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2022.03/29 高分子の混練技術

高分子の成形体を製造するにあたり、高分子には何らかの添加剤が混合される、と以前この欄で書いている。その時、重要となるのは混練技術である、と説明している。


混練技術とは、混ぜることと練ることの両方で高分子を変性し機能を向上する技術なのだが、その説明が難しい。難しい理由は、形式知よりも経験知の占める割合が大きいからだ。


この経験知が占める割合が大きい、ということさえ、理解していない技術者も多いので困る。原因は適当な混練機で一応コンパウンドができてしまうからである。


高機能を要求しなければ、そのように製造された適当なコンパウンドでも成形体を製造可能なので、混練技術をあまく適当に捉えることになる。


謙虚に現象を眺めれば、高機能を要求されないコンパウンドでも、十分な混練ができていないことを物性の計測から知ることができるのだが、物事を甘く考える技術者には成形体物性の評価もいい加減である。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2022.03/24 ワイブル統計

ワイブル統計は、最弱リングモデルで導かれている。最弱リングモデルとは、製品品質の最も壊れやすいところで品質劣化が起きれば、製品の機能の寿命であるという考え方だ。


大変わかりやすいモデルで、製品の故障解析手法として普及している。また、このモデルの統計的扱いと式の導出方法は、高校の数学の知識があれば理解できるので、統計手法として易しい部類である。


ただ、セミナーを通じて感じることは、品質管理部門に比較して研究開発部門で普及していない不思議さである。そこで、弊社はこのホームページにワイブル統計のプログラムを無料公開して普及に努めている。


製品品質のデータ処理だけでなく、引張強度データについても処理を行うと、強度データのばらつき構造を整理できる。


例えば高分子材料の引張強度は、弾性率と靭性が影響するが、それ以外にサンプルの取り扱いプロセスも大きく影響する。


ワイブル統計でデータ処理を行い、傾きの大きな1本のグラフが得られれば良いが、複合型のグラフが得られたならば、弊社へご相談ください。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2022.03/22 成形体の均一性(4)

成形体の均一性にペレットの均一性が影響を及ぼすことが意外と知られていない。高分子の混練技術の目的に成形体の均一性を実現できるコンパウンドの提供という項目があることをご存知ないコンパウンドメーカーも存在する。


これは絶縁体である高分子にカーボンなどの導電体をブレンドし半導体シートあるいは半導体ベルトを製造して平面の表面比抵抗を数点計測して確認できる。


コンパウンド段階で電気特性が均一であると、押出成形あるいはインフレーション成形を行ったときにシートなりベルトの面内の電気特性が均一となる場合が多い。


ここで、コンパウンドの電気特性が均一ならば確実に成形体で均一になるとは限らないことに注意する必要がある。パーコレーション転移という現象が起きるためだ。


すなわち、コンパウンドの電気特性を均一にしただけでは不十分で、パーコレーションが安定化されていることも要求される。


パーコレーション転移については後日説明するが、混練技術の重要性を示す現象の一つが半導体高分子の成形プロセスで起きる。半導体シートや半導体ベルトを製造するときに、コンパウンドの電気特性が不均一であると電気特性を均一化できないことを知っておいてほしい。


ただし、コンパウンドの電気特性についてどこまで均一性とパーコレーションの安定性を実現すべきかは、求められる成形体の電気特性により変化する。


コンパウンド段階で10%程度のばらつきがあっても成形体で5%程度のばらつきに抑えることも可能である。このあたりはコンパウンドの配合設計にも依存する難しい問題である。ただ、成形体の均一性に混練技術が影響することを知っておいてほしい。

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2022.03/10 ゴム屋と樹脂屋(5)

ゴム会社の研究所においても混練に対する考え方が異なっていた。ゴムのコンパウンディングを現場においてバンバリーとロールで行う以上、研究開発段階もそのプロセスで行うべき、という考え方は少数派だった。


研究開発段階は、簡便なニーダーでコンパウンディングを行っても問題なし、という見解が主流だった。科学的にもっともらしく聞こえる蘊蓄をこねる研究者もいたが、当方は高分子のプロセス依存性が大きいことを考慮すると、簡便なニーダー使用に賛成しかねた。


ゴム屋の中でも50年近く前このような状況だった。50年近く前に二軸混練機の高性能化の技術開発が始まっているが、未だに高性能ゴムを製造したいならばバンバリーとロール混練のレベルまで二軸混練機1発でコンパウンディングは不可能である。


二軸混練機に、当方のカオス混合機をつけただけでもコンパウンドの性能は向上するが、バンバリーとロール混練のレベルまで上がっている自信は無い。


さて未だにバッチプロセスと連続プロセスでは、コンパウンディングにその性能差が存在するが、射出成型の用途では高いコンパウンディング性能が要求されないので、高性能化された二軸混練機で十分な混練ができると信じている樹脂屋は多い。


20年近く前に、半導体無端ベルトの押出成形技術の開発を担当した時に、前任者から国内トップメーカーのコンパウンドだから完成度は高い、と言われた。しかし、そのコンパウンドを用いて半導体無端ベルトの押出成形を行うとパーコレーション転移によるばらつきが発生し、歩留まりが10%前後となった。


この原因について、コンパウンドメーカーの技術者は、押出成形技術が未熟なためと説明してきた。さらに、コンパウンドは十分に分散混合されて技術として完成している、と主張していた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2022.02/23 高分子材料の寿命予測(6)

高分子材料の寿命予測にアーレニウスプロットや時間温度換算則は大切な知識だが、これらが経験知であることを知っておくことは重要である。


アーレニウスプロットは反応速度論で利用されているので形式知と勘違いされている人がいるが、寿命予測に用いるときには、経験知と捉えた方が良い。


科学の問題についてトランスサイエンスという言葉が50年近く前に物理学者の言葉として生まれている。福島原発の問題が起きたときに、日本でこの言葉が一時注目された。


「科学に問うことはできるが、科学で答えることができない問題」という意味だが、高分子材料の寿命予測は、まさにトランスサイエンスと呼んでよい問題だ。


このような考え方に対して異を唱える人がいるので、ここではこれ以上書かないが、有料のセミナーでは、時間温度換算則の問題も含め説明している。


しかし、一度痛い目にあうと高分子材料の寿命予測に関して慎重になる。例えば「最高の品質で社会に貢献」という社是のゴム会社に入社した時に、「科学でタイヤはできない。技術でタイヤを造る」とCTOに教えられた。


写真会社で単身赴任するや否や、まさにこのCTOの教えを活かす出来事に遭遇したので迷うことなく火消を行っている。

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2022.02/22 高分子材料の寿命予測(5)

高分子材料のフラクトグラフィーをいろいろ経験すると、セラミックスでは体験できない現象に出会う。例えば破断面の構造をSEMで観察すると、脆性破壊したと思われるドメインの周囲を延性破壊したような構造が覆っているような構造に遭遇することがある。


SSカーブでは、マクロ的に脆性破壊していてもミクロの部分でフィブリルが存在しているのだ。このような構造にセラミックスでは出会ったことが無い。


あるいはポリマーアロイ、例えばPC/ABSで未溶融のPCと思われる大きなドメイン、すなわちABS相を含まずPCだけからなる相が観察されることもある。このような場合に厄介なのはそれほどの強度低下が無いために品質問題を見落とすことがある。


このような材料で成形体を製造すると、テープ剥離という品質問題が起きる。すなわち、未溶融のPCが表面に現れ、それがテープのように薄皮として剥離したりする問題だ。


テープ剥離という品質問題と樹脂の劣化寿命とが結びつかないかもしれないが、ウェザーメーターで耐久試験を行うと靭性値に劣化問題として観察されることがあるので厄介だ。


最初に紹介した脆性破壊と延性破壊のミクロ構造が存在するような材料でも、耐久試験結果が悪くなる場合がある。ただし、いつでも再現よく劣化するわけでもないのでややこしい。


このように、高分子のフラクトグラフィーを実施した時に訳が分からなくなるようなことも生じる。これを承知して実施すればフラクトグラフィーは有効な方法となるが、わけのわからない問題を生み出して悩むようであれば、場数を踏んだ専門家に相談した方が良い。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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2022.02/21 高分子材料の寿命予測(4)

金属についてその寿命予測はほぼ科学的に可能である、と信じられており、金属の疲労により生じた事故についてフラクトグラフィーによる解析が裁判の判例として存在する。


しかし、高分子材料についてその手法は未だに金属のように信頼できる手法として普及していない。しかし、品質問題が起きたときにその原因解析を行うために破断面の情報は重要である。


破断面の解析、フラクトグラフィーを成功させるためには、破断直後の汚染されていない破面が重要である。問題の起きている現場で、マクロレンズによる破面の写真撮影だけでも原因解明ができる場合がある。


最近のデジタルカメラは画素数が高いのでマクロレンズで等倍撮影後、デジタル画像を拡大することにより数十ミクロン以上のボイドあるいは異物を見つけることが可能だ。


そして、そこを起点にして同心円状の模様を探し見つかったならば、ほぼそこが破壊の起点となった可能性が高い。さらに、平滑破面と凸凹破面が連続して見つかると、その材料が破壊に至ったシナリオを描くことが可能だ。


すなわち、平滑破面では破壊エネルギーの伝播速度が速かったためにできた可能性が高く、凹凸破面はその速度が遅かったために形成された、と推定される。


これらは金属におけるフラクトグラフィーの手法をそのまま当てはめているのだが、樹脂材料ではよくあてはまる。加硫ゴムでも同様の現象が観察されたりするが、平滑破面かどうか悩む場合も存在する。


また、異物が見つかった時に異物よりも大きいボイドがその異物の存在していたところにできていたりして、異物が原因となったのかボイドが原因となったのか不明となる場合がある。


高分子のフラクトグラフィーでは、時に説明が難しくなる破面が観察されたりして、いつも成功するとは限らないが、材料の破壊で発生した品質問題を解決するときに有力な手段となる。ところが、科学的ではないという理由で解説書が少ない。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2022.02/20 高分子材料の寿命予測(3)

高分子のクリープ現象は、金属やセラミックスのクリープ現象より複雑である。例えば高純度SiC成形体のような材料でも1450℃以上で観察可能なクリープが起きるが、これは拡散クリープである。


室温で実験を行うと天文学的な観測時間となる。そこで高温度で加速実験を行ってクリープ速度を求め、時間に対する変形量のマスターカーブを描くことが可能で、これが実際の現象とよく適合する。


金属やセラミックス材料では時間温度換算則を用いてこのような実験を行い、構造材料の設計を行っても市場でクリープによる品質問題を発生することは稀である。


例えばシリコーン半導体製造に用いられるダミーウェハーは、過去に高純度石英が用いられてきたが、クリープによるたわみ変形の問題があった。


シリコーンウェハーの加工温度におけるSiCのクリープ速度は石英のそれよりもはるかに遅い。シリコーンウェハーが大口径化されたのでSiCダミーウェハーはこの分野の必需品となった。


フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイ前駆体を用いた高純度SiC製造プロセスは40年以上前に当方により発明された。日本化学会技術賞も受賞しているこの製造方法は高純度SiCを経済的に製造できる優れた技術である。


この技術の発明により、高温度構造材料として用いられていた高純度石英の問題が解決され、信頼性の高い高純度構造材料の設計が可能となった。

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2022.02/19 高分子材料の寿命予測(2)

高分子材料の力学物性について問題となるのは破壊力学の形式知が完成していない点である。例えば引張強度のばらつきは、金属よりも大きい場合が多い。


金属の破壊について線形破壊力学でうまく説明できるが、高分子材料では破壊現象についてうまく説明できない場合が多い。それでも金属でよく用いられるフラクトグラフィーを適用すると破壊の起点を知ることができる。


その他、金属材料で実績のある方法を破壊現象について適用してみるとうまくあてはまるところがあったりする。ゆえに、時間温度換算則を用いてクリープ破壊を解析できそうに錯覚する。


温度領域に十分配慮して実験を行えば、マスターカーブを描くことができ、それなりに予測ができてしまう。実はこれが品質問題を引き起こす原因となる。


高分子材料のクリープ速度は金属のそれよりも密度の影響を受けやすい。それどころか高分子材料は射出成形条件のばらつきから密度が大きくばらつく。


仮にこのことを理解してマスターカーブについて密度依存性を確認したりする。このときどれだけの密度ばらつきを見込んで実験を行うのかという問題が存在する。


防湿庫に保管していたカメラの裏蓋フックの破壊は、カメラを静置したままだったので、クリープ破壊の可能性が高い。破面のフラクトグラフィーを行ってもそれを理解できた。


裏蓋を開けるためにスプリングがついているが、これにより一定応力がフックにかかりクリープ破壊に至った可能性が高いのだが、高分子材料の物性をよく理解しそれなりの実験を行えば品質問題を防げたはずである。

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2022.01/28 データ解析(2)

最近話題となっているビッグデータの解析では、必ずしも科学的な解析とは言い難い例も出てきた。そのような例では、解析結果が普遍的真理とはならず、単なるその場限りの現象理解に終わる。


これを科学的ではないから、という理由で否定的に見ていると時代に乗り遅れるか、あるいは間違った情報を形式知としてしまうミスを犯したりする。せめて解析プロセスも含め経験知の一つ程度に考えるとよい。


すなわち、現代のデータ解析事例を眺めるときに、科学的に解析された結果なのか、単なるデータを整理し傾向を記述しただけの結果なのか、あるいは眉唾も含むその他の結果なのか、それを自ら検討する必要がある。


一方で、科学的ではないデータ解析あるいは手法の中には、技術開発にうまく取り込むと業務を効率化できる可能性もあるので、その手法がどのようなプロセスで行われているのか調べてみると面白い。


よく使われる手法として、多変量解析あるいはマハラビノスのTMがあるが、これは技術開発で集められた大量のデータから、未知の情報を絞り出すときに使える。高分子の難燃化技術セミナーで一例を示す。


15年以上前に歩留まりを10倍近く改善できた中間転写ベルトの技術開発では、それまでの開発で収集されたデータを解析し歩留まり向上のヒントを導き出している。CMCリサーチのセミナーで手法を詳しく説明する。

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