高分子のツボセミナーは、教科書ではありません。高分子材料を扱うときに、最低限これだけは知識として身につけていて欲しい項目だけをまとめました。高分子物理を重視し、その結果高分子重合の単元を省略しております。
40年前の大学における高分子の授業は、高分子合成化学が中心で、高分子物性については分析技術の一分野として扱われていたように記憶しています。しかし、実務で高分子を扱うときに、高分子重合に関する知識が重要となるシーンは少なくなりました。20年前にブリヂストンからコニカへ転職しましたときに、ラテックス重合を担当しましたが、商品開発を指向した研究開発現場では重合の知識よりも単膜の評価技術の方が重要でした。しかし、商品の品質と高分子材料の関係で問題が発生したときに、高分子物理を実務の視点でご指導してくださる先生の少なさに悩みました。物性評価技術は企業のノウハウ、と言ってしまえばそれまでですが、知識の整理の仕方だけでも実務寄りにして頂けると初心者にはありがたかった。実務2-3年の若い技術者を大学の先生のところへ質問に行かせても、問題解決につながるアイデアを持ち帰った確率は低く、さらに部下の力不足のせいにするにはかわいそうなこともしばしばありましたが、この問題は、大学の先生に責任があるのか、というと、大学の先生の使命を考えた場合に”?”である。むしろ技術情報を商売とするセミナー会社が生まれた背景となるのでしょうが、企業で20年研究開発マネジメントを行ってきて、大学とセミナー会社の隙間を埋めるサービスが必要と感じるようになりました。電脳書店設立の動機ですが、その思いから高分子のツボセミナーを販売しています。
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昨年の活動成果の一つに国内で販売されている数冊の中国語文法書を研究し、まとめた「中国語基本5文型」があります。
参考書として何冊も文法の入門書を買い込み、中国語のパターンを拾い上げ、整理していったのですが、驚いたのは国内で販売されている中国語の入門書の品質の高さである。見た目の違いはありますが、文法書に取り上げている項目とその説明は皆同じ内容でした。当初中国語には方言が多い、と聞いていましたので、当然文法書のばらつきもあるだろうと予想し複数買い込んだのですが、どの入門書も取り上げている内容は、ほぼ一致していました。どの入門書も同じなので、どれを基準にしても良い、という結論になるわけですが、明快な説明という観点で、大東文化大学瀬戸口先生の「完全マスター中国語の文法」を基準に選び、この本よりも単純明快なまとめを目指しました。それで、「5文型+その他」でまとめ上げ、会話パターンとセットで完成したのが電脳書店で販売している4冊です。4冊の中身は同じですが、ユーザーの学習の好みに合わせて編集を工夫しました。自分の学習スタイルに合わせて1冊を選んでください。
ところで、中国語が5文型にまとまる、とは市販の文法書に書かれていませんので、販売するに当たり、上海の中国人の友人及び瀬戸口先生にご相談しました。中国人の友人は、中国語が5文型に整理できたことにびっくりしていましたが、瀬戸口先生は、中国語文法の研究者は皆さん気がついている、とのコメントをくださいました。5文型にまとめたことが間違いではないことを確認できたので、会話らしい例文を中国人に作文して頂き、出版いたしました。出版後、類似書物を調査しましたが都内の書店5店舗を探しましても同様の本が存在しない、ということで今回5文型を普及する目的で無料版を公開することにいたしました。是非ご活用ください。なお、無料版ということで、音声は入っていませんが、そのかわりピンインの読みを入れております。その他有料の製品版から会話編や一部の章を抜いておりますが、5文型の内容は製品版と同一です。(5文型に絞りましたので携帯端末で読みやすくなったかもしれません。)
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新入社員時代に防振ゴムの開発を担当しました。指導社員が大変優秀なレオロジーの専門家で、混練技術に関し、教科書に無い知識をいろいろと教えてくださいました。その学んだ知識の一つで、カオス混合という混練方法について、当時文献を調べてもどこにも載っていません。言葉を教えてくださいました指導社員の方に達成方法を質問しましても「層流状態で如何に効率よく混合を達成するかという難しい技術だ、君ならできる」とからかわれた思い出があります。同僚の方に伺いましてもご存じの方はいませんでした。当時は学会で話題にもならなかったカオス混合ですが、21世紀に入りましてから時々耳にするようになりました。カオス混合という言葉を聞く度に、指導社員の方の「君ならできる」という言葉を思い出しましたが、写真会社の仕事で高粘度の高分子の混練技術はあまり関係がありません。
しかし、6年前高分子の押出技術を担当するチャンスに恵まれました。高分子の押出加工では、層流が発生します。それを観察すれば、カオス混合について何かヒントがつかめるかもしれない、と思いました。担当して1年、カオス混合に似ている新しい混練技術を開発することができました。新しい混練技術では、非相溶系であるPPSと6ナイロンを相溶状態にできます。この系ではスピノーダル分解速度が遅いので、ペレット状態でも相溶したままになります。技術開発はできましたが、残念ながら十分な研究ができないまま定年退職となりました。カオス混合は難しい技術ですが、指導社員の「君ならできる」という激励の言葉のおかげでサラリーマン技術者の間に何とかそれに近い技術を開発できる幸運に恵まれた、と35年前の出会いに感謝しました。
弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。
こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。
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ある命題の対偶を用いてアイデアを出す、と言うことの有効性に気がついたのは、入社して間もない頃です。
タイヤの構造開発を担当している職場で新入社員研修していました時に、「できない、ということを言うな、できると思って考えろ」と大きな声が聞こえてきました。すごい会社だと思いました。同期の友人は、「カンと経験と度胸、この3拍子が大事な会社」と茶化しましたが、私は少し考え、「なるほど」、と思いました。
物事を考えるときに否定的に考えていますと、否定的なアイデアばかり出てきますが、肯定的に考えますと肯定的なアイデアが出てきます。これはおそらく当たり前のことなのでしょう。対偶では、否定は肯定に、肯定は否定になりますから、対偶で考える、とは「モノができる方向の命題」に変換して物事を考えると言い換えることもできます。恐らく、「できない、ということを言うな、できると思って考えろ」と言わずに、「命題を対偶に変換して考えろ」と指導していたなら、同期の友人が茶化すこともなかったかと思います。
哲学者イムレラカトシュは現代の科学では否定証明しかできない、と申していましたので、科学的論理で完璧に否定される現象はさすがに不可能でしょうが、科学的に否定できない目標については、まず「できる」と考えて取り組む姿勢が技術開発の場合に大切だと思います。そしてその次に大切なのは、より良い解決策で取り組む習慣だと思います。そのためには弊社が提供するK0チャートとK1チャートは有効です。
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30年ほど前に半導体用高純度炭化珪素という素材を開発し、高純度炭化珪素の事業を立ち上げた時の経験談です。この材料は、パワートランジスタ用のSiCウェハーや、SiCヒーター、その他半導体用冶工具に使われており、基礎研究の反応速度論は私の学位論文になっていますので国会図書館で閲覧可能と思います。技術の詳細は公開資料を見て頂くと本事例の意義等ご理解頂けると思いますが、30年前には誰も実験をしようとしなかったアイデアをどのようにひねり出したかという体験談です。今では大したアイデアではありませんが---
炭化珪素を合成するためには、炭素源となる材料と珪素源となる材料を均一に混合し、1500℃以上の高温度で反応させる必要があります。当時炭化珪素を高純度化する方法の開発が盛んに行われており、「炭素源としてフェノール樹脂を、珪素源として高純度シリカ」を用いる組み合わせ、あるいは「高純度炭素粉と珪素源としてポリエチルシリケート」を用いる組み合わせも検討されていました。しかし、「炭素源としてフェノール樹脂を、珪素源としてポリエチルシリケート」を用いる組み合わせに関しては、特許も含めて全く技術情報が存在していませんでした。高分子の研究者ならばすぐにその理由がわかると思いますが、「この組み合わせで均一な混合物を得ることができない」、ということが常識だったからです。理論的にもフローリーハギンズの理論から相分離する組み合わせで、この検討を行う動機となる(素直な?)科学的根拠は、均一に混ぜるために他の化合物を添加する(不純物になります)方法以外に見当たりませんでした。科学的には否定される(ような)組み合わせでしたので、私の学位論文では、均一な化合物ができているところから始まっています。均一な化合物を合成する過程そのものも科学的に取り組むならば、学位取得者が2-3人出そうな分野であり、私はそこを自分の研究対象から外しました。しかし、科学的に「完璧に」否定できなかったので、当時の科学的常識では説明できないことを技術として完成させることにチャレンジしました。
科学的に「完璧」に否定できなかった理由として、リアクティブブレンドの可能性があったからです。今ではリアクティブブレンドは常識ですが、当時はまだゴムの改質技術として一部で使用されているだけでした。「AとBが混ざらないならば均一な物質はできない」というのが常識で言われていた命題でしたが、この対偶は、「均一な物質ができるならば、AとBがまざる」となります。AとBが必ずまざる可能性としてリアクティブブレンドが浮かび上がりました。論理学である命題の対偶どおしは真である、すなわち対偶の関係にある命題は同じ結果が得られますのでアイデアを考えるときに便利です。ある命題を考えていてアイデアが出ないならば、その対偶の命題を考えるとアイデアが出やすくなることがあります。
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天才とは99%の努力と1%の霊感、というのはエジソンの有名な言葉ですが、この言葉の意味に関して、「天才には努力が必要」という意味と、「1%のひらめきが無ければ99%の努力は無駄である」という意味の2通りあるそうです。後者の意味の存在を知ったのは10年ほど前ですが、後者は発明という行為を知らない日本人がエジソンの言葉を誤訳した、と思っています。また、後者は「努力」という行為を軽視しているように思います。曖昧な目標に対する努力は無駄になる可能性が高いですが、正しい明確な目標に対する努力については、必ず何か成果が出ると思っています。さらに、ひらめきが努力の結果生まれることも経験しています。エジソンの言葉は凡人が発明に対して努力するときの激励文と捉えています。
さて、1ケ月前家族でテルマエロマエという映画を見ました。古代ローマ時代の浴場と、現代の日本人の風呂好きをテーマにしたコメディーで、マンガ大賞を受賞したマンガを映画化したものです。現代日本にタイムスリップした古代ローマ人の浴場設計技師が、日本の風呂に使われている技術を古代ローマの浴場設計で実現する、というストーリーで、久しぶりに大笑いする映画を見ました。アニメではなく阿部寛主演の実写版で、発明という行為を豊富なお笑いのアイデアでうまく表現していました。作者の意図がそこにあったかどうか不明ですが、浴場設計技師の霊感がタイムスリップによりもたらされた、という荒唐無稽のシナリオは、体験からアイデアが生まれる、あるいは努力の結果アイデアが生まれると作者が言いたかったのではないか。単なるマンガなので、そこまで作者は意図していなかったかもしれないが、知らないうちにテルマエロマエを見ながらエジソンの言うところの霊感について考えていました。現代技術の塊の風呂の設備を古代ローマで実現する作者のアイデアもたいしたもので、新発明の古代ローマの浴場は、役者の大まじめなリアクション以上に笑えるシーンです。
エジソンの有名な激励文に使われている霊感が、天才だけの特権ならば、凡人が日々発明に汗を流す努力は無駄かもしれませんが、もし霊感を誰でも持つことができるのであれば、すなわちテルマエロマエのタイムスリップに相当する方法があるならば、多くの発明を生み出すことに貢献できると思います。弊社で考案したK0チャートとK1チャートによる思考実験のシナリオ作成と思考実験の実行は、テルマエロマエのタイムスリップと同じような効果を期待できます。
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マッハ力学史には科学の無い時代の思考方法が紹介されています。
例えば万有引力の法則を発見したニュートンの思考実験。
マッハはニュートンの思考実験を非科学的と認めつつも新しいアイデアを生み出すのに有効な方法としてアインシュタインに紹介しています。そして、紹介されたアインシュタインも非科学的と思いつつそれを用いて相対性理論を生み出しています。
思考実験をどのように行えば良いのか?残念ながらマッハ力学史には思考実験の有効な進め方が書かれていません。弊社で販売中の研究開発必勝法プログラムでは、K0チャートとK1チャートを用いて思考実験のシナリオ作成を行います。これは、私自身30年間研究開発の現場で行ってきた方法で、TRIZやUSITのように科学的ではありませんが新しいアイデアを出すには有効な方法と思っています。この方法を用いて、フローリーハギンスの理論では非相溶系で均一にならないとされる高分子の組み合わせでも、均一に混合できる混練技術を開発しています。すでにコニカミノルタから特許が公開されていますが、PPSと6ナイロンの組み合わせで透明な樹脂液が混練機から出てきたときには感激しました。現代の科学の視点では非科学的成果ですが、哲学者イムレラカトシュの言葉「現代の科学で完璧にできるのは否定証明だけである」という名言を思うとき、新しいアイデアは科学的制約の中では生まれにくいように思います。科学的制約を離れ、目の前の現象の観察を注意深く行い自由な発想を進めることこそ重要と思います。PPSと6ナイロンの相溶化技術はそこから生まれた非科学的成果です。
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目の前に問題があり、その解決策を考えるときに、一般的には仮説を立て、前向きの推論を展開します。学校でも基本の推論の進め方として前向きの推論を最初に教えます。集合と論理のところで、推論には逆向き(後ろ向きと説明されていますが)もあることを学び、必要十分条件という大切な言葉を知ります。すなわち厳密な証明では、前向きの推論と逆向きの推論の両方で真になることを要求される、と学びます。
逆向きの推論では、一発で結論に結びつく解決策が得られますが、前向きの推論では、複数の解決策を考えることになります。なぜこのようなことになるかは、論理学の教科書に任せますが、必要条件と十分条件という事柄と関係しております。前向きの推論では、複数の解決策を考えますが、その中に本当の解決策では無い場合も含まれています。そこで仮説に基づく実験を行い、正しいかどうか確認をしているのです。日々の研究開発では、余裕のあるときにはこれで良いのですが、余裕の無いときには、正しいかどうか不明の場合でも結論を出してしまう間違いをしてしまいます。先日の電気粘性流体の事例におけるプロジェクトメンバーはまさにこの間違いをしたわけです。
これを防ぐにはどうしたらよいか。それは逆向きの推論を行い、結論に直接結びつく解決策を見つけておいて、前向きの推論を展開すれば良いのです。前向きの推論で見いだされた解決策の中には、逆向きの推論で見いだされた解決策も必ず含まれており、それは必要十分条件に相当する解決策です。実務においては、ケンシューオリジナルのK0チャートとK1チャートが役に立ちます。研究開発に必ず成功する解決策を迅速に見いだす手法を提供しています。
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先日の電気粘性流体がゴムの添加物で增粘するという問題。
界面活性剤の検討を私が行う前に、開発プロジェクトでも界面活性剤について1年近く検討していました。なぜ私が1週間で見つけられた解決策をプロジェクトメンバーは見つけられなかったのか。私は逆向きの推論で得た対策が唯一の解決策と信じ、とにかくその解決策だけに集中して全ての材料を検討しました。しかし、プロジェクトメンバーは、界面活性剤は一つの解決策であり、他の解決策、例えば添加剤をすべて抜いたゴムを使用する、とか、ゴムの表面を電気粘性流体に直接接触しないように対策をとるとか、前向きの推論で考えられる全ての対策を検討していました。
研究開発で考えられる全ての条件を検討する、という姿勢は間違っていません。私はそのために思考実験を併用するようにしてきました。研究開発で考えられる全ての条件を検討する姿勢は大切ですが、もっと大切なことは迅速に問題の解決策を実現することです。
界面科学の研究者に叱られるかもしれませんが、界面活性剤の科学は未だに未完成です。モデル系の科学はかなりのところまでできておりますが、市販されている界面活性剤を用いたときに生じる現象を科学ですべて説明できません。このような分野を技術に用いるときには注意が必要です。哲学者イムレラカトシュの言葉ですが「現在の科学の論理でできるのは否定証明だけ」といわれているように、科学的に考えられる条件だけ検討しても正解が得られないことがあります。私は、実験を行うときに、界面活性剤として市販されている材料以外に、界面活性剤としても使えそうな材料も選択し、現象を観察しました。実験結果は、市販の界面活性剤の中には目標とする添加剤は無く、界面活性剤と似た構造の化合物が正解である、と出ました。正解が出てからモデル実験を行いましたところ、選ばれた化合物は立派な界面活性効果を示しました。
私は界面活性剤について、全ての可能性ある対策を検討するようにしましたが、開発プロジェクトのメンバーは、ゴムの添加剤の弊害を抑制する全ての対策を検討し、それぞれの対策については、全ての検討をしていませんでした。この違いがでる原因の一つに前向きの推論に頼る開発計画があります。対策のそれぞれについても全ての検討を行うべきだ、というのは結果論として言うことができますが、前向きの推論で行っているときに、それぞれの対策について、全ての可能性を残らず書き上げることは、不可能ではないですが、日常の業務の中ではかなりの困難を伴います。逆向きの推論は直接の解決策だけが得られますので、選択と集中を行うには大変便利な推論の方法です。「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」をご一読ください。
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もう20年以上前の開発事例なので少し恐縮いたしますが、電気粘性流体の開発をお手伝いしたときの話。
当時私は住友金属工業の小嶋さんと半導体用高純度SiC事業立ち上げの準備をしていました。ゆえにここでお話する事例は、私の担当業務ではありませんでしたが、1年以上開発しても解けなかった問題が1週間で解けたという成果であり、問題解決法の事例として説明しやすいのでとりあげてみました。
電気粘性流体を開発していたプロジェクトリーダーから、電気粘性流体をゴム容器に入れて使用しているとゴムの添加剤が電気粘性流体へしみ出してきて增粘するので困っている、という相談を受けました。電気粘性流体というのは絶縁オイルの中に半導体微粒子を分散した流体で、電場を2kV/mm程度かけると半導体微粒子が電極間で並び、固体のような状態になる性質をもった液体です。電場のonとoffで固体と液体の状態を制御できる当時の先端材料でした。しかし、材料開発を10年ほど担当してきた立場で当時の電気粘性流体を眺めたときに、相談内容以外に機能材料として致命的な問題をいくつか抱えていました。しかし、相談内容が最重要課題と言われ、しぶしぶ1週間で相談内容の解決をいたしました。アイデアは採用され特許出願もいたしましたが、実験を始める前に相談者からは、「そんなことはすでに検討したが、だめなアイデアだ。」と却下されました。しかし、次の解決法で無事実用性のあるアイデアに仕上げることができました。却下されても、できてしまえば採用せざるをえません。余談ですが、自分のアイデアが却下されても短期間でアイデアを実現してみせる実行力は、研究開発者として大切です。軋轢が生まれるかもしれませんが、企業にとりまして成果の出せる研究開発者こそ大切にしなければならないと思います。研究現場の健全な競争を奨励し、研究開発の競争で生じた摩擦を解消するようにマネージャーは務めなければなりません。
1.あるべき姿の具体化:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散していても、增粘しない。
2.現実:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散すると增粘する。
3.問題:ゴムの添加剤が電気粘性流体に分散しても增粘しないようにするにはどうしたらよいのか。
あるべき姿から逆向きに推論しますと、ゴムの添加剤がミセルに閉じ込められて、微粒子と独立して安定に分散している状態を作り出せば良い、という課題がわかります。また、それ以外の課題は、学術領域の知識を調査しても思いつきません。課題が一つの大変単純な問題です。課題を思いつくかどうかは、学術領域の知識を整理できているかどうかに依存します。整理できていなければ、コロイド科学の専門家に相談すれば良いのです。この問題では課題が一つなので、前向きの推論でも逆向きの推論でも必ずたどり着く課題です。ただし、逆向きの推論ではこの課題だけ思いつきますが、前向きの推論では、ゴムから添加剤が出ないようにするといった他の複数の課題も考えることになります。逆向きの推論の効率の良さは、結論に直結する解決策を一発で思いつくことができる点です。この課題は、プロジェクトリーダーも思いつき、1年探索したそうです。しかし、安定なミセルはできても対策がうまくゆかなかったそうです。しかし、私は1週間で成功しました。この事例では思考実験が大きな役割をはたしました。
<思考実験のストーリー>
ゴムの添加剤が電気粘性流体へしみ出してくる。安定なミセルが、ゴムの添加剤をミセルに閉じ込め、分散し、增粘しない。ここで、もしミセルがゴムの添加剤で不安定になり、壊れると增粘するはずだ。壊れずに安定なミセルを形成できる界面活性剤ならば、增粘した電気粘性流体に添加しても、粘度を低下できるはずだ。
この思考実験から、実際の実験方法として、ゴムの添加剤で增粘した電気粘性流体へ界面活性剤を添加し、粘度を低下させる実験が有効である、と思いつきます。様々なHLB値の界面活性剤を100種ほど集めて、ゴムの添加剤で增粘した電気粘性流体へ界面活性剤を添加する実験を行い、大変狭いある領域のHLB値の界面活性剤で、電気粘性流体を安定化出来ることが、1週間でみつかりました。(実際の実験は、100本ほど小さなサンプルビンを並べて增粘した電気粘性流体と界面活性剤を混ぜて1週間毎朝サンプルビンを振り観察を繰り返しただけです)
問題解決法を用いない場合には、電気粘性流体に界面活性剤を添加し、ゴムのケースに入れ耐久試験を行う実験計画を立てるかと思います。前向きの推論で考える場合には、このような実験計画になります。これでも見つけることはできますが、効率が悪いように思います。逆向きの推論と思考実験(前向きの推論)を組み合わせることで、効率よく確実な解決策を見つけることが出来ます。
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