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2014.02/11 パーコレーション転移(2)

導電性粒子を高分子バインダーに分散して生じる現象について考えようとすると、とたんに難しくなる。例えば導電性粒子がカーボンでバインダーがPPSの場合を考えてみる。PPSはカーボンをカミコミにくい樹脂として知られている。PPSの分子構造からはカーボンとの濡れが良さそうなイメージを受けるがベテランに尋ねるとカーボンとの相性が良くない樹脂、という。


カミコミの悪い樹脂にカーボンを分散するには分散剤を添加する、という技術手段がとられる。バインダーと粒子という二元系の問題が三元系の問題になってゆく。このような状態になってくると、コンピューターの中のパーコレーションのように科学的な確率で議論できる明確な問題ではなくなってくる。


バインダーである高分子と、添加剤、カーボンの三元系でそれぞれの相互作用を考慮してシミュレーションを行う、というアイデアが浮かぶが、経験からそれぞれの相互作用を考慮しただけでは説明できない現象が思い浮かぶ。


例えば導電性微粒子を分散したフィルムを押し出したときに表面と裏面でカーボンの分散状態が異なる現象が起きる。プロセス因子が絡んでいるのである。溶融状態の対流現象や冷却過程における熱伝導などを考慮しても実際のプロセスは非平衡の場合が多く、現象の数学的扱いが困難になる。


科学的なシミュレーションが困難でも、フィルム成形やベルト成形などの押出成形やゴムの加硫、射出成形、塗布などのフィルムの表面処理等微粒子分散系について多くの成形加工プロセスを経験すると現象を頭の中に再現することが可能になってくる。E.S.ファーガソンの言葉を借りると心眼で見えるようになってくる。


不思議なことだが、この心眼が働くようになるとコンピューターシミュレーションを活用してアイデアを導き出す事が可能になる。すなわち二元系のシミュレーターに心眼で見えた分散を再現できるようにプログラムを組み、コンピューター実験を行うのである。


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2014.02/10 パーコレーション転移(1)

1991年10月1日にゴム会社から写真会社へ転職した。前日までゴム会社に勤務していたのでこの月は給与明細書が2通ある。年金も両方の会社から支払われている。高純度SiCの事業を諦め趣味でその研究を続けながら、新たに高分子科学の勉強を始めた。たまたま最初に東工大住田教授の論文を読んだところ、シミュレーションプログラムを趣味で作成していたパーコレーションの話が書かれていた。


転職するきっかけとなったERFでは、粒子がクラスターを作り、そのクラスターの性質で機能が制御されるところはパーコレンションそのもの。30年前にプログラミング言語Cに興味を持ち、LatticeCという処理系を使ってプログラミングの勉強をしていた。勉強を進めるため、パーコレーション転移のシミュレーター開発を趣味で日曜日に自宅で楽しんでいた。


転職後帯電防止技術を担当することになり、その技術にパーコレーション転移が関係している、と直感的にひらめいた。高分子の専門家でないことが幸いした。作りかけていたプログラムを早く完成させるために会社でもプログラミングを始めた。管理職として転職したので数ヶ月は自由な時間を取ることができた。


シミュレーターが完成後、帯電防止層の導電性のシミュレーションに応用したところ現象をうまく表現できた。パーコレーション転移をコンピューターの中で再現するのは簡単である。導電性粒子間に相互作用が働かないときには確率過程で生じる現象だからである。ゆえにこの条件でパーコレーション転移がどのような挙動をとるのか科学的にコンピュータを使用して調べることができる。


パーコレーションの理論についても40年以上前に数学者についてボンド問題とサイト問題として議論されn次元のパーコレーションまで解かれている。すなわちその現象が科学的にほとんど解明され、スタウファーによる優れた教科書も発売されている。しかしこれはあくまで導電性粒子間に相互作用が無い、という前提である。


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2014.02/06 ケミカルアタック(5)

ケミカルアタック(4)では実務の具体的手順を示したので「樹脂の破壊」について簡単に説明する。

 

ゴムや樹脂の破壊機構については諸説がある。代表的な破壊の様子を文章で書くと

1.引張応力に対して垂直にクラックが発生して破壊に至る。

2.あるいはクラックが現れる前にクレイズがいっぱい発生して破壊に至る。

3.延性破壊。

 

2から1に進む、と考えて破壊機構は2つ程度と考える人もいる。クレイズは屈折率が元の材料から変化しているので白っぽく見える。あるいはミクロンオーダーの大きさなので光の乱反射で「白トビ」のように見える。クラックの前駆体がクレイズと考えられる。表面にキズがあったり、ボイドがあったりするといきなりクラックが発生することがある。

 

ところで剪断降伏は最大引張方向に対して一定の角度を有する最大の応力の方向(剪断力の方向)に発生するが、この条件下では塑性変形が大きくなり、上記3に至る。以上がケミカル物質が存在しないときの材料の破壊の概略である。

 

ケミカル物質が存在するとどうなるか。

たとえば有機溶剤が存在したときにそれが樹脂中に浸透拡散する場合を考える。このケースではSPやχパラメータが重要視される。樹脂に有機溶剤が拡散すると可塑化効果が観察される。クレイズをよく観察するとフィブリルがたくさん観察されるが、これは高分子の束が滑って抜けている様子で、可塑化効果が進むとこれが生じやすくなる。すなわちクレイズが発生しやすくなる。

 

また、有機溶剤を樹脂が含むと分子運動しやすくなり、すなわちTgが下がり、容易に塑性流動しやすくなってクレイズが発生する、とも説明できる。いずれにせよケミカル物質が可塑剤として働き、樹脂の強度を低下させる現象である。

 

クレイズ発生をフィブリル表面のエネルギーに関連ずける考え方もある。こちらはクレイズ発生臨界歪みを定義し、破壊力学の観点で材料の破壊機構をSPやχパラメーターと結びつけて議論する時に便利である。

 

いずれにせよ、破壊原因となるクレイズ発生についてSPあるいはχパラメータ-が関係していることになるので、ケミカルアタックの問題は、科学的視点からは、SPやχパラメーターに着目すれば防ぐことができる、という結論に至る。しかし、これは現象を狭く捉えた結論で、実際のデータには、SPやχパラメーターと無関係の油と樹脂の組み合わせでケミカルアタックが起きている事例も報告されているから、実務の対応が重要になる。

 

ケミカルアタックの問題が難しいのは高分子のクリープとも関わっているからで、時間のファクターが大きく影響する。科学的にモデルケースを解くことができても、それを一般化して実務にとり込む手続きはしないほうが賢明である。あくまで一つのケースの事例に留めるべきで、科学的に問題解決する以外に実務的な対応が再発防止に重要である。

 

 

 

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2014.02/02 ケミカルアタック(4)

前回まで説明したようにケミカルアタックは科学的に扱いにくい現象であり、それを逆手にとって問題のある樹脂を供給しながら、原因をケミカルアタックにして煙に巻くような樹脂メーカーもあるので成形技術を担当している人は注意する必要がある。成形現場に怪しいところがあると永遠に結論を出せなくなる。

 

現代の高分子の分析技術は正体不明のケミカルアタックを完璧に証明できるほどのレベルではない。ケミカルアタックとは樹脂供給メーカーがエラーを認めなかったら原因が闇の中になってしまうような問題である。換言すれば誠実な樹脂供給メーカーであれば、ケミカルアタックという問題が発生したときに現場対応で迅速に問題解決する。

 

しかし証明ができなくとも樹脂メーカーの担当者が成形技術者を煙に巻こうとしているかどうかは、樹脂の破壊機構を学べば見当がつくようになる。まず実務の手順から説明する。樹脂の破壊した箇所は汚染しないように注意して保存することが重要である。破壊した箇所から、樹脂に配合されていない油や界面活性剤などの「ケミカル物質」が見つかったならケミカルアタックの可能性が高い。現場からケミカル物質を除去する作業が対策になる。

 

ケミカル物質が検出されなかったときにどうするか。フラクトグラフィーを行い破壊に至った原因を探る。具体的には、破壊の起点を探すのである。破壊の起点がケミカル物質と無関係のボイドやクレーズだった場合には樹脂起因の可能性が高くなる。

 

成形体から引張試験片を切り出し引張試験を行い、強度が仕様どおりかどうか調べる。樹脂に問題があるとこの強度のばらつきが大きくなるか、あるいは低いところでばらつきが小さくなって観察される。

 

強度の低いサンプルの破面を観察し、ボイドやクレーズが破壊の起点になっていないか探る。すると樹脂に問題があるとそのような破壊の起点が幾つか見つかる。このような結果が出たら樹脂に問題がある。ペレットを観察するとスが入っていたり、ペレットにボイドやクレーズが観察されたりする。

 

ただし、この評価を樹脂メーカーに示しても難癖をつけて認めないメーカーもあった。直接の証拠を示すためにスの入ったペレットや、それを生産した現場(中国)で温度管理がされていなかった証拠写真を示しても、そのメーカーはケミカルアタックではない、という実験結果を認めなかった(注)。そのような不誠実なメーカーからは樹脂を購入しないことだ(続く)。

 

(注)引張試験片を成形体から切り出すときに、正確にダンベル試験片の形状にするのは難しい。試験結果が低くなるのはダンベル試験片の形状と指摘されたり、問題を示すDSCのベースラインが少し怪しい、などと難癖をつけられた。こちらも悔しいから不可能に近いDSCのベースラインがまっすぐになったチャートを見せてみろ、といったらその場で約束したが一ヶ月経過しても送られてこなかった。ペレットのスが観察されなくなったら問題が解決した。状況証拠では混練の温度管理が悪く状態の悪いペレットが原因であったことを示している。樹脂メーカーと類似の問題を経験された国内の成形樹脂メーカーはお気軽にご相談ください。ケミカルアタックの問題に関しては対応方法を電話にて無料で指南致します。

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2014.02/01 ケミカルアタック(3)

ケミカルアタックはケミカル製品と樹脂の溶解度指数(SP)で決まる、という説明も樹脂の教科書に書かれていたりする。またそこに着目したケミカルアタック防止樹脂という怪しい特許も存在する。確かにSPあるいはχパラメーターに着目すればケミカルアタックを防ぐことは可能である。ただし、その値を分子構造から計算で求めた場合には痛い目に遭う可能性が高い。

 

さらに高分子の溶解の問題あるいは相溶の問題は、実は科学的に100%解明されていない。例えばχの大きい高分子を相溶させた経験がある。光学用樹脂のアペルは側鎖基が嵩高い構造をしている。Tgを高くするためにそのような構造に設計しているわけであるが、そのためこの空間にうまく入るように高分子を設計してやると、χが大きくても相溶させることが可能である。

 

15年近く前に様々な条件で重合したポリスチレンをアペルに混練したところ、16番目の処方で重合したポリスチレンを相溶させることができた。このポリスチレンを相溶したアペルは興味深い熱特性を示した。

 

二種の高分子が相溶したこの樹脂は、室温で透明であるが、80-90℃で白濁が始まる。これはポリスチレンのTgに相当する温度領域である。しかし、135℃前後で透明になり始める。この135℃というのはアペルのTgである。

 

この現象から分かるように分子の一次構造が特殊であるとSPやχパラメーターと無関係に相溶という現象が起きることがあるのだ。高分子のモノマー構造からχを定義し組み立てられたフローリー・ハギンズ理論は大変狭い現象を扱っている理論であるか、あるいは間違っている可能性がある。科学とは一つそれを否定する現象が現れたら再度理論の見直しが行われなければならないが、アペルで見つかった現象を知っているアカデミアの学者は少ない。

 

ケミカルアタックが発生した状態を油と樹脂のχパラメーターあるいはSPからうまく説明することができたとしても対策は実技で対応することが賢明である。現象を科学的に説明することと再発を防止する実務では目的とするゴールが異なるのである。再発防止策は技術的に現場に即して対応することが必要である(続く)。

 

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2014.01/30 ケミカルアタック(2)

ケミカルアタックは、環境応力割れとも呼ばれている。樹脂のまわりにケミカル製品が存在すると、本来の強度以下の応力または歪みで樹脂が破壊する現象は、いつでも発生するわけではない。もしいつでも発生する現象であれば、ケミカル製品の容器を樹脂で作ることができなくなる。

 

いつでも発生するわけではないので科学的に取り扱いにくい問題である。例えばポリスチレンでもSPSの場合にはケミカルアタックを起こしにくい。ゆえにSPSの箸なども登場している。この経験からケミカルアタックは非晶質相が多いと発生しやすい、という直感がはたらく。

 

ここで、ABS樹脂やPC、PC/ABS樹脂でケミカルアタックによる故障が多いのはそのためか、と思わず膝を叩いた人は樹脂を少し知っている人である。一方ポリエチレンやポリプロピレンが脆くなって痛い目に遭った人は納得がゆかない。実は結晶性樹脂でもケミカルアタックは起きるのである(注)。

 

ただし、ケミカルアタックが起きたときに樹脂の種類によりその破壊機構が異なる。結晶性樹脂でケミカルアタックが起きた場合には脆性的に破壊する。例えば界面活性剤の水溶液をポリエチレン容器に入れて販売しているケースがあるが、「年」のオーダーでケミカルアタックが進行する。ゆえに破壊したときにケミカルアタックだったのか経時劣化なのか分からないことが多い。そのため、知らずに自動車窓用ウオッシャー液をポリエチレン容器に入れて販売している例を店頭で見る。

 

このようにケミカルアタックでは、非晶質樹脂でも結晶質樹脂でも発生し、その発生機構が異なるが、非晶質樹脂特有の問題として扱っている教科書も存在するので注意が必要だ。科学的には非晶質樹脂特有の問題、と説明した方が説明しやすいからだが、ケミカルアタックに対して科学的に取り組むと問題解決できない、というぐらいに心がけておいた方が痛い目に遭わない。

 

(注)PCは、非晶性樹脂に分類される場合があるが、正しくは結晶性樹脂である。結晶性樹脂とか非晶性樹脂という呼び名は、成形体の状態で業界では使われている。しかし、正しくは全く結晶化しない樹脂に対して非晶性樹脂という言葉を使用すべきである。例えばポリオレフィン樹脂で光学用途に使用されているアペルという樹脂は結晶化する。しかし非晶性樹脂として売られている。そのため樹脂が結晶化して引き起こす問題を見落とす。

 

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2014.01/29 ケミカルアタック(1)

ケミカルアタックという名称は現象をわかりにくくする名称である。樹脂にオイルなどの「ケミカル製品」が付着し、それにより膨潤して、あるいは樹脂内部の添加剤が物理的影響を受けて樹脂が破壊に至る現象で、何も問題が無い状態における破壊応力よりも30%以上低い応力で材料が破壊する、化学的現象というよりも物理的現象と捉えた方が良いかもしれない。

 

ケミカルアタックに初めて遭遇したのは小学生の頃である。プラモデル(「スーパーカー」というTV番組に登場した車)の自動車を組み立てて遊んでいたら、ギアボックスがはずれ壊れた。組み立て方法には、ギアボックスがスムーズに動くようにグリースを濡るように説明されている。そのグリースがギアボックスを支えていたボスに付着し、ケミカルアタックでボス割れを引き起こし壊れたのだ。

 

ギアボックスはモーターの動力をタイヤに伝える機能があり、常に応力がかかっている。ギアボックスは、ねじ釘でボスに固定されていた。今から考えると組み立て説明書が悪い、ということになる。また添付されたグリースもケミカルアタックを考慮されたグリ-スでなかった。

 

グリースに問題があるが、なぜ組み立て説明書が悪い、という結論をくだしたのか。ケミカルアタックの説明がされていなかったからだ。ケミカルアタックの問題は、このような問題なのだ。すなわち科学的にはケミカルアタックを起こさないグリースに変更すれば解決がつくように見える。しかし、添付されたグリース以外の油をユーザーが使用する可能性もあり、その注意を喚起するように対策を打たなければ防ぐことはできない。

 

すなわち科学だけでケミカルアタックを捉えると実技で失敗する問題である。それではケミカルアタックという問題はどのような問題なのか改めて考えてみる(続く)。

 

 

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2014.01/17 エラストマーの破壊に関する研究の難しさ

ゴムはエラストマー(弾性体)である。30年以上前、ゴム会社でゴムの研究開発を担当し、個性的な研究者が多いのにびっくりした。東大へ移られる前のN氏が霞むほどであった。指導社員のO氏は寡黙なレオロジーの大家でO氏ほど明快にレオロジーを語ってくれた指導者にこれまで出会ったことがない。その対局に声のでかいF氏という破壊力学の大家が近くの居室にいた。壁を隔てていてもその壁を破壊するくらいの声を毎日聞かされていた。勤怠表示板を見る必要の無い方であった。

 

O氏はバネとダッシュポットのモデルを中心にしたゴムのレオロジー研究が大きく変わると30年以上前に予見されていた。F氏は、線形破壊力学などゴムに使えない、と吠えていた。新入社員時代に初めて接するゴム技術について何を頼りに学べばよいのか悩む日々であった。しかし、O氏にしろF氏にしろ材料技術に対し独自の世界感を持たれ新入社員にとって教祖のような存在だった。

 

O氏から学んだレオロジーの概要については昨年紹介したので今日は破壊力学について。F氏によれば破壊力学と材料力学では破壊に至る考え方が異なるという。前者については、微小な亀裂が大きくなると、応力が小さくとも破壊に至る、と考えるのに対し、後者では、応力が破断強度や降伏応力より小さければ破壊しない、と考える。

 

材料力学では、材料の破壊特性を示す絶対的な強度特性値が存在することを前提にしている。そしてこれら強度特性値よりも外的負荷が小さければ材料が破壊しないので材料設計はこれらの値を基に行えば良い。しかし破壊力学では亀裂の進展を前提に考えるので、材料の中に存在する最大亀裂の大きさを検出できる非破壊検査法が重要となる。破壊力学の実用上の遅れは、この検査法の進展の遅れによるそうだ。

 

ゴムや樹脂が破壊したときに、実務でフラクトグラフィーによる解析を行うと破壊に至るメカニズムを推定しやすい。フラクトグラフィーは金属材料の世界で発展した方法であるが、破壊力学の論文でも登場する便利な方法であるにもかかわらず、F氏によればゴムや樹脂に用いる時には注意が必要だ、と警告している。エラストマーについていえばフラクトグラフィーを行うときの変形量は0%であるが、破壊した瞬間の変形量は500%近くの時もある、というのがその理由である。

 

ゴムの世界へ線形破壊力学を適用することの是非は、F氏が指摘するように破壊に至る変形量が大きいだけに悩ましい問題が存在する。しかし、大きな異物やキズが入っているゴムは、入っていない同一組成のゴムよりも低い応力で破壊に至る、というデータが存在し、日常の経験でもその傾向は一致している。セラミックスの破壊機構の研究をお手伝いした経験があるが、発生初期のキズを実験としてどのように生成させるのか、が問題であった。セラミックスとゴムでは弾性率に大きな違いがあり、その結果線形破壊力学を適用使用としたときの問題も異なる。

 

今でも問題は解決されていないが、材料の脆性を定量化しその比較をするときに線形破壊力学の考え方が便利であり、シャルピーやアイゾット衝撃試験では、亀裂を入れた測定を行う。フィルムの脆性評価では、耐久試験のようなMIT値を用いる。材料の脆性は、科学の未完成の世界である。

 

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2014.01/16 材料のカテゴリー

本に書かれたTPEの分類がわかりにくい、最も大きいくくりは、樹脂とゴムとの複合体である、と昨日書いた。材料に限らず物事のカテゴリーを決める、という作業はコンセプトの影響をうける。すなわちTPEを開発するときに、TPEをどのように捉えるかはゴールイメージに影響を与え、さらに開発しようとする材料スペックに制限を加えることになりかねない。

 

30数年前開発した樹脂補強ゴムの中には熱可塑性を示すゴムも存在した。熱可塑性を示すにもかかわらず、圧縮永久歪や引張耐久試験の結果は一般のゴムと同等レベルであった。現在二軸混練機で動的加硫を用いて製造されているTPEとは比較にならないレベルであった。

 

詳細はここでは述べないが、これはコンセプトが異なると同じような高次構造のゴムでも物性が大きく異なる例である。樹脂補強ゴムは処方設計のコンセプトが、一般のTPEの教科書に説明されている考え方と異なる。どのように異なるのか、という点は問い合わせていただきたい。とにかく電子顕微鏡で見る限り区別のつかない構造のゴムが物性で大きく異なる不思議な現象は体感しないと分からない。

 

以前樹脂補強ゴムの開発を担当し悪戦苦闘した話をここで紹介したが、周囲からは、新入社員が指導社員にいじめられているように見えるほどの難しい技術ノウハウを含んでいる。面白いのはそのノウハウは指導社員が自ら実験を行い獲得した技術であり、当時の社内でそれを伝承されたのが新入社員一人だった、ということだ。

 

技術の伝承がうまく行われない会社では、高度な技術が自然消滅してもそれに気がつかない。生産ラインでトラブルが発生し、その対策に悪戦苦闘して初めてノウハウの重要性に気がつく。属人的技術は人材を大切にし、その伝承を促す環境を作らない限り企業の中に根付かない。フェロー制度は20年前勤務したころのゴム会社に無かったが、良い制度を生み出したと思う。しかし、独特の材料哲学を持った指導社員は、フェロー制度ができる前に定年退職している。

 

材料のカテゴリーは、動植物の分類よりも難しい。材料の見方、考え方が異なればその数だけカテゴリーの構造が存在するはずだ。それを一つの枠組みで統一しようとするのは、技術をわかりにくくする以外に新たなコンセプトを生み出す時に障害となる。材料の新陳代謝を促すためには、材料のカテゴリーを固定化しないことだ。多くのTPEの教科書は、偏った材料の見方をしているように思われる。

 

 

 

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2014.01/15 熱可塑性エラストマー(TPE)(6)

熱可塑性エラストマーについて大学ではあまり扱われていないようだ。コポリマーの説明のところで出てくるくらいである。客員教授として大学で講義をしているときに、TPEの説明を尋ねても答えられる学生はいなかった。熱可塑性エラストマーのことだというと、熱で可塑性を示す弾性体ですね、という回答が返ってきた。そのままである。語学の勉強ではなく、材料技術の授業中の出来事である。

 

熱可塑性エラストマーを扱った教科書は高価な本ばかりだ。学生が興味を持ったときに自分で購入できる金額ではない。企業の技術者をターゲットに会社で購入することを前提にした書籍ばかりである。こうした本を安く供給できるように2年ほど前に電脳書店を立ち上げたが、お客が来ないので1年で閉鎖した。戦略を練り直し、近々新たな企画として電子出版サイトを立ち上げるが、ゆくゆくはこの高額の本を少なくとも3000円以下で提供できる環境を作りたい。

 

技術者にとって本というものは自分の手元に置き何度も繰り返して読む必要のある知識の道具である。繰り返して読むことにより、そして実務の体験と重ねることにより知識が自然と身についてゆく。文学書と異なり、専門書は1回読めばわかる人ばかりではないはずである。どんなに難しくとも100回読めば記憶できるので分かったような気になる。

 

技術者は学者ではないので、この「分かったような気」が大切である。分かったような気で勇気が沸き、KKDの度胸ができる。技術者に必要な度胸は知識で養われる。そして知識を養うために本を100回読む必要があり、そのためには手元に本が必要である。「読書百遍、意自ずから通ず」とは亡父の口癖であった。

 

ところが100回読んでもわかりにくいのがTPEの本かもしれない。これまでにTPEを扱った本を数冊1回読んだが、当方の知識と合致する本が無い。30年前、TPEは先端材料のため学術論文や特許で学ぶ以外に手段が無かった時代であり、独学で勉強しなければならなかった。その時指導社員から教わった樹脂補強ゴムのことを書いた本が無いのである。

 

樹脂補強ゴムの中には熱硬化性のフェノール樹脂を用いた加硫ゴムと同様に熱可塑性の無い材料から、熱可塑性を示す材料まで存在する。例えば結晶化度の高いRBを使用したときには、熱可塑性の樹脂補強ゴムとなる。昔、特許も出願している。

 

また、TPEについては略称が多い。そしてその略称が同次元で説明の中に登場したりするので説明がわかりにくくなっている。熱で可塑性を示す弾性体が最も上位の概念で、その材料の特徴は樹脂とゴムとの複合体である。複合化が分子レベルの場合にTPO、TPS、TPEE、TPU、TPVC、TPEA、フッソゴム系などがあり、メソフェーズ以上の複合化になると動的加硫技術によるTPE(TPV)や樹脂補強ゴムというTPEとなる。このように記憶している。

 

弾性体の架橋点が化学反応によるのか、樹脂の凝集部分によるのかで分類している本もあるが、TPVを分類するときに悩むはずだ。これを悩まずに分類しているので読む方が悩んでしまう。TPEの最も大きい「くくり」は、先に書いたように樹脂とゴムの複合体の事である。このように定義すると熱可塑性のRBを用いた樹脂補強ゴムもTPEとなる。

 

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