2種類の高分子を混合したときに混ざって均一になるのかどうか、すなわち相溶するのかどうか、という問題は高分子溶液論から導かれたフローリー・ハギンズ理論(FH理論)で論じられχが0となるときに相溶する、といわれている。また、それぞれの高分子のSP値をモノマー構造から計算して、SP値が近い高分子は相溶しやすいとか議論したりする。
高分子の相溶性だけでなく、何か添加剤を高分子に添加したいときにその分散性を事前評価する場合にも用いられている。添加剤についてはカーボンブラックやチタンホワイトなどの粒子表面のSPなども提案され、微粒子が高分子に分散する状態を表現することに成功した、という論文もある。
ところでχパラメーターやSPは溶液論の延長から導き出された値である。これらのパラメーターを用いる高分子加工分野の大半は高分子を無溶媒で混合するプロセスであり、FH理論がそのまま当てはまる、と考えてよいのだろうか。ゴム会社に入社したときに最初に頭に浮かんだ疑問である。
高分子の相溶は高分子のアモルファス相(結晶になっていない部分、非晶相)で起きる現象である。高分子相溶系で結晶が生成し始めるとスピノーダル分解で2相に分離することはよく知られている。
ところが高分子のアモルファス相は無機のアモルファス相と少し異なる。また、アモルファスである無機ガラスと似ていると言われているが、やはり少し異なる。一応高分子のアモルファス相にもガラス転移点(Tg)が観察されるので、アモルファス相という言葉よりもガラス相という言葉が高分子の教科書で使用されている。
アモルファス相にはTgを持つ相と持たない相があり、Tgを持つ相の物質をガラスと呼ぶことはガラス工学の教科書に書かれているが高分子の教科書には書かれていない。すなわちガラスであるためにはTgを持っていなければならず、Tgは高分子の基礎パラメーターとして常識となっている。
ゴム会社に入社して、からかわれた思い出がある。今ならばいじめに近いが、ある高分子の示差熱分析(DSC)を測定していたらTgが出ない。これは新発見、と驚いたら、DSCの測定方法としてちょっとしたテクニックが知られており、そのテクニックを使用するとどのような高分子でもTgが出ると教えられた。しかしこのちょっとしたテクニックを知っていることは高分子研究者の常識だとからかわれた。
この思い出のおかげで高分子ガラスに疑問を持つようになった。大学院の生活は無機材料の、それもガラスも扱っている研究室でリン系の材料の合成研究をしていた。その時は、Tgがあるのか無いのかはガラスの判定基準であった。しかし、高分子の世界では、姑息な手段でDSCのチャートにTgがわざわざ現れるように測定するのである。これは科学としてインチキである。ただ、高分子のアモルファス相はガラスという常識があるからTgの無いDSCチャートではかっこつかないから姑息なテクニックが生まれたようだ。
カテゴリー : 一般 高分子
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オカラハンバーグは、とにかくおいしいハンバーグを創ることに集中しとりあえず完成した。しかし、食材のコストの問題が残っている。研究開発において新商品を開発するときに多くの場合新技術を導入する。新技術が完成しそれを新商品に組み込む、という余裕のある研究開発のできる環境が理想だが、研究開発のスピードアップという観点に立ったときには、新技術と新商品の開発を同時並行(コンカレント)で進める手法が重要になる。
このコンカレントエンジニアリングを成功させるためには、企画段階で新技術を用いた商品を組み立ててみることが大切である。新技術ができていなくても、企画段階で結集できる最善の技術を組み合わせてまず商品を創り上げ、その評価を企画書とともに議論するとコンカレントエンジニアリングの成功確率が上がる。
ゴム会社で高純度SiCの事業をスタートしたとき、世の中はセラミックスフィーバーであったが、パワー半導体のマーケットもSiCウェハーを商品化している会社も無く、高純度粉末を開発できてもお客様がいなかった。
現在ウェハー事業で日本の中心企業になっている某メーカーへ高純度粉末の商品評価をお願いしたら、「実は当社もこの高純度SiCを開発しており、それを評価して欲しい」、といわれ高純度SiCの交換評価を行う、といった笑い話の体験もある。結局当時のU本部長から「テーマは0.5人で推進しろ」と言われ、0.5人工数の研究企画を求められた。
S社とジョイントベンチャーを立ち上げ再出発するまでの5年間、新技術の企画ばかりやっていた。そしてその時U本部長から言われたのは、「まず、企画書は入らないからモノをもってこい」である。ECD、フレキシブル常温超伝導体、セミソリッド電解質、燃料電池、切削チップ、SiC製ルツボ等外部のメーカーの技術や秋葉原のお世話になりながら世の中に無い新技術を不完全ではあるが、まず創った。
例えば、フレキシブル常温超導電体では、同僚の若手F君が常温超伝導体をすっぱ抜いた週刊紙を片手にその日のうちに評価装置を組み立ててくれた。週刊紙に載っていた材料は液体窒素温度で超伝導現象を示したが、面白いことに、1週間経過すると超伝導を示さなくなった。当時の超伝導体は生ものだったのである。
その結晶構造からすぐに酸素欠陥が増えるのではないかと仮説を立て、常温超伝導体が出現したときには酸素が抜けないような対策が重要と考え、ブチルゴムで覆った超伝導体という発明をすぐに出願した。そして、ブチルゴムで被覆された超伝導線を試作し超伝導体の研究企画を提出した。
ブチルゴムで包んだ超伝導体の板でマイスナー効果をU本部長に見せたのだ。それを見せながら、現在の材料では液体窒素温度でなければ超伝導を示さないが、これを改良して常温で超伝導体にする、とプレゼンテーションを行った。この企画は無事通り、1年間超伝導体の研究開発を行った。
最初にとりあえず不完全であっても「モノ」を創り出してみると、ゴールが明確になる。ブチルゴムで被覆した超伝導線の場合には、ブチルゴムのTg以上の温度で超伝導現象を示す必要がある。それ以下の超伝導体で酸素欠陥が増加するのを防ぐには金属で被覆する必要がある、といったアイデアも容易に出てくる。ゴム会社のU本部長は厳しい人であったがその指導のおかげで技術開発に注力する実践的研究開発を学ぶことができた。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
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オカラハンバーグのゴールを見直し、「オカラを使用したおいしいハンバーグ」というゴール設定をして、1年間に渡るおから食品の開発実績を踏まえ、コストを考えず最もおいしくなる条件でオカラを使用したおいしいハンバーグを作ってみた。家族の評判は上々で、ソースが無くてもそのままでも味わえる大変おいしいハンバーグが完成した。
昨晩おいしいハンバーグを食べながら、改めて研究開発のゴール設定が重要であることをかみしめていた。当初設定していたゴールは、「究極のオカラハンバーグ」である。オカラを活かす調理方法でオカラハンバーグを開発していた。おいしいのは当たり前のつもりでいたが、食感という難題について解決の糸口が見つからなかった。オカラに含まれる水分が影響していそうであるが、ハンバーグに持ち込む水分を少なくする工夫やオカラの使用量を少なくしても食感は変わらなかった。
思い切って現在使用しているオカラにこだわらず、ゴールをとにかくおいしいハンバーグとしてみた。おからは乾燥おからを使用し、肉は松阪牛肉の切り落としをミンチにして使用した。タマネギは、炒めて甘みを増すように工夫した。この時の炒め方は水分を飛ばす目的では無く、味を確認しながら甘みが増したところで炒めるのをやめた。近所の肉屋からハンバーグをジューシーに作る秘伝も教えてもらい、「おいしくなる」と思われる手法をすべて取り入れた。その結果、おからを使用してもおいしいハンバーグができた。
「究極の」から「おいしい」と明確な表現に変えただけで、ゴール実現のためにとるべきアクションが変わる。すなわちとにかくおいしさだけにこだわり、おいしさを実現するアクションだけに絞り込む、という決断が可能になる。「究極の」では曖昧だったのだ。実際の研究開発でも似たような経験をしている。後工程の製品開発部隊から、根拠の無いスペックを言われ、それをそのまま開発のゴールに設定した体験である。
製品開発部隊で決める製品スペックの中には、過去から引き継いできたスペックをそのまま採用し、設定する価値の無いスペックが残っている場合がある。製品のシステムが変わったり他の機能が上がり、昔のスペックが他の機能のおかげで重要でなくなる場合である。しかし、それでも製品開発部隊は「一応」そのスペックを残している。
しかし、開発依頼を受ける側にはそのような事情が伝えられることはない。不要なスペックでもそのスペックの根拠を知らない前工程では、そのスペックを守ろうと開発するが、変更したシステムでは、どうしてもそのスペックを実現できない状況が生まれたりする。
その様な場合、重要ではないスペックを緩和することでゴールを達成できるようになる。曖昧なゴールは、具体化すれば明確にできるが、このようなゴールは、後工程であるお客様とのコミュニケーションが重要になる。コミュニケーションと言っても「ネゴ」となるが、同じカテゴリーである。コミュニケーション一つで研究開発の成否が大きく影響を受けるのである。
カテゴリー : 一般 連載
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特殊な構造をした半導体微粒子を絶縁オイルに分散すると電気粘性流体(ERF)ができる。1年以上前にこの欄でその開発の様子を書いたが、このテーマを担当するきっかけとなったのは、ERFをゴムに封入して用いたときにゴムの添加物がERF中に抽出されて增粘する、という問題が発生し、その解決方法が見つからなかった時だ。
このような問題は界面科学の問題である、と科学の知識がある方は現象を見てアイデアを思い巡らす。ERFの開発を推進していたメンバーもその様に考えて市販の界面活性剤を科学的に分析しながら增粘を抑える対策として検討を進めた。しかし、增粘を抑える界面活性剤が見つからなかったので、界面活性剤では解決できない、という証明を沿えて、それ以外の対策方法の探索を進めていた。
一人で高純度SiCの開発を続けていた立場では、このようなときにすぐにネコの手として引っ張り出される。そしてじゃれる程度の仕事を手伝うことになる。企業で研究開発を担当された方はこのような立場を理解できるのではないかと思う。じゃれているだけではつまらないので、アンダーグラウンドで独自のアイデア実験を進めたところ3日間で解決策が完成した。
ところがその解決策は、プロジェクト正規メンバーが不可能という結論を出した方法だった。すなわちERFの增粘を抑える界面活性剤が見つかったのだ。それも否定されていた構造に近い材料だった。納期が迫っていた開発だったので一応採用されたが、一部のプロジェクトメンバーから反感を持たれたのは確かである。
その結果ゴム会社を退職することになるのだが、科学的な方法で進める研究開発で陥りやすい否定証明については、イムレラカトシュという哲学者が「方法の擁護」という著書の中で、科学的方法で完璧にできるのは否定証明である、と述べている。
すなわち、できない理由を科学的に証明することは易しいのである。技術開発を科学的に解析しながら進めていて失敗が続くとこの罠に陥る。技術開発では「モノ」を創りださなければいけないのだが、頭の良い人ほどこの罠にはまる。この罠にはまらないような研究開発を進める方法の一つが弊社の研究開発必勝法である。失敗続きで家族に迷惑をかけているが、今夜は必ずおいしいオカラハンバーグを完成させる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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先日12月6日付けの産経新聞の生活欄に「肉団子をふっくらさせるコツ」というのが載っていたので、昨日おからを紹介させて頂いた。水だけを入れた場合とおからを使用した場合とでは栄養価が異なる。また、1個あたりのカロリーも新聞に紹介された方法よりおからを使用した方が下がりヘルシーな肉ダンゴとなる。歯の悪い老人食としては新聞に紹介された肉ダンゴよりも柔らかくヘルシーである。
今週紹介したように肉ダンゴはうまくできたが、肉ダンゴを大きくしたハンバーグになると難しさは数倍になる。すなわちおからに水分が多量に含まれているので焼き上げたときに密度が下がり、ハンバーグの食感が失われる問題と、ダンゴと異なり大きくなるので少々焼きづらく調理の難しさという新たな問題が発生した。
肉ダンゴの配合に近い処方でもハンバーグ形状のものはでき、味覚にうるさくない老人にはそれで十分かもしれない。ところが鍋種の場合には柔らかさをホクホク感でごまかせるが、ハンバーグは食べている間に温度が下がり、何かスポンジを食べているような食感になる。牛スジをダシにして作ったスープでおからを処理しても、この食感のために倍増した味覚が生きてこない。食感の重要性を改めて認識した。
ところが食感までおからを使用して制御しようとすると難易度が高くなる。現在モスバーガーレベルを目標に開発を続けているが、この開発で最も重要なのは毎週土曜日の食卓がおから料理となる家族の理解である。この2ケ月我が家の食卓は毎週おからハンバーグである。このような状態になると食感よりも味を飛躍的に向上させる技術を導入した方が良い。
これは研究開発と同じで、ゴールを他社並にして開発しているとそこそこの製品しかできないが、革新的な新たなコンセプトで飛躍的なイノベーションを行い、ダントツトップを狙った開発を行うと多少難有りでも商品にまとめ上げることができれば市場に受け入れられるのである。研究開発を理解していない女性議員がスーパーコンピューターの開発で「目標を2番にしたら」と発言したのは有名であるが、市場をコントロールできる立場の企業であればそのような開発でも許されるかもしれない。
しかし、大抵の日本企業はダントツトップを狙う研究開発をしなければ市場で生き残れない時代である。目標設定が企業の生存を左右する状態で、ほとんどの日本企業は研究開発を続けなければいけない。しかしバブル期にこれを忘れた企業も多く、なかなかバブル崩壊から立ち直れなかった。自分たちの技術を乗り越えるだけでなく、否定するぐらいのイノベーションが日々の研究開発で求められている。
おからで実現できた肉ダンゴをふっくらさせるコツをすてるアイデアがおからハンバーグの開発に必要だ。おからを使った場合には、おからに含まれる水分のためにどうしてもふっくらとしたハンバーグになってしまう。またハンバーグにはタマネギを入れるので水分がさらに多くなる。従来の発想を破壊するようなアイデアが無ければおからハンバーグの完成は無い。新たな気持ちで明日の夕食の処方アイデアを練っている。果たして明日家族の感動した顔を見ることができるのか。失敗した状況を考えるよりも成功したときの喜びを期待することが研究開発のコツである。
カテゴリー : 一般 連載 高分子
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おからには、水分が80%以上タンパク質が5%も含まれており滋養豊富のため腐りやすい。冷蔵庫保管で2日が限度とも言われている。おからは豆腐製造の際に大量に生成する産業廃棄物でその活用法が無く問題となっている。過去にバイオプラスチックとして検討された経緯があるがあまり良い材料ができなかった。
ミドリムシのようにパラミロンという1種類の多糖類が含まれているならば活用しやすいが、おからに含まれる多糖類は3種類以上見つかっている。すなわち工業材料として使用するには精製しなくてはならない。ミドリムシのように簡単な処理で50%の高い収率でパラミロン1種類をはき出してくれる便利な資源ではない。
工業材料として有望なミドリムシは、現在ユーグレナという栄養補助食品として会社の株価が上昇するくらいに成功しているが、おからこそこの路線で販売すべき材料と思う。「豆腐の妖精」とか「白の恋人」、「大豆から生まれたシロと色の無い繊維の巡礼の旅」とか名前をつければ、ユーグレナよりも雰囲気は良い。食べられる大豆が原料である。ユーグレナはミドリムシをそのまま言い換えただけである。肥溜めでも育つようなミドリムシに高いお金を払って飲むよりも豆腐の妖精のほうが後味が良い。
おからの繊維素は、お通じをよくするのでたまに卯の花を食べると良い、と亡き母に教えられた。子供の頃、朝早く近所の豆腐屋へ豆腐を買いに行くときには、どんぶりと大きななべを持たされた。豆腐屋に行くとどんぶりに豆腐一丁を入れ、なべには家族で食べるには十分すぎるぐらいのおからを無料で山盛り入れてくれた。
豆腐屋のオヤジはその山盛りに盛られたおからの上にどんぶりを埋めて「ありがとう」と言ったが、産業廃棄物の処理に困っていたのだから、心からの御礼だったのだろう。ご近所にはどんぶりを持たずに大きな鍋だけで来る人もいた。その店のおからはすべて有効利用されていた。
家に帰ると母はおからの半分を庭の草木の肥料として撒いていた。残りの半分は、おいしい卯の花に変わった。実家の草木もおからで育った。おからを肥料としたイチジクや柿の木は毎年我が家の家計を助けるほどの実をつけていたが、柿は残念ながら渋柿で、毎年焼酎で渋抜きをして食べた。
中学生の時に家を改築した。その時庭は半分になり、イチジクの木も柿の木も無くなった。近所の豆腐屋はその2年前にできたスーパーマーケットが原因で廃業に追い込まれた。それとともに我が家のメニューからおいしい卯の花が消えた。
1年ほど前から「そめのやーのトーフです~」という歌とともにミニバンの豆腐屋が毎週金曜日事務所の前に来るようになった。おからは250g60円で販売されている。高いように思われたが、この値段でも結構売れるそうである。たまに売り切れのことがあった。その時おからが売り切れになるのか、と尋ねたのがきっかけになり、我が家のために一袋だけ必ずとって置いてくれるようになった。こうなると買わないわけにゆかないので、おから食品の研究を始めた。
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昨日まで豚ダンゴの作り方を書いたが、ヘルシー指向の方は豚のミンチの代わりに鶏のミンチを使うと良い。但し、鶏肉を使っても、このおからを使用したダンゴはつくねのように硬くならず、ホクホクとした柔らかさの特徴を失わない。
配合は豚肉を鶏肉に変更するだけではだめで、ニンニクの代わりにショウガとシソの大葉10枚を使用する。すなわちおから250g、卵2個、鶏のミンチ350g、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ショウガ少々(チューブ入り7cm程度)、シソの大葉10枚をみじん切りにしたもの、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。
おからをブレンドするところまでの手順は、豚ダンゴと同じである。鶏ダンゴの混練のポイントは、シソの大葉のみじん切りを加えるタイミングである。シソの大葉のみじん切りは、それ以外が均一に混練された段階で加える。すなわち混練過程でシソの大葉が受けるダメージを最小限にしたいのだ。
この考え方はガラス繊維補強樹脂を混練するときにも応用されている。すなわちガラス繊維の供給は、二軸混練機の中間当たりから連続繊維の形態で供給し、繊維を樹脂に分散するスクリューのセグメントにはニーディングディスクなどの剪断力の高いスクリューを使用しない。伸張流動で繊維を分散するようにスクリュー設計している。
鶏ダンゴ程度では、この手順で問題にならないが、ガラス繊維補強樹脂ではガラス繊維にダメージを与えないような混練の仕方が品質問題を起こすことがある。すなわち繊維の分散不良である。見かけ上均一に分散しているように見えてもL/D40前後の二軸混練機の中央からガラス繊維を供給しても十分な分散はできない。しかし、分散効率を上げるために剪断流動を優先した場合には繊維が受けるダメージが大きく、繊維の補強効果が落ちてしまう。
ガラス繊維が混練でダメージを受け補強効果を失う様子は、鶏ダンゴでシソの大葉を最初に添加してみるとわかる。できあがった鶏ダンゴの味は、ショウガの香りが強く、シソ味が無くなっている。鶏ダンゴはシソ味が無くなってもおいしいが、繊維補強樹脂では弾性率が低下し使い物にならなくなる。この添加タイミングでシソ味が少なくなる現象から混練でかなりの剪断力がかかっていることを理解して欲しい。
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おから250gをボールに入れたら、まず料理用のヘラで押さえつけて、表面を平らにならす。この操作だけでも、卵-小麦粉-ニンニクの系はおからの中に分散する。これは、東工大扇沢教授の研究論文にも書かれている。すなわちブレンドしたポリマーをホットプレスすると分散が進行するのである。この現象は混練不十分なコンパウンドが、成形過程で品質問題を引き起こす原因を説明している。成形過程でも混練が進行するのである。だからコンパウンドの混練では成形過程でさらに混練が進行しないレベルまで混練する必要がある。
表面を平らにならし全体に十分に圧を加えたら、へらで5等分程度にしてボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返すとおから-卵-小麦粉-ニンニクの系の混練が進み均一になる。かなりの高粘度であるがこのような操作にすると、それほどの力を加えなくとも混練を進めることができる。カオス混合もおおよそこのように効率的に混練を進めていると思われる。
おから-卵-小麦粉-ニンニクの系が均一になったら、この系の上に豚肉と豚の背脂をのせ、塩、コショー、味の素の順にふりかける。その後豚肉の系だけを軽くヘラで突っつきながら調味料を豚肉の中に分散させる。この操作だけでもできあがる豚ダンゴの味が変わるので面白い。すなわち混練操作では添加順序もできあがるコンパウンドの物性を支配している。タンブラーで配合物を固体分散し、そのまま混練しているコンパウンダーを見かけるが、それでは良い物性のコンパウンドができない処方があることを認識すべきである。
豚肉の中に調味料を分散できたら、ヘラで豚肉をボールの中で平らに引き延ばす。この時ボールの中は、おから-卵-小麦粉-ニンニクの系の層と豚肉-豚肉の背脂-調味料の層が分かれた状態になっている。この状態になっているところへ粗挽きコショーを振りかける。その後5分割しボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返す。
この操作を行っているときに粗挽きコショーの粒が、次第に均一に分散されてゆく様子を観察することが出来る。ボールの片側に寄せ集め、押しつぶす、といった単純な操作の繰り返しだけでも混練が進むのである。全体が均一になったところでダンゴを作るのだが、ダンゴは直径1.5cmから2cm程度が食べやすい。この時十分に圧縮してダンゴを作ることがコツである。カチカチになるまで圧縮しても大丈夫である。鍋の中で柔らかくホクホクの状態になる。
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鍋がおいしい季節になった。おからと豚肉で作る豚ダンゴの鍋はいかが。ホクホクして柔らかく、老人食として最適のように思う。特に歯が悪くなり肉を食べられなくなったお年寄りには好まれると思う。また、おからには豆腐の栄養素がそのまま入っている滋養豊富な食材で、さらに繊維も含まれるのでこの食材で繊維不足を解消できる。
鍋の食材は、豚ダンゴ以外は自由である。また水炊き状態から鍋を始め、ポン酢で具を食するスタイルでも良いし、鍋に赤だしをいれて味噌仕立ての鍋にしても良い。どのようにしてもこの豚ダンゴにはよく合うし、良いダシが出る。鍋のレシピは自由だが、豚ダンゴについては、老人用に適した配合を公開する。鍋に入れて崩れにくく、ツクネのような硬さではなく、ホクホクして柔らかい老人でも食べられるダンゴの作り方である。
この豚ダンゴは、1年かけて開発したおから食品シリーズの一つである。そこそこおいしいレベルの以下の配合を最近開発できた。おから250g、卵2個、豚のミンチ300g、豚の背脂30g(ミンチ加工)、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ニンニク少々(チューブ入り5cm程度)、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。この配合で6人分前後の豚ダンゴができる。
まず、卵2個をボールに入れ、黄身と白身が均一になるように良く撹拌する。均一になったら、卵を激しく撹拌しながら小麦粉を10g以上30g未満(20g前後が好ましい)少しずつ加える。この時、卵を撹拌しないで小麦粉を20g前後ボールに入れて撹拌するといった料理番組でやっているような方法でしてはいけない。
その方法でも小麦粉を均一に分散できたように見えるが、その様にして小麦粉を添加した場合に注意深く観察すると小さなダマダマ(凝集体)が残っている。小麦粉を如何に均一に卵に分散できるかがまず大切なノウハウになる。小さな凝集体は豚ダンゴの強度を低下させ、鍋に入れたときに豚ダンゴが崩れる原因になる。
ここでも高分子の混練技術の重要性を垣間見ることができる。すなわち高次構造に硬い大きな構造が残っていると高分子の靱性を低下させる、という線形破壊力学の教科書に書かれている現象である。崩れにくく、ホクホクして柔らかいダンゴに仕上げるにはこの段階が重要になる。
小麦粉を均一に分散した卵にニンニクを少々添加して激しく撹拌し、ニンニクを均一に分散する。そこへおから250gを入れ、ニンニクと小麦粉を均一に分散した卵と混ぜるのだが、ここで昨日まで書いた混練技術の知識が要求される。カオス混合の考え方を導入して混ぜるのである。料理用のへらが便利だが、オタマでも何とか使える。(明日へ続く)
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加硫ゴムを扱う会社では、コンパウンドを自前で設計しているケースが多い。例えばタイヤ会社でコンパウンドを外注している企業は皆無だ。しかし、樹脂成形メーカーはコンパウンドを外注している企業がほとんどである。
それぞれにメリットデメリットがあるが、汎用樹脂のような高い混練技術が要求されないコンパウンドでは成形工程と混練工程が異なる企業の分業体制でもかまわないが、高度な混練技術が要求される成形体、すなわち成形体の物性が混練技術で左右されるようなケースでは、混練工程から成形工程まで一貫生産した方が好ましいし、差別化技術となる。
タイヤという商品は、混練技術も成型技術も高度なレベルを要求される商品である。その品質を維持するために両者の研究スタッフを抱えていなければ事業を展開することが難しい。しかしポリエチレン容器の成形業者は、成形機を備え付けて外部から安価なコンパウンドを購入すればいつでも事業を始めることができる。すなわちタイヤ事業は技術的な参入障壁が高い事業だが、汎用樹脂の射出成形事業は技術の参入障壁が低い事業だ。その結果、後者では製品の価格競争となるが、前者では市場の価格決定権は技術の高い企業にある。
また、複合電子写真機の開発担当となって知ったことだが、成形業者は樹脂のサプライヤーの技術サービスに依存しているケースが多い。成形業者のコア技術は金型技術にあるようで、他の成形業者が真似できない安価で高機能な射出成形体を製造することがミッションとなっているようだ。その結果、樹脂成形業界はコンパウンダーが成形業者の技術をサポートできる程度の研究開発スタッフを抱えている。
5年間日本のコンパウンドメーカーと交流して驚いたのは、成形事業者を如何に納得させるのか、という技術を一生懸命開発している。本来樹脂を丸め込んでうまく混練するのがコンパウンダーのミッションのはずだが、多くのコンパウンダーは、如何に現在供給している樹脂をそのまま使わせるのかという技術開発に終始している。少し混練条件を変えるだけでも性能が上がる可能性があっても現在の混練条件を維持しようとする。
数t/時間の量産技術で市場に供給しているのだから一人一人の顧客に対応出来ない、というのがその理由のようだが、その結果混練技術開発の進歩が止まったようだ。このような市場に新たな混練技術で参入したらどうなるか。特にABSやPC/ABS、TPEの分野では2成分以上のポリマーをブレンドする必要がある。
例えば、二軸混練機を改造しカオス混合可能な装置で混練したPC/ABSでは、ナノオーダーの均一な高次構造が観察されたが、市販品は構造のサイズが10倍以上、あるいは100倍以上異なっている場合もある。またゴム相の分散状態も市販品は不均一である。コンパウンドの高次構造が新しい混練技術では既存の商品のそれと明確に異なり、樹脂のレオロジー特性も異なっている。このような技術を導入したコンパウンダーが市場に現れたら、既存のコンパウンドメーカーは今までの混練技術に対する考え方を見直すはずだ。
カテゴリー : 一般 高分子
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