先日の電気粘性流体がゴムの添加物で增粘するという問題。
界面活性剤の検討を私が行う前に、開発プロジェクトでも界面活性剤について1年近く検討していました。なぜ私が1週間で見つけられた解決策をプロジェクトメンバーは見つけられなかったのか。私は逆向きの推論で得た対策が唯一の解決策と信じ、とにかくその解決策だけに集中して全ての材料を検討しました。しかし、プロジェクトメンバーは、界面活性剤は一つの解決策であり、他の解決策、例えば添加剤をすべて抜いたゴムを使用する、とか、ゴムの表面を電気粘性流体に直接接触しないように対策をとるとか、前向きの推論で考えられる全ての対策を検討していました。
研究開発で考えられる全ての条件を検討する、という姿勢は間違っていません。私はそのために思考実験を併用するようにしてきました。研究開発で考えられる全ての条件を検討する姿勢は大切ですが、もっと大切なことは迅速に問題の解決策を実現することです。
界面科学の研究者に叱られるかもしれませんが、界面活性剤の科学は未だに未完成です。モデル系の科学はかなりのところまでできておりますが、市販されている界面活性剤を用いたときに生じる現象を科学ですべて説明できません。このような分野を技術に用いるときには注意が必要です。哲学者イムレラカトシュの言葉ですが「現在の科学の論理でできるのは否定証明だけ」といわれているように、科学的に考えられる条件だけ検討しても正解が得られないことがあります。私は、実験を行うときに、界面活性剤として市販されている材料以外に、界面活性剤としても使えそうな材料も選択し、現象を観察しました。実験結果は、市販の界面活性剤の中には目標とする添加剤は無く、界面活性剤と似た構造の化合物が正解である、と出ました。正解が出てからモデル実験を行いましたところ、選ばれた化合物は立派な界面活性効果を示しました。
私は界面活性剤について、全ての可能性ある対策を検討するようにしましたが、開発プロジェクトのメンバーは、ゴムの添加剤の弊害を抑制する全ての対策を検討し、それぞれの対策については、全ての検討をしていませんでした。この違いがでる原因の一つに前向きの推論に頼る開発計画があります。対策のそれぞれについても全ての検討を行うべきだ、というのは結果論として言うことができますが、前向きの推論で行っているときに、それぞれの対策について、全ての可能性を残らず書き上げることは、不可能ではないですが、日常の業務の中ではかなりの困難を伴います。逆向きの推論は直接の解決策だけが得られますので、選択と集中を行うには大変便利な推論の方法です。「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」をご一読ください。
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もう20年以上前の開発事例なので少し恐縮いたしますが、電気粘性流体の開発をお手伝いしたときの話。
当時私は住友金属工業の小嶋さんと半導体用高純度SiC事業立ち上げの準備をしていました。ゆえにここでお話する事例は、私の担当業務ではありませんでしたが、1年以上開発しても解けなかった問題が1週間で解けたという成果であり、問題解決法の事例として説明しやすいのでとりあげてみました。
電気粘性流体を開発していたプロジェクトリーダーから、電気粘性流体をゴム容器に入れて使用しているとゴムの添加剤が電気粘性流体へしみ出してきて增粘するので困っている、という相談を受けました。電気粘性流体というのは絶縁オイルの中に半導体微粒子を分散した流体で、電場を2kV/mm程度かけると半導体微粒子が電極間で並び、固体のような状態になる性質をもった液体です。電場のonとoffで固体と液体の状態を制御できる当時の先端材料でした。しかし、材料開発を10年ほど担当してきた立場で当時の電気粘性流体を眺めたときに、相談内容以外に機能材料として致命的な問題をいくつか抱えていました。しかし、相談内容が最重要課題と言われ、しぶしぶ1週間で相談内容の解決をいたしました。アイデアは採用され特許出願もいたしましたが、実験を始める前に相談者からは、「そんなことはすでに検討したが、だめなアイデアだ。」と却下されました。しかし、次の解決法で無事実用性のあるアイデアに仕上げることができました。却下されても、できてしまえば採用せざるをえません。余談ですが、自分のアイデアが却下されても短期間でアイデアを実現してみせる実行力は、研究開発者として大切です。軋轢が生まれるかもしれませんが、企業にとりまして成果の出せる研究開発者こそ大切にしなければならないと思います。研究現場の健全な競争を奨励し、研究開発の競争で生じた摩擦を解消するようにマネージャーは務めなければなりません。
1.あるべき姿の具体化:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散していても、增粘しない。
2.現実:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散すると增粘する。
3.問題:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散しても增粘しないようにするにはどうしたらよいのか。
あるべき姿から逆向きに推論しますと、ゴムの添加剤がミセルに閉じ込められて、微粒子と独立して安定に分散している状態を作り出せば良い、という課題がわかります。また、それ以外の課題は、学術領域の知識を調査しても思いつきません。課題が一つの大変単純な問題です。課題を思いつくかどうかは、学術領域の知識を整理できているかどうかに依存します。整理できていなければ、コロイド科学の専門家に相談すれば良いのです。この問題では課題が一つなので、前向きの推論でも逆向きの推論でも必ずたどり着く課題です。ただし、逆向きの推論ではこの課題だけ思いつきますが、前向きの推論では、ゴムから添加剤が出ないようにするといった他の複数の課題も考えることになります。逆向きの推論の効率の良さは、結論に直結する解決策を一発で思いつくことができる点です。この課題は、プロジェクトリーダーも思いつき、1年探索したそうです。しかし、安定なミセルはできても対策がうまくゆかなかったそうです。しかし、私は1週間で成功しました。この事例では思考実験が大きな役割をはたしました。
<思考実験のストーリー>
ゴムの添加剤が電気粘性流体へしみ出してくる。安定なミセルが、ゴムの添加剤をミセルに閉じ込め、分散し、增粘しない。ここで、もしミセルがゴムの添加剤で不安定になり、壊れると增粘するはずだ。壊れずに安定なミセルを形成できる界面活性剤ならば、增粘した電気粘性流体に添加しても、粘度を低下できるはずだ。
この思考実験から、実際の実験方法として、ゴムの添加剤で增粘した電気粘性流体へ界面活性剤を添加し、粘度を低下させる実験が有効である、と思いつきます。様々なHLB値の界面活性剤を100種ほど集めて、ゴムの添加剤で增粘した電気粘性流体へ界面活性剤を添加する実験を行い、大変狭いある領域のHLB値の界面活性剤で、電気粘性流体を安定化出来ることが、1週間でみつかりました。(実際の実験は、100本ほど小さなサンプルビンを並べて增粘した電気粘性流体と界面活性剤を混ぜて1週間毎朝サンプルビンを振り観察を繰り返しただけです)
問題解決法を用いない場合には、電気粘性流体に界面活性剤を添加し、ゴムのケースに入れ耐久試験を行う実験計画を立てるかと思います。前向きの推論で考える場合には、このような実験計画になります。これでも見つけることはできますが、効率が悪いように思います。逆向きの推論と思考実験(前向きの推論)を組み合わせることで、効率よく確実な解決策を見つけることが出来ます。
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ブリヂストンとコニカミノルタの両社における33年間の研究開発経験をまとめた「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」に、経験から得た問題解決のコツを書いていますが、この本のポイントは「逆向きの推論」と「思考実験」です。「問題とは、あるべき姿と現実との乖離」で、問題解決の結論となる「あるべき姿」から逆向きの推論を行い解決策を探る方法は、成功体験を一度経験するとやみつきになります。理由は、解決策のアイデアが早く得られるからです。「思考実験」は、前向きの推論で進めますが、この方法で見落としていたアイデアを思いつくことが出来ます。33年の経験から「逆向きの推論」と「前向きの推論」では、得られるアイデアが異なるので、両者をうまく活用することが問題解決のコツである、と思っています。
最近、「すべての仕事は「逆」から考えるとうまくいく(BCC&マッキンゼーで磨いた問題解決の手法)」という本がベストセラーになっているそうですが、本の中身は、表題のコンセプトを礼賛したもののようです。たまたま、弊社の研修プログラムに用いているエンジン部分を「問題は結論から考えろセミナー」として公開してから、ベストセラー本の話を知り、読んでみました。もし、問題解決のコツを知りたいのであれば、弊社の電子セミナー「問題は結論から考えろ」もお奨めです。
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例えば高分子材料技術についてアイデアをひねり出したいときに、その分野の知識不足が原因となり、アイデアが出なかったり、出ても実現できないアイデアであったりした経験はありませんか?
アイデアマンと呼ばれる人を見てきた経験から、問題を前にアイデアを出すためには、幅広く知識を身につけていることが必要と感じています。高分子科学を学んだことのない人を対象に、素人向けのガイドブックが売られていますが、そこから特許出願できそうなアイデアが生まれる可能性は少ないように思います。「高分子材料のツボ」セミナーは、専門外の人にとっつきにくい内容も入っていますが、高分子材料技術全般について、まず知っていなければならない知識を選んで構成し、アイデアを生み出す基となることを狙っております。
相溶とSP値、χパラメーターなどは難解な高分子物理のテーマで、素人向けの入門書には出てきません。しかし、コンパチビライザー(相容化剤)とかポリマーアロイなどという単語は、高分子材料を扱う場面では頻繁に出てきます。とりあえず関連した項目をまとめて頭の中に知識として入れておかなければ、アイデアをひねり出すことが出来ません。専門外の人にやや難しいかもしれませんが、「高分子材料のツボ」セミナーは、専門書よりもアイデアを出すために役に立つと思います。
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ゴムの混練と樹脂の混練は、100年の歴史の差以上に考え方に違いがあるように思います。
樹脂の混練では、高分子にダメージを与えずに混ざっておれば良い、と考えている人が多いのではないでしょうか。
今から約10年前、高分子精密制御プロジェクトという国研でEFMという装置について検討されたこともありましたが、生産性が悪く普及していません。
最近カオス混合に近い効果のある、生産性が従来と同等の混練技術が開発され特許出願もされていますが、あまり注目されていません。樹脂の混練について関心が低いのでしょうか?
高性能なポリマーアロイあるいはポリマーブレンドを実現するためには、組成以外にプロセシングも重要です。
もし樹脂の混練でお悩みの方は弊社へご相談ください。
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高分子材料開発を行うとき、あるいは高分子材料が使用される製品開発を行うときに知っていると役に立つ項目をまとめ「高分子のツボセミナー」として販売しました。
このセミナーのテキストは、講師が35年間の研究開発で使用していたメモを基に公知の内容で構成しました。高分子材料の教科書には入っていない項目があったり、また一般の教科書とは少し説明の視点が変わっているのはそのためです。
例えば、靱性については線形破壊力学の説明を採用している教科書もありますが、本セミナーのテキストでは、あえて材料のライフのデータ(古いゴムの耐久寿命のデータです)を用いて説明しています。
これは、実務で耐久寿命は重要なパラメーターですが、靱性と無関係として扱いがちなので、注意を喚起する目的でセミナーのような説明にしております。
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ここでは、株式会社ケンシューの活動内容やお役立ち情報などを発信していきます。
随時更新していく予定ですのでご期待ください。
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