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2015.08/08 未だ科学は発展途上(18)

(昨日からの続き)相談者は、科学的に推論してペレットの材料設計を行い、そのペレットを用いてベルトの押出成形を行ったところ、科学的な材料の分析結果では期待通りの中間転写ベルトができていたが、品質特性は改善されていなかった、と説明した。
 
成形された中間転写ベルトの周方向の抵抗データを見せていただいたが、ウェルド以外は、抵抗偏差は小さかった。相談者も6ナイロンの効果が出ている、と胸を張っていた。ウェルド部分について詳しく分析したのか尋ねたところ、電子顕微鏡写真や光学顕微鏡写真を多数見せてくれた。
 
百聞は一見にしかず、という科学的なアプローチだった。しかし、見せていただいた写真からは何も分からなかった。カーボンの個数を数えてみたか尋ねたところ、それは難しい、と言われた。
 
確かに質問した当方もその場で数える気にはならない数である。しかし、品質データに表れている結果は、カーボンの個数がウェルド部分で多くなっている、と解釈しなければ説明できない現象である(注)。
 
すなわち、このベルトの周方向における抵抗ばらつきの問題は、ウェルド部分でパーコレーション転移が起きて抵抗が下がっている現象と推定され、顕微鏡写真では分散状態が同じようなので、導電相の個数が変化している、と科学的に推論を進めることができる。
 
しかし、多数のカーボンの粒子を数えるのは至難の技であった。また、数えられるように拡大したならば、全体の現象を捉えることができなくなる。
 
このような解析の科学的限界以外に、PPSに6ナイロンとカーボンとを一緒に混練しているにもかかわらず、顕微鏡写真に写っている像では、6ナイロン相内部にカーボンが取り込まれていないことを奇妙に思った。
 
当方のゴム会社における実践知では、二相に分離した場合、カーボンと親和性の高い相の内部に一部カーボンが取り込まれたりする。技が必要だが、親和性の高い相にすべてのカーボンを分散させることも可能である。
 
1990年代に読んだ論文でマトリックスが二相分離したときのカーボンの分散状態を議論している研究があった。この研究でも相談者が見せてくれたカーボンの分散状態だった。
 
その論文の著者に学会でお会いしたときにカーボンの分散が不十分ではないかと尋ねたら、大学の実験用ニーダーで混練した結果だから、と愛想の無い簡単な回答だった。
 

アカデミアの先生は混練プロセスで高分子の高次構造が変わったり、フィラーの分散状態が変わったりする現象に無頓着なのかもしれない。しかし実務では重要なことなのである。コンパウンドのモルフォロジーを科学的に考察する時には、混練プロセスや混練条件との関係を科学的に考察することが重要になってくる。真理が一つの科学で高分子のモルフォロジーは扱いにくい分野だ。
 

 

(注)単身赴任後、部下にカーボンの個数を数えさせたら、ウェルド部では1割ほどカーボンが多い、という結果が得られている。1割の違いで生じる抵抗変化ではないので、カーボン粒子間の接触抵抗も疑うことになり、面白いアイデアがその後生まれた。
 すなわち導電性粒子の接触抵抗は粒子間にかかる圧力で二桁以上変化する。これは、粒子間がわずかに離れていても電子はホッピング伝導で流れることができ、距離で電流が大きく変化するからである。高分子に分散した導電性粒子の接触抵抗は、その密度を上げたり、ひっぱたりすると変化させることができる。かつて酸化スズゾルの帯電防止層を研究していたときに、延伸しながら帯電防止層の電気抵抗を測定したことがある。このときパーコレーション転移前後で変化の様子は変わる(日本化学会講演賞受賞)が、やはり2桁以上変化した。この機能を用いると、コンパウンドの段階で1桁程度抵抗がばらついても、押出成形段階で引き取り速度を調整することにより、抵抗をスペックにあわせることが可能になる。
 これはノウハウのように思えるが、科学的に考えれば当たり前の方法である。しかし、この方法が使えるためには、カーボンの分散がソフト凝集状態でうまくクラスターを生成している必要がある。そうでない場合には、常時引き取り速度を変化させながら押出成形を行うことになる。この理由は少し考えていただくと分かる。ソフト凝集したカーボン分散状態を作り出す混練技術がノウハウとして重要である。これはゴム会社でセラミックスとゴムのハイブリッドの研究を行っていたときに獲得した技術である。

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2015.08/07 未だ科学は発展途上(17)

昨日はレーザープリンターの仕組みを簡単に説明したが、中間転写ベルトの性能は、周方向の抵抗偏差以外に基材の誘電率や表面の濡れ性など様々な因子に左右される。押出成形ではつきもののベルト表面の凹凸は、画質に致命的な影響を与える。
 
一つ一つの特性と画質との関係は、科学的推論からおおよそ見当がつくが、一部のパラメーターを除き数値シミュレーションできるところまで解明されていない。おそらくすべてを科学的に完璧に記述するのは不可能だろうと思われる。だからベルト開発で問題が起きたときには職人的発想が科学的なそれよりも大当たりする可能性が高い。ところが、6ナイロンとPPSの組み合わせは前任者が科学的推論を行い考え出したアイデアで問題解決も科学的に行っていた。
 
6ナイロンを数%添加したPPSの材料設計は科学的ではあるが設計者の願望が強い考え方だ。しかしこの仕事を相談されたときに、6ナイロンを選んでいたことにとりあえず感心した。そしてすぐに、科学的に正しくないが技術のチャレンジテーマとして面白い、6ナイロンをPPSに相溶させるという発想がひらめき、サラリーマン最後の仕事として請け負いたい、と思った(注)。
 
ところで、設計者の考え方はこうだった。絶縁体であるPPSを半導体にするためにカーボンを添加したペレットを一流のコンパウンドメーカーに作らせて研究していた。しかし、カーボンの分散が安定しないために、押出成形工程でカーボンが暴れ、ウェルド部分における抵抗ばらつきが異常に大きくなり、ベルトの周方向の抵抗偏差が2桁近くになる問題に遭遇した。
 
そこで、改善策として次の案を考えた。PPSに相溶しない6ナイロンを分散したならば、PPSが海で6ナイロンが島となる海島構造に相分離した高次構造となるだろう。また、カーボン表面には酸化されて生成したカルボン酸があるから、6ナイロンの島に吸着されカーボンの分散安定化を期待できる(これは科学的な願望である)。
 
ここで、6ナイロンがPPSに相溶しないで島相になるという考え方は、教科書にも書かれているフローリー・ハギンズ理論から科学的に正しいといえる。さらに海島の相分離高次構造で島を小さくしたいので島成分を少量添加としたところもよく勉強していると思った。またカーボン粒子表面にカルボン酸が生成していることは論文などに書かれており、彼が採用しているカーボンでは、表面にカルボン酸の多い素材だったので科学に忠実な仕事をする人だと感じた。
 
科学的に正しいと思われる推論でコンパウンドの材料設計をしたにもかかわらず、押出成形で製造したベルトでは期待通りの成果が現れなかった。さらに科学に裏切られる悲劇は続き、電子顕微鏡でベルトの高次構造観察を行っても6ナイロンの海島構造はできており、きれいな均一な構造になっている。カーボンの分散も画像として均一に見えるので、ベルト周方向の抵抗ばらつきが発生している原因がわからない、と言うのだ。
 
形式知だけで成立していない世界において科学一本槍で突き進むと裏切られる現実をご存じない純粋な人だと思った。転職する原因となった電気粘性流体の増粘の問題を相談してきた人もそうだった。形式知だけで成り立つ世界、例えば入試の数学の問題などは、科学的に考えなければ正解は絶対に出ない。しかしそのような世界でもエレガントな解答は実践知で生まれる。
 
その昔大学入試の模擬試験で複素数で計算すると容易に証明できる図形問題を時間が無かったのでベクトルを使い、たった3行で解答して正解となりとんでもない偏差値がレコードされた時にはびっくりした。ところが開発の現場では、時間が十分あっても暗黙知や実践知をフル動員しなければ問題解決できない場合が多い。また、科学的に解決困難な仕事を科学的に進めると否定証明に陥る話を以前紹介している。
 
この相談者の尊敬できる点は、科学的に考え科学的に解析して見通しの暗い結論が得られていても否定的な答えを絶対に出したくないともがいている点である。なんとしても6ナイロンとPPSの組み合わせで技術を完成させたいと当方に相談している。初対面にもかかわらず、当方なら絶対できる、とまで言い切る一途さである。さらには当方が仕事をやりやすいように相談者の役割まで交代してくれるといってきた。
 
後日分かったことだが、開発管理がステージゲート法で行われており、すでにファイナルステージに至り配合処方を変更することができない状態だったのが真相で、これまでのマネジメントも含め、この開発に成功する以外その人の出世の可能性が無くなるという状況だった。二つの会社の合併直後で管理職のリストラが進められている最中だったので、自ら役割を交代してでも、と言いきった点は並の部長ではない、と感じた。
 
どのような事情があっても、科学に反する技術で問題解決しようと決心した当方にはどうでもよい話だった。それよりもゴム会社の指導社員(新入社員時代)から頂いた宿題を定年間近に解決できるチャンスが偶然訪れたのがうれしかった。問題は、残された時間が半年しかない、という点だけだった。ただ、この時間の少なさはこれまでの開発経験を一人部屋でまとめた「研究開発必勝法」を試すのに好都合であった。

 

(注)以前倉庫として使用されていた部屋で一人住まいの見るからに不遇な状況だった。このような処遇でも会社に大きな貢献をするために相談者の問題を他社が追従できないぐらい最も高いレベルの技術で完成することである、と真摯に考えていたのだ(某社で昨年追い出し部屋問題が新聞で騒がれたが、定年間近に退職を促すような扱いを受けても騒ぐ話ではないのである。このような場合にサラリーマンならば追い出し部屋と考えるのではなく、まだチャンスを残してくれた、ととらえるべきである。そのように考えられないならさっさと会社を辞めるほうが精神衛生上良い。成果を軽視する会社もあればゴム会社のように人材を大切にする会社もある。それぞれの組織の風土である。また、芸が身を助け、という言葉があるように、成果を出した評判があればここで書いているようなこともおきる。)。これが科学ではなく技術の視点で問題をとらえた本当の理由である。科学のような形式知だけで商品を完成しても、他社が科学的に解析を進めれば簡単にリベールできる。分析や解析は科学で問題解決すると簡単であることは既に述べた。ところが暗黙知や実践知の塊の技術ならば容易にリベールできない。今メーカ-が目指すべきはそのような技術である。 当たり前の科学技術を開発しても特許で守られるのはせいぜい20年である。

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2015.08/06 未だ科学は発展途上(16)

カラーレーザープリンターの仕組みは、YMCKの4色のデジタルデータをレーザーで4つの感光ドラムに書き込み、それぞれのドラムにYMCK各色のトナー画像を形成する。そしてこれらを一度中間転写ベルトと呼ばれるベルト上に転写してトナー画像を完成させ、その後ベルトから紙にその画像を再転写し、定着工程で紙にトナーを溶融固定する。
 
各プロセスにおいてトナーの受け渡しは静電気の性質を利用しており、画像品質は各プロセスに使用されている半導体の部材品質とトナー品質に大きく影響を受ける。全行程のモデル材料による機能の科学的解明はされているが、実際の系は均質ではないので各プロセスの細部の誘電体の機能は複雑に変化する。
 
例えばトナーには粒度分布が、各部材には誘電率のばらつきなどが存在するが、それらの細かいばらつきが画像品質にどのような影響を与えるかは、未だ不明であり、新製品開発では、職人的技術が要求されたりする。
 
ところで、中間転写ベルトの抵抗の均一性は重要な品質項目であるが、ベルト全体で抵抗偏差が0という部材を量産することは不可能で、市販されているカラーレーザープリンターの中間転写ベルトには少なからず抵抗ばらつきやその他誘電率のばらつきが存在する。
 
高級機の中間転写ベルトは、導電性カーボンを分散したポリイミド(PI)溶液(ドープ)をベルト状の型にキャストするプロセスで製造されている。ドープには有機溶剤が含まれているので、カーボンをPIに均一分散しやすく、ベルトの周方向の抵抗偏差を小さくできる。
 
PIベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁未満であり、画像品質は高い。しかし、有機溶媒を使用するので環境負荷が大きいだけでなく、高価となる。もしPIを熱可塑性樹脂に置き換えることができれば、大幅なコストダウンを達成できるだけでなく、LCA的にも優れた技術になる。
 
そこで、安価なカラーレーザープリンターには、熱可塑性樹脂製の中間転写ベルトが使用されているが、これは高級機に比較して、要求される画像品質がやや低いから可能となった。ベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁を多少越えても良いので、導電性カーボンを分散した熱可塑性樹脂をベルト状に押出成形して使っている。
 
しかし、高級機である多機能印刷機に用いられる中間転写ベルトでは、PI並の品質を満たすベルトを熱可塑性樹脂で製造することは難しかった。それを非科学的な新たな技術で可能にした。PIと同等品質を目標にしたPPSベルトの印字品質はPIよりも高かった。

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2015.08/05 科学は未だ発展途上(15)

技術の知の体系、あるいは形態、構造体から具体的に表現される実体は、技術の成果物として現れる。ところが、人間が生み出した実体であるにもかかわらず、科学の知の体系で理解できない場合がある。例えば6ナイロンを相溶させたPPSを用いたカラー複合印刷機(電子写真)の中間転写ベルトがそれである。実際に某学会の技術賞では審査員から嘘だろう、間違っている、などと言われた。しかし、これは10年近くたった今でも安定に生産されている技術の成果物でインチキな代物ではない。

 

審査会場にはアカデミアの先生方もいらっしゃったが技術内容を理解できなかったようだ。この成果は中間転写ベルトだけでなく他のポリマーアロイにも利用可能な応用範囲の広い技術であり考え方である、と説明したが、科学の知の体系では理解が難しかった。やはり現代は科学という形式知からかけ離れた技術というものは理解されない時代なのだろう。

 

6ナイロンを相溶させたPPSは、カオス混合で混練後急冷して製造している。アモルファス金属の製造方法と同じ着想である。相溶という現象がアモルファス相だけで生じるという科学の情報と、カオス混合という実践知を結びつけた技術の成果であるが、フローリー・ハギンズの理論という科学の形式知では理解できない現象が起きている。

 

それでも実践知に自信があったので、豊川へ単身赴任しこれを完成させた。この事例は、科学の知の体系と技術の知の体系の違いを説明するのに適当な実体なので、やや自慢話になるが数日にわたり、裏話を書いてみる。

 

まず、この技術を創造しなければいけなくなった背景について。この欄で以前にも書いたが、中間転写ベルト用のコンパウンドを外部に頼み、押出成形技術の開発を行っていた担当者が豊川にいた。その後任として業務を引き継いだときに、外部のコンパウンドメーカーから「素人は黙っとれ」と言われたことがきっかけである。

 

確かに二軸混練機で樹脂を混練した経験など無かったので素人といわれても反論できず、その時黙って引き下がる以外にすべがなかった。しかし、外部のコンパウンドメーカーは科学の知の体系でコンパウンド開発に取り組んでおり、それでは問題解決できない、と懸念して新技術の提案をコンパウンドメーカーへしたのである。提案を理解しようとしないばかりか、頭ごなしに否定されたので、彼らに提案した技術を自分で開発する決心をした。

 

ところで提案した技術内容の実体は、自分でも科学的に怪しい内容と思っていた。それ以外に世の中に類似技術が存在しないので、外部のコンパウンドメーカーの担当者が怒るのも仕方がないことだと同情していた。しかし、当方の立場では、成功しなければ給料が下がるので、外部の力を早急にあきらめる決断をしなければいけなかった。
 

しかし、コンパウンド技術を社内で開発するとなると社内の説得が必要になる。特に実用化のためには他の開発部門や品証部門に今すぐ実体を示さなければならない。また実体が無ければ会社から設備投資も引き出せない。外部のコンパウンドメーカーから協力を得られなかったことで、技術の知の体系からどのように短期間で実体を生成するのか、あるいは自然現象から機能をどのように取り出すかということについて真剣に考えなければいけなかった。

 

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2014.12/30 学ぶ(2)

高純度SiCの発明や、カーボンだけでSiCを焼結する技術以外に、教科書に書かれていない、いわゆる定説からはずれた現象を大小幾つも経験をした。その中で大きなものと思っているのは、PPSと6ナイロンの相溶現象であり、某大学の先生から推薦された学会賞の審査の席で本当か、と言われた。

 

推薦してくださった先生にはご迷惑をおかけし退職直前で学会賞を取り損ねたが、製品が市場に出てすでに6年以上になる。学会賞は落ちても生産量は増加している。PPSと6ナイロンの相溶はフローリーハギンズの理論に反する現象であるが、技術として完成しカラー複写機の中間転写ベルトとして機能を発揮している。

 

この技術は左遷された5年間に温めていたアイデアを実行して完成させたものである。サラリーマンの左遷は暗い出来事として捉えがちであるが、学ぶための自由な時間ができる大切な時期でもある。定年を前にじたばたしても仕方がないし、早期退職を決意すれば怖いものは何もない。

 

腹をくくれば、人生の中で最も幸せに学べる機会となる。少なくとも退職までは給料ももらえるのである。給料をもらい学べる時間を多くとれる機会は、選抜された留学のチャンスか左遷され閑職となった時ぐらいしかない。

 

周囲から期待されず会社に貢献する大きな成果を出すと、様々な人間模様を観察でき楽しいものである。高純度SiCの成果もきっかけは、ゴム会社設立50周年記念で募集のあった論文コンテストで落選したことだ。論文にはゴム会社の基盤技術である高分子を前駆体として用いてセラミックス事業に進出することを書いた。

 

社長の全社方針としてファインセラミックスと電池、メカトロニクスが掲げられながら、その方針に最も忠実で実現可能性の高かった作品が落選したことを祝ってくれた友人が当方の気持ちを最も よく理解してくれていた。

 

その友人はコンテスト投稿前に当方の論文を一読し、この内容ではこのゴム会社で絶対に受けないし今回佳作にもならない、自分が見本を書いてやる、といって投稿し最優秀賞を受賞した友人である。

 

落選したことは悔しかったが、これがきっかけとなりセラミックスを学ぶ意欲は高くなった。この悔しさ以外にも様々な悔しさが重なり、それらがエネルギーとなって高純度SiCの技術を開発できた。挫折はそれを力不足ゆえに”学ぶ”機会として捉えることが大切で、真摯に努力を重ねれば必ずその成果はでる。社長から気合い一発の2憶4千万円を先行投資として受けた経験からそう信じている。

 

会社を起業して3年以上過ぎ、来年度末には5周年記念事業でもしたいと頑張っている。サラリーマン時代よりも挫折する機会は多く、学んだ項目の密度は若い時よりも高いような気がしている。ドラッカーはもう古い、と言われているが、経営者の道徳という観点では不変で、再度読み直している。

 

 

 

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2014.12/29 学ぶ(1)

ゴム会社では、入社して3年間樹脂補強ゴムやポリウレタンの難燃化を担当した以外はセラミックスの研究開発担当者として過ごした。セラミックスについては無機材質研究所で本格的に学んだ。ちょうど焼結理論について激論が学会で行われていたころである。

 

SiC焼結体がなぜ緻密化するのか、旧来の理論では説明がつかなかったのである。無機材質研究所の研究者が自由エネルギー理論により、それに対して新説を提案していた。

 

当方の考案した高分子前駆体による高純度SiCは、理想的な反応条件下で合成すると微粒子一粒が単結晶に近い状態で得られる。従来に無い純度の高さだけでなく結晶子も大きかった。カーボン2%に相当するフェノール樹脂をそこへ添加してホットプレスを行うと緻密化した。

 

カーボンとボロンを併用しなければ焼結しない、とされた学会の定説をひっくり返すような成果だった。実験結果は大切な機密扱いにし、これが後にゴム会社のセラミックスヒーターの技術シーズとなった。

 

STAP細胞の騒動はデータの扱いを丁寧に行えば起きなかったはずである。当方は学会の定説と異なる実験結果が得られたことを研究所の先生と相談したが、不純物が入ったのではないか、という説明を受けた。しかし得られた焼結体を分析しても不純物は見つからなかった。

 

この結果を学会発表する前に改めて自分で理解できるよう教科書を勉強したが、教科書の説明では理解できなかった。しかし新説である自由エネルギー理論では説明可能な現象であった。

 

学会の定説と異なる現象に遭遇したらどうするか。まず自分で納得のいくまで学ぶことである。STAP細胞の問題において残念だったのは、この学ぶ姿勢よりも成果誇示の姿勢が優先したことである。研究者も技術者も新発見をした場合には、その現象をまず自ら理解できるまで学ばなければいけない。

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2014.12/21 高分子の難燃化と評価技術(5)

3日前に、高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。

 

規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる読者もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。

 

今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。

 

このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。筆者が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。

 

当時の上司は、材料が炎から逃げるように設計しているので、溶融型と同様の難燃材料の設計方法の一つ、と自慢していたが、溶融型では、溶融するときの吸熱効果で火を消す機能を発揮しているのである。

 

材料に足が生えていて逃げ出すのならともかく、燃焼試験装置の炎を避けるように変形するだけでは難燃建築材料ととして不適格であると同時に、そのような材料を合格とする評価試験法にも建築基準としての欠陥があった。

 

また、技術では、自然現象から生活に必要な「機能」を取り出し、それをロバスト高く再現できることが求められる。餅のようにふくれ、特定の炎だけを避ける機能では、材料に火がついたときの問題を解決できないので、建築用難燃材料の機能として不十分である。

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2014.12/18 高分子の難燃化と評価技術(4)

高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を昨日まで述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。

 

高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。

 

規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる人もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。

 

今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。

 

サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。

 

このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。

 

当方が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。

 

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2014.12/17 高分子の難燃化と評価技術(3)

UL94-V2試験では、サンプルを垂直に保持する点でLOIと同じだが、着火は下から行う。ゆえに溶融物は下に落ちて火が消える。

 

ただし、高温で溶融しやすい材料がすべてこのような結果になるわけではない。UL94-V2試験に合格するように「巧みに」材料設計された場合だけである。

 

高温で溶融しやすい材料でもUL94-V2試験に不合格となる材料は存在し、このLOIが仮に20.5であったとしても、UL試験を行うと廃PETボトルを80%含む樹脂よりも燃えやすい材料との判定になる。

 

UL試験は、アメリカの民間会社の評価試験法だが、材料の用途における実火災との対応についてよく考えられた試験法として、多くの分野で規格として採用されている。

 

燃焼時にチャーと呼ばれる炭化層を積極的に生成する炭化促進型難燃化手法で材料を設計しようとする場合に、LOIは他の難燃性試験法よりも実験室で重宝する。

 

例えば、UL94-V0以上という高い難燃性を実現する材料を設計したい時に、溶融型で高分子の難燃化設計はできない。そのためLOIで21以上となる配合を探索しなければならない。

 

この段階で難燃化という機能について、材料設計コンセプトからチェックしなければいけない高分子の高次構造因子があれば適宜汎用の分析評価を行う。

 

燃焼では高分子の熱特性が重要になるので、熱重量分析(TGA)や熱機械分析(TMA)、熱走査時差熱分析(DSC)が主に用いられる。難燃剤の分散状態を知りたければ電子顕微鏡もその手段の一つとして加える。難燃剤の計量を簡便に行う方法として赤外分光法(IR)がある。

 

ノウハウになるが、先に説明した廃PETボトルを80%含む樹脂では、粘弾性評価装置も難燃性の設計に使用している。

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2014.12/16 高分子の難燃化と評価技術(2)

30年以上前にJIS化されたLOIは、酸素と窒素の混合気体の雰囲気の中に長い板状のサンプルを立て、その上方から着火して燃焼状態を観察し、継続して燃焼するのに必要な最低限の酸素濃度で高分子の燃えにくさを数値化する試験法である。

 

測定法の定義から一見理にかなった燃焼試験に思えるが、経済性の視点で高分子の用途を眺めた時に、実火災においてこの尺度で決められた序列が適切ではない場合もある。

 

例えば、空気の酸素濃度は21%程度なのでLOIが22以上となるように難燃剤を添加して寝具が材料設計されていたならば、寝タバコの火が寝具に着火した時に空気中で燃焼を継続することができず、自然に火が消えて燃焼は広がらない。

 

しかし、LOIが21以下でも燃焼が広がらない材料がある。それは熱で簡単に溶融し消火するように設計された材料である。

 

このような材料では、たばこの火の程度であれば、溶融時の吸熱効果で火が消える。

 

この考え方で、高価な難燃剤を用いずPETボトルの廃材を80wt%含有する射出成形可能な難燃性樹脂を四年前に開発した。この樹脂の20wt%の他の組成は、射出成型が難しいPETを易射出成形性にするための成分と靱性を改良する成分、溶融型で難燃性を向上する成分とからなる。

 

すなわちこれは強相関ソフトマテリアルの概念で設計されコンビナトリアルケミストリーの手法で開発された材料である。

 

この材料は難燃材を添加していないPETが主成分の樹脂なのでLOIは19以下であるが、UL94-V2試験を行うと自己消火性を示し合格する。

 

LOIが19前後、すなわち空気中で燃焼し続けると評価された材料でも自己消火性を示すことについて不思議に思われるかもしれない。これは、サンプルを垂直に立て上から着火するというLOIの試験方法にも少し原因がある。

 

 

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