ホウ酸エステルとリン酸エステルとの組み合わせ効果を多変量解析で評価するときに問題となったのは、リン酸エステルに含まれる塩素原子である。
リン酸エステル系難燃剤の多くはオキシ塩化リンあるいは三塩化リンを出発物質として使用するので、分子内に塩素基が残っている難燃剤が多い。ゆえに、難燃剤を変量しても、リンと塩素の相関係数が1となり、それぞれを一次独立な変数として扱えない。
そこで解析対象となるデータとして塩素含有率の異なる様々なリン酸エステルとの組み合わせデータを用いなければならず、それによりリンと塩素との相関係数を0.7未満とする必要があった。
当時大八化学が様々なリン酸エステル系難燃剤を試作し、ゴム会社に無償で評価サンプルとして提供していた。これらの無償サンプルを使用し、40以上のデータを収集してリンと塩素との相関係数を0.7未満とすることができた。
回帰分析を行っても標準偏回帰係数の総和が1近くになった。期待はしていたのだが驚くべきことにホウ酸エステルとリン酸エステルとの併用効果が回帰分析で統計的結果として得られたのだ。
現在この時のデータを教師データと評価データに分け、ディープラーニングの手法による回帰分析を実験している。AIを使用した場合には、プログラムにより扱い方が変わる。来年にはこの成果を発表したい。
ポリウレタン発泡体以外にフェノール樹脂発泡体について、建築研究所と準不燃規格制定のためのサンプル作成を行ったときのデータがある。このデータでは、残渣分析により添加された難燃剤の群が層別された。
40年以上前にデータサイエンスの可能性について検討していたが、研究所内では非科学的と馬鹿にされている。今は、マテリアルズインフォマティクスとしてアカデミアで堂々とその非科学的方法が研究されている。
科学と非科学の境界は時代とともに変化する、とはイムレラカトシュの言葉だが、DXにより科学の視点が変化したと感じている。マイコンが登場しMZ80Kを使い倒してみて、その可能性を感じた。
BASIC以外にアセンブラーからFORTHまでこのマシンで動いた。それぞれのプログラミング言語には特徴があり、言語を扱う時に思考の一部はプログラミング言語に支配されることになる。
今主流となったオブジェクト指向言語の概念をぱくっったようなTRIZあるいはUSITが登場しているが、プログラミング言語は、問題解決方法に影響を及ぼす。
Pythonを扱えることは、現在の技術者の常識となったが、この言語はオブジェクト指向を実装しながらもスクリプト言語として手続き型言語のように扱える。
すなわちオブジェクト指向の鋳型に思考を揃えなくてもプログラミング可能な柔軟性を揃えている。構造型思考も可能である。
話がそれたが、高分子の難燃化研究を行いながら、データサイエンスの応用研究も行っている。フェノール樹脂の防火性向上では、液状難燃剤から固体難燃剤など形状効果をこの手法であぶりだすことに成功している。
すなわち、高分子の難燃化という科学的に扱いにくい分野においてデータサイエンス的アプローチによりデータマイニングを行うのは新たなアイデアをひねり出すのに有効である。
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休日の2日間は、始末書に添付するホウ酸エステルの企画書作成のために費やされた。当初樹脂補強ゴムが新入社員テーマとして設定されたのだが、1年間の予定を3か月で仕上げている。ホスファゼン変性ポリウレタンフォームは6カ月で工場試作成功、そして始末書である。
上司はホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームを新入社員の研修テーマ発表会で発表すると言い出した。時間は3カ月しかない。ただし、最大の問題は加水分解しやすいホウ酸エステルの問題解決である。
当方は、この部下から見ればとんでもない上司が反面教師となり、ドラッカーを高校生から読み続けた経験知の検証が可能となった。また、ドラッカーを問題解決の書として見直すきっかけにもなった。
ドラッカーの言葉に「およそ優秀な人がしばしば成果をあげられない。その原因は間違った問題を正しく解くからである」という皮肉ではない名言がある。ところが、この上司は間違った問題に対して誤った解答をする。
だから、部下の誰もが上司の指示の間違いに気づき、慌てて正しい問題を探す。その結果、課員の多くが上司と衝突することになる。上司と衝突することにより、問題解決能力が向上する。ドラッカーが予期しなかったマネジメントスキルの事例を勉強している。
さて、ホウ酸エステルの加水分解性の問題をどのように解くのか。仮説を設定し実験を行うのは、科学の常とう手段だが、シミュレーションを行い、その結果をもとにモノを作る、すなわちシミュレーションで示された機能について動作を直接確認する技術の方法が存在する。
これは、ニュートンはじめ科学誕生以前から著名な人物が実践してきた方法である。現代ならばアジャイル開発につながる方法でもある。また、弊社ではこれらの方法についてセミナーを提供しているが、義務教育から大学教育までで決して教えられることの無いスキル(注)である。
このスキルを活用して業務を遂行した。まず、学生時代使用していた無機結晶模型の部品で、ホウ酸エステルの分子モデルを組み立てた。様々なジオールでモデルを組み立てていたら、ホウ素原子の孤立電子対の電子空乏層が見えてきた。
もし、ここに配位する分子構造ならば加水分解が安定化するかもしれない、と考えて、Nメチルジエタノールアミンとホウ酸とのエステルを組み立てたところ、NがBに配位し、かご状構造で安定化することが模型で示された。
企画書には、新規化合物となる、その絵を描いている。工場の片隅に反応窯を置き、合成後そのままポリウレタンの合成プロセスに送れば、エステル化反応で生成する水を除去する必要もない、画期的アイデアだった。
ジエタノールアミン類とホウ酸とでホウ酸エステルを合成し、副生する水はポリウレタンの発泡体として使用、燃焼時にはホウ酸エステルとリン酸エステルが反応し、ボロンフォスフェートとなり、ホスファゼン並みの難燃性が得られる、と実験結果を検討もせず(注)、まとめられた企画書を始末書代わりとして、上司に提出している。
ここで、上司は、企画書ではなく、始末書としての表紙を作成するように指示してきたので、従っている。その後表紙だけが人事部に送られたことを後日人事部の同期から知らされた。
さて、企画書には実験で仮説を検証せず、分子モデルでシミュレーションされた結果をまとめただけだが、アジャイル開発をおこなったところうまく機能したので、当時始末書のことなど忘れてしまった。
上司も大はしゃぎで、次から次へと企画書に書かれた実験を指示してくる。1か月後には、新入社員研究発表として体裁の整うデータが得られた(この時弊社の研究開発必勝法で説明している戦略図と戦術図を使用していたので、上司には当方の業務が全て可視化されていた。それが自分の首を絞めていった。セミナーでは上司の人格を考えて使用するような注意をしていないが—)。
IRにより、ホウ酸エステルとリン酸エステルが反応してボロンホスフェートを生成していることもモニターされ、さらにリン原子含有率を基準にした単相関係数は、ホスファゼンのそれと等しい値になった。
趣味で始めたデータサイエンスの勉強を試してみたいと思い、難燃化に機能する主要原子であるPとB、ClのLOIに対する寄与率を調べてみた。
科学的な分析データとして、B単独使用ではLOIへの寄与がほとんど無いことが示されていた。また、燃焼時の炎の中に、リン酸エステル単独で観察されるオルソリン酸がホウ酸エステルとの併用で観察されないことも示されていた。
また、燃焼途中や燃焼終了後のチャーにボロンホスフェートをIRで検出できていた。これらから多変量解析を行えば、BとPの寄与率が高くなり、Clの寄与が低くなると想像された。
科学的に研究せよ、とは上司の決め台詞だったが、ロジックを示した戦略図と戦術図のおかげで、その進め方が非科学的だったとしても、理解できなかったのだ。科学的に、が口癖の科学者もどきには科学という哲学がどのようなものであるのか、理解していない人物(注2)が多い。
(注)有機合成ルートを設計する手法に、アメリカの科学者コーリーが考案した「逆合成」という考え方がある。これは、高校の学習参考書「チャート式数学」にも書かれている名言だが、「結論からお迎え」というコンセプトと同じである。すなわち問題を考えるときに、まずその結論から考えるのだ。ドラッカー流にいえば「あるべき姿」を具体化するのである。ドラッカーの書にはこれが随所に出てくる。ゆえにドラッカーが難解に見えたりする。
ドラッカーが難解に見えるのは、前向きの推論による帰納法で問題解決するのが科学的と学校教育で教えられたからである。学校教育では、前向きの推論がスタンダードだが、ドラッカーの書ではあるべき姿を考えながら読む必要がある。
学校教育だけではない。科学とともに誕生したシャーロック・ホームズもワトソンとベーカー街221Bにある事務所で前向きの推論を展開する。この探偵が難解な事件でも解決するので、前向きの推論が正しいと誤解している人が多い。40年ほど前に刑事コロンボは逆向きの推論で事件解決を行うスタイルを示した。おそらく同じ事件をホームズとコロンボにその解決を競わせたなら、コロンボが勝つに違いない。
ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームでは、仮説も検証せずにいきなりジエタノールアミンとホウ酸と反応させたホウ酸エステルを合成し、それを用いて難燃性ポリウレタンフォームを合成している。発泡体なので反応バランスを調節する必要があるが、難燃性の機能だけ確認するのであれば、シート化してLOIを測定すればよい。リン酸エステル系難燃剤であるCR509の添加量依存性を求めたら驚くべきことに、ホウ酸エステルが2%存在しただけでCR509の添加量を半減できることがわかった。
(注2)この上司は馬鹿ではない。「上司を説得する怖い怖い戦略」を考案するきっかけとなった出来事がある。40年以上前の話であるが、この上司が横断歩道で一時停止せず老婆をはねたそうだ。この事件は、隠蔽化されたのだが、同時に酒の席で「本部長の口説き方」として話題になっている。会社内というのは隠蔽化されてもどこからか漏れるものである。さて、その口説き方は、「本部長から言われた宿題を考えて運転していたら事故を起こしました」という方法である。責任感のある本部長は自分への責任回避のため隠蔽化したのである。上司に報告者と同じ結論を共有してもらいたい時には、その内容を説明するときに、それを否定するとリスクが生まれることを優先して説明すると理解されやすい。会社は組織で動く。本来は会社のリスクを優先すべきだが、役割からくる責任を優先して考える管理者は多い。だから、ドラッカーは誠実な人をリーダーとすべき、と言っている。日本はバブル崩壊後世界で一人負け状態である。経営者は管理職が誠実であるかどうか見直してはいかがか。誠実な人物は、まず会社のリスクを考える。換言すれば、担当している仕事の成果をまず考える。仕事にしがみつくような組織人は誠実ではないのだ。
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40年以上前の始末書の思い出をもう少し思い出しながら書いてみる。本来なら暗い思い出だが、ホウ酸エステル変性ウレタンフォームの発明アイデアが生まれた楽しい(?)思い出でもある。
部下から見ればとんでもない上司だが、ゴム会社でそれなりに出世されているので、日本のサラリーマンとして優秀な人だったのだろう。
始末書を書く理由を当初理解できなかったが、上司は市販されていない材料の使用を責めていた。そこで市販されていたなら世界初は難しいでしょう、と尋ねてみた。最近ホスファゼン事業をやめた大塚化学がその誘導体をようやく開発し始めた頃の話である。
当方は大学院を修了後上京前の約3週間、無機材料ではなく有機合成化学の視点でホスファゼンの研究を行い、ショートコミュニケーションを発表している。その時に学生の研究のためにバケツの中で原料を大量合成し、その日当代わりとして指導教官から数kgほど頂いていた。この卒業記念品を用いてイソシアネート基と反応しうるジアミノテトラフェノキシホスファゼンをゴム会社の研究所で合成したのである。
上司にはそれは報告し許可されていた。状況を上司は知っていても始末書を書く書かないで揉めていたのだが、上司がもっと簡単に合成できる新規無機化合物は無いか、と突然言い出した。
その場の勢いで、ホウ酸エステルならお釜一個あれば簡単に合成できる、と答たことを今でも後悔している。この時、ホウ酸エステルが加水分解しやすく扱いにくいことを瞬間的に脳裏を横切ったが、上司から、何故それを最初に選ばずホスファゼンを選んだのだ、とすぐに責められた。
サラリーマンは円満な人柄が出世すると言われている。この上司は恐らく上から見れば従順な人柄かもしれないが、部下に対して陰湿であり、イジメるツボを心得ていた。
このような人物にゴム会社ではよく遭遇したが、うまくいなして12年間務めることができた。このときなぜ上司の術中にはまり、上司のストレス解消の餌食になるような議論となったのか、反省している。
毎日1時間生産性の無い議論が数日続いていたので、当方も精神的に疲れ、ホウ酸エステルの企画提案と言う形で始末書を書きます、と週末に回答してしまった。
始末書の議論を横道にそらすために、ああだこうだとホスファゼンの難燃化メカニズムの特徴を説明してみたりしても、すぐに話は始末書に戻される。始末書を書くと言わない限り、解放されないと悟ったので企画書添付という条件付き提案をしたのである。
ホウ酸エステルとリン酸エステルとが燃焼時の熱でボロンフォスフェートを生成し、ホスファゼンと同等の難燃効果を発揮する技術はこうして生まれたのだが、マネジメントが人を成して成果を出す意味ならば、この上司は極めて高いマネジメント能力を持っていたことになる。
しかし、連日呼び出され始末書を書けと上司から責められるのは地獄だった。同期の友人は、新入社員の2年間は、試用期間と同じで責任が無く残業代もつかない、ということで新入社員に始末書を書かせようとしているのだから、出しとけばいいのではないか、と言っていたが、上司から工場試作を指示され、連日ホスファゼン誘導体の合成を行うために深夜まで働いていた、その報酬が始末書か、とアドバイスに対して答えている。高分子の難燃化技術の思い出では、この始末書問題がホウ酸エステル変性ポリウレタン技術のアイデアを生み出したので、一生忘れられない思い出となっている。ホスファゼン変性ポリウレタンフォームでは特許を書いても発明者の末席となり、工場試作の打ち合わせ資料には名前すら書いてもらえなかった。もし、成果となっていたなら上司の成果となったのだろうが、これが次工程の部署からクレームがつき、始末書を書くような仕事となった。おかげで学会誌に投稿する論文では、執筆者筆頭を主張しても一言新入社員だろ、と言われた程度だった。サラリーマン研究者のスタートがこのような状況で、まさか12年後他社とのJV立ち上げ後転職するような事件に巻き込まれるとは想像していなかった。
ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームが実用化された後、高分子材料から高純度セラミックスの合成研究の企画を提出するのだが却下されている。そしてフェノール樹脂発泡体の天井材実用化後、無機材研に留学し、それを実証するのだが、12年間イバラの道だった。しかし、退職後も事業が続く技術を生み出す夢を実現しようと努力した楽しさもあり、会社を辞めようと思ったことは無い。
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倉庫には、様々な燃焼試験装置がホコリをかぶっていた。指導社員の説明では、新しい装置が発表されると上司である主任研究員がすぐに購入指示を出していたからだそうだ。
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研究所では評価技術の研究に重点が置かれていた。現象を把握するために現象の分析・解析技術は重要である。燃焼という現象解析のためにその評価装置をすべて揃える、という考え方もこの観点では正しいのかもしれない。
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しかし、アラパホメーターは新品同様だった。指導社員の説明では、アラパホメーターの測定原理が燃焼時に発生する煤を濾紙に吸着させる方法なので、精度の高い煙評価ができないとのこと。
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例えば、塩ビと三酸化アンチモンの組み合わせによる難燃性ウレタンフォームでは、難燃性能を変えて合成されたサンプルのどれを測定しても差異が明確に現れなかった。それで、使い物にならないと判断されて倉庫入りとなったそうだ。
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この説明を聞き、ホスファゼンが低発煙であると書かれた論文を読んだ時の上司の顔が浮かんだので、すぐにこの装置を使用した実験結果を報告した(指導社員の指示でもあった)。
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案の定上司のツボにはまり、アラパホメーターを購入してからの経緯を説明されるとともに部下が使い物にならないと判断したのは間違いだった、とまで愚痴ってきた。
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この時、まさかホスファゼン変性ポリウレタンフォームの工場試作に成功した後に始末書を当方に求めてくるとは夢にも想像しなかったが、このアラパホメーターの発言から自己責任能力の乏しい人と理解すべきだった。
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反応型ホスファゼン変性ポリウレタンフォームは、工場試作に成功するまでは研究所で評判が良かった。ゆえに新入社員の2年間は残業代がつかないルールであっても進んで残業を行い、企画段階からたった6カ月という短期間で工場試作を成功させている(指導社員の説明では異例とのこと)。
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この工場試作サンプルについても、すぐにアラパホメーターで無煙難燃化技術であることを確認しろと指示が出た。学会発表するから実験の様子も写真に撮るように、と工場試作に成功後、次から次と仕事を命じてきたが、ある日その指示が始末書を書けとなった。
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これは、実話である。新入社員の当方は始末書の意味が不明だった。上司は市販されていない材料を使用した責任を取れという。企画時に世界初の化合物のため新規に合成する必要があり、と明確に説明していた。
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また、上司は実験中に、無機の講座出身なのに有機合成もできるのか、と褒めていた。その時、世の中に無い新素材、何でも合成したい、といったところ、上司へのアピールを軽蔑するような発言を返してきた。
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本来なら、このような上司にアピールする冗談に対してモラールアップする言葉で返すのがマネージメントスキルとして重要なはずだが、逆にモラールダウンするような言葉が返ってきたのである。
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そばで聞いていた指導社員は、ネクラな上司だから、と言っていたが、この言葉に対し難燃化研究は燃えるようなファイトで仕事をしてはいけないことを指導しているのでは、と意味不明な冗談を返したような記憶が今でも残っている。
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暗い上司の部下として、明るさだけで頑張っていた新入社員時代の思い出である。技術開発には前向きの明るさが重要である、と心掛けている。ゆえに、わけのわからない始末書に対して、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームの企画提案を添えて提出している。
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始末書の書き方については、上司から新入社員の説明不足を詫びるだけでよい、と言われたが、真実と異なっているので、「人に聞けない書類の書き方」という本を購入して研究している。
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その本にも始末書というものは謝罪の心が伝わるように簡単明瞭に書くのが良い、とされている。しかし、当方はこの年に至っても何故上司は新入社員に始末書を求めてきたのか不思議に思っているぐらいなので、当時はこの出来事を全く理解できていなかったと思っている。
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高校生の時に父親に勧められて「断絶の時代」を読んだ。ドラッカーとの出会いだが、大学に残らず企業へ就職したのも知識労働者としてドラッカーの書を理解したい、という思いからである。
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ゴム会社は当時すでに日本を代表するタイヤ会社になっていた。そのような企業ならば、という思いもあったのだが、この始末書事件は喜劇でもある。
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リンの難燃効果は、燃焼時にオルソリン酸が生成され、オルソリン酸の脱水作用により炭化が促進されて、それが空気を遮断する被覆効果を発揮し現れる。1970年代から80年代にかけてこの機構に関する論文が多数発表され、形式知として教科書に掲載されている。
ところが、オルソリン酸の沸点は240℃前後であり、燃焼時に揮発している可能性がある。1979年に入社して9カ月後にポリウレタンの難燃化テーマを担当できたのは、最先端の研究を行う機会であり幸運だった。
今ならばパワハラセクハラ公私混同など問題の多い上司であっても毎日が楽しかった。当時「趣味で仕事をやるな!」と上司から再三叱られた記憶がある。上司は、研究をまじめにやるように勧めてきたが、研究というものがどのようなものか理解していない方だった。
研究とは何か新しいニュースを現象から見出すことだと大学4年の時に指導教官から教えていただいた。当時この方から頂いた大阪大学小竹先生の講義録のコピーにそれが書かれていた。
上司は、論文で面白いと思ったことをそのまま実験してみろ、それが研究だと言ってきた。科学の研究とは、論文に書かれていることの再現性を確認することだと誤解していたのかもしれない。
言われたことの結果とそれを発展させた面白い結果を出すと、「趣味で仕事をするな」とよく言われた。指示されたことだけやれとも言われていたが、指示されたことが的外れな実験の時には、その実験結果と新たな現象を見出すための実験結果とを報告していた。
これが上司のツボにはまった時には、「指示が正しかっただろう」と悦に入るようなおもしろい上司だった。世界初の難燃化技術という指示に対して、世界初の反応型ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の合成に成功した時には、大変喜ばれた。
ホスファゼンは低発煙の難燃剤、と書かれた論文を見つけてきて、ここでは添加型で実験をしているので反応型でも低発煙かどうか確認しろ、と言って倉庫にあるアラパホメーターを使うように指示してきた。
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昨日惜しくも女子フィギュア界でトリプルアクセルと4回転の連続技の成功を見ることはできなかったが、中井亜美選手がトリプルアクセル二回成功など浅田真央選手以降女子選手のジャンプ力が男子並みのレベルになったことを知った。
一方全日本を二連覇した坂本香織選手は、トリプルアクセルを回避する演技に徹し、3回転ジャンプの連続技構成で高得点を狙うプログラムで成功している。
彼女の同世代樋口新葉選手は、坂本選手はじめ4回転を武器とするロシア勢と対抗するためトリプルアクセルを演技に取り入れるようになったが、今シーズン途中で疲労骨折が分かり、休養中である。
休養と言えば、同じくプログラムにトリプルアクセルを取り入れて注目を浴びた紀平梨花選手は、2年近くの休養から初めて姿を見せ昨日演技したが、右足首の痛みの残る中3回転までのジャンプで精彩を欠き、11位に沈んだ。
かつてトリプルアクセルで世界の注目を集めた浅田真央選手は、足のけがのため選手継続をするかどうか悩み、数多くの伝説を残し結局26歳で復活することなく引退している。
女子選手の足のケガが続く状況から3回転以上のジャンプは、現在の女子選手にとって過酷なのかもしれない。かつてフィギュア界の帝王プルシェンコ氏は、男子の4回転時代の到来の時に、それを彼が扉を開いたにもかかわらず、フィギュアスケートはジャンプの回転数を争う競技ではない、と言っている。
日本の坂本選手や三原選手は、彼の言葉を具現化し活躍しているのだが、肉体の限界に挑戦をし続けるスポーツ選手の姿も残酷であるが楽しみなのがファンである。
かつて浅田選手とキムヨナ選手とのライバル戦は、3回転以上に挑戦するスタイルと3回転までに徹し完璧を目指すスタイルの戦いだった。この好組み合わせに対し、「浅田選手は大事なところでころぶ」と意味不明の非難をした日本の元総理はスポーツというものを理解していない。
スポーツ選手には、勝つことだけでなく肉体の限界を目指すスタイルもあるのだ。その限界に挑戦するときにコーチングが重要であることを宇野選手は見せてくれた。
2019年から20年のシーズンは、小さいころから指導を受けていた樋口コーチから離れ、しばらくコーチ不在の状況になった。この時の宇野選手の演技にはミスが目立ち、表彰台に乗ることができなくなった。
何故樋口コーチと別れることになったのか知らないが、まさか本田真凛選手との交際が原因ではないだろう。ステファン・ランビエールコーチに落ち着いてから、演技のロバストが高まり,より進化を遂げたように思われる。
週刊誌も彼を称える記事を載せても興味本位のゴシップネタを書かない。彼の限界に挑戦する誠実で真摯な姿を見れば、称える以外の言葉など書けない。ちなみに、メダルの数は羽生選手よりも多いことを女性ファンは知っておくべきである。
かつてシルバーコレクターとして有名だったが、二番でもいいのではないか、といった女性国会議員もいるにもかかわらず、トップへの挑戦を続けているのだ。そして、それを支えているのがあの選手としても有名だったステファン・ランビエールコーチなのだ。
マネジメントにおけるコーチングスキルの重要性は指摘されているが、部下の能力を限界まで引き出すコーチングの視点を読んだことが無い。パワハラによる自殺に社会の関心が集まるきっかけとなった風祭氏が亡くなって7年がたった。
命より大切な仕事は無い、という談話を母親が発表されたが、事件が起きてからも電通の上司側の談話は無い。新入社員の指導過程における事件であり、やはり社会は真相を知りたかったはずだ。
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昨日リンの難燃効果の線形性の高さを書こうとしたが、途中で脱線してタグチメソッドもどきの手法を1982年に工夫した体験を述べてしまった。
故田口先生にこの体験をお話しした時に感度を高めるために用いるとよいかもしれないが、ロバストを高めることが技術では重要なので、タグチメソッドを用いるように、と褒められた。
たしなめられた、と書くべきかもしれないが、誤差因子を割付けず、相関係数の高くなる条件を求める方法として認めていただいたので、褒められた、と捉えている。
PがLOIに対して高い線形性を示すのは、燃焼時に炭化促進触媒として機能していることを示している。Pの脱水機能で炭化が促進されることは、1970年代に明らかにされ、多数のリン酸エステル系難燃剤が1980年代にかけて開発された。
ところで、Pと同様に燃焼時に炭化促進効果が高い、塩ビと三酸化アンチモンの組み合わせについて、高い難燃効果が得られることは1970年以前に知られていた。
この難燃化機能について、気相で塩化アンチモンを生成し、それが燃焼面の空気を遮断してチャーと呼ばれる独特の炭素を生成することが科学的に確認されたのは、1980年前後のことである。
そして、塩素より重い臭素ならば、アンチモンを併用しなくても原子が重いため効果が高いだろうと着眼し、毒性の高い臭素ガスが燃焼面で漂い空気を遮断することを期待して、多数の臭素系難燃剤が1980年から90年にかけて開発された。
今は安価となったが、昔の臭素系難燃剤は高かった。臭素系難燃剤もアンチモン系化合物との併用効果が確認されている。しかし、このようなハロゲン系難燃剤の問題として、燃焼時に大量のすすが発生することだ。
当方のセミナーでは、それを示すために、ホスファゼン添加系の場合と塩ビとアンチモン系化合物との併用系との比較実験写真を見せている。その差に誰もが驚く写真である。
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高分子材料に対するリン(P)の難燃効果は、他の元素に比較して線形性が高く、添加量を増加させればLOIの値は、上昇する。
空気のLOIは、21であり、ゆえにこの値が21未満の高分子材料は空気中で燃焼し続ける。しかし、ローソクの炎程度の火炎による燃焼では、この値が21以上の高分子材料は自己消火性となる。
難燃剤無添加でもLOIが21以上であり、空気中で自己消火性を示す高分子材料には、ザイロン、PPS、プロセス制御されたフェノール樹脂、分子設計されプロセス制御されたPIなどがある。
フェノール樹脂で「プロセス制御された」と接頭辞をつけたのは、不適切なプロセスを選択するとLOIが21未満となるフェノール樹脂が合成される場合があるからだ。
同様に、PIでは適切な分子設計まで行わなければLOIが21以上のPIを製造することができない。困るのは、総説などでこれらの高分子のLOIについて注釈が無く21以上のLOIを示す、と書かれていたりすることだ。
フェノール樹脂天井材の開発を行ったときに、同一ロットのレジン原料でLOIが大きくばらついてびっくりした。さらにそのばらつきは製造条件により変動する。当時タグチメソッドなど知られていなかったので、当方は外側因子に信号因子としてLOIを割付け、実験計画法を行い、最適化している。
すなわち、データ駆動で安定したLOIが21以上となるフェノール樹脂を製造したのだが、LOIを信号因子として割付けず、実験値として用いた場合には、ロバストの再現実験を行っても再現しなかった。
タグチメソッドが実験計画法ではないことが知られているが、実験計画法よりもタグチメソッドのロバスト再現性が高いのは、誤差因子を外側に割付け、ラテン方格を用いたときにラテン方格が誤差変動へ与える影響を少なくしているためだ。
このことから、タグチメソッドを成功させるためには、可能な限り誤差変動に大きな影響を与える因子をすべて網羅し、調合誤差として用いる。
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高分子の難燃性にプロセス依存性が現れるのは、難燃剤の分散状態がその効果に影響を与えるためである。反応型難燃剤は、その問題解決のため考案された。
しかし、コストアップにつながるので普及していない。また、分散技術が進歩したので添加型と反応型の差が少なくなったのも一因である。
難燃剤は、その添加により大きく効果として現れるので、研究が進んだが、その他の高分子の一次構造の効果や組み合わせ効果について、難燃性への寄与が小さいのでよくわからないことが多い。
例えば、硫黄(S)の難燃効果について、フェノール樹脂とポリウレタンで検討したが、効果の存在を確認できても量依存性について結論を出すことができなかった。
難燃性能の評価法としてLOIは、その評価原理から理解しやすく、また評価データにも多くのケースで線形性が現れるので扱いやすいが、Sの難燃効果を評価すると添加量に対して非線形となった。
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PPSの高い難燃性能では、分子構造に含まれるSも寄与している可能性が高い。また、PPSに含まれる芳香環の凝集性に着目するとPH01同様の難燃助剤としての機能を期待できる。
現在のところ、燃焼時に効率的にチャーを生成できる触媒はオルソリン酸を含むりん系化合物以外知られていないが、こうした難燃助剤と呼びたくなる化合物との組み合わせで、リン系化合物の添加量を減らすことが可能となる。
それではリン系化合物の添加量をどの程度添加すると空気中で自己消火性となる高分子材料を設計できるのか。これは高分子の種類と難燃剤であるリン系化合物との組み合わせで変化する。
また、リン系化合物の分散状態にも依存する。高分子材料へ低分子を分散するときに低分子のSP値がそれに関係しているようなデータも得られている。
SP値が関係しているとすると、PC/ABSのようなポリマーアロイの場合の難燃性高分子の設計をどのように行うのか、という疑問がわいてくる。
SUSHIを用いてシミュレーションをしてみると、どの高分子の相に難燃剤が分散するのか、という仮説により設計方針が変わる。PC/ABSの難燃剤としてBDPが良く用いられているが、これはシミュレーションによりPC相に分散しやすい傾向が示されることから納得できる。
このような工夫や思索をあれこれしてもカオス混合を用いるとびっくりする。難燃剤の種類の差をリン原子の含有率を揃えて比較して1%前後の違いとなる現象が観察されるからで、プロセスの寄与に関心が向く。すなわち二軸混練機を用いた場合にはプロセス条件が大きくかかわる。
このような経験知を獲得すると、射出成形条件によりLOIがばらつく現象を理解できる。射出成形では、二軸混練機で不十分だった混練がわずかに進むからである。
これは、過去に東京大学生産技術研究センターの研究において、金型内の樹脂流動の可視化データを見ればわかる。ゲート部分で剪断流動が起きている。
金型の設計により伸長流動も起きる場合があり、剪断流動と伸長流動が発生すれば混練が進行することになる。高分子の難燃性を向上できる金型設計という技術特許を出願することが可能である。
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