ホウ酸エステルとリン酸エステルを併用し、ポリウレタン発泡体に添加しておくと、それが燃焼時に反応してガラスを生成しポリマーを難燃化する。データサイエンスによりその現象を把握することができる。
極限酸素指数(LOI)を目的変数として、ホウ酸エステルだけ添加したポリウレタン発泡体で採取された実験データを単回帰分析するとホウ素の含有率変化に対してほとんど増加しない。すなわち、ホウ素原子単独では、LOIを増加させる機能が無いことを示している。
ところが、リン酸エステルとホウ酸エステルを併用するとホウ素原子の難燃化機能がリン原子の効果に近づく。これが段階式重回帰分析で示された。
段階式重回帰分析とは、説明変数を逐次1変数づつ取り上げながら重回帰式を組み上げてゆく方法で、説明変数間に相関関係があると目的変数への寄与が高い説明変数だけが重回帰式に組み込まれる。
この手法で組み立てられた重回帰式には、必ずしも期待する説明変数が取り込まれない場合も出てくる。ゆえに、当時は期待される説明変数が取り込まれるように、重回帰式の結果を見ながら実験データを取り直すこともしていた。
このような試行錯誤の実験で、重回帰分析の数学的な意味だけでなく、サンプルデータ群の特徴が回帰式にどのように影響するのか、ということも学んでいる。
例えば、塩素原子や窒素原子、芳香環などは、条件が整うと難燃性に寄与する単位である。三酸化アンチモンが存在すれば、燃焼時に塩化アンチモン蒸気が生成して空気の遮断をすることが知られている。
これは、段階式重回帰分析を行うと塩素原子とアンチモン原子が説明変数として取り込まれることからも理解できるが、リン酸エステルには塩素原子を含んでいる化合物も存在するので、リン原子と塩素原子の間に偶然の相関が出てきて、どちらかの原子が取り込まれないことが起きる。
アンチモン原子が存在すると、塩素原子が取り込まれて、リン原子が棄却される。燃焼時のリン酸単位が炭化促進の触媒作用を示すことは形式知なので、これはおかしい。
塩素原子を含んでいないリン酸エステルを用いた実験データを追加してやり、リン原子と塩素原子との単相関係数が例えば0.7未満になると、説明変数としてリン原子と塩素原子の両方が取り込まれるようになり、リン原子と塩素原子、アンチモンとの効果比較が可能となる。
ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の難燃化システムの場合にも、難燃剤の組み合わせ等を工夫し、ホウ素原子とリン原子、塩素原子、窒素原子、芳香環それぞれの単相関係数が0.7未満となるようにしてやると、ホウ素原子とリン原子、塩素原子が説明変数として取り込まれた重回帰式ができる。
この重回帰式の説明変数の標準偏回帰係数を比較してやると、それぞれの原子のLOIに対する寄与を知ることができる。驚くべきことに塩素原子が0.1程度に対し、ホウ素原子は0.4程度までになっている。
一番高いのはリン原子で0.6である。この総和が1になっていないのは誤差を含んでいるためであるが、LOIに対するホウ素原子の標準単回帰係数がほぼ0に近いにもかかわらず、塩素原子の4倍の寄与率を示したのは、リン原子との相乗作用の結果であり、燃焼時の熱でホウ酸とリン酸が反応してボロンホスフェートの生成した結果と一致している。
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ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の難燃化機構について、データサイエンスによる証明では非科学的とゴム会社の研究所で評価されただけでなく当時の学会でもあまり関心が示されなかった。
当方もデータサイエンスの手法が科学的とは思っていなかったが、科学で答えられない問題あるいは現象について、科学で問う方法として関心があり、1980年からアイデアを練ったりする時だけでなく、科学的証明が難しい時にデータサイエンスを活用していた。
燃焼という現象は、急激な酸化反応であり非平衡状態で進行するので、科学で問うことはできても完璧な科学的証明は困難である。未だに非平衡で進行する現象の取り扱いについて形式知がまとまっていない。
40年前の1980年代ならさらに科学の状況は遅れていたので、科学的な証明が困難と言っても良い時代だったが、それでも科学的に完璧な証明を上司は求めてきた。アカデミアよりもアカデミックな研究所ゆえの疑問の残る仕事である。
仕方がないので、熱重量分析装置を活用して、各温度における変化を観察したのが最初の研究である。そして、50℃間隔で熱重量分析装置を停止し、サンプルの状態を観察したり、発生ガス分析をしたりもした。
この結果に合わせて、実際の燃焼試験における発生ガス分析や燃焼後の燃焼面の分析を行ったりもしている。そして、ポリウレタンに添加されていたホウ酸エステルとリン酸エステルが反応して350℃でガラス状のボロンフォスフェートが生成していることを確認した。
また、ホウ酸エステルが添加されていない時には300℃でオルソリン酸の揮発が観察されるが、添加されているとそれが抑制されることも明らかになった(恐らく300℃からホウ酸との反応が始まっていたのだろう。実験で得られた値には50℃の差異が存在した)。熱重量分析の結果は、燃焼時の現象でも再現されたので分析手法も含め機密事項とされた。
1980年代は高分子の難燃化研究について、技術が完成した時代であり、1970年代からその開発競争が激化していた。当方は大学院でPVAの難燃化をホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体で成功していたので世界の研究動向を知っていた。
ゆえに製品化されなかったホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の研究論文の発表許可は下りたが、製品化されたホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体については、学会発表のみ許可された(ただし学位論文には学会の予稿集にも書いたデータサイエンスの成果を掲載している。)。
ただ、一連の解析データについて、特に動的な燃焼時のガス分析手法についてはノウハウとされ、発表許可が下りなかった。燃焼現象の解析技術は当時先端技術であり、発表に制約がついたが、データサイエンスの成果については、非科学的という理由で容易に許可された。
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高純度フェノール樹脂と高純度ポリエチルシリケートとの反応に有機酸を用いて前駆体を合成後、それを焼成して高純度SiCを製造するプロセスは、科学的発想法で考えて出てくるアイデアではない。
フローリー・ハギンズ理論で否定される組み合わせのポリマーアロイを合成しなくてはいけないからだ。フェノール樹脂と無機高分子であるポリエチルシリケートの組み合わせのχの値は大きい。
χが0ではないポリマーの混練には、相溶化剤が用いられるが、高純度化のためのポリマーアロイに高純度の添加剤は、コストアップとなるので用いたくない。
χが大きな2種のポリマーを均一に混練する方法として、カオス混合と高速剪断混練があるが、当時存在したのは低粘度の高速剪断技術だけだった。
この技術は、イソシアネートとポリエーテルポリオールとの反応で製造されるポリウレタンのリアクティブブレンド技術として知られていた。これは、低分子とオリゴマーとの反応でポリマーを製造する方法で、ポリマー同士の場合にどのようになるかは知られていなかった。
当方は、高純度SiCの発明の前に、このポリウレタンをホウ酸エステルで変性して難燃化する技術を研究しており、データサイエンスにより燃焼時にガラスを生成して高分子を難燃化する技術を開発していた。
この技術は、日本化学会年会や無機高分子研究会などで発表しているが、データサイエンスの研究について、ゴム会社の研究所では非科学的という理由で予稿集には記載していない。
しかし、当方はデータサイエンスの成果として1枚OHPのシートを作り学会で発表している。ところが学会でもデータサイエンスの成果については関心を持っていただけなかった。上司はしたり顔だったが、当方はその後機会あるたびにこの成果を発表している。その結果時代の変化を知ることができた。
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昨日材料の問題を解くのにMIを用いるぐらいならタグチメソッドや新QC7つ道具で十分、と書いたが、これではMIを研究されている方を愚弄するようなイメージにとられるといけないので補足する。
何か材料の問題を解こうとするとき、例えば新しい配合を考えようとするときも含め、科学的に問題解決するよりも、20世紀には非科学的と呼ばれていたデータサイエンスで解いた方が効率が良い。
それではデータサイエンスのどの方法を選択するのか、といえば、タグチメソッドもよいが、データ駆動の方法で簡単に解けるならば、MIが良い、ただしMIを持ち出すくらいなら新QC7つ道具で解いてみてはいかが、と言うのが当方の昨日の内容である。
MIの利点として非線形の問題を扱う時に多変量解析よりも良い結果が出るかもしれない。ただし、多変量解析やタグチメソッドでも非線形の現象が現れたときにそれなりのパラメーター応答があるので問題を解けないわけではない。
少し頭を使うとグラフ用紙1枚でデータマイニングする方法もあるが、これは弊社のセミナーを受けていただく必要がある。
特に頭をひねらなくてもMIでは非線形の問題までデータ駆動で扱えるので便利である、ということを付け加えておくが、人間の頭脳を使わずにMIはできない、と言う注意も忘れないでほしい。
DXの進展は個人のスキルアップだけでなく地頭の質まで問うようになった。DXの進展=MIではないのである。データサイエンスの成果として様々な手法が知られている。MIでうまくいかない時は弊社にご相談ください。
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コンピューターが登場した当時、それを動かすプログラムは、手続きの流れをコンピューターが理解できるように機械語で書かれた。それがアセンブラーとなり、科学技術計算用としてFORTRUNが生まれるに至り、プログラミング技術が科学者に浸透していった。
かつてスパゲッティープログラムという言葉があったように、その言語はアセンブラーよりは簡単であったが、複雑なプログラムを書くのには不向きだった。それでも便利だったのでより文法が易しいBASICがその後生まれた。
文法は易しくなったが、コンパイル(コンピューターが分かるように翻訳)後のプログラム容量が大きくなったので逐次コンピューターに翻訳させるインタープリター型の言語として設計された。
このようにプログラミング言語の設計は、文法をどのように設計するのかが課題だったが、アセンブラーに近く、文法がBASICに近く易しい(ポインターという悩ましい壁が存在するが、易しいと思う)C言語が生まれ、プログラミング言語の設計が容易になり、多数のプログラミング言語が生まれるようになった。
その過程でプログラミング言語のパラダイム事態の革新があった。それがオブジェクト指向であり、オブジェクト指向では、データとアルゴリズムを一体としてプログラムを組み、従来のデータとアルゴリズムが別々であったために、プログラムの再利用性に難があった問題を解決した。
オブジェクト指向のパラダイムは、言語の仕様が人間に近づいたように見えたので、すなわち、オブジェクト指向のクラスと呼ばれるプログラムの塊が、お互いに情報を交換しながら大きなプログラムとなってゆく動作をしたので、擬人化パラダイムとも言われた。
そうなってくると、ほとんど人間同様のふるまいをするプログラミング言語を設計しようというパラダイムが生まれ、エージェント指向と呼ばれた。
オブジェクト指向の最初の傑作であるC++が、Cに翻訳され、その後機械語にコンパイルされたように(今では直接機械語にコンパイルできる処理系も存在する。)、エージェント指向も同様の方法で研究されているが、未だ、映画「マトリックス」で再現されたような世界観の言語は登場していない。
マトリックスは派手なワイヤーアクションが話題となったが、未来のコンピューターの世界観をうまく表していた傑作なので、当方はDVD版もその後購入している。上映映画のDVDなど購入した経験は無かったので唯一である。
さて、現在のAIは、オブジェクト指向のプログラムで作られている、と書けばAIがどのようなものなのかはご理解いただけるのではないか。まだ、プログラマーの頭脳を自動化したに過ぎないAIしかできないのだ。この技術の限界を常に知ったうえでAIを眺めてほしい。
人間のように悩んだり、暴走して人間の手に負えないようなAIを人間はまだ創り出すことができないのだ。それを創り出すためには、オブジェクト指向を越えたパラダイムのプログラミング言語が必要となる。
この点を理解できると、現在のマテリアルインフォマティクス(MI)に関する研究がどのようなものか理解できると思う。1970年代に登場した新QC7つ道具でも同様のことができることを知らない人が多い。
新QC7つ道具から最先端のMIまで弊社は指導しています。その立場から申し上げれば新QC7つ道具は高卒でも理解できる易しい方法です。
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日々の問題解決のため、ロジカルシンキングというセミナーが1980年前後に大流行している。日々の業務を科学的に遂行しようとする戦後の科学教育の効果や、研究所設立ブームがひと段落したときで論理的にビジネスを進めようという潮流にうまく適合していた。
研究所では、科学的に研究を進めることが当たり前で、企業からも学会発表が競うように行われた。しかしバブル崩壊後、企業からの学会参加は減少の一途である。
ところで、問題解決法には科学の方法以外にもあることが忘れ去られたようだ。当方は非科学的方法でゴム会社で高純度SiCの技術を事業化し、その事業は今でも続いているが、科学の方法でまとめなおして学位を取得している。
当時の研究所では非科学的な問題解決法は受け入れてもらえなかったのだ。ビジネスの観点で考えれば、非科学的であろうと問題を解決することが重要で、科学的に業務を進めて問題解決に失敗しても意味がない。しかし、ゴム会社の研究所は、モノを作ることよりも科学的であることが重んじられた。
例えば、電気粘性流体の耐久性問題では否定証明により、問題解決できないので添加剤が入っていないゴムを開発すべきという結論が出されている。
ゴムを知っている人から見れば大変間抜けな結論だが研究所のトップはこれが素晴らしい研究だと立ち上がったばかりの高純度SiCのJVを止めてでも添加剤が入っていない世界初のゴム開発を進めよと命令している。
話はそれたが、科学的に完璧な証明は否定証明以外にない、というのはイムレラカトシュの名言であるが、科学的に問題解決を進めたときに、科学にとらわれると否定証明に向かうという問題に気づいていない人は多い。
科学は論理学の誕生とともに成立したとマッハは著書の中で述べており、論理学誕生以前のニュートンの研究でさえも非科学的だと解説している。ここで注意しなければいけないのは、非科学的方法であっても万有引力の法則を見出してニュートン力学という分野を開拓している事実である。
最近の学校教育では教えなくなったユークリッド幾何学は科学誕生よりもはるか昔に生まれている。すなわち人類は科学誕生以前に非科学的方法で日々問題解決してきたので、進歩してきたのだ。
ただ科学誕生により産業革命が起き、技術が加速度的に進歩したので、科学の方法というパラダイムが重宝されただけであることを知るべきである。
この数年アカデミアではマテリアルインフォマティクス(MI)が流行し、慌ててこれを導入している企業が多いと思われるが、MIで問題解決するというのは、昔ながらの非科学的パラダイムであることに気がついているのだろうか。
コンピューターという道具を使うので最先端ではあるが、そのパラダイムは従来非科学とされた技術的パラダイムである。不易流行の境地を知ればそれが見えてくる。
AIを用いないデータマイニングもできるし、コンピューターさえも使わずデータマイニングは可能で、当方はグラフ用紙一枚でデータマイニングに挑戦し新たな多成分ポリマーアロイを開発している。
データサイエンスは1970年代に生まれ、その概念を拡張しつつ発展し現在に至るが、電気粘性流体の事例で紹介したような間抜けな研究をしないように心掛けたい。
ビジネスでは科学的であることよりも正しい問題を解決し仕事を前に進めることが一番大切である。科学的問題解決に行き詰まったなら非科学的方法も試してみるとよい。弊社では科学から非科学まで全ての問題解決パラダイムを指導している。
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8ビットμCPUの登場により始まったデジタル革命の初期には、やがてナノテクノロジーに昇華する日本発のセラミックスフィーバーと呼ばれる材料科学イノベーションとして世界に伝播している。
この時話題となったのはセレンディピティーという能力である。犬も歩けば棒にあたる的な能力として新素材発明に必須と騒がれた。
アカデミアの研究者も含め、科学的に研究を進めていても新素材開発は難しい、と疑心暗鬼になり始めたのだ。同時期にアメリカではトランスサイエンスという言葉が生まれている。
日本では、ポリマーアロイを前駆体とする高純度SiC製造法がデータサイエンスを用いた配合設計により発明されている。そしてこの技術は事業化されて30年続き、現在は愛知県にあるセラミックス企業MARUWAで事業継承されている。
アルビントフラー「第三の波」がベストセラーとなる時代、情報通信分野で始まったDXはやがて現在の姿になったのだが、アカデミアでMIの研究が行われている現象を科学と非科学の境界の移動として当方は捉えている。
この方法は、AIを人間の頭脳に置き換えれば、科学誕生以前から人類が営んできた技術の方法と類似している。また、そこで使われる機械学習とは、大量のデータに潜む一定のルールなりパターンを見つけ出す、人間の作ったアルゴリズムでコンピューターに演算させているだけである。
仮説ではなくデータ駆動で結論を導き出すMIの手法は、試行錯誤と誤解されるかもしれないが、それと異なるのはデータ「サイエンス」が使われている点である。技術者は、見出された機能にロバストがあればこれを問題としないが、科学者は科学の方法として今後どのようにMIを位置づけるのだろうか。
ところで、過去データも含め教師データとしてAIに学習させるので、MIの方法は温故知新のような側面がある。AIの学習作業において熟練技術者を活用できれば、技術伝承手法として期待できるのではないか。
高分子材料はプロセスの履歴の影響を無視できず、未だ経験知や暗黙知を活用した開発方法が有効となっている。そのため、科学的に配合設計を行っても越えられない技術の壁を感じる若い技術者もいると思われる。
DXの進展でデータサイエンスの利用環境を無償で個人が容易に手に入れることができ、その使用方法も無償で公開されている。DXにより引き起こされたイノベーションは、データサイエンスの活用を促しMIを流行させたが、今後個人の配合設計スキルの格差を広げるように作用する。
さらに、MIは技術の伝承にAIを活用する道を開いたが、プロセス情報についてデータベースの整備という問題が放置されたままである。
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データ駆動による配合設計事例として、回収PETボトルから得た再生PETを80%含有する易射出成型性多成分ポリマーアロイの事例を紹介する。
2022年4月に法律が施行されて再生樹脂のブームである。PETは溶融状態から冷却すると急速に結晶化するので射出成形が難しく、押出成形やブロー成型の用途で使われてきた。
PETボトルのリサイクル分野として、射出成形の用途開発が期待されている。ところが射出成形用途で使用するためには、PETの急激に変化する温度-粘度曲線をPCのような緩やかな曲線となるように溶融粘度を改質する必要がある。
溶融粘度の改質技術以外に再生樹脂の新たな変性技術を開発する目的で、多数の廃材ポリマーを混ぜて粘度調整する実験について仮説を設定せずに計画した。
曲げ強度と衝撃強度、弾性率を同じスケールの縦軸でプロットするために、弾性率について線形性を保てるように100で除して10を引いた値へ数値変換する。
衝撃強度は、線形破壊力学によれば密度1.2から1.3g/cm3の範囲で一定となるはずだが、実験を行うと大きくばらついている。その結果、曲げ強度は、弾性率と似た相関のある群とそれよりも密度依存性の大きい相関を示す群とに分かれた。
PETの含有率は80%と一定の配合率で実験を行っているが、残り20%へ配合されたポリマーは様々な廃棄樹脂である。このような群に分かれるのは、配合因子だけでは説明がつかない。
電子顕微鏡観察を行ったところ、強度の高い群では強度の低い群よりも微細な構造となっていた。一定の射出成形条件で実験を行った群から、密度と強度の高いサンプルを一種類選び、配合因子以外に混練プロセスから射出成形プロセスまでの制御因子を用いてTMによる最適化実験を行っている。
その実験によりカオス混合プロセスを用いる条件が選択されて、UL94-V2に合格するABS同等の物性で射出成型性も良好となり、ロバストの高い高品質の樹脂配合が得られた。
このように経験知や形式知に基づく公知の関係を利用して、その関係から外れる新規物質を探索することが可能である。
MI手法が話題となっているが、データ駆動の手法で新たな知を探索するためにAIを利用することが唯一の方法ではない。このような経験知や形式知で見出されている関係を利用して実験を進める方法や、多変量解析でデータを整理する方法も存在する。
MIでゆきずまったら弊社にご相談ください。マテリアルインフォマティックスだけでなく様々な問題解決手法をご指南いたします。
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具体的な方法を説明する。形式知から、弾性率は密度と相関している。線形破壊力学から狭い密度範囲において靭性は一定と期待できる。また、経験知から強度は弾性率と靭性を変数とした関数とみなせる。
これらの公知の関係を利用して、多成分ポリマーアロイの成分量を変動させて実験を行う。成分量の変動についてはラテン方格を用いても良いし、経験知から適当に変動させても良い。
得られた諸物性データについて横軸を密度、縦軸を力学物性としたグラフへプロットすれば、公知の関係から外れた条件を容易に見出すことができる。
そして強度の良好な群について考察すれば、改良因子を見出すことができる。(この実験では、すべてのサンプルが密度と弾性率の関係において、一つの直線状にプロットされるが、強度の値では、弾性率に相関した群とそれよりも大きな強度を示すサンプル群に分かれる。)
1990年ごろから日本で普及の始まったTMのおかげで、仮説を設定しないデータ駆動の実験により新材料を開発する手法を技術者は非科学的と排除しなくなった。
この方法では、仮説を用いた実験による真偽判定ではなく、計画された実験データから分散分析により最適な制御因子とその水準を見出し、それらを条件として採用した確認実験を終えて科学技術として完成させている。
また、MIあるいはTM、その他のここで紹介したデータ駆動の実験では、仮説の真偽を確認するために行われていないので、イムレラカトシュが指摘するような否定証明に陥る危険性は無い。
それゆえ実験により必ずモノを生み出すことができる。そもそも科学による実験と科学誕生以前から人類が営みとして行ってきた技術開発における実験とは、方法や手順が異なり、技術の方法では仮説設定は必須のプロセスとされていなかった。
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学習を終えたAIを用いてMIを行うと、知りたかった新たな知が出力として得られる。この時、AIの各ニューロンそれぞれの関係には、多数のデータから学習した一定の重みづけが行われている。
このAIへ新たなデータを入力するとその特徴を出力できるのは、この各ニューロン間の重みづけされた関係、すなわち学習により構築された関数関係のような仕組みのためである。
ここに着目すると、次のようなデータ駆動の実験で配合設計を行う手法が考えられる。例えば、射出成形性も悪く強度の低い多成分ポリマーアロイの配合を入力として、射出成型性が改善されて良好な力学物性の樹脂を出力とする問題を考えてみる。
樹脂の力学物性について、これまでの研究開発で蓄積された形式知や経験知から諸物性の関係が知られている。この関係を学習の完了したAIとみなして実験を行えば、多成分ポリマーアロイの配合について、仮説を設定せずに技術開発できる。
ただし、この方法では仮説を用いないので、20世紀の視点では非科学的方法となる。さらに、経験知と形式知を混然と用いる方法なので、その結果は科学的に真であることが保障されない。
しかし、この方法で得られた結果に関し統計手法あるいはTMで確認実験を行えば、ロバストの高い技術が得られる。
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