PETのポリマーアロイであるPC/PETは、30年以上前に開発された技術でフィルムだけでなく射出成形体としても活用されてきた。それゆえPETも射出成形可能と誤解されている人がいる。
しかし、PC/ABSでは任意の比率で製造されたポリマーアロイが活用されているのに対し、PC/PETでは、PETが30wt%未満となる配合組成のポリマーアロイだけが射出成形用樹脂として使用されてきた。
これは、PETの比率が高くなり樹脂のマトリックスとして機能した時に射出成形性が悪化するためである。それでは、PETが60wt%以上の樹脂で射出成形を可能とするコンパウンドを設計してみようと実験を行ったところ、結構難しかった。
PETにSP値を考慮した樹脂を選んでみたり、コンパチビライザーを添加してみたりしても簡単に強度の高い樹脂を設計できなかった。
そこで、直交表を用いたデータ駆動の実験を行ったところ、PETを80wt%含むコンパウンドでも良好な射出成形体が得られる配合を見出すことができた。
この時用いた手法について混練のセミナーで公開しております。来月の無料セミナーでは、この樹脂についてこの10年の間に研究した面白いデータを初公開したいと思っています。
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樹脂の粘弾性測定を行い、温度分散のグラフを書くと、TgとTmの間に変曲点が観察される。面白いのはこの変曲点で金属に対する接着力がほとんど無くなる現象である。
この現象を知っていると、混練機の掃除が楽になる。混練実験終了後混練機のスクリューとシリンダーを清掃するためにクリーニング樹脂を流すことがお決まりであるが。
たいていは、混練した樹脂よりも低融点の専用の樹脂を使用するのだが、PPSコンパウンドの開発を行っていた時に、このクリーニング樹脂を使用せず、混練実験直後250℃前後の温度領域で清掃をしてみた。
驚くほどきれいに掃除ができたので、担当者にノウハウを指導したところ、最初は不思議そうな顔をして説明を聞いてくれた。不思議そうな顔が怪しい話を聞いている顔に変化したので、いくつか配合の異なるPPSコンパウンドのレオロジー特性を測るように命じた。
頭のいい担当者だったので、すぐに変曲点の存在に気づき、面白いコンパウンド評価法を開発してくれた。詳細をここに書けないが、この変曲点がコンパウンドの品質とも関わっていることを発見して、品質特性の評価法を作ってくれた。
この評価法は、タグチメソッドの基本機能としても使える方法に思われたので、新しく設計したPPSコンパウンドの最適化に使ってみたところ、びっくりする実験結果が得られた。
タグチメソッドではロバストを高めた条件から調整因子を用いて感度をあげる二段階手法となるのだが、ロバストと感度が相関し高くなる、という幸運な実験結果が得られている。一般に感度が高くなるとロバストは下がる傾向の実験結果となる。
18年前の実験結果であり、もう公開しても問題ないと思っているが、ここに詳細を書くにはあと2年待ちたい。これまで、だれか学会で発表するかもしれない、と期待していたが、現場で発見された現象であり、アカデミアでは気がつかない現象かもしれない。
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ゴムでも樹脂でも二種類以上の高分子を均一に混ぜたいときにコンパチビライザー(相容化剤)を検討する。高分子が相溶する組み合わせの場合には必要ないが、多くの組み合わせではこの添加が必要となる。
添加をしなくても混練機を使えば混ざったように見えるが、電子顕微鏡で見ると少ない方の樹脂なりゴムが島状に分散している様子を観察することができる。電子顕微鏡でなくても光学顕微鏡でも観察可能だ。この島のサイズが大きな時には肉眼でもあるいは手触り感でも確認できる。
ゴム会社に入社し、研究所へ配属された時の初めてのテーマが樹脂補強ゴムだった。1年間のテーマを3か月でやり遂げ、褒められるのかと思ったら職場異動となり、高分子の難燃化技術で新しいテーマ企画をすることになった。
難燃化技術で世界初の技術を企画せよ、と指示を受けたので、難燃剤を添加しなくても高い難燃化効果の得られるホスファゼン変性ポリウレタン発泡体を企画している。
もっともこの発泡体はホスファゼンで変性されているので、難燃剤で変性した発泡体とみることができるが、当方の頭に浮かんだのは嵩高い基で変性された時のポリウレタンの物性変化である。
また、ホスファゼンはポリエーテルに相溶しないので、コンパチビライザーを用いずにうまく分散する技術の可能性を検討したかった。技術開発において世界初の要素が多い技術はその数だけ難易度が高くなる。
樹脂補強ゴムは、指導社員の助けもあり、3か月で製品の配合までまとめ上げたが、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体は、工場試作を成功させるまで半年かかった。それでも早い方だったらしく、上司から褒めていただいたが、それは一瞬だった。一か月後には当方が始末書を書かされている。
工場のラインを使っても、コンパチビライザーを用いず分子レベルでホスファゼンをポリウレタンに分散させることができたので当方は満足だった。
1970年代にフローリーハギンズ理論が活発に研究され始め、1980年代には、コンパチビライザーの新製品がいくつか開発された。しかし、コンパチビライザーを用いなくても均一に分散できる技術は未だにその手段は少ない。
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2010年から始まった第3次AIブームでマテリアルズインフォマティクスが定着したが、1990年から日本で普及が始まったタグチメソッドや、それより前から存在した統計手法との関係について誤解されているか、あるいは理解できていない技術者は多い。
ゴム会社の研究所の技術者のように科学こそ研究開発の唯一の方法と信じている化石のような技術者にとって、これはどうでもよいことかもしれない。
第3の波が始まった50年近く前の冗談のような信じられない実話を書くと、ゴム会社では新入社員に統計手法のスキルを身に着けさせようと力を入れていたが、それでも研究所の技術者の中には、「人事部に従って真面目に統計を学ぶア〇」と言っていた人が多かった。
当方は、品質管理に重要な統計手法としてだけでなく、問題解決法として公開されていた新QC7つ道具の有効性に気づき、愛用していた。ゆえに研究所では大いに馬鹿にされて、実験計画法で求めた最適条件が外れたときには、周囲から大声でからかわれた。
研究所はこのような調子だったが、タイヤ開発部門は人事部方針に従い、すべての技術者が真面目に統計手法の活用に取り組んでいた。ゆえに設計段階から高品質のタイヤを創り出し世界一になれたのだと思う。
しかし、研究所では当方が転職した頃でも科学の方法こそ唯一の技術開発方法とされ、タイヤ開発部門はKKD開発部隊と軽蔑していた。
さらに、電気粘性流体の耐久性問題は界面活性剤で解決できない、という結論を導いた報告書が素晴らしい報告書とされたように、否定証明が最高の科学という本部長が誕生している。
電気粘性流体の耐久性問題については、それを解決できる結論を非科学的と排除しようとしたので、すぐにデータサイエンスで見出された界面活性剤を用いて、科学の方法の問題を示したのである。
I本部長ご指導の元、東大から阪大まで、博士2名を含めた優秀な6人のスタッフによる否定証明は1年かかかっているが、データサイエンスによる肯定的な結論は、MZ80Kにより一晩で出され、その実証に3日とかからなかった。なぜなら、当時の電気粘性流体をゴムケースに入れて耐久促進試験を行うと半日で失活していたからである。
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下記内容で、今月22日に技術情報協会主催で高分子の難燃化技術セミナーが開催されます。弊社にお問いあわせ頂くか、直接技術情報協会へお申し込みください。
火災は,急激に進行する酸化反応である。非平衡下の科学が未だ研究段階であり,高分子材料の難燃化技術を科学の形式知だけでは開発できない。形式知で解決できない問題は,経験知や暗黙知まで動員して解決することになる。
すなわち,科学で解決できない高分子材料の難燃化技術では,高分子材料の用途に適合した難燃化規格を定めることにより,問題解決できるようにしている。
しかし,高分子材料の用途は様々であり,ひとたび火災が発生すれば用途ごとに燃焼のリスクだけでなく燃焼時の現象も様々となる。このことから難燃性の規格は,用途ごとに決める必要性があり,その結果測定法も様々となり,不定期に改定される規格も出てくる実情を納得できる。
高分子材料の成形体を購入する立場であれば,納入業者に規格に合格しているかどうか確認すればよい。ところが,多種多様の業界に製品を納入している成形体メーカーは大変である。それぞれの業界ごとに製品が規格に合格するのかどうか確認しなければいけない。
ここで手を抜く担当者は,材料メーカーにそれを求める。その結果,高分子材料の業界では,コンパウンドメーカーが難燃化技術の開発をしなければいけなくなる。 コンパウンドを難燃化するときに,最もよい難燃化手法を探すことになるが,「最もよい方法」を客観的に評価するには,それが科学的に証明されなくてはいけない。
本セミナーでは,高分子の耐熱性と難燃性について概説する。また,熱分析手法を用いた開発事例を説明し,新たな難燃化技術を開発するヒントを示す。さらに,2022 年に施行された法律により再生材の活用が本格化している実情を踏まえ,再生材の難燃化技術の事例も解説する。
高分子の難燃化技術は,トランスサイエンス(注)でありその問題解決にデータサイエンスは有効な手法の一つであり,Python によるディープラーニングによる回帰の結果についても言及する。
(注)科学で問うことができるが,科学で答えることのできない問題。
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モデルベースデザインとかモデルベース開発という言葉が1980年代のアメリカで生まれているそうだ。これは故田口玄一先生との雑談で伺った話である。
タグチメソッドもそのカテゴリーのメソッドとして最も優れているとの説明だったが、確かに損失関数で、研究開発から市場まで同じパラメーターで一気通貫に記述できたなら、モノづくりの流れの中で、セグメントごとのモデルが異なってもO/Pを揃えることができるので、モデルベース開発となる。
しかし、各企業の現状はQC手法で品質管理が行われており、そこで損失関数は使われていない。すなわち、タグチメソッドでモデルベース開発の思想を川下まで行おうとするとそれなりのイノベーションが必要となる。
損失関数は、品質が失われたり低下した時の社会的損失を例えば金額ベースで表すことができ、管理がしやすいが、現状のQC手法とどのように整合性を取ってゆくのか難しい問題が存在する。ワイブル統計さえもうまく使いこなされていないのに、である。
しかし、トランスサイエンスの時代となり、科学で問うことができても科学で答えることができない問題が溢れてきて、科学的品質管理手法というキャッチフレーズで1960年代から普及してきた手法ならDXの進展もあり大きく転換しても良いのではないか。
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大人のファンタジードラマの設定として、カフカの「変身」のような自分が別の生き物になるタイプや、人生をリセットしてやり直してみたりするタイプ、タイムスリップして別の時代を生きるタイプなどがある。
いずれもあり得ない設定なのでファンタジーなのだが、最近人生をやり直すタイプのドラマが流行しているらしい。
『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』や『東京リベンジャーズ』『ブラッシュアップライフ』などのタイトルが並び、これらのドラマが流行する社会背景の解説がWEBニュースにあった。
この解説を読み、これがこの10年の傾向であることを知った。10年前と言えば、村上春樹の「色彩を持たない多崎つくると巡礼の年」がベストセラーとなっている。
名古屋が関係したこの小説では、年上の恋人沙羅からのアドバイスで、昔の友人たちに主人公は会いにゆく。すなわちこれが巡礼なんだろうけれど、巡礼途中で沙羅が他の男性とデートしている様子を見つけて慌てる。
そして明日沙羅にプロポーズを断られたら、と悩んでいるところで終わるストーリーで、とにかく今を懸命に生きることが大切であることがテーマとなっている。
ストーリーが分かっていても村上春樹の小説は面白いので、もし村上本を一冊読むとしたらこの本をお勧めする。2時間ほどで一気に読めるので、他の著書のように途中で読み飽きることはない。
残念ながらWEBニュースで紹介されたTVドラマを見ていないので、その解説について評価できないが、その解説に書かれていた、「人生をやり直す」、という考え方では、多崎つくるの巡礼は参考になる。
彼は高校時代の友達と会い、自分の過去と向き合うのだが、この小説では、そのきっかけが沙羅のアドバイスである点が面白い。自分の気づきではないのだ。
ところで、人生のやり直しは、誰でも考えるものらしい。人生で成功した友人たちと話していても、一つや二つ「もしーーだったなら」という話が、酒の肴として飛び出す。
しかし、若い人たちが、「人生のやり直し」にあこがれるのは、少し不思議に感じたりする。それよりも今の自分を見つめなおし、これから何をしたいか具体化するために、定年後何をするのかよく考えることをお勧めする。
人生100年時代に、組織人としては65歳までしか生きられないのだ。企業によっては、55歳で線引きをしているところもある。
30歳や40歳で過去のやり直しにあこがれるくらいなら、65歳過ぎてからの人生を真剣に考え、自己実現の戦略を練ることの方が大切である。
ゴム会社は親切にも管理職に対して55歳過ぎると閑職にしてくれる。組織を離れた人生について、10年間考える猶予の時間を給与とともに与えてくれるのである。
未来は、今の行動変容の結果であることを知ると、多崎つくるのように巡礼をしている暇など無い。20年、30年先にまだ長い人生があることを若い人は気がつくべきである。
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「どうする家康」の視聴率が上がらないらしい。当方もほとんど視聴しなくなった。理由は単純で、面白くないからである。若者受けを狙って演出している、との解説があったが、その若者も見ていないのであれば意味のない演出だ。
ところで石川数正の出奔について、このドラマでは、泣ける話が展開された。演じる松重豊もうまかった。しかし、本当にそのようであったかどうか、ネットにはいろいろ批判が書かれている。
当方は当時の時代背景や石川数正の位置づけから、二人の気持ちとして、ほぼ同様の展開ではなかったか、と思っている。ただ、石川数正の気持ちはそうであっても、このような演出ではうまく伝わらない。
当方は、高純度SiCの半導体治工具事業をゴム会社で立ち上げたが、フロッピーディスクを壊されるなど妨害を受け、それを研究所が隠蔽化する方針としたので、セラミックスのキャリアをすて写真会社へ転職している。
しかし、引き継ぎを行った上司から若手の育成をしたいので、しばらくは指導をお願いすると言われ、写真会社で業務を定時で終えて日野から小平まで通った経験がある。まさにドラマで描かれた石川数正の心境に近い。
しかし、ほぼ指導できた頃、自宅に一通の手紙が来た。そこには、もうゴム会社へ来なくて良い、SiCを忘れろ、と書かれていた。
本来は酒の席でも設けてもらえるのか、と思ったら、もう来なくてよい、というよりも来るなである。その後、たまたま学会賞の審査員になっていた時に、このゴム会社の半導体治工具事業の推薦書を審査することになった。
そこには、当方が転職した翌日から開発が始まった、というウソが書かれていた。現実はこのように展開する。石川数正は歴史に名前が残っているだけでも幸せである。
事業立ち上げまで深夜まで勤務しながら残業手当も出ず、その中で努力したにもかかわらず、名前は基本特許の発明者ぐらいしか残っていない。
学会賞その他多くの受賞をこのテーマは受けているが、すべて事業立ち上げで最も苦労した時に関わっていなかった人物ばかりである。
当方だけでなく、当方の業務引継ぎ後、業務中に脳梗塞になられた上司や無機材研から戻ってきたときの上司の名前は無い。当方は過重労働でこれら上司の希望に答えたが、プロジェクト推進において精神的負担が大きかったと想像している。
お二人とも平均寿命以下で、最初の上司は担当して1年で胃かいようから胃がんになりお亡くなりになっている。転職した当方の名前を書けなくても,その職についておられ脳梗塞で入院された上司の名前だけでも入れていただきたかった。事業がうまく流れている時のメンバーだけ書かれた推薦書を見てこの方たちを思い涙が出た。
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入社時の初任給は10万円程度だった。それなのに会社の業務を行うために上司から命令されて80万円のローンを組んで独身寮にMZ80Kのシステムを揃えた。工人舎のフロッピーディスクは本体よりも高かった。
それに第二精工舎のユニハンマー方式のプリンターも高かった。インターフェースはパラレルカードを購入し自分で作る必要があった。純正品はプリンターに近い価格だった。プロッターやデジタイザーまで揃えている。
ただし、周辺機器はフロッピーディスクドライブとプリンター以外九十九電機の中古サービス品である。当時の秋葉原には、新品同様の訳あり品が店頭に並んでいた。当時のデジタル製品はパラレル接続が中心だったので、コネクターの技術資料さえあればパソコンとうまく接続できた。
しかし、会社のOA用のプログラム開発を行うために部下にローンを組ませパソコンを買わせた上司は、今ならば問題になると思っていたら、ビッグモーターでは新入社員に車一台購入させていた、という記事が目についた。ちなみに80万円でオプションがついていないカローラ1台購入できた時代に社会人になっている。
ただ、この投資は当方にデータサイエンスを教養ではなく強要する力となった。問題解決をローン期間中だけでも必死にパソコン中心に考える習慣となった。
さらにローン返却のために休日自由にできるお金など無かったので、勉強する以外に時間をつぶす方法がなかった。ビールも夜食もあり食べ放題の独身寮だったので食費を気にすることなく過ごせた。
8ビットのパソコンではあったが、多変量解析のプログラムを動かすことができた。奥野忠一の「多変量解析」を参考書として、重回帰分析と主成分分析のプログラムを開発し、さらに実験計画法も簡単にできるように直交表をいくつか打ち込んだ。
電気粘性流体の耐久性問題は、この時の8ビットコンピューターシステムが活躍した。すでに16ビットのPC9801の時代になっていたが、PC9801とはパラレルインターフェースを介し、MZ80Kがつながっていた。
LOTUS123を使い界面活性剤のデータを一覧表にして、MZ80KへCSV形式でデータ転送し、MZ80Kで主成分分析を行い、その結果をLOTUS123に送り、グラフ化した。そのグラフの結果と、一晩徹夜して実験を行った結果とが一致した。そして1か月後には某自動車会社にテスト納入可能な電気粘性流体が完成していた。
MZ80KとPC9801をつなぎ、MZ80Kで多変量解析を行っていた理由は、PC9801で動作する統計システムが未完成だったからである。LOTUS123があれば、8割ほどの業務はプログラムレスで可能だった。
2割の業務は、MZ80KかあるいはPC9801でCによるプログラムで解決していた。材料設計にコンピューターが必要なのか、と問う同僚がいたが、逆にデータ処理をどうしているか尋ねて失望していた。
2次元グラフ書いておしまい、の仕事では、アイデアの種を半分捨てているようなものだ。当方は捨てられた種を拾い集め考察することが趣味になっていた。ゆえに当時の研究所のテーマにはすべてに精通していた。
各個人が秘密主義の研究所(注)ではあったが、毎月の研究発表会の資料はシュレッダーにかけられず捨ててあった。それをもらい受け多変量解析にかけていた。
科学に固執した担当者のデータは、ある意味ご都合主義でまとめられていた。しかし、科学の視点では気がつかない相関がその中に隠れていた。データサイエンスでは、そのような相関を気づかせてくれる。
(注)高純度SiCの研究開発を続けながら、研究所内の様々なテーマを担当させられた。しかし、毎度決まったセリフは言われたことだけやればよい、で、テーマ周辺の説明は何も無しである。課内会議にも呼ばれないことがあった。会社の業務においてプロジェクト内のコミュニケーションは重要である。転職してゴム会社の研究所内の秘密主義が異常であったことを知るのだが、それでもうまくコミュニケーションできていないケースがあり、製品化直前にドタバタ劇が繰り返されていた。そもそも研究開発者にはコミュニケーションベタが多いので、マネージメントでは他の組織に比較し過剰なぐらいのコミュニケーション促進を行わなければ、技術の伝承さえもできない。写真会社では公となっている典型的な技術の伝承の失敗ケースがあり、機会があればそれをどのように回復したのか紹介したい。日本化学会で講演した内容である。MOTにおけるコミュニケーションの重要性はゴム会社で十分に学ぶことができた。組織内のコミュニケーションは現場でコミュニケーションの必要が生じない限りうまく進まない。ホンダのわいがやが話題になった時にゴム会社の研究所でも管理職が率先してその場を設けてやってはいたが、葬儀場のワイガヤ運動と揶揄した人がいた。表現が当たっていたが、そもそもテーマの奪い合いが問題とされその解決もないまま研究成果を他のグループに秘密にするマネージメントを行いながら、一方で他グループから有識者を集めてワイガヤをやっても活性化するはずがないのだ。
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昨日フロントローディングと言う言葉が研究開発企画で使われるようになったことを書いたが、フロントローディングを実施するためには、研究開発ターゲットのモデリングができなくてはいけない。
ゴム材料ならば粘弾性モデルとしてダッシュポットとバネのモデルが50年近く前に使われた。今はOCTAを使うことになるが、当方は科学で否定されているにも関わらずダッシュポットとバネのモデルが便利だと思っている。
技術の企画段階におけるモデリングでは、科学に縛られる必要はない。そもそも研究開発において科学で未知の問題を扱うリスクは常に付きまとうので、事前に非科学的であっても問題を考える(これをフロントローディング)作業は研究開発の成功率を高めるために重要である。
ダッシュポットとバネのモデルは高分子学会や日本化学会では使われなくなったが、技術開発の現場では重宝する。クリープの問題を扱えない不便さはあるが、それを承知で用いれば物性シミュレーションを容易にできる。
それならばOCTAを使えば同じことができる、と言う人がいるかもしれない。しかし、OCTAでは科学で予測される当たり前の結果しか出せない。50年近く前の指導社員は、科学で予想がつかないモデルを組み立て防振ゴム用樹脂補強ゴムを設計し、当方により3か月で製品に使用できる独創配合が見出された。
非科学的なモデルでも製品を生み出す作業で使用可能である。さらに非科学的なので科学では設計できない製品も実現可能である。例えばニッサンのe-Powerは50年近く前に科学的に否定された技術である。
エンジンで発電し、モーターで走るのはエネルギー効率が悪いのでトヨタからハイブリッドエンジンが提案され、20Cに間に合いました、というキャッチフレーズで科学的に当たり前の高燃費の自動車がヒットしている。
しかし、技術のニッサンは黙っていない。科学的には否定された効率の悪いe-Powerでハイブリッド車の実燃費と同様の燃費を実現した車を21Cに誕生させた。さすが技術のニッサンである。
同様に科学的ではないが、企画段階のモデリングに多変量解析は万能に近い手法だ。当方は50年近く前から研究開発企画で多変量解析を用いてきた。そして、このようなモデリング目的では統計手法としてこだわる必要のないことに気が付いた。このような気づきはアイデアを出すために大切である。
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