふと新入社員時代を思い出した。
 
指導社員は、レオロジーに秀でた人で電卓を用いて粘弾性モデルを解いていた。そのときの粘弾性モデルは、抵抗とコンデンサーのモデルとよく似た、ばねとダッシュポットのモデルだった。ゴム物性について粘弾性モデルを組み立て、それを電卓で計算し、粘弾性のシミュレーションを行い材料設計を行うスタイルは、まさに科学的技法そのものだった。指導社員は、10年後にはこの技法は使われなくなると説明していた。
 
実際に今時粘弾性モデルで材料設計を行っている人を見たことがない。今やOCTAを使う時代である。しかし電気物性に関しては、抵抗とコンデンサーのモデルが使われている。インピーダンスアナライザーでは、キャパシタンスの計測にモデルを設定しなければいけない。
 
手元に1999年に書かれた粘弾性材料力学入門というコピーがある。ある雑誌を読んでいたときにあまりにも時代を感じた内容だったのでコピーしたのだが、おそらく粘弾性材料力学という分野は、交流回路論のアナロジーとして発展した学問だろう。
 
学問だけが科学として発展し、気がついたら現実の高分子粘弾性体と異なる世界が築かれたのだが、1999年でもこの論文を入門書として書いていた学者はシーラカンスそのものと思われる。そのような視点で読むと面白い。
 
最も面白いのは、ナイロン6を事例に出して、今後データを集めてゆきたい、と述べている点である。プロセスにより高次構造が変化すれば、粘弾性データは影響を受けることが20年以上前から知られている。この論文が書かれた頃、分子一本のレオロジーが議論され始めた頃でもある。
 
この面白さは,20世紀は科学の時代であったが、その科学とはどのようなものなのかを表している点にある。この論文に書かれている内容は科学として正しいから学会誌に掲載されていたのだろう。
 
技術は人間の営みとして進歩するので、このような科学に対してはどうしても厳しい見方になる。モノ創りの時代と言われて久しいが、科学でモノ創りができない、と言われる由縁である。ご興味のある方はお問い合わせください。

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2016.05/13 帯電防止とインピーダンス(2)

水曜日書いたように、評価技術は計測されるパラメーターと実技テストの結果との相関を調べ試行錯誤で創り上げた。100Hz以下のある値におけるインピーダンスの絶対値が灰付着距離と相関する、ということが分かったので、モデルを使ってその科学的意味を探ってみた。
 
これは電気化学がご専門である福井大学青木教授のご指導を受けながら数値解析で試みた。フィルムをコンデンサーと抵抗を組み合わせたモデルに置き換え、そのモデルについて計算式を組み立てる。そして、実際に計測されたインピーダンスの周波数依存性データとの比較を行い、得られている計算式の理解が正しいか考察を進めた。
 
これは電極反応を考察するときに行われる手法だそうであるが、やってみると難解だが面白い。計算式の整理は形式微分なので頭を使う必要はない。式を整理して得られた関係式でシミュレーションを行ったところ、実験データをうまく説明できた。
 
すなわちフィルムを置き換えた抵抗とコンデンサーのモデルが適切である可能性が高いのである。自然現象を数式で表現できたので、数式のどの項がどのように現象に影響を与えているのか考察すると、自然現象の理解が進む。
 
いわゆるこれは科学の研究である。科学の研究は慣れてしまえば形式的な作業となるので易しい。本来誰でも科学の研究はできるのである。ただ、慣れるまでが大変で、これは水泳や楽器の演奏など趣味の世界と一緒である。
 
自然を科学で楽しめるようになるためには、流行歌を楽器で自由自在に演奏して楽しめるようになるまでと一緒で練習が必要である。小学校に入ってから大学院を卒業するまで18年間科学を練習してきた。
 
器用ですね、とは青木先生のお褒めの言葉であった。式を変換しシミュレーション結果を導いた小生をこのようにほめてくださる先生も科学というものをよく理解されている。習うより慣れろ、である。
 
だから今時のように簡単にコピペで論文を書いてしまうと慣れることができない。他人の論文を拝借するときでも昔は、手でアルファベットを一文字一文字拾ったのである。
 
外人の書いた論文の表現を拝借しながら、自分で書きなれた表現を優先して論文を書くから、他人の論文をちゃっかり真似ても自分の論文になっていた(注)。世の中便利になって、真似ることが不正になってしまった。
 
昔は真似ることにより科学という哲学を身に着けていったのである。だから英語の論文を真似ることは不正ではなかった。学習だったのである。ただ、今の人真似は、単なる転載であり、昔の真似る作業とは異なると思う。
 
(注)実名を出すと問題になるので出さないが、ゴム会社で学位論文をまとめていたときに、お世話になっていた大学で、博士論文の何冊かを見本として読んでいた。すると過去に読んだ論文とそっくりの学位論文があった。用いている化合物が異なるだけである。科学における論理の展開は、真実であれば、どれもこれも一緒になる。当時はそのように納得していたが。小生の論文は、すべてが世界初の材料について書いたので、まとめるのに苦労している。

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2016.05/12 昨日の三菱自動車の会見

昨日の三菱自動車の記者会見では、今問題となっている4車種で燃費の誤差は5%程度から10%ではなく、最大で15%燃費が悪くなることを公表していた。この会見で気になったのは、大半の車種で規定と異なる方法で燃費が測定されたが、決められた方法で測定しても大きな誤差は出なかったのでそのまま販売する、とされた説明だ。
 
測定方法は異なっているが数値はあっているので、そのまま使ってくれ、と回答しているのである。極めて不誠実な回答である。さらに、このような場合の罰則のルールが無い、とまで回答している。これでは聞き方により、不正を行ったが、その不正に対してルールが決まっていないので、そのまま販売する、と聞こえる。すなわち開き直りの回答だ。この点以外にもいくつか気になる点が多く、昨日の会見が、少し開き直りが感じられる会見に感じたのは当方だけか?
 
確かに公表数値と、改めて測定しなおした数値に乖離が無ければ、たとえ公表数値に不正があったとしても、機能上は問題が無いのでそのまま使ったほうが好ましい。しかし、これはユーザーが判断することではないのか。
 
今回の場合、国の規定通りの品質検査をやっていなかったということと同等の問題であり、その点をまず謝罪し、販売を自粛すべきである。そして、今後の扱いについては国交省と調整する、とし、国交省から許可が出てから販売を再開するという手続きをとれば信頼感が高まる。
 
国交省としても規定通り測定されていなかった車について、型式認定を出した責任があり、この視点で三菱自動車の今回の会見につっこみを入れなければいけない。すなわち、厳密にいえば、国の指示通りの検査が行われていない車すべてについて、国は型式認定を取り消さなければいけない。
 
昨日の記者会見を聞いている限り、燃費の測定方法が異なっている車について、型式認定がどのような扱いになるのか説明が無かったが、おそらく今後問題になると思われる。もし、数値に問題が無いから型式認定の取り消しは行わない、という判断を国がだしたなら、国が定めた試験法の信頼性に影響が及ぶ問題となる。
 
どうやら三菱自動車のトップは、「信頼」という言葉の意味を正しく理解していないようだ。罰則規定がないときには、自粛する姿勢で謝罪するのが、ユーザーへ信頼感を与える唯一の方法である。罰則が無いから、型式認定をそのままで販売を続けると自ら答えていては信頼感は生まれない。

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2016.05/11 帯電防止とインピーダンス(1)

昨日の記事で、帯電防止の評価技術に関する質問があった。すなわち「灰付着テスト」と相関する評価技術とは、という質問だが、以前この活動報告でも紹介している。また学会発表もした。そして、若い部下が、この評価法で日本化学会から講演賞を受賞した。また会社としてはこの評価技術で開発した帯電防止技術について日本化学工業協会から技術特別賞を頂いている。
 
ゆえに、公開情報が多いので少し詳しく書く。まずフィルムの帯電のしやすさを評価する技術は、直流を用いた評価法がほとんどである。残りの評価法は実際に帯電させて評価する方法で実技評価である。最初に着想したのはこの点である。
 
フィルムの帯電しやすさを評価する方法は、研究開発において伝統的に複数の方法が使用されている。理由は一つの評価法で、市場で起きる帯電故障を予測できないからである。市場で故障が起きない品質かどうか複数の評価法を使用しなければ品質保証できない、ということは、科学的な評価法でも自然現象の一部を見ているだけということになる。さらに実技評価法を組み合わさなければ行けない状況は、実験室で科学的な方法により現象のすべてを表現できていないことを示す。
 
フィルムの帯電機構にしても複雑で多数の論文が出ている。しかし、実技テストの中でも「タバコの灰付着テスト」は、市場の品質問題とうまく適合することが多いので、開発段階で必ず取り入れられている。しかし、この実技の方法と直流を用いている科学的な測定方法とがうまく相関しない。
 
フィルムの帯電防止処理が同じ系の中では、うまく相関する場合もあるが、仮に相関していても不安がある、というのが現場の意見である。タグチメソッド風に言うと、帯電防止処理を誤差としてロバストの高い「実技と相関する科学的方法」を求めよ、というのがニーズとして存在する。
 
直流を用いた評価法のどれもが実技評価と相関しないのだから、交流を用いて評価したらどうなるかを試してみた。フィルムのインピーダンス測定に用いる電極を購入し、測定器の全周波数でインピーダンスを測定した。ありとあらゆるフィルム100種類ほどを集めて、過去に測定されたタバコの灰付着距離との相関を見ていったところ、低周波領域のインピーダンスの絶対値が相関係数0.99となる高い相関を示した。
 
このあたりの実際のデータ処理では多変量解析を用いているが、とにかくインピーダンスの絶対値というパラメータが灰付着距離と高い相関になることが分かった。ただし、100Hz以上の高周波数になってくると相関係数が下がるので100Hz未満のどこかの周波数におけるインピーダンスの絶対値を使うことになる。周波数によりインピーダンスの値は変化するので、規格とする場合には、この周波数は一つに決めなければいけない。

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2016.05/10 煙草の煙

煙草の煙というタイトルだが、五輪真弓の歌ではない。写真フィルムの社内規格「タバコの灰付着テスト」のことである。退職後この欄の読者から指摘されるまで、JIS規格だと思っていた。転職したときに上司からJIS規格と教えられたので、番号など確認せずそのまま信じていた。
 
写真フィルムの重大品質問題として帯電がある。デジタルカメラの普及で、もう写真フィルムは使われなくなったので写真フィルムの話題など時代遅れだが、三菱自動車の問題でふと思い出したことがあるので書いている。
 
この「タバコの灰付着テスト」は、吸いたてのタバコの灰の上で帯電させたフィルムをかざし、どのくらいの距離で灰が付かなくなるかを見るテストである。具体的には、ゴムでこすったフィルムを2mぐらいの高さからタバコの灰に近づけ、灰が付き始めるときの距離を求める。
 
湿度10%の部屋でこれをおこなうと、帯電防止処理されていないフィルムでは、2mの高さでもタバコの灰を吸いつける。面白いぐらいに灰が飛び上がってくる。はじめてこの実験をやった時には面白くて、サンプル数を忘れて実験を行っていた。
 
ただ、このタバコの灰を集めるのが大変である。すでに20年ほど前から煙草を吸う人は少なくなっていた。だから研究費用で煙草を購入し、喫煙者にお願いし煙草の灰を作ってもらっていた。この作業は、そのうち問題になるかもしれない、と思い、このテストに代わる試験評価法開発の企画を提案したら、JIS規格だからこの方法以外駄目である、ということになった。
 
しかし、このテストの泣き所は、灰を集める作業だけではない。高湿環境の試験では、灰が大量にいる。すなわち灰が吸湿するので一回一回灰を交換しなくてはいけないからだ。低湿環境の実験では手を抜いても問題にならないが、高湿環境ではデータが大きく変わる。
 
ゆえに初めての人には楽しい実験となるが、やりなれてくると代用評価法が欲しくなる、という声が多かった。そこで代用評価を開発したのだが、灰付着距離ときれいに相関する評価技術が完成した。また、その科学的根拠も福井大学客員教授時代に明らかにし、灰付着テストに代えて行ってもよいレベルまで評価技術を磨き上げた。
 
しかし、この科学的に優れた評価技術でも、その使用は研究開発段階だけで、商品の評価にはやはり「タバコの灰付着テスト」を使うようにしていた。それは、これが商品の規格と教えられたからである。もし三菱自動車の技術者も当方と同じ感覚であったなら、今回の不祥事を起こさなかったに違いない。
 
どのように優れた科学的な評価技術があったとしても、商品規格として公的に認められるまでは使っていけないのである。せいぜい使えるのは研究開発段階だけである。商品として世に送り出すときの評価技術は、たとえそれが非科学的であっても商品規格であれば、定まった方法で愚直におこなわなければいけない。当たり前のことである。科学的な方法だからと煙に巻いてはいけない。
 
 

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2016.05/09 評価されない仕事

会社の仕事の中には、評価されない仕事がある。働く意味は貢献と自己実現だから評価されなくてもよいとわかっていても、自分の出した成果でほかの人が評価され昇進してゆくと、複雑な気持ちになるのが人間である。
 
さらには、せっかく成果を出しても恨まれるような事態になったりすることもある。例えば電気粘性流体のテーマでこんなことがあった。
 
高純度SiCの仕事をやりながら手伝った仕事で、あまり時間をかけたくなかったのですぐに成果を出せる戦略を考え、戦術に落として遂行したところ、恨まれた。
 
なぜかといえば、その成果は、お手伝いをした部署で一年以上検討して、その方法では問題解決できない、と科学的に否定証明されていた方法だったからである。しかし、依頼してきた人が、過去の検討資料も含め、情報を一切見せてくださらなかったので、否定証明の結論など知らなかった。問題を科学ではなく技術で解決しようとした当方の責任ではなく依頼側の問題である。
 
これは、科学がすべての問題を解決すると考える人と仕事を進めたときの怖い事例であるが、手伝った当方は非科学的に戦術を立てている。すなわち手間暇かけずに答えを出す方法で、実際に一晩で成果を出す方法を考えて遂行した。
 
当方は依頼された業務を早くやり終えたい一心で仕事を行ったのであり、その成果が依頼してきた部署の気に入らない成果になったのは当方の責任ではない、と思った。科学的に否定証明を行った責任者の問題である。
 
昔、禁煙パイポという商品で、「私はこれで会社を辞めました」というセリフがあったが、当方は結局このCMのセリフを電気粘性流体と変更してその1年後言うことになった。高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げながら、気前の良さで困っていた人を助けて不幸な結果になったのである。人生、塞翁が馬というが、湾岸戦争も始まった時代で会社の中の異常な事態で出した結論が、これまでのキャリアをすて専門外の業界を選ぶ転職だった。
 
あらためて転職に至った理由を思い出したりしてみると、この電気粘性流体を手伝ったときのスタートが良くなかったのかもしれない。一年以上かけてプロジェクトメンバーで解決できなかった問題を一晩で解決したなら喜んでいただけてもよいはずだったが、人間はそれほど単純ではない、ということか。
 
三菱自動車の燃費不正問題で、測定された数値の一番低い値を採用した人の気持ちは今複雑だろう。おそらく当時の開発を担当していた人たちは、その数値が得られたおかげで燃費目標を実現出来たと大喜びをしたかもしれない。
 
科学ならば、一点でも発見されれば、それが真実となるが、技術では機能のロバストが重要になってくる。このことに気がついていなかったばかりに、その一点を見出した成果が評価されないどころか会社が大変なことになった。

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