多くの犠牲者を出した御嶽山の噴火は予知できなかったという。今どき信じられない話だが、地球物理学の進歩がその程度なのだろう。一方今回の噴火については、なぜ休日に起きなければいけなかったのか、という疑問が残る。確率として2/7という低率である。
かつて無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学中に不思議な出来事があった。ゴム会社から留学して半年後に昇進試験があった。昇進試験は論文形式であり、新規事業について答える問題だった。
社長方針として、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスを新事業の三本の柱として育てる戦略が出されていたので、半導体用高純度SiCの事業について、独自の新規製造方法を開発し、市場参入したいという解答を書いた。答案は0点だったそうだ(しかし、当時始めた事業は今でも続いている)。
当時留学先の上司にあたる総合研究官I先生がその結果を心配されて、1週間だけ無機材質研究所で自由に研究して良い、と許可をくださった。会社から推薦されて留学してきたエリートが昇進試験に落ちたのである。大変心配してくださったことに感謝し落ち込んでいた気分も少し晴れ、留学を終えたら研究しようと思っていた高分子プリカーサー法による高純度SiCの新合成法を1週間で完成させることにした。
この新合成法は、高分子プリカーサーの出来不出来により、生成するSiCの純度が変化する、と予想されていた。しかし、その後の研究でSiC化の条件の寄与も30%程度あることが分かったが、当時はそのような情報は、特許にも論文にも書かれておらず公知では無かった。
1週間という短い研究期間ではSiC化の条件まで検討する時間は無く、論文に書かれた典型的な条件で電気炉の温調器のプログラムを組んで運転した。実験中は、電気炉の前で八百万の神にお祈りをしていたら、突然電気炉が暴走した。あわてて安全スイッチを切ったところ温度が下がり始めたので、あわててメインスイッチを入れたがまた少し設定温度よりも上がったため切断し、実験を終えた。
独特な温度パターンでプリカーサーがSiC化されたわけだが、翌日電気炉の中を見て驚いた。真黄色のSiCが得られていたのである。慌ててI先生をお呼びしたところI先生も一発で高純度SiCができたことを驚かれ、プリカーサー法の威力に感心された。
プリカーサーには、化学量論比でシリカと炭素が含まれていたが、その後SiC化の反応条件を検討したところ、この時の条件がベストであった。この時得られた高純度SiCの粉末を社長にお見せし、2億4千万円の先行投資を頂いたのだが、何故電気炉が暴走したのか、科学的に説明できていない。
20世紀に科学は著しく進歩した。しかし、未だに科学では説明できない現象が存在する。その中で人類は生活している、という謙虚さを忘れてはいけないのだろう。かつて民主党時代にいつ起きるのか分からないことにお金を使うより、という発言(注)があったらしい。
しかし、その様な状態だからお金をかけて研究しなければいけない、という発想にはならないのだろうか。原子力発電の再開の方向でもあるので地球物理学の研究に力をいれても良いように思う。この問題は、www.miragiken.com でも取り上げてみたい。
(注)火山の観測に使われた予算が減らされたことについて、民主党時代の仕分けが話題になっている。発言の趣旨は異なる、という言い訳もされているようだが、有名な「二番ではダメですか」という科学技術行政に対する無知な発言もあったので、疑われても仕方がないだろう。政治家は官僚よりも勉強できる立場にあるのだから、科学についてもよく勉強して欲しい。
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RA-1062が8年弱で壊れた。新しいアンプを買うかどうか悩んだ末、その道の専門家に尋ねてみた。今でもオーディオマニアは健在で、すぐにメールで返事をくれた。メールには、簡単なチェック方法と対応が書かれており、これで回復しなかったら素人には無理だから修理に出した方が良い、とあった。
今どき電気製品を修理してくれるメーカーがあるのか、と驚いて、どこへ修理に出すのか尋ねた。しばらくして、ROTEL商事の新しい住所を知らせてくれた。実は古いカタログや保証書に書かれたところへ電話しても、連絡できなかったのだ。また、秋葉原のラジオ会館はこの9月に新館がオープンしたが、そこに丸山無線は無かった。2011年にラジオ会館が改築のため壊されたが、その時丸山無線はどこへ移転するのか案内が無かった。
1979年にゴム会社へ就職し、研究所へ配属されてから良く通ったのがラジオ会館始め秋葉原の駅近くの電気街である。MZ80Kの周辺機器や、PC9801、DOS/V部品など写真会社でリストラされるまでよく通った。リストラされた後、豊川へ運良く単身赴任できるまで秋葉原から足が遠のいた。それがマニアに勧められてROTELのアンプを買うために秋葉原へ行き、数年で大きく変貌した秋葉原にびっくりした。メイド姿のお姉さんから声をかけられ自分のいる場所が異次元空間のような気がした。
変貌した秋葉原の姿のため、アンプを購入後ますます秋葉原から足が遠のいた。上京したころは、ハム関係の機器が多かったが、それがだんだんパソコン関係に変わり、いつの間にかメイド姿のお姉さんが闊歩する町に変わった。年月の経つのは早いが、秋葉原という町はそのスピードに合わせて変化する街のようだ。
マニアが知らせてくれたROTEL商事の新住所は目黒区になっていた。久しぶりに秋葉原を歩いてみようと思っていたが、電気街と無関係の目黒区の住所に少し驚いた。とりあえず電話をかけたところ、修理するから宅急便で送って欲しいという。今すぐ車で届けると言ったら、事務所に誰もいないことがあるから、宅急便が良い、と言われた。
ホコリで汚れたアンプの外側を簡単に拭き取り、宅急便で壊れたアンプを送ったところ、3日めに修理されきれいになって返ってきた。ところが新品ではなく、シリアルナンバーから修理を依頼したアンプであることを確認できた。箱の中には請求書と手紙が入っていた。手紙を読むと、秋葉原のラジオ会館5階のインパルスという店でROTEL製品を扱っているという知らせと、今回は無償でかまいません、と手書きで書かれていた。請求書を見ると、技術メンテナンス料12000円に斜線が引かれ、0円となっていた。
この30年間で始めての体験である。今どき保証期間を過ぎた製品を無償で修理してくれるメーカーがあるとは思わなかった。かつてパソコン用スピーカーが保証期間ではあるが、当方の不手際でスピーカーコーンにキズをつけたことがある。そのとき有償で構わないから、との手紙をそえて送ったところ、修理品ではなく新品が送られ、製品の定価の半額の請求書が同封されていた。秋葉原で4割引きで購入した製品だったので心境は複雑だった。
マニアに聞くと高級オーディオの世界では当たり前だと言われた。しかし保証期間を過ぎても無償というのは初めてだ、とも言われた。8年弱掃除もしないでホコリで汚れたアンプの掃除代だけでも数千円は必要だろうとも。ただ、今回の出来事で工業製品が壊れたら修理をしないで廃棄するという習慣になれてしまっている自分に気がついた。メーカーが1品1品大切に消費者に届けている、という観点で工業製品を眺めたときに、修理がきく場合には、修理してユーザーに戻す姿勢こそ経済性を無視すれば正しい。
たかが趣味の世界の商品での出来事だったが、メーカーの良心とは何かを考える良い機会であった。WEBを少し調べてみたら、すでに廃業して無くなったサンスイのアンプをつい最近までメンテナンスする会社があった、という話が紹介されていた。電気製品壊れたらすぐ廃棄、という習慣は、経済性の観点で有利かもしれないが、地球環境の視点でオーディオという趣味の世界のメーカーの姿勢を模範とすべきだろう。
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翌日丸山無線に足を運び、RA-1070とRA-1062についてCDプレイヤーで比較試聴してみた。丸山無線で聞いた限り、大差は無かった。しかし、持参したレコードを聞いたところ、大きな差が出た。RA-1070の音が抜群に良いのである。
グローバー・ワシントン、Jrのワインライトを持参したCDとレコードで比較試聴したところ、レコードの音がものすごく気持ちよく聞こえた。特に出だしの音などは、豊潤なワインの香りがしてきそうな音であった。
単身赴任先でも音楽を聴きたかったので、RA-1070を購入した。10万円のアンプを購入するつもりであったが、とんだ散財になった。自宅に帰り、RA-1062を自宅のシステムから外し、RA-1070を据え付けた。
夕方、RA-1062を豊橋まで持ち帰ったが、重かった。こうして同じ時期にRA-1062とRA-1070を購入して使用してきたが、RA-1062が先日壊れたのだ。スイッチを入れると、カチャカチャとスイッチング素子の音がしていたのが、カチャと一回だけになり、電源が入らない。
単身赴任を終え、2010年からは自宅の書斎にRA-1062が、居間にRA-1070が設置され使ってきたのだが、RA-1062がたった8年弱で壊れたことになる。アンプの寿命としては、過去に使用してきたアンプと比較すると極端に短い。寿命が短すぎる。せめて10年は使いたかった。
学生時代にオンキョーインテグラを購入し、就職して東京に出てきたときも同じシリーズの製品を購入した。これが壊れてケンウッドのアンプを購入し、そしてROTELのアンプである。世の中のオーディオシーンは大きく変わり、パイオニアまでオーディオ事業を店じまいする時代になった。
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10数年使用してきて壊れたのはケンウッドのアンプで、購入当時大ヒットした製品である。その前はオンキョーのインテグラという、やはり学生時代に有名なアンプであった。いずれも7万円前後の製品だったが、平成20年当時、7万円前後では過去使用してきた製品と同等のアンプが無かった。物価上昇を考えると当然かもしれない。
そこで10万円前後のアンプを探していたのだが、10万円前後のアンプでも満足できたのは、無名のROTELのアンプだけだった。ややメーカー名とデザインに不安が残ったが、視聴してこれまで使用してきたアンプに近い音がしたので購入した。
午前中から秋葉原でアンプ探しのため時間を費やし、家に着いたのは夕方5時であった。昼飯は食べる時間が無かったが、その日レコードを聞くまでは満足な一日だった。ROTELのアンプを自宅のシステムに取り付け、まずお気に入りのレコードをかけてみた。
音が悪い!高域が詰まったような音だ。まさかと思い、配線を調べたが、間違いは無かった。カートリッジはデノンのMC型で出力が低く、この影響かと疑い、オーディオテクニカのVM型にカートリッジを交換したが少し良くなるだけであった。
ところがCDを聞いたところ秋葉原で聞いた、心地良い音が流れてきた。店で頂いたカタログを見たところ、6万円高いRA-1070という機種があり、それはROTELのプリメインアンプの最上級の機種で、フォノ入力の優れたスペックが書かれていた。
RA-1062の場合には、RIAAの規格通り高域は15kHzでカットされており、上位機種のRA-1070では20kHzまで高域が伸ばされているのだ。そしてこのスペックは、今まで使用してきたどのアンプとも同じだった。
すなわちRIAAの規格通り作られたRA-1062では、レコードを聴くと、之までのアンプよりも音が悪く聞こえるのだ。すなわち価格の安いRA-1062では、アンプの品質を落とさないで、レコードのプリアンプの性能だけ削っていたのである。中身を見ても高級アンプに使用されている丸いトランスと、銅のバスバー、大きなコンデンサーなど価格を超えた品質の部品が使用されていた。
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特にオーディオマニアというわけではなく、ただ、気持ちの良い音楽を聞きたいと言う理由で、オーディオ製品には少し気を配ってきた。単身赴任した直後、10数年使用してきた自宅のアンプが壊れたので買い換えようと思い、同僚のマニアらしき人物に尋ねたら、ROTELのアンプを紹介された。
聞いたことが無いメーカーであったが、音が良いという。秋葉原で探したら、丸山無線で扱っていた。10万円前後のアンプということで、RA-1062を紹介された。視聴したところ、音の立ち上がりが良く、高域の歪みが無く柔らかな音で、確かに良いアンプである、ということを理解できた。
ただ、日本ではあまり聞かないメーカーなので、同僚の紹介でも少し躊躇した。オンキョーや、ヤマハ、デノンのアンプも同一環境で視聴させてもらった。世の中デジタルアンプが出始めていて、オンキョー製品はデジタルアンプが主流になっていた。ヤマハとデノンのこの価格帯の製品はアナログアンプである。
オンキョーは昔と音のイメージが少し変わり、クリアーになっていた。ヤマハは昔ながらのすっきり、あっさりの音である。デノンはややもりあがった柔らかいイメージの音で、ROTELのアンプが自然の音に近いと感じられた。
フィービースノーというなつかしい人のCDも聞かせて頂いたが、ボーカルを聞くと、アンプの個性が明確になった。ROTELのアンプがやはり自然に聞こえた。オーディオ機器の中でアンプはあまり差がわからない、と言われるが、比較試聴するとROTEL以外はどこか不自然な気がした。
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フェノール樹脂天井材は実用化されたが、その検討過程でエチルシリケートとフェノール樹脂をうまく混合できなかったことが気がかりだった。周囲の有識者は、フローリーハギンズ理論から当たり前だという。
確かにエチルシリケートとフェノール樹脂とではSP値が大きく異なり、χは極めて大きくなる。ただ、軟質ポリウレタンフォームや、硬質ポリウレタンフォームのようなリアクティブブレンドを経験した感覚から、リアクティブブレンドならばフローリーハギンズ理論に無関係で高分子を均一分散できる、と思っていた。
教科書どおりにχを信じる限りにおいては、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂との混合は、検討してもムダである。しかし、リアクティブブレンドであればχとは無関係に二種の高分子を均一混合できるはずである。
すでに活動報告でこの後の行動を書いたが、プロジェクトが解散した後のフェノール樹脂の処分を一人で担当して、この問題を考えた。高分子の難燃化技術から高純度SiCの技術シーズがその後誕生している。
フェノール樹脂天井材の開発を終えて無機材質研究所へ留学することになるのだが、高分子の研究から全く畑違いのセラミックスの研究にもかかわらず、技術の視点で材料を開発してきた影響で違和感は無かった。
科学分野で専門的に研究されている方の多くは、専門分野が変わることに躊躇される方が多い。例えば有機化学からセラミックス分野への専門の変更は、ほとんど受け入れられないだろう。
しかし、技術者は材料技術や電気電子技術といった専門分けはあるけれど、どのような技術でも担当できるケースが多い。また、材料技術者が電気電子部品の会社に勤めたならば、昨今の御時世では、それができなければリストラの対象となるだろう。
科学分野は真理を追究するためにロジックが中心となり、厳密なロジックを構築するには専門性に秀でた人が有利である。対して技術開発は、ヒューマンプロセスの占める領域が多く、専門性よりも幅広い問題解決力の秀でていることが求められる。このあたりについては、www.miragiken.com の最初の部分で少し議論しています。
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ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合は難しかった。見かけ上うまくいったように見えても、析出したシリカ微粒子が大きくなり、シリカゾルを分散した方が良い結果となった。
この原因は、当時公開されたデータからポリエチルシリケートの加水分解速度が酸触媒で加速されるためとわかっていた。水ガラスから抽出されたケイ酸を混合する条件との違いは、エチルシリケートが加水分解したときにエタノールを生成する点である。
水ガラス抽出物はジオキサン-THF混合溶媒に分散して用いているが、両者はフェノール樹脂にとっても良溶媒だった。ケイ酸の抽出は大変だったが、目標仮説を証明するための実験としては大した検討も不要で便利だった。
水ガラス抽出物とフェノール樹脂の混合物でも高純度SiCの前駆体になるが、ポリエチルシリケートを用いたときよりもコストが不利になる。さらにすでに水ガラスとフェノール樹脂の組み合わせ特許が出願されていた。
種々の条件を検討した結果、シリカゾルの分散を検討することになったが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合がうまくゆかないことが気がかりだった。
さらに特許を調べてみても、カーボンブラックとエチルシリケートとの組み合わせ、あるいはフェノール樹脂とエチルシリケートとの組み合わせ特許が存在したが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせ特許は存在しなかったので、成功すれば世界初の事例として特許出願できる可能性があった。
たかが二種類の物質を混合するだけの技術であったが、そこには科学的な制約が存在した。フローリー・ハギンズ理論である。
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フェノール樹脂にシリカゾルとリン酸エステルとを組み合わせて高防火性フェノール樹脂を実用化したのだが、シリカゾルをフェノール樹脂に分散する技術は、意外と簡単であった。
一般に高分子へナノオーダーの超微粒子を分散しようとすると、分散前に凝集している超微粒子をばらばらにするために剪断力をかけねばならない。当時高速回転を発生できる混合器が開発されており、シリカゾルを分散可能な剪断流動を容易に発生できた。
レゾール型フェノール樹脂の粘度は、硬化前の分子量に依存し、低分子量タイプから高分子量タイプまで様々な樹脂が販売されていた。但し酸で硬化後のフェノール樹脂の防火性能は、分子量や触媒の酸の種類に影響を受ける。ゆえに高速でモーターに負荷をかけないために単純に低分子量タイプを選べば良いというわけではない。
また硬化速度の調整も重要で、フェノール樹脂が硬化するまで流動性が残っているのでシリカゾルの再凝集が生じる。この問題はパーコレーションを考えると解決でき、添加量を調整すれば解決できる。
たかがシリカゾルをフェノール樹脂へ分散するだけでも様々なノウハウが存在したが、ポリエチルシリケートをフェノール樹脂へ分散するよりは簡単であった。複雑な反応条件の問題を含んでいなかったからだ。
高分子の高速撹拌は、強力な剪断流動を発生し、ナノオーダーの分散を実現する。一般の二軸混練機の構造ではせいぜい800回転/分が限界だが、当時トルクは低いが約2000回転/分可能な攪拌機が存在した。単純なプロセシングだけで解決できる技術は易しい。
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硼酸エステルとリン酸エステルとを組み合わせることで、オルソリン酸のユニットをホウ素で固定化できた。この考え方を発展させると、ホウ素でなくてもAlでもSiでも良い、というアイデアが浮かんでくる。
軟質ポリウレタンフォームの次に高防火性フェノール樹脂天井材のテーマを担当した。この天井材の開発でさっそく試してみたら、目標仮説をすべて実現できた。さらにケイ酸エステルであるエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせは、高純度SiCの前駆体である。
すなわち高純度SiCの前駆体のアイデアはこの時生まれているが、一度諦めたアイデアなのである。高防火性フェノール樹脂の天井材開発で、エチルシリケートとリン酸エステルの組み合わせを検討した時に、エチルシリケートがうまくフェノール樹脂に分散しなかったのである。
それだけでなくレゾール型フェノール樹脂を用いたときには酸触媒を使用するのでエチルシリケートが加水分解してうまくゆかない。プロジェクトメンバーから諦めるように言われた。しかし、シリカを分子状態でフェノール樹脂に分散したかったので、水ガラスからケイ酸を抽出してそれを分散することにした。
これはうまくいったが、始末書が頭に浮かんだ。水ガラスからケイ酸を抽出するときに、THFやジオキサンを使用し、コストが高くなるからである。とりあえずモデル実験と称して実験を進めていたら、シリカゾル粒子程度の大きさでもうまくリン酸ユニットを補足できることがわかった。
すなわちシリカゾル粒子でも凝集しないようにフェノール樹脂に分散すれば、ナノオーダーなので燃焼時にはリン酸ユニットをうまく補足してくれる。さらに都合の良いことに線形破壊力学の教えるところであるが、ナノオーダーの超微粒子がマトリックスに分散するとそのマトリックスの靱性を大きく改善できる。
シリカゾルを凝集すること無くフェノール樹脂に分散する技術は、燃焼前のマトリックスの靱性を上げただけで無く、形成されたチャーの靱性も向上し、さらに簡易耐火試験においてひび割れも起こさないという効果も示した。こうしてシリカゾルとリン酸エステルを分散したフェノール樹脂天井材は実用化された。
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ホウ酸エステルを用いたリン酸ユニットの固定化というアイデアは大成功であった。当時手元にあった各種リン酸エステル系難燃剤と組み合わせ、50種類ほどの処方を組んで実験を行い、多変量解析を行ったところ、ホウ素原子の効果が著しく高いという結果が出た。
ホウ酸エステルだけをウレタンフォームに添加して実験してもLOIを高められる上限は19で、無添加の場合の18.5に対して0.5ポイント程度しか高めることができない。しかし、リン酸エステルと組み合わせた時には、25程度まで高められる効果がでた。
実験計画法で確認したところ、ホウ酸エステルとリン酸エステルには交互効果が存在した。すなわち燃焼時にホウ酸エステルとリン酸エステルの間に何らかの相互作用が存在してホウ素原子の難燃効果を高めているという結果が統計的に得られた。
燃焼後の残渣の化学分析からボロンフォスフェートが生成していることが分かった。どの程度の温度でこの化合物が生成しているのか確認するためにTGAで調べたところ、300℃前後には、ボロンフォスフェートが生成している。
TGAの微分曲線からこの生成したボロンフォスフェートの酸素遮断効果と炭化促進効果で、ポリウレタンの熱分解速度のピークが100℃もずれることまでデータで得られている。すなわち燃焼時の熱でオルソリン酸が揮発するのをとめてやるだけで、ホスファゼン並みの難燃効果が得られたのである。
始末書を書いたことで生まれたこの技術は、高分子の難燃化をリン系の化合物で行う時の重要なヒントを示しており、今このヒントのおかげで新たな難燃化技術が生まれようとしている。人生は本当に長い。不幸な出来事のその時は、目の前が一瞬真っ暗になるが、誠実に真摯に努力を続ければ不幸な出来事も幸運な思い出に変わる。すべてがそうであるとも思わないが、万事塞翁が馬という名言は本当だ。
昨今利益が上がっている時のリストラが盛んだが、リストラされる方はそれをチャンスととらえ、積極的に攻めの姿勢で受け止めることはできないか。リストラするほうも湿っぽいリストラではなく、明るく送り出すリストラがあっても良い。未来技術について www.miragiken.com では、明るいリケジョで物語を進行しているが、リストラチームによる物語も考えたりした。しかし誤解を受けるといけないのでリケジョの明るい話で未来技術を描いています。
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