シリコーンゴムにはミラブルタイプとLIMSの2種類のゴムが存在する。ミラブルタイプは、通常のゴムと同じように高分子量のゴム分子を架橋して得られる。
LIMSによるゴムは、低分子量のシリコーンを重合しながら同時に架橋を進めて製造される。ゆえにLIMSのメーカーが異なるとできあがるゴムの構造は一次構造が大きく異なっている。
すなわちLIMSでは液状のシリコーンを用いるのでフィラーを添加しても高粘度とならず、注型による成形が可能となる。
しかしミラブルタイプは高分子量のゴムを用いるので、一般の架橋ゴムと同様に金型に入れてプレス成形を用いて製品となる。
このプロセシングの違いが生産性に影響する。ゴムの物性を問わなければ、一般にLIMS成形品のほうが低価格となる。
ところで困るのはLIMSについてシリコーンメーカーによりその設計思想が異なる点である。信越化学は、二官能のシリコーンと架橋剤でゴムとなるように設計している。
しかし他の2社は、三官能のシリコーンを用いて架橋もそれにゆだねている。教科書に即して考えると信越化学の設計に軍配があがるが、製造時の品質安定性という指標でみると他の2社に軍配があがる。
信越化学の製品が劣っているのかというとそうではなく、用途により最適なLIMSメーカーが存在する、という書き方で本日はお茶を濁す。LIMSの成形技術で困っている方はご相談ください。
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9月は台湾ITRIからの依頼で講演会がありましたが、国内の参加者はいらっしゃらないと思い、案内を掲載しませんでした。10月には下記3件の講演会が開催されますのでご案内いたします。参加ご希望の方はお問い合わせください。また、弊社にて特別価格で行うセミナーもございますのでお問い合わせください。例えば高分子の専門外の方が高分子について学ぶ特別少人数セミナーを弊社事務所で休日の午後を利用して安価(15000円/1名、基礎の基礎編は時間が短く10000円です。)に開催しておりますのでお問い合わせください。また、企業向けの講演会も随時受け付けておりますのでお問い合わせください。
1.テーマ:リチウムイオン電池の信頼性向上・難燃化技術
開催日時:2018年10月9日(火)10:30~16:30
会 場:ちよだプラットフォームスクウェア 5F 503
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21
参 加 費:50,000円(税込) ※ 資料代含
弊社へお申し込みの場合には2割引きでご案内しております。
* アカデミック価格は 25,000円(税込)
2.テーマ:プラスチック/ゴムの劣化・破壊メカニズムとその事例および寿命予測法
開催日時:2018年10月19日(火)10:30~17:30
会 場:日本テクノセンター研修室
参 加 費:48,600円(税込) ※ 資料代含
3.KRIワークショップ’18
2018年10月24日京都リサーチパークで開催されますが詳細は直接KRIへお尋ねください。本件につきましては弊社で受付できません。
以上
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ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、本格的な普及が始まった材料でkg単価1500円という価格も見えてきた。10年前には2000円以上で販売されていたのでこれは驚くべきことである。
PPSにはリニアタイプと架橋タイプがあり、最初に登場したのはシェブロンフィリップスの開発した架橋タイプのPPSである。ただし架橋タイプのPPSは分子量が低いのでガラス繊維などと複合化して射出成形体に用いられた。
安価なガラス繊維と複合化するので、kg単価は希釈効果で700円前後まで下がった射出成型用PPSというものも存在する。
架橋タイプは射出成型用以外に用いることができないので押出成形も可能なリニアタイプと呼ばれる高分子量のPPSも遅れて開発された。2005年に押出成形で中間転写ベルトを開発しているが、この時用いたのはリニアタイプのPPSである。
メーカーの技術者からも架橋タイプでは押出成形や繊維を作ることはできない、と言われたのでそれを信じていたが、驚くべきことに当方が開発した二つの技術を合わせると架橋タイプのPPSでも繊維化ができたのだ。
架橋タイプのPPSは分子量が低いために繊維化が難しいはずだが、どうもコンパウンディングの段階で**になっているようだ。**にご興味のある方は問い合わせていただきたいが、この現象以外に驚くべきことがいくつかこの7年間にPPSという材料で見つかった。
面白いのは国内のあるPPSメーカーで実験したところそれがうまく再現できないのだ。しかし、当方が指導している中国のローカルメーカではそれが生産レベルにあり、あるローカル射出成型メーカーの商品に採用されている。
日本のメーカーでうまくいっていない理由は、当方の指導を受けていないためだが、それだけではない。自分たちの技術を過信している可能性がある。
PPSに限らず他の樹脂でも教科書に書かれていない現象が見つかっており、技術に対する認識の違いが材料の新たな現象発見の力になっているようにも見える。技術の過信は禁物である。
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高分子材料が非晶質状態の時にすべてガラス転移点を持つ、と教科書にさらりと何気なく書いてある。有機材料から無機材料まですべての材料について研究経験があり、一時はそのすべての学会で活動経験もある立場から見ると、この一行の説明には不満である。
「驚くべきことだが、高分子材料が非晶質状態のときには必ずガラス転移点を示す」ぐらいに読者に注目させるような書き方をしてほしいものだ。
何故なら、高分子のガラス転移点とは、すべての高分子が紐状につながった高分子ゆえに示す性質であり、すべての高分子材料が非晶質状態のときにガラス転移点を持っている事実は、多くの物質の中で高分子特有の性質だからだ。
そもそもガラスの定義が教科書に書かれていないのも問題である。アカデミアの先生にもガラスの定義を御存じない理系の研究者がいたのでびっくりした経験がある。今そのような先生に面会したら「ボーっと生きてんじゃねえよ」と言ってしまうかも。
このガラス転移点とは、物質が冷却されて溶融状態から固体(結晶)状態に転移する前に、液体状態としての運動性を失う温度である。窓ガラスが液体である、と説明されたりするのは、本来は液体なのにガラス転移点以下の室温で液体としての運動性が失われた状態だからだ。
子供時代に古くなった窓ガラスが失透する現象を不思議に思い、百科事典を調べたら結晶化が起きていると書かれていた。しかし、そこにはガラス転移点の説明は無かったが、ガラスのガラス転移点について研究されていた時代であったことを大学に入ってから知った。
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技術開発において20世紀は科学の時代と言われたように、科学という哲学が技術者にとって唯一無二の存在だった。この時代に学生として化学の世界でアカデミアに裏切られ科学というものに疑問を持ったことはその後の人生に大きな影響があったと思っている。
昨日台湾におけるシリコーンの講演会について書いたが、4年生の時に在籍した講座でその後も研究者として学んでいたら、科学に対して批判的な目を持たず本当にシリコーン領域だけの専門家になっていたのかもしれない。
その後、ゴム会社の新人研究発表会でCTOから「大馬鹿モン」と言われたり、電卓で微分方程式を解きながらレオロジーという学問で高分子の問題は解けない、とつぶやいていた指導社員のおかげで技術開発において科学は道具の一つに過ぎないことを学んだ。
技術開発には科学以外にも多くの方法があり、弊社では研究開発必勝法としてまとめている。この中でヤマナカファクターを生み出したあみだくじ方式を紹介しているが、これは科学的ではないと「方法の擁護」に書かれている。
非科学的な方法でもノーベル賞を受賞できるという朗報で21世紀が始まっている。もうそろそろ世界中が科学は道具に過ぎない、と言い始めてもよいが、日本では未だに科学で未来を拓く会社というキャッチコピーの会社もあり、歴史の流れというものが極めて緩やかなものであることを知る。
科学誕生以前にも人類は技術開発を日々の営みとして推進していたことは、歴史的遺構を見れば明らかである。その中にはヘーベルハウスよりもはるかに耐久性の高い法隆寺という木造建築もある。
これまでの地震にも耐えてきて、柱や壁を触ってみてもブリードアウトなど起きていない。先日訪ねてきたヘーベルハウス営業ウーマンに今回屋根の張替を行ったら、法隆寺ぐらい持ちますか、と尋ねたら、あちらは木造建築ですよ、と言っていた。これは会話になっていない。
法隆寺を単なる歴史的遺構と片づけてはいけない。温故知新として眺めれば新たな建築技術のアイデアが生まれるかもしれないのだ。当時の技術が形として残っているわけだが、科学の無い時代の科学的成果と言ってもよいような技術のいくつかをそこで見つけられる。これは大変興味深いことであり、自然な営みの中で人は科学が無くても技術を生み出せるのだ。
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今週月曜日台湾ITRI(日本の産総研のような組織)から表題の講演の講師として招聘されたので終日講演したが40名近くの聴講者がいたのでびっくりした。さらに終了してからの名刺交換会で熱心な質問に圧倒された。
質問は当方にとって簡単な問題だったが、質問者は真剣に質問されていたので、通訳の女性が少し大変そうだった。講演は通訳の女性の能力が高くスケジュール通りに終えることができたが、この質問攻めで会場の制限時間をオーバーし、会場整備担当の方に少しご迷惑をおかけした。
全ての質問は、参加者が日ごろ困っている問題であり、問題の内容はシリコーン特有の問題ではなく、その上位概念である高分子技術に関して理解していないことだった。
ただ、このようなことは国内のセミナーでも経験をしており、質問を受けながら改めて世の中に実務を配慮した高分子の教科書が少ないことを実感した。例えば講演の内容に関してシリコーンユーザーの視点で書かれた教科書が皆無であり、資料を作るうえで参考になる資料を見つけることができなかったことからもそれが明らかだった。
さらに、これまでシリコーンゴムや樹脂について特化した講演が未経験だったので資料を新たに作成しなければならず大変だった。しかし、資料を作成しながら当方がシリコーンの専門家であることに気がついた。セラミックスから高分子まで専門領域が広い、と言われたりするが、いわゆる皆材料分野の一コマに過ぎない。当方は実務経験が幅広く豊富な材料の専門家なのだ。
シリコーンではこのようなキャリアがある。大学4年の卒論研究はアメリカ化学会誌に紹介されており、これはトリメチルシリルメチルグリニア試薬の合成から始まり、ゲラニオールの全合成に関する内容である。すなわちカーボンファンクショナルシランの合成と応用技術を学んだキャリアである。シランについては知らんことは無い。
就職してからは、ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂発泡体の開発でシリコーン界面活性剤について研究している。この研究で製泡剤や消泡剤へのシリコーンの応用技術や細かいノウハウを習得している。さらに学会発表もしている。
高純度SiCではシリコーンを前駆体の原料に用いているし、またそのリアクティブブレンド技術も開発している。電気粘性流体の開発ではシリコーンオイルのデザインから始まり、短期間でホスファゼン難燃オイルまで開発する成果を出している。
極めつけは写真会社で退職前の5年間にシリコーンLIMSを用いて定着ローラの開発を部下に指導していたことだ。およそ35年間のサラリーマン生活では恐らくシリコーンメーカーの技術者よりもシリコーンの応用技術に詳しくなるぐらいの勉強や研究をしていたことになる。
また、実際に、定着ローラの品質問題では、問題解決の必要からシリコーン御三家の一社である某S社のシリコーン技術者の指導もしていた。この講演会を引き受けてえられた最大の成果は、相談者やセミナー依頼が無かったので特に意識していなかった自分の専門について独自の資料のまとめから気がついたことだ。
来月は電池技術のセミナーや高分子の劣化に関するセミナーの講師を引き受けているが、企業の技術者が講演しにくい他の技術分野についてもう少し当方の身に着けている技術を棚卸してゆきたいと思う。
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高分子材料の物性はばらつくのは常識である。高分子のばらつきは、非晶質相に存在する部分自由体積を制御できないことから、0にできない、と容易に想像できる。
部分自由体積がばらつけば、密度がばらつく。密度がばらつけば、それと相関する弾性率や誘電率もばらつくことになる。
弾性率がばらつけば、引張強度や曲強度は必ずばらつくことになり、衝撃強度に至っては大きなばらつきとなる。
誘電率がばらついても同様に屈折率をはじめとした物性が皆ばらつくことになる。このばらつきを小さくするために、タグチメソッドはそれなりに有効である。
しかしタグチメソッドで最適化しても裏切られることがあるのは覚悟しておくべきである。これはタグチメソッドが悪いのではない。
高分子材料の高次構造はざっくりと書けば、結晶になりやすい部分あるいはすでに結晶化した部分と非晶質部分からなり、非晶質部分には部分自由体積というばらつきの巣窟がある。
またラメラの集合体である高分子の結晶には少なからず非晶質部分が存在する。すなわち、いくらタグチメソッドで最適化してもこれら構造に基づくばらつきの制御など安直にできないのである。
だから運悪くスペックから外れた品質データが得られたりすると捏造したくなる。捏造を防止する一番良い手段は、スペックに入るまで成形と測定を繰り返す、と仕様書に書いておくことである。
こんなことを書くと笑われるかもしれないが、高分子材料の品質とはこのようなものだと考えていると技術開発の正しい方向と品質管理のあるべき姿というものが見えてくる。すなわち高分子材料の仕様書を作成するとは、その行為自体がノウハウなのだ。
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写真会社には生産技術センターと呼ばれるコーポレートのプロセシング研究グループがあり、当初そこのセンター長に混練プロセスの相談に行ったら、事業部で採用が決まっていないテーマでは話にならない、と簡単に見放された。
当方は電子写真事業部の生産技術センターに所属していたので、自分たちのテーマとして研究開発可能だった。しかし、混練の基盤技術など写真会社になかったから、コーポレート部門の研究所へ相談に行ったのだ。
結局、半年後に必ず生産立ち上げを行う約束で、当時の上司だった太っ腹のセンター長にお願いし8000万円の稟議をかけて頂く計画を立てた。
さらにセンター長は、事前に2000万円の中古の二軸混練機の購入まで決済をとってくださった。当方の退職前の花道の仕事と思ってくださったのかどうか存じ上げないが、全く初めての体験となる混練のプロセス開発でも当方を信じていただけたことがうれしかった。
この痩せてはいたが太っ腹のセンター長のおかげで、カオス混合プロセスラインは無事に立ち上がり、PPSに6ナイロンが相溶したコンパウンドの量産プロセスをアジャイル開発で実現できた。このプロセシング開発では、全員が素人だった。
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技術開発において科学を道具として使いながら科学を絶対視しない方法が今日の時代の技術者に必要である。具体的な方法の一つに温故知新がある。例えばこれでパーコレーションが関わる不易流行の技術を開発した事例を紹介する。
酸化スズは、1980年代に起きたセラミックスフィーバーの最中に「絶縁体である」と無機材質研究所で科学的に証明された。透明導電材料であるITOの発見から30年近くかかっている。科学の方法で一つの真理を導き出すには時間がかかるのだ。
子供時代に戦後20年式典と称して各種の行事が行われたが、この時20年前の戦争は、はるか歴史の彼方に感じた。ところがセラミックスフィーバーが始まってから30年以上たっているが何故か昨日のことのようである。
小学校入学前に名古屋大空襲で壊れた工場の跡地で遊んだ記憶が残っていても、それでも小学校の先生から聞いた戦後20年という言葉は「はるか昔」という響きに似た歴史の世界で使われる言葉だった。
セラミックスフィーバーの最中、高純度SiCの事業シナリオを解答として提出した昇進試験で「落ちた」という人事部長の連絡を受け翌日から5日間で高純度SiCの発明を完成させた思い出は昨日のことのようである。
この5日間では寝ていた時の記憶が無いほどの過重労働だった、と妻に話したら、誰でも寝ているときの記憶は無いでしょう、と言われ、寝る暇ももったいないと感じた5日間だったと説明しなおしたのは29年前だった。
人の心の中における時間の流れとは、まことに非科学的で一定の長さなどないのだ。光陰矢の如し、というが、高純度SiCを必死で開発した5日間の時間の流れは極めてゆっくりと流れていた。そしてそれは今でも昨日のことのようである。
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χ=0で高分子の相溶が起きる、と教科書に書いてある。しかし、この条件でなくてもカオス混合機を用いれば相溶させることができるポリマーブレンドがいくつか見つかった。
ところで相溶という現象は非晶質相で生じる現象であり、カオス混合機を用いたときに相溶しない組み合わせでも相溶する場合がある、ということは、混練プロセスで高分子の溶解性が変わるということだ。
理論的にはおかしなことだが、実務上はこのように考えていたほうが、ブリードアウトの問題を考えるときに間違いをしない。
溶解性は自由エネルギーで説明できるので、混練プロセスで高分子の溶解度が変わるという現象は科学的に説明しにくいが、実用上はこのような感覚でいたほうが痛い目にあわない。
高分子の溶解性を議論するときに完全な平衡状態なるものをどのように考えればよいのか、あるいは実務上そのような状態を作り出せるのかどうか、という問題があるからだ。
ゆえに教科書的視点から見れば理解しにくいが、ブリードアウトの問題を考えるときには、実際に観察される現象を重視しなければ痛い目に合う。すなわち理論的ではなく実務上観察される溶解度を超えた添加剤は必ず短時間でブリードアウトの問題を引き起こす(運が良ければ起きない、ともいえる)。
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