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2015.08/05 科学は未だ発展途上(15)

技術の知の体系、あるいは形態、構造体から具体的に表現される実体は、技術の成果物として現れる。ところが、人間が生み出した実体であるにもかかわらず、科学の知の体系で理解できない場合がある。例えば6ナイロンを相溶させたPPSを用いたカラー複合印刷機(電子写真)の中間転写ベルトがそれである。実際に某学会の技術賞では審査員から嘘だろう、間違っている、などと言われた。しかし、これは10年近くたった今でも安定に生産されている技術の成果物でインチキな代物ではない。

 

審査会場にはアカデミアの先生方もいらっしゃったが技術内容を理解できなかったようだ。この成果は中間転写ベルトだけでなく他のポリマーアロイにも利用可能な応用範囲の広い技術であり考え方である、と説明したが、科学の知の体系では理解が難しかった。やはり現代は科学という形式知からかけ離れた技術というものは理解されない時代なのだろう。

 

6ナイロンを相溶させたPPSは、カオス混合で混練後急冷して製造している。アモルファス金属の製造方法と同じ着想である。相溶という現象がアモルファス相だけで生じるという科学の情報と、カオス混合という実践知を結びつけた技術の成果であるが、フローリー・ハギンズの理論という科学の形式知では理解できない現象が起きている。

 

それでも実践知に自信があったので、豊川へ単身赴任しこれを完成させた。この事例は、科学の知の体系と技術の知の体系の違いを説明するのに適当な実体なので、やや自慢話になるが数日にわたり、裏話を書いてみる。

 

まず、この技術を創造しなければいけなくなった背景について。この欄で以前にも書いたが、中間転写ベルト用のコンパウンドを外部に頼み、押出成形技術の開発を行っていた担当者が豊川にいた。その後任として業務を引き継いだときに、外部のコンパウンドメーカーから「素人は黙っとれ」と言われたことがきっかけである。

 

確かに二軸混練機で樹脂を混練した経験など無かったので素人といわれても反論できず、その時黙って引き下がる以外にすべがなかった。しかし、外部のコンパウンドメーカーは科学の知の体系でコンパウンド開発に取り組んでおり、それでは問題解決できない、と懸念して新技術の提案をコンパウンドメーカーへしたのである。提案を理解しようとしないばかりか、頭ごなしに否定されたので、彼らに提案した技術を自分で開発する決心をした。

 

ところで提案した技術内容の実体は、自分でも科学的に怪しい内容と思っていた。それ以外に世の中に類似技術が存在しないので、外部のコンパウンドメーカーの担当者が怒るのも仕方がないことだと同情していた。しかし、当方の立場では、成功しなければ給料が下がるので、外部の力を早急にあきらめる決断をしなければいけなかった。
 

しかし、コンパウンド技術を社内で開発するとなると社内の説得が必要になる。特に実用化のためには他の開発部門や品証部門に今すぐ実体を示さなければならない。また実体が無ければ会社から設備投資も引き出せない。外部のコンパウンドメーカーから協力を得られなかったことで、技術の知の体系からどのように短期間で実体を生成するのか、あるいは自然現象から機能をどのように取り出すかということについて真剣に考えなければいけなかった。

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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