ホスファゼンは量産使用であれば2000円/kg前後である。中国で樹脂生産を行うならば、それ以下で入手可能だ。
しかし、中国でBDP類似難燃剤が400円/kgで入手できることを考慮するとリン単価として捉えたときに高価な難燃剤となる。
しかし、リン系難燃剤とホスファゼンを組み合わせて使用すれば、安価なリン系難燃剤だけで材料設計するよりも品質が高く経済的な難燃性樹脂を開発できる。
これも当方のセミナーでデータを公開しているが、タグチメソッドのSN比でホスファゼン併用系は、リン酸エステル系難燃剤単独使用よりも3dBの改善効果がある。
3dBとは1000倍である。タグチメソッドによらなくてもこの結果を確認することができ、組み合わせることにより使用量を減らすことが可能となるので、樹脂の力学物性にも好ましい効果を期待できる。
ただし、これを実際に実現しようとすると幾つか細かいノウハウを獲得する必要がある。これも当方のセミナーで公開しているが、関心のあるかたは問い合わせていただきたい。弊社からホスファゼンをご購入の方にはそのノウハウも伝授いたします。
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高分子材料を難燃化するときにホスファゼンを用いる方法として、添加型と反応型の2種類の方法がある。前者はただホスファゼンを高分子マトリックスに分散する方法である。後者はホスファゼンを官能基で修飾し、高分子マトリックスに反応させて組み込む方法である。
反応率が100%を前提にすると後者では、分子レベルで分散していることが保証される、という理由で最も分散状態が良い方法となる。
ポリウレタンの難燃化でこの仮説を確認し、その成果は欧米の学会誌に掲載されている。すなわち、ホスファゼンを反応型で用いてポリウレタンを難燃化した時に、ホスファゼンの分散状態を分子レベルで実現した難燃化効果が得られ、それは添加型でポリウレタンを難燃化するよりも少ない添加量でポリウレタンを難燃化できる、というのは形式知である。
この形式知から、ポリウレタンを難燃化するとき(例えばLOIが21以上という条件)に必要なリン原子の最低量を求めることができる。この値は、他の樹脂をリン系難燃剤で難燃化した時に、一つの基準となる。
すなわち、分子レベルで分散されたホスファゼンの難燃化効果は、ポリウレタンを難燃化するのに(例えばLOIを21以上にするために)最低限必要なリン原子濃度(A%)という見方ができる。
例えば他の樹脂にリン系化合物を添加してLOI>21を実現したいときに必要なリン系化合物の量は、A%を基準に考える事ができる。二軸混練機で分散する場合には、L/Dが小さい場合に反応型で100%の反応率を得ることが難しい。
ゆえに、大抵はAから予想される添加量よりも多く必要になる。これ以上の議論は相談していただきたいが、高分子の難燃化技術では、難燃剤の添加量をどこまで減らすことができるのかどうかは、コストと物性の観点で重要な問題となる。
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ホスファゼンは、リン系難燃剤の中で比較すると添加重量当たりで高い難燃効果を示す。当方の経験知では、赤燐よりも添加効果は高くトップに位置づけられると思っている。
ホスファゼンの高い難燃効果は、他のリン系化合物よりもリンの含有率が高いこととその分子構造にある、と推測している。間接的にそれを証明するデータを当方のセミナーでは開示し説明している。
リンの難燃化作用機構についてはその炭化促進触媒効果が有名であるが、ホスファゼンには、その作用機構だけでは説明できない効果も存在する。
燃焼時の現象を見てもそれが顕著に現れる。40年以上前に硬質ポリウレタン発泡体で実験を行っているが、燃焼時の発煙が極めて少ないのだ。
これは、赤燐も含めリン系難燃剤は、燃焼時にオルソリン酸を発生する。オルソリン酸は240-250℃に沸点が存在するので、高分子材料の燃焼後の灰を分析してもほとんどリンは検出されない。
ところが、ホスファゼンで難燃化した高分子材料では、燃焼後の灰の中に添加したホスファゼンの90%以上に相当するリン原子が残っている。
これは熱重量分析を空気中と窒素中で行って観察しても確認することができる。600℃前後の重量残存率が、ホスファゼン添加系ではホスファゼンの添加量と相関するのだ。
すなわち、ホスファゼンを難燃剤として用いたときに他のリン系難燃剤と大きく異なるのは、燃焼時に揮発することなく燃焼しているその場にとどまり炭化促進触媒として機能していることだ。
ただし、これは科学的に完璧に証明されたことではないが、当方は燃焼時のガス分析や燃焼後の残渣分析などを行い、経験知として結論を出している。
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昨日SiCを事例に当方の体験を書いたが、機能を追求した材料の配合設計技術について開発の余地がある。
今この技術について当方の体験を公開しようと企画準備を進めているが、マテリアルインフォマティクスの提案がアカデミアからある。
ただしこれはAIを活用したデータマイニングであり、どうしても大規模化する。当方の体験談は、科学的ではないが科学のツールを活用してヒューリスティックな解を得る方法である。
同様の手法は、山中博士も用いられノーベル賞を受賞されている。当方の仕事では、せいぜい日本化学会賞どまりであるが、それでも手法の成果は事業に有益な情報をもたらした。
例えば電気粘性流体の耐久性問題では一晩でその解決法を提示している。また、3種の粒子は、電気粘性流体の性能を飛躍的に向上し、実用化への道を開いた。
昨日のSiC切削チップは残念ながら実用化できなかったが、同様の手法で写真会社退職前に行ったリサイクルPETを電子写真機の内装部品応用した技術では、再度その有効性を確認できた。
その他、中間転写ベルトや帯電防止技術、高分子の難燃化技術など人間の脳を活用したデータマイニングで得られたヒューリスティックな解が事業に貢献している。
人間の脳は品質ばらつきが大きいが、科学的ツールを用いるので、多少品質の悪い脳でも同じ結果が得られる。
そもそもQC7つ道具という手法は中卒レベルが獲得している形式知を基準にしているので、当方の手法も同レベルの形式知があれば十分な成果を出すことが可能である。
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高純度SiCの事業化を進めているときに、SiCの分野で世界初の材料はできないか、という極めて難解な問題を上司から出された。
このようなわけのわからない指示を受けたときに、新入社員時代にはいろいろ質問をしたりしていたのだが、上司がよく理解していないのでこのような指示になる、と悟ってからは、部下を鍛えるありがたい仕事と思うようになった。
さて、どこがありがたいのかというと、問題そのものが抽象的なので回答の自由度が高い点である。すなわち、これは、SiCが入っておれば世界初である限り何でもよい、という問題だ。
そこで、切削時に発生する高温度で鉄と反応するのでSiCでは鋳鉄を削ることができない、と言われていたことを思い出し、鋳鉄を削ることができるSiCならば世界初になると考えた。
「SiC基切削チップの開発」というのが当時提案した企画であるが、この企画の内容を科学の常識に反するので世界初、などと説明したらつぶれることが分かっていたので、「世界初のマルチコンポーネントセラミックス」というコンセプトをでっち上げた。
2-3種類のカーバイドからなるセラミックスについては相図から予想がつくが、4成分以上になると研究事例がない大変難しい配合設計作業となる。
今ならば、ビッグデータをコンピューターに放り込み、AIに考えさせてデータマイニングする手抜きができるが、当時は、まだMS-DOSの時代である。
詳細にご興味のあるかたは問い合わせていただきたいが、計画的な試行錯誤法、いわゆるデータ駆動による配合設計で鋳鉄を削ることができるSiC基多成分セラミックスを開発し成功した。そして、この材料を切削チップの形状に加工した。
これを当時の東京工業試験所に持ち込みご評価いただいたところ、既存のサーメット切削チップよりも鋳鉄を長時間切削加工できたのでびっくりした。
抽象的な問題から実用的な切削チップとの評価を頂くまで、4カ月程度だった。タグチメソッドも効率よく実験を進めることができるが、当方の編み出したデータ駆動配合設計手法は、さらに効率が良い。
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高分子材料が着火した時に空気中で自己消火性を示す材料設計手法には2種類あり、一つは炭化促進型材料設計手法で他の一つは溶融型材料設計手法である。
前者の考え方で設計された材料ではLOIが21以上となるが、後者の設計では常にLOIが21以上とならない。
LOIが21以下であっても溶融型材料設計手法で開発された材料は、自己消火性を示しUL94-V2あるいはH試験を通過する。
すなわち溶融型材料設計手法で難燃化された材料を垂直に立てて、炎を上部から近づけると自己消火性を示さない場合がある。
これに対して、炭化促進型材料設計手法で難燃化された材料は、どのような位置から炎を近づけても空気中で自己消火性を示す。
40年ほど前には、これ以外に加熱されると大変形を起こす材料も難燃性材料とされたが、現在はこのような観点で材料設計をする人はいない。
少し考えれば、火災時に難燃性を示さないことが想像されるのに、アカデミアの研究者の中には、学問的興味からこのような問題のある難燃化手法を広めた先生がおられる。
問題が起きてから黙ってしまわれたのは、無責任極まりないが、この先生のアドバイスを受けて、かつて台所用天井材が開発された歴史がある。
当方が高分子の難燃化技術を担当した時には、まさに市場の火消をやっている最中だった。安全靴とヘルメット、作業着を抱え、定期的に筑波にある建築研究所まで通った思い出がある。
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ゴムタイムズ社主催のWEBセミナー
が3月11日10時30分から予定されている。参加費は1名あたり、45000円となりますが、弊社へお申し込み頂ければ、小生の著書「ポリマー混練り活用ハンドブック」(¥4800:消費税抜き)を1冊謹呈させていただきます。
今回のWEBセミナーの特典として、後日無料相談会をWEBで開催することも計画しています。これはゴムタイムズ社とまだ調整できていませんので当日詳細を発表いたしますが、交通費がかからないWEBセミナーの長所を生かしたいと思っています。
高分子材料の難燃化技術は、形式知よりも経験知の比重が大きい技術領域であり、また、難燃性評価装置が無い場合にどうしたらよいのか、と言った問題にもお答えしたい。
過去に天秤しか存在しない会社で、ある材料の難燃化技術を3日間で完成させた。用いた評価法は、コンビニで購入したライターである。
これは特殊なケースであり、いつも成功するとは思っていませんが、経験知の比重が高い技術ゆえに可能だったと思っています。
セミナーでは、難燃化技術の概論だけでなく当方の学生時代の研究成果やゴム会社での研究成果で学術雑誌に掲載された事例や、未公開の事例なども含め科学から技術まで当方の経験を幅広くご説明いたします。
講演で使用する当方の研究開発事例
1.ホスファゼン変性ポリウレタン
2.ホウ酸エステル変性ポリウレタン
3.PVAの難燃化
4.フェノール樹脂・TEOSナノ複合材料(高純度SiC前駆体でもある)
5.PC/ABSの難燃化
6.PET基ポリマーアロイの難燃化
7.混練技術と難燃化
8.ホスファゼン環鎖状ポリマー
9.マテリアルインフォマティクスによる配合設計
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通信市場においてファーウェイの問題がニュースになってはじめて、この分野で半導体関連の日本企業が蚊帳の外の状態であることを知った。
また、通信市場の企業に勤務していた高校時代の同級生が10年以上前に嘆いていたのを思い出したが、もう手遅れで、日本企業が基地局や情報端末の半導体市場で、もはや戦うこともできない。
半導体チップでは莫大な研究開発投資が必要になるので参入は難しいが、中国ナノポリスで活動してきた経験から、高分子材料については、まだ参入の機会が存在すると思っている。
ただし、日本の高分子材料メーカーにそのニーズが見えているのかどうか。このコロナ禍で1年以上ナノポリスで活動できなくなったが、今も相談のメールだけ届いている。
弊社は慈善団体ではないので無料の相談は受け付けない、と返事しているのだが、現地に行くこともできないので、お客を逃がさないか心配になってきた。
日本に十分な仕事があれば良いのだが、ニーズが見えていない状態では、仕事も生まれない。しかし、無料でニーズを公開することもできないので難しい問題だ。活動の場を提供してくれる企業を求めている。
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高分子材料についてLOIを21以上にするために材料設計手法は一つになる。LOIが21以下でも空気中で自己消火性になればよい、と言う条件であれば2種類の材料設計手法となる。
UL規格との対応を考慮に入れると、V0以上に合格するためには、LOIを21以上となるように材料設計しなくてはいけない。
V2以下の合格であればLOIを21以上に調節する必要はない。ここでLOIを21以上となるように材料設計した時に必ずV0以上に合格するかと言うとそうではない。
LOIが23であってもV0に合格しないサンプルがある。これは以前ここで述べたように、試験サンプルの設置方法と火源、着火方法の違いから相関性が崩れている。
UL規格とLOIとでは、LOIの方が少し評価法として手軽である。規格通りに行う必要もなく、酸素と窒素の混合ガスを流しながら測定すれば、そこそこの値が得られるからだ。
ただし、その値が規格値となるかというと手作りの装置の出来栄えにより、規格値からのずれが大きくなる。しかし、あまりお金をかけずに手軽に試験をおこなえるという観点でLOIは、材料設計するときのスクリーニングに活用できる。
中国のローカルコンパウンドメーカーで燃焼試験装置どころか力学試験装置その他の評価装置を持っていない企業の指導をした経験がある。1年後にはとりあえず力学試験装置は揃ったが、燃焼試験装置までお金の関係で揃えることができなかった。
そのような劣悪の環境の中でUL94V0に通過するPC/ABSの新処方を開発することに成功している。市場で要求される燃焼試験装置を揃えておくことは商品開発で必須であるが、開発を急ぐときには、いざという方法がある。
難燃性PC/ABSの開発は難易度の高い技術であり、科学的に進めようとするならば、各種評価試験装置が整っていないと開発は不可能である。
しかし、技術を持った職人であれば評価装置が無くても技術開発可能である。逆に技術を持っていない研究者は開発どころかそのような現場で右往左往するだけだろう。
すなわち科学と技術とどのような違いがあるのか知るためには、このような現場で働てみるとよい。技術者ならばこのような現場でもゴールを達成することが可能である。ひ弱な研究者は手足も出せないだろう。
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高分子の難燃性について、燃焼という現象を科学の形式知で正確に論ずることが難しいゆえに評価技術が製品の分野ごとに様々である。
その評価技術さえほぼ出そろったのは20世紀末だ。だから高分子の難燃化技術は科学として未だ完成していない技術といっても間違いない。
ところがこれを理解されていない人が多い。高分子の難燃化技術に関しては、経験知が極めて重要である。またこれを無理に科学の形式知で記述しようとしたとたんに誤解を生みだす恐れがある。
評価技術さえ実務的な視点で決められてきたので、評価の物差しさえ科学の形式知といい難いからである。
このような前提で、高分子の難燃化を研究するときにどのように進めればよいのか、当方の経験知について次回から説明したい。
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