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2014.08/17 高分子の難燃化(3)

高分子の難燃化には難燃剤が用いられている。難燃剤の添加で高分子材料の物性は低下する。特に靱性の低下が著しいので注意を要する。また難燃剤が可塑剤として働く場合があるので、弾性率の低下を心配しなくてはいけない。弾性率が低下すれば、引張強度や曲強度に影響が出る。

 

物性への影響を小さくして高い難燃レベルを達成する方法は、三酸化アンチモンと臭素系あるいは塩素系難燃剤を併用する方法である。経験的には、物性への影響を小さくしたいときにこの方法で最も高い難燃化レベルを実現できる。

 

しかし、最近環境への影響からこの系を用いることができなくなってきた。各種規制から制限を受けていないハロゲン系難燃剤も存在するが、実火災の安全性という観点からはハロゲン系難燃剤は1%未満の添加に抑えるべきである。

 

ノンハロゲン系難燃剤として三酸化アンチモンに匹敵する有効な難燃剤の探索が進められた。しかし、未だ見つかっていない。リン系難燃剤は炭化促進型として知られ、イントメッセント系の難燃剤もこの系であるが、炭化型で満足な難燃性を得ようとすると高分子材料に10%以上添加しなければいけない。多いときには20%も必要になる。

 

LOIを21以上にするだけならば5%程度の添加で実現できる場合も存在する。しかし、UL94-V0レベルまで達成しようとすると一般的に10%以上の添加が必要になる。面白いのはリン系難燃剤の種類で高分子材料との相性が存在することである。

 

難燃剤メーカーから代表的難燃剤について技術資料が公開されており自分が難燃化したい高分子材料の難燃剤選択に便利である。しかし、こうした技術資料だけで開発がうまく進めばありがたいがたいていの場合に技術資料の再現ができず悩むことになる。

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.08/16 高分子の難燃化(2)

一部の高分子について燃焼挙動の科学的解析が進み、難燃剤の機能について明らかになっている。しかし大半の高分子材料と難燃剤については未解明である。明らかになっている高分子材料についても実火災でその様に熱分解している、という証明はできていない。

 

高分子の難燃化というテーマは科学的に研究を進めにくい分野である。燃焼は酸化が激しくなった現象として説明されるが、同時に高分子の熱分解も起きている。溶融も生じる。ゆえに実火災に有効な科学的な高分子難燃化手法という万能手法は存在しない。実火災に対しては、各種難燃化規格に通過するように難燃化「技術」で対応することになる。

 

高分子の難燃化手法には技術的に二つの戦略が存在する。1.溶融型と2.炭化型である。1は、高分子材料に着火したとたんに溶融を促進し、火を消す、という手法である。2は、燃焼面に耐熱性の高い炭化層を形成し火を消す方法である。

 

常温のLOIで見たときに、1の戦略では、21以下でも自己消火性を示す材料を設計可能だが、2では必ずLOIを21以上になるように設計しなければいけない。2についてはイントメッセント系の難燃剤が有効と言われている。

 

UL規格で見たときに、溶融物の存在が許されるときには、1の戦略もとれるが、許されないときには、2の戦略だけになる。すなわち、この戦略は規格と達成したいレベルで選択することになる。UL94-5Vレベルの高分子材料の設計を目指す場合には、効率的に炭化層を形成する材料設計が重要になる。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.08/15 高分子の難燃化(1)

どのような高分子でも、高温度の空気中で燃える。これを科学的に示すには温度を変えて極限酸素指数(LOI)を測定すれば良い。ちなみに空気をLOIで示すと21である。すなわちLOIとは酸素濃度を指数化したパラメーターで、空気には21%の酸素が含まれているからLOIは21となる。

 

LOIが21以上の高分子材料は空気中では燃焼を続けることができないので自己消火性、すなわち自然と火が消える。21以下の材料では、空気中で着火した場合に燃え続ける。このLOIを各温度雰囲気で測定すると、室温で21以上の材料であっても、ある温度以上で21以下になる点が存在する。

 

すなわち高分子材料は皆500℃以上にも達する実火災で必ず燃えることがこの実験で分かってくる。これが分かってくると、高分子材料の不燃化などという技術テーマを企画したりしない。せいぜい難燃化である。材料に火がついても空気中で燃えにくければ、あるいは自己消火性を示せば、少なくとも火源とはならない。多くの電化製品や事務機、電子機器はこのような観点で設計されている。

 

高分子材料の難燃化に関する研究は1960年代から1980年代にかけて活発に行われた。しかし科学的な研究の結論は未だに出ていない。技術的な見通しは、技術者によりそれぞれのノウハウとしてまとまっている。科学と技術を厳密に意識しなければいけない分野の一つとして、この高分子の難燃化という分野がある。

 

科学的な研究が最も進んだ1980年前後には様々な評価技術が登場している。LOIもこの頃登場した。UL試験も同様の時期である。コーンカロリメーターが実験装置として販売されたのは1980年代末である。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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2014.07/16 STAP細胞とレオロジー

STAP細胞の再現にむけて小保方氏がメンバーに加わってから、再現確認ができたとの報告が無い。200回以上もSTAP細胞を作ることに成功した、と会見で言われていたのでそろそろ再現成功の報告があってもよい頃である。

 

STAP細胞の有無はともかくその現象も含めて科学的に高度な内容でありながら、そこに一般の関心が集まる、まさに英知を結集しているテーマといえる。当方もお節介ではあるが、問題解決に役立ててもらおうとその生成機構に関係する可能性の高い論文を1ケ月前に提供させて頂いた。

 

当方が提供させて頂いたのは、細いスリットを通過するときに生じるレオロジー現象について考察された最も新しい論文で、キャピラリーを細胞が通過するSTAP現象を考察するときに必要となる考え方が書かれている。すでに報告されているようにSTAP細胞は細いキャピラリーを通過したときにできる。ただその再現が難しく、小保方氏以外では成功していないので問題が発生しているのである。

 

2相以上で構成された物質が細いキャピラリーを通過するときに、そこで働く剪断速度により、相界面などの微細領域においてレオロジーに起因する不思議な現象が発生する。例えば当方の発明したカオス混合装置はそこに着目し技術開発を行い、フロリー・ハギンズ理論(注1)に反する結果を8年前に発見してその開発に成功している。

 

この成果は退職前に元写真会社の子会社の工場でプラントとして実現することができた。そして、そこで生産された材料を使った製品が年間1000億円程度売り上げているとのうれしい話を風の便りに聞いた。科学的に未解明な機能を使った製品を送り出してから大きなトラブルも無くプラントが稼働しているのは、科学と技術の違いを30年間考え続けてきた成果ともいえるのでうれしい。

 

当時は細い隙間で発生しているレオロジー現象の論文も無く、ただ目の前で起きた現象をすなおに機能として活用してプラントを立ち上げた。研究を行わず技術としての完成を目指した(注2)ので無事成功したのである。この点が重要であり、さらに最近この時の現象を説明できる論文が公開されたので送ったのである。

 

植物の細胞と人間の細胞は、細胞膜の有無などその構造が異なる。植物ではSTAP現象が観察されるが動物では観察されない、というのがこれまでの科学の常識であった。しかし、STAP現象というものが微細領域のレオロジーが関わる現象ならば、動物の細胞でも起きる可能性がある。ただ、このレオロジー現象については、まだ科学的に不明な点が多い。

 

材料科学の成果である当方の仕事では送付した論文程度で現象をうまく説明できたが、生科学分野ではさらに精度をあげた実験が必要になってくる。生科学と高分子科学の境界領域の科学が一気に進むことを願って論文を送った。

 

(注1)ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。

 

(注2)技術としての完成を目指すために観察記録は重要である。しかし、当時開発期間が1年も無く社内のステージゲートもどきの研究管理に対応するため、実験ノートをつけるやいなや新しい現象をパワーポイントの資料としてまとめる必要があった。

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2014.07/15 混練技術(7)

タイヤには30以上の配合の異なる部材が使用されている。この商品に使用する大半のゴムは、昔からバンバリーでノンプロ練りを行い、ロールでプロ練りを行われてきた。しかし、このプロセスは効率が悪い。最近では、一部のゴムについて二軸混練機による混練が行われているという。

 

タイヤ以外のゴム製品では、今では圧倒的に二軸混練機によるゴムが多いという。熱可塑性エラストマー(TPE)の普及でゴム製品の多くは射出成形で作られるようになった。さらにゴムを混練しながら架橋する動的架橋技術も進歩し、樹脂と複合化されたTPEの一種TPVも汎用ゴムとして使われるようになった。

 

かつてバンバリーとロールで混練し、長時間かけて加硫と成形を行うのがゴムのプロセスであったが、1990年以降TPEの普及により、その多くが二軸混練機と射出成形によるプロセスで製造されるゴムに置き換えられた。

 

バンバリーとロール、そして長時間の加硫工程で製造されるゴムが無くなってしまうのか、という心配(?)はいらない。このプロセスの違いに大きな性能差が生まれるからである。すなわち、いくら動的加硫の技術が進歩してもTPVは、バンバリーとロールで混練された樹脂補強ゴムの物性に勝てない。

 

新入社員のテーマで樹脂補強ゴムの開発を行ったことをかつてこの欄で書いた。そこも合わせて読んで頂きたいが、耐久疲労試験では、製造プロセスの影響が大きく現れる。すなわち厳しい運動性能が要求される分野では将来もバンバリーとロール混練によるゴムが使用されてゆくと思っている。このようなローテクのゴムの話も未来技術研究所( www.miragiken.com )で扱う予定だが、高分子のプロセシングの問題については、まだ研究すべき事がたくさん残っている。

 

ところが混練に関して書かれている書物では、分散混合と分配混合で混練は進行し、といかにも混練の技術を簡単にモデル化できそうな書き方がされている。確かに混合はそれで問題解決するかもしれないが、混練の「練り」の部分については、未だ解決されていない部分で、そこを詳しく論じた書物が無い。

 

 

 

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2014.07/14 混練技術(6)

100-500kg/h程度の吐出量の二軸混練機は、中古市場に豊富である。さらに1000万円前後と格安である。但し中国ではこの値段よりも安くて新品が買える。おそらく中古機を購入するよりも中国から輸入した方が安上がりかもしれない。

 

中古機を購入するときの注意として、その道の専門家に依頼した方が良い。すなわち中古機の値段は水物である。たまたま量産機として手頃なKOBELCOマークの二軸混練機を見つけた。倉庫にあった吐出量が30kg/h前後の混練機と同年代の機械であり、比較的新しかった。しかし、配電盤はホコリをかぶっておりそのまま使用すると危険な状態であった。

 

業者に試作依頼をしたところ、動作確認はできるが試作はだめだ、と言われた。動作確認のため部下を出張させたが、その動作確認も事前に確認した配電盤の状況から不可能であった。モーター等は壊れていないようで、ジョイント部も含めサビの発生がなく、恐らく問題ないと思われたので価格交渉を行ったところ、2000万円に跳ね上がった。

 

新品が一億円前後の品物なので2000万円でも安いと思ったが、動作確認もできずに値段が二倍に上がったのである。完全に足下を見られた。一度この場を引き下がり、根津にある中小企業に相談し、交渉してもらった。そしたら3000万円だという。さらにすでにお客さんの予約があるから、3000万円でダメなら売らない、と言われたという。

 

当方は予約をしていないので、とりあえず購入を諦めかけたが、後日会社へ電話がかかってきた。他のお客さんの引き合いがあるから、早く結論を出せ、と言われた。このような駆け引きはしたくなかったが、もう不要になった、と応えた。1000万円が1ケ月以内に3000万円である。

 

結局ほとぼりが冷めた頃に、他の業者にお願いしてその機械を見に行ってもらったら買い手がつかずテント倉庫に放置されていたという。そして、二軸混練機と配電盤以外にサイドフィーダーとストランドカッタ-をつけて2000万円と言われたという。

 

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2014.07/13 混練技術(5)

たまたま倉庫で見つけた小型の二軸混練機のスクリューセグメントは伸張流動が注目される10年以上前の古い設計であった。すなわちニーディングディスクとロータの組み合わせ部分がスクリューに二カ所存在し、剪断混練を行うのにちょうど適したセグメント配置になっていた。

 

外部のコンパウンドメーカーは伸張流動重視のスクリューセグメントでPPSと6ナイロン、及びカーボンを混練していた。そのためカーボンの凝集粒子は細かくなり、その大きさは不揃いで樹脂の中に分散した高次構造となっていた。特許にも書いたが、同じ組成のコンパウンドを剪断混練すると、大きさの揃ったカーボンの凝集粒子が均一に分散した高次構造の材料ができる。

 

すなわち公知の説明であるが、剪断流動でカーボンを分散するとその分散粒径はある粒径までしか到達せずナノオーダーレベルまで分散ができないが、伸張流動を行うとフィラーをナノ粒径まで分散できると言われている。だから、2000年以降伸張流動重視の混練の考え方が普及した。外部のコンパウンドメーカーもそのような技術思想でコンパウンドの混練を行っていた。

 

教科書には伸張流動の分散効率の高さが説明されているが、ことカーボンに関しては剪断流動の効率が高いように思われる。ただし凝集粒子の大きさを小さくできないが、均一の大きさの弱い凝集状態で全体に均一に分散した方が良い結果の得られる場合がある。すなわちパーコレーション転移を制御して10の9乗Ωcmという中途半端な抵抗を実現したい時である。

 

カーボンの体積固有抵抗は1Ωcm前後なので、そのまま分散制御を行うと、パーコレーション転移が急峻に生じる。しかし、これを弱い凝集体の粒子にして、その粒子の体積固有抵抗が10の4乗Ωcm程度にすると、絶縁体の樹脂に分散し、その複合材料の体積固有抵抗を10の9乗Ωcmでも安定に創り出すことができる。

 

たまたま使われなくなって倉庫で何年も眠っていた二軸混練機が頭に描いていた理想的な混練機だった。ただしL/Dは40程度なので少し短いのが心配だったが剪断流動の効率の高さで無事目的を達成することができた。さすがKOBELCOマークである。ただ、これでは吐出量が小さいので量産ができない。

 

 

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2014.07/12 混練技術(4)

神戸製鋼所が本格的に二軸混練機の開発を始めたのは、Farrel社から技術供与を受けた1970年頃と聞いている。1980年代前半にはL/Dの大きいLCMシリーズを開発している。

 

このLCMは混練部が3つの領域を持つ3翼の断面のロータ型スクリューで構成されている。最初にフルフライトの送り部、次に順送りと逆送りロータを有する混練部、ロータ部の末端には再び混練部がある。

 

以上は営業担当から昔受けた説明であるが、神戸製鋼所のロータは、剪断混練を行うときに重要なスクリューセグメントである。世界的ブランドのコペリオンではロータは大きなピッチのスクリューエレメントとして考えられているのか、神戸製鋼のそれと比較すると見劣りがする。

 

コペリオンでは、ロータよりもニーディングディスクに力を入れているようで、工場にはダブルフライトのニーディングディスクや昔懐かしいおにぎり型の三条ネジのニーディングディスク、およびそれらの特殊型が多数置いてあった。

 

ロータとニーディングディスクどちらが良いのかは混練物に依存するかもしれないが、神戸製鋼のロータの混練性能は高い。コペリオン社ではダブルフライトニーディングディスクは、チップクリアランスを大きくすることによってディスクチップ間における材料への過度の剪断応力を減少させ、チップ通過量を増大させて均一な混合物を得るように工夫したセグメントである。類似のセグメントに可塑化時における剪断応力のピークを避ける目的で考案されたシングルフライトのニーディングディスクがある。

 

コペリオン社には神戸製鋼のように特徴あるロータセグメントは無いが、様々な形状のニーディングディスクがあり、これらを組み合わせて樹脂材料の混練に最適なスクリューセグメントを決められるようになっている。ややマニアックな話になったが、この約30年間の二軸混練機の進歩をスクリューセグメントの紹介で示した。スクリューセグメントの考え方は各社各様なのである。

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2014.07/11 混練技術(3)

二軸混練機の世界的なブランドは、おそらくコペリオンだろう。中国の南京にあるコペリオンの工場を見学したが、さすが世界的メーカーと思える工場だったが、神戸製鋼所ほどの感動は無かった。

 

KOBELCOは高性能高品質の信頼のブランドである。セラミックスのHIP装置からタイヤに使われている大型プレス装置、そして二軸混練機までこの会社で作られる製品は、デザインはともかく性能は世界一だと思う。特にPRする義理は無いが、CIP装置始め二軸混練機までサラリーマン時代にこのブランドの装置を使って成果を出す事ができた当方にとっては、信頼のブランドである。但し高価である。

 

中間転写ベルトの開発ではPPSと6ナイロンを相溶させる混練技術が必要であった。最初外部のコンパウンドメーカーにアイデアを実行してもらおうと思ったら馬鹿にされた。お客さんを馬鹿にする失礼な会社だけでなく新しい技術の提案を受け入れないので将来の見込み無しと判断して黙って自前開発を行い、高性能コンパウンドを生産できる工場を立ち上げた。そして外部から性能の悪いコンパウンドを購入するのを辞めた。

 

混練技術の実情を見ると、昨日まで塗布技術をやっていた人間が打ち合わせに出てきて混練技術について講釈をしだしたら、その道30年の技術者はカチンときても仕方がないことだろうと今から思えば同情できる。当方はお客さんという思いがあったので遠慮無く技術アイデアを述べさせてもらったが、ことごとく否定され挙げ句の果て素人は黙っとれ、となった。

 

その道30年の技術者は、1980年以降の急激に技術が進歩した最前線で戦ってきたのである。もう少し当方がその点をおもんばかって謙虚にお願いをすれば、土日のサービス業務や徹夜する苦労などしなくても済んだ。自業自得であった。

 

ただ、この苦労も今は楽しい思い出となっている。その思い出の中で、最初に倉庫からKOBELCOマークの小型混練機を見つけ、その中古機と同じシリーズで大型のKTXシリーズを中古市場から部下が探し出してきた感動は、今でも忘れない。豊川には小型のKTX、東京に大型のKTXを置き、黙々と実験を行った。KOBELCO製品を2台も短期にお金をそれほどかけず入手できたのは大変幸福であった。

 

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2014.07/10 混練技術(2)

混練技術の連載を書くつもりは無かったが、台風情報の台風を見ていたら一軸混練機に見えてきた。そして意外と多い混練機に対する誤解を思い出した。

 

二軸混練機がかなり昔から存在した、と思っている人が多いが、少なくとも今日のような大容量を混練できる高性能な装置が生まれたのは、1980年以降である。第二次世界大戦以前に存在したのは押出機で混練能力は低い。もし1980年以前の混練機があったならそれでポリマーアロイを混練しようと思わない方が良い。みかけはできても高性能化は難しい。

 

このあたりを混練技術の奥深さを分かっていない人に理解させるのは難しい。とにかくスクリューが二本ついてて、高分子を二種類投入すれば混ざって出てくる、それだけで安心している人がいる。最先端の混練技術ではナノオーダーの制御までできるのである。また、自由体積の制御もやろうと思えばできる。一応ゴム業界のレベルの混練技術らしき練りができるようになったのは2000年以降である。

 

2000年頃に国研で高分子精密制御プロジェクトが推進された。終了したときに何も成果が出なかった、という陰口を聞いたが、それはとんでもない誤解である。当方はこのプロジェクトに関わっていなかったが成果報告会を聞きに行っていたから成果を理解できた。

 

その会場では悪い評判が多かったが、このプロジェクトでは技術者が21世紀の高分子材料開発でやらなければいけない事が具体化された、と思っている。そのような結論は無かったが、成果報告会を聞いていて思った。

 

批判が多かったのはL/Dの大変大きな二軸混練機を作ったことである。伸張流動を重視したスクリュー設計でナノオーダーまでの制御が可能といわれた(注)。ウトラッキーの伸張流動装置も検討された。また、剪断流動の極限を追究した高速混練機も開発された。

 

それらは直接産業界に応用されることは無かったが、基礎データあるいは考え方は重要で、2005年に単身赴任して中間転写ベルトの開発を行うときに大変役だった。無駄な研究を行わなくても確実な技術イメージを描くことができた。

 

(注)伸張流動を活用して分散混合を進めようとすると大変長い二軸混練機が必要なのである。

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