高分子材料のフラクトグラフィーをいろいろ経験すると、セラミックスでは体験できない現象に出会う。例えば破断面の構造をSEMで観察すると、脆性破壊したと思われるドメインの周囲を延性破壊したような構造が覆っているような構造に遭遇することがある。
SSカーブでは、マクロ的に脆性破壊していてもミクロの部分でフィブリルが存在しているのだ。このような構造にセラミックスでは出会ったことが無い。
あるいはポリマーアロイ、例えばPC/ABSで未溶融のPCと思われる大きなドメイン、すなわちABS相を含まずPCだけからなる相が観察されることもある。このような場合に厄介なのはそれほどの強度低下が無いために品質問題を見落とすことがある。
このような材料で成形体を製造すると、テープ剥離という品質問題が起きる。すなわち、未溶融のPCが表面に現れ、それがテープのように薄皮として剥離したりする問題だ。
テープ剥離という品質問題と樹脂の劣化寿命とが結びつかないかもしれないが、ウェザーメーターで耐久試験を行うと靭性値に劣化問題として観察されることがあるので厄介だ。
最初に紹介した脆性破壊と延性破壊のミクロ構造が存在するような材料でも、耐久試験結果が悪くなる場合がある。ただし、いつでも再現よく劣化するわけでもないのでややこしい。
このように、高分子のフラクトグラフィーを実施した時に訳が分からなくなるようなことも生じる。これを承知して実施すればフラクトグラフィーは有効な方法となるが、わけのわからない問題を生み出して悩むようであれば、場数を踏んだ専門家に相談した方が良い。
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金属についてその寿命予測はほぼ科学的に可能である、と信じられており、金属の疲労により生じた事故についてフラクトグラフィーによる解析が裁判の判例として存在する。
しかし、高分子材料についてその手法は未だに金属のように信頼できる手法として普及していない。しかし、品質問題が起きたときにその原因解析を行うために破断面の情報は重要である。
破断面の解析、フラクトグラフィーを成功させるためには、破断直後の汚染されていない破面が重要である。問題の起きている現場で、マクロレンズによる破面の写真撮影だけでも原因解明ができる場合がある。
最近のデジタルカメラは画素数が高いのでマクロレンズで等倍撮影後、デジタル画像を拡大することにより数十ミクロン以上のボイドあるいは異物を見つけることが可能だ。
そして、そこを起点にして同心円状の模様を探し見つかったならば、ほぼそこが破壊の起点となった可能性が高い。さらに、平滑破面と凸凹破面が連続して見つかると、その材料が破壊に至ったシナリオを描くことが可能だ。
すなわち、平滑破面では破壊エネルギーの伝播速度が速かったためにできた可能性が高く、凹凸破面はその速度が遅かったために形成された、と推定される。
これらは金属におけるフラクトグラフィーの手法をそのまま当てはめているのだが、樹脂材料ではよくあてはまる。加硫ゴムでも同様の現象が観察されたりするが、平滑破面かどうか悩む場合も存在する。
また、異物が見つかった時に異物よりも大きいボイドがその異物の存在していたところにできていたりして、異物が原因となったのかボイドが原因となったのか不明となる場合がある。
高分子のフラクトグラフィーでは、時に説明が難しくなる破面が観察されたりして、いつも成功するとは限らないが、材料の破壊で発生した品質問題を解決するときに有力な手段となる。ところが、科学的ではないという理由で解説書が少ない。
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高分子のクリープ現象は、金属やセラミックスのクリープ現象より複雑である。例えば高純度SiC成形体のような材料でも1450℃以上で観察可能なクリープが起きるが、これは拡散クリープである。
室温で実験を行うと天文学的な観測時間となる。そこで高温度で加速実験を行ってクリープ速度を求め、時間に対する変形量のマスターカーブを描くことが可能で、これが実際の現象とよく適合する。
金属やセラミックス材料では時間温度換算則を用いてこのような実験を行い、構造材料の設計を行っても市場でクリープによる品質問題を発生することは稀である。
例えばシリコーン半導体製造に用いられるダミーウェハーは、過去に高純度石英が用いられてきたが、クリープによるたわみ変形の問題があった。
シリコーンウェハーの加工温度におけるSiCのクリープ速度は石英のそれよりもはるかに遅い。シリコーンウェハーが大口径化されたのでSiCダミーウェハーはこの分野の必需品となった。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイ前駆体を用いた高純度SiC製造プロセスは40年以上前に当方により発明された。日本化学会技術賞も受賞しているこの製造方法は高純度SiCを経済的に製造できる優れた技術である。
この技術の発明により、高温度構造材料として用いられていた高純度石英の問題が解決され、信頼性の高い高純度構造材料の設計が可能となった。
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高分子材料の力学物性について問題となるのは破壊力学の形式知が完成していない点である。例えば引張強度のばらつきは、金属よりも大きい場合が多い。
金属の破壊について線形破壊力学でうまく説明できるが、高分子材料では破壊現象についてうまく説明できない場合が多い。それでも金属でよく用いられるフラクトグラフィーを適用すると破壊の起点を知ることができる。
その他、金属材料で実績のある方法を破壊現象について適用してみるとうまくあてはまるところがあったりする。ゆえに、時間温度換算則を用いてクリープ破壊を解析できそうに錯覚する。
温度領域に十分配慮して実験を行えば、マスターカーブを描くことができ、それなりに予測ができてしまう。実はこれが品質問題を引き起こす原因となる。
高分子材料のクリープ速度は金属のそれよりも密度の影響を受けやすい。それどころか高分子材料は射出成形条件のばらつきから密度が大きくばらつく。
仮にこのことを理解してマスターカーブについて密度依存性を確認したりする。このときどれだけの密度ばらつきを見込んで実験を行うのかという問題が存在する。
防湿庫に保管していたカメラの裏蓋フックの破壊は、カメラを静置したままだったので、クリープ破壊の可能性が高い。破面のフラクトグラフィーを行ってもそれを理解できた。
裏蓋を開けるためにスプリングがついているが、これにより一定応力がフックにかかりクリープ破壊に至った可能性が高いのだが、高分子材料の物性をよく理解しそれなりの実験を行えば品質問題を防げたはずである。
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最近話題となっているビッグデータの解析では、必ずしも科学的な解析とは言い難い例も出てきた。そのような例では、解析結果が普遍的真理とはならず、単なるその場限りの現象理解に終わる。
これを科学的ではないから、という理由で否定的に見ていると時代に乗り遅れるか、あるいは間違った情報を形式知としてしまうミスを犯したりする。せめて解析プロセスも含め経験知の一つ程度に考えるとよい。
すなわち、現代のデータ解析事例を眺めるときに、科学的に解析された結果なのか、単なるデータを整理し傾向を記述しただけの結果なのか、あるいは眉唾も含むその他の結果なのか、それを自ら検討する必要がある。
一方で、科学的ではないデータ解析あるいは手法の中には、技術開発にうまく取り込むと業務を効率化できる可能性もあるので、その手法がどのようなプロセスで行われているのか調べてみると面白い。
よく使われる手法として、多変量解析あるいはマハラビノスのTMがあるが、これは技術開発で集められた大量のデータから、未知の情報を絞り出すときに使える。高分子の難燃化技術セミナーで一例を示す。
15年以上前に歩留まりを10倍近く改善できた中間転写ベルトの技術開発では、それまでの開発で収集されたデータを解析し歩留まり向上のヒントを導き出している。CMCリサーチのセミナーで手法を詳しく説明する。
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科学の時代なので、仮説に基づき実験を行いデータを収集し、仮説との整合性をすなわち仮説が成立するのかどうか確認する。
これは義務教育の理科実験にはじまり大学を卒業するまで指導されてきた方法である。このコロナ禍の感染者報道を見て、データ解析手法には、この学校で習った方法以外にもいろいろあることに気がつかれたのではなかろうか。
すなわち、実験を行うことなく、現象を数値化しそれを解析する手法である。実は実験を行っていなくても現象を数値化するときに仮説を設定しているので、これも学校で習ってきた方法と変わらない。
現象からパターンを抽出する方法もこのように数値化が行われるので何らかの仮説が設定されたうえでの方法と言える。パターンを解析し意味不明であればパターンの数値化方法を変えて自分の意図する結果となるように試行錯誤を繰り返す人もいる。
試行錯誤を繰り返していながら、何か最初に仮説があったかのように説明するので、すごい眼力だと感心させられたりするが、昔ならばともかく今はコンピューターがあるので大したことではない。
科学の便利なところは、データを解析するときに仮説が正しければうまく推論を展開できて答えを出せる点である。データ解析は科学的に行えば誰でもデータが意味している範囲の真理に到達できる。
解析とか分析では科学のありがたみを必ず感じるはずである。それゆえ当方は時間さえ許されれば、すでに完了した仕事でもデータ解析を行って考察したりしている。
この時実際の生データは特に必要は無いのだ。グラフの形さえ再現できれば良い。もっともこのような結果を学会で発表しにくいが、Wパーコレーションという現象については、高分子学会無機高分子研究会で7年ほど前に発表させていただいた。
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弊社ホームページ新着情報にご案内しておりますが、テキストが出来上がりましたので見本としてテキストの一部を貼り付けました。
セミナー会社が主催する難燃化技術セミナーには20代からご招待いただき講演をしてきましたが、ポリウレタンの難燃化部分は、今回も昔発表した内容と同じです。科学でまとめられた実験結果は形式知として不変です。
20年ほど前からタグチメソッドの項目を加え、最近はマテリアルインフォマティクスも取り入れた内容で講演しております。
また、20年ほど前に高分子同友会で環境問題と高分子について開発部会で議論されましたが、今回の無料セミナーではこの辺りはご紹介程度の説明になっています。環境問題につきましてこの数年大きな変化がありました。
3年前に皮革の難燃化処方を開発しました時には、ノンハロゲンで技術を完成いたしましたが、プロセスもオイル分散を用いず、すべて水系の環境対応技術として完成しています。
水に不溶な物質を水に分散してコロイドとして仕上げるには、これまでオイル分散が唯一の方法だったのですが、最近新たな技術を開発し、ただいま特許の審査請求中です。詳細は弊社出願の特許をご覧ください。
高純度SiCの製造技術開発からカオス混合プロセス開発まで様々な技術開発を50年以上続けていますが、高分子の難燃化技術開発はライフワークのひとつになっています。
難燃化技術論文資料
セミナーテキストサンプル
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2月度に昨年末開催できなかった無料セミナーを幾つか開催予定で準備を進めています。高分子の難燃化技術につきましては、所定のフォームに申し込みをお願いいたしますが、他はメールにてお申し込み頂きたく。その時ダウンロード版テキストの要否も御記載ください。
下記に予定を示します。受講料は無料ですが、ダウンロード版テキストは有料です。
2月6日(日) 14時-16時 高分子のツボ
2月7-8日(月)9時30分ー12時30分 高分子の難燃化技術
2月20日(日) 13時30分-16時30分 混練技術
2月26日(土) 13時30分-16時30分 高分子の品質問題の解き方
2月27日(日) 13時30分-16時30分 高分子材料の帯電防止技術
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50年以上前耐熱性高分子についてアカデミアで活発な研究が行われた。無機高分子という言葉が登場したのもこの頃で、1978年に無機高分子若手研究会幹事として当方は活動している。
また、大学院の研究でPVAの難燃化について論文を執筆している。79年3月には卒業してから就職するまでの3週間に新規ホスファゼン誘導体の合成に成功し、これを用いて無機高分子を重合している。
一連の研究成果は就職後論文にまとめて発表した。ゴム会社に就職して一年後にポリウレタン発泡体の難燃化技術を担当し、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の工場試作に成功し、始末書を書いている。
会社では始末書を書くような評価だったこともあり、1年後にはこの成果を高分子学会で上司の指示により発表している。また英文の論文にもまとめた。この時の始末書には、ポリウレタン発泡体の燃焼時にガラスを生成し難燃化する技術企画を提案している。
この企画は半年後工場試作に成功し商品化された。ちょうどそのころ市場でプラ発泡体の難燃性不足で火災が発生する社会問題が起きている。当時の難燃性の建築基準に不備があったためで、新たな評価技術策定のお手伝いをすることになった。
このお手伝いでは、プラ発泡体として高防火性が期待されたフェノール樹脂発泡体をゴム会社が供給している。この仕事は、家1件燃やす実験など難燃化技術について大変勉強になった。当方がまとめたフェノール樹脂発泡体の難燃性データも建築研究所から研究発表として報告された。
このようなキャリアで、20代から高分子難燃化技術セミナーでは講師として招聘され、製品のPRもできたので上司からその役割を期待された。思い返せば40年近くこの分野で活動していたことになる。
難燃化技術開発を推進しながら、世の中のセラミクスフィーバーに遅れまいと、半導体を夢見て高純度SiCの事業企画を立案している。この企画は、紆余曲折を経て立案から2年後無機材質研究所におけるたった1週間以内の実験で花開いた。
この体験をもとに研究開発必勝法をまとめ当時の上司に提案したが、その上司はご病気でお亡くなりになったためにマネジメントにその理想を活かすことができなかった。
起業後は研究開発必勝法により、難燃化技術の依頼についてはLEDのソケット開発はじめ皮革の難燃化で実績を出し、有効性を確認してきた。LEDのソケットの難燃化は従来技術類似の手法で技術を完成しているが、皮革の難燃化については新手法を開発しており、現在特許審査申請中(ご希望の方には開発経費の実費でお譲りします。ご相談ください。)である。
難燃化技術論文資料
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ゴム会社ではゴムとセラミックス材料を、写真会社では高付加価値写真フィルムと複合プリンター、レンズ材料の開発などを担当した。写真会社では高分子材料の品質問題が起きるとその解決が仕事となったが、多くが材料起因だった。
例えば、PPS中間転写ベルトではコンパウンドの改良が唯一の策でありながら、間違った問題を設定していたために解へたどり着けない状況があった。
日本では材料メーカーと製品組み立てメーカーに分かれているケースが大半で、さらにこれが細分化されて第二次産業が構成されている。
そのため高分子材料を採用した製品において品質問題が起きたときに、問題の設定を誤って問題解決できなかったり、問題そのものが見えなくなったりするケースが発生する。
最悪なのは、間違った問題を正しく解いて、隘路にハマる場合である。15年ほど前に担当した中間転写ベルトの開発を前任者から交代して担当した時には、まさにこのような状況で当方自ら中古機を集めてコンパウンド工場を手作りに近い形で立ち上げなければいけないような状況となった。
このとき、うまく新製品立ち上げまでに間に合ったので周囲に感謝されたが、開発資源が乏しかったために大変だった。このような思い出から、高分子が採用された製品、「高分子製品に関わる品質問題の解き方セミナー」を現在企画中である。
ご興味のあるかたは問いあわせていただきたい。なおその時開催日(日曜日から土曜日まで、あるいは平日、休日)の希望を書いて頂きたく。もし、希望者が数名以上集まれば、2月に3時間の無料セミナーとして実施したい。
ただし、参加条件として高分子の基礎程度の知識があることとしたい。もし高分子の基礎に自信が無い方は、2月に開講予定となっている「高分子の基礎無料セミナー」に参加していただきたく。
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