ゴム屋が一番びっくりするのは、樹脂屋のコンパウンドに対する考え方である。一言で表現すれば極めておおざっぱなのだ。ゴム屋は成形体の目標機能を実現できなければコンパウンド技術が未完成と捉えている。
しかし、樹脂屋はコンパウンドの分散混合さえ実現されておれば、それでコンパウンドの完成として満足している。それもペレット1個のほんの一部分の領域における分散状態で判断している。
押出成形でボツがあっても、押出機のフィルターワークが悪いからだという。その結果、小生が前任者から半導体無端ベルトの押出成形を引き継いだ時に押出機には、立派なフィルターがついていた。
前任者は、これはノウハウだから社外秘だという。恐らく完璧と思われるフィルターと思われたが、それでも正体不明のボツが発生していた。PETフィルム成膜で発生する目玉故障に近いボツだった。
原因が不明だが、コンパウンドが怪しい、と当方は疑っている。もう少し明確な事例として、半導体無端ベルトの周方向における抵抗ばらつきがある。
これは、パーコレーション転移のばらつきのために現れるので、コンパウンド段階でパーコレーション転移を制御し、安定化しておかない限り解決ができない問題である。
しかし、このような視点を素人だというのが樹脂屋である。組成で機能が決まる、などという間違った考え方をしている。高分子材料では、高次構造で機能が決まるので、コンパウンド段階で十分に高次構造を造りこんでおくのがゴム屋の作法であり思想である。
この辺りは、議論をしてもゴム屋と樹脂屋では議論が平行線となる。成形技術者は、コンパウンダーとしてどちらにコンパウンドの設計を依頼しますか?ゴム屋でも樹脂のコンパウンドを製造できます。
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ゴム会社の研究所においても混練に対する考え方が異なっていた。ゴムのコンパウンディングを現場においてバンバリーとロールで行う以上、研究開発段階もそのプロセスで行うべき、という考え方は少数派だった。
研究開発段階は、簡便なニーダーでコンパウンディングを行っても問題なし、という見解が主流だった。科学的にもっともらしく聞こえる蘊蓄をこねる研究者もいたが、当方は高分子のプロセス依存性が大きいことを考慮すると、簡便なニーダー使用に賛成しかねた。
ゴム屋の中でも50年近く前このような状況だった。50年近く前に二軸混練機の高性能化の技術開発が始まっているが、未だに高性能ゴムを製造したいならばバンバリーとロール混練のレベルまで二軸混練機1発でコンパウンディングは不可能である。
二軸混練機に、当方のカオス混合機をつけただけでもコンパウンドの性能は向上するが、バンバリーとロール混練のレベルまで上がっている自信は無い。
さて未だにバッチプロセスと連続プロセスでは、コンパウンディングにその性能差が存在するが、射出成型の用途では高いコンパウンディング性能が要求されないので、高性能化された二軸混練機で十分な混練ができると信じている樹脂屋は多い。
20年近く前に、半導体無端ベルトの押出成形技術の開発を担当した時に、前任者から国内トップメーカーのコンパウンドだから完成度は高い、と言われた。しかし、そのコンパウンドを用いて半導体無端ベルトの押出成形を行うとパーコレーション転移によるばらつきが発生し、歩留まりが10%前後となった。
この原因について、コンパウンドメーカーの技術者は、押出成形技術が未熟なためと説明してきた。さらに、コンパウンドは十分に分散混合されて技術として完成している、と主張していた。
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新入社員のテーマとして、当時最先端の樹脂補強ゴムを用いた防振ゴム用コンパウンドの開発をバンバリーとロール混練で行っている。
樹脂が海相でゴムが島相となったコンパウンドであるが、現在二軸混練機で動的加硫により製造される熱可塑性エラストマーとは圧縮永久歪や耐久性の点で大きな性能差が出るゴムを製造できる。
また、指導社員の指導で当方が開発し実用化されたコンパウンドは、ロール混練の条件でも物性が変化した極めて混練の難易度の高いコンパウンドである。
プロセス依存性の大きい難解なコンパウンドであったが、混練条件さえ再現できれば、樹脂とゴムの複合材料でありながら、圧縮永久歪が小さく耐久性の高い高性能ゴムを製造できた。
研究開発段階でバンバリーとロール混練プロセスを用いていたので、実用化の障壁は低く容易だった。久しぶりの研究所のアウトプットとなったが、なぜか開発グループは解散となった。
人生で本格的に混練を勉強したのは、この開発を担当した3か月間だけである。しかし、指導社員が熱心な方で、毎朝9時から12時まで混練の座学を行い、午後開発実務というスケジュールを組んでくださった。
3か月間ダッシュポットとバネのモデルと格闘しながら剪断流動と伸長流動の特徴はじめカオス混合まで習得できた。今レオロジーをダッシュポットとバネで説明されなくなったが、技術的ツールと捉えると現象理解には便利に使える。
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動的加硫技術が開発されたので、ゴムの一部は二軸混練機でも製造されるようになったが、高性能ゴムは、未だにバンバリーとロールによるバッチプロセスを用いて混練される。
シリコーンゴムでも、LIMS はスタティックミキサーで製造されるが、ミラブルタイプはロールあるいはニーダーによるバッチ式で混練される場合が多い。
ところが樹脂材料は、その登場時から単軸押出機あるいは二軸混練機などの連続式自動混練機が使用される。樹脂材料をバッチプロセスで処理をしてはいけない、というルールは無い。
それどころか、樹脂材料でも高性能なコンパウンドを得たいならば、ロールを用いて混練すればよい。15年以上前、PPS半導体無端ベルト用のコンパウンドは、良い結果をとりあえず得たかったのでニーダーで混練している。
また、高性能パルプ樹脂複合材料のパイロットプラントは、バンバリーとロール混練で立ち上げている。プロセスコストがかかってもバッチプロセスは連続式プロセスよりも高性能コンパウンドを製造できる、という理由で、難易度の高いコンパウンドを混練したい時には試してみる価値がある。
ただし、ロール混練は危険作業に属するので、それなりの訓練と、設備については信頼できるメーカーを選ぶ必要がある。小平製作所は、創業時からロール混練機を扱っている老舗の一つであり、実験機では安全対策が他社よりも充実している。
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高分子材料の耐久劣化試験で化学的因子についてアーレニウスプロットが良く用いられる。また、物理的因子については、時間温度換算則が用いられる。
科学に問い、答えを得る方法としてセミナーが多数行われている。弊社もこの手のセミナーでその手法を簡単に説明し紹介しているが、弊社のセミナーではこの方法で予測し、問題が発生した時の事例を中心に講義している。
その理由は簡単で、6時間もかけて例えばアーレニウスプロットの手法を説明しても実務に役立たないからである。実務で問題となるのは、これらの科学的予測法で予測しても品質の初期故障が引き起こされることだ。
それゆえ、科学的な予測手法よりも、その対策となる技術的手法を事例とともに解説している。例えばN社フィルムカメラの裏蓋フックがクリープ破壊した事例も説明しているので、N社の技術者にはぜひ当方のセミナーに参加していただきたいものである。
N社ファンの老人をニコ爺というそうだが、シェアが3位になったと言っても老人にN社のファンは多い。品質問題にあっても、C社やS社から魅力的なミラーレス一眼が出てもZ7を買ってしまうニコ爺の性をN社は大切にしていただきたい。
子供のころからペンタックスを愛用してきてもそのあこがれから、いつかは高価なN社のカメラをと思っている老人のカメラファンは少なからずいる。モーレツに働いたご褒美としてF100を購入しそれが防湿庫に保管していて壊れたのだ。
壊れたフックのフラクトグラフィーを行い、N社の技術者がクリープの破壊寿命予測を科学的に行っている様子を想像した。
高分子の一軸クリープ破壊挙動の推定にLarson-MillerのパラメーターKを速度論的根拠に基づくありがたいパラメーターとして用いているしたり顔のN社技術者の顔まで見えてきた。
しかし、1960年前後の線形破壊力学の成果で高分子材料の破壊を完璧に説明できないという理由で非線形破壊力学が1980年代に登場し、それがまだ完成していない。
さらに1970年頃に志ある材料メーカーからクリープ破壊速度が成形体密度の0.02程度の誤差で2倍になる問題を学会報告し、WEBに技術報告書として公開している。
この報告書を読むと、たとえ科学的にクリープ破壊寿命を予測できても安心できないことがすぐに理解できるのだ。また、科学的な予測は必要十分条件となっていないことに注意する必要がある。
セラミックスのような応力がかかってもその歪が小さい場合にクリープ破壊寿命が必要十分条件に近くなるが、高分子材料のようにクリープで歪が大きくなってから破壊する材料については、歪が大きくなった時に破壊に与える因子について吟味する必要がある。詳しくはセミナーで説明する。
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高分子材料の耐久予測技術は未完成のままである。金属やセラミックスでは、破壊力学が有益な情報を提供してくれる。しかし、高分子材料では非線形破壊力学が提案されてから進歩していない。
このあたりを正しく理解されている技術者は少ない。その結果として、ハイアマチュアカメラとして知られたN社のF100の裏蓋フックが防湿庫で自然に壊れてしまうような出来事が起きる。
このF100の裏蓋フックの破壊はショックだった。システムを揃えるのに50万円以上かかった、というケチな理由からではない。
ほんの少し注意深い実験をN社の技術者がしていたならば防げたからである。この「ほんの少し注意深い実験」とは、機能に着目した実験である。
これを行わず、クリープ破壊寿命予測から材料設計していた可能性が高い。フックの破壊は、破面観察から典型的なクリープ破壊と考えられる。
金属では実験による寿命予測式がそれなりの信頼性を築いてきた歴史があるが、高分子材料では、40年前から懐疑的にみられている形式知だ。
問題はこのような形式知が未だ修正されず、高価な専門家向け教科書に掲載されていることだ。1970年に材料メーカーから密度が0.02高くなるとクリープ破壊応力が約2倍となる実験結果が報告され、WEBに公開されている。
このレポートの意味するところは、密度が0.02下がっただけでクリープ破壊応力が半分になるということだ。
F100の裏蓋フックの密度の基準がどのようであったかは知らないが、クリープ破壊強度から寿命予測を行う方法は良く用いられるが、このような問題があることに目が向けられていない。
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高分子材料の寿命予測にアーレニウスプロットや時間温度換算則は大切な知識だが、これらが経験知であることを知っておくことは重要である。
アーレニウスプロットは反応速度論で利用されているので形式知と勘違いされている人がいるが、寿命予測に用いるときには、経験知と捉えた方が良い。
科学の問題についてトランスサイエンスという言葉が50年近く前に物理学者の言葉として生まれている。福島原発の問題が起きたときに、日本でこの言葉が一時注目された。
「科学に問うことはできるが、科学で答えることができない問題」という意味だが、高分子材料の寿命予測は、まさにトランスサイエンスと呼んでよい問題だ。
このような考え方に対して異を唱える人がいるので、ここではこれ以上書かないが、有料のセミナーでは、時間温度換算則の問題も含め説明している。
しかし、一度痛い目にあうと高分子材料の寿命予測に関して慎重になる。例えば「最高の品質で社会に貢献」という社是のゴム会社に入社した時に、「科学でタイヤはできない。技術でタイヤを造る」とCTOに教えられた。
写真会社で単身赴任するや否や、まさにこのCTOの教えを活かす出来事に遭遇したので迷うことなく火消を行っている。
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高分子材料のフラクトグラフィーをいろいろ経験すると、セラミックスでは体験できない現象に出会う。例えば破断面の構造をSEMで観察すると、脆性破壊したと思われるドメインの周囲を延性破壊したような構造が覆っているような構造に遭遇することがある。
SSカーブでは、マクロ的に脆性破壊していてもミクロの部分でフィブリルが存在しているのだ。このような構造にセラミックスでは出会ったことが無い。
あるいはポリマーアロイ、例えばPC/ABSで未溶融のPCと思われる大きなドメイン、すなわちABS相を含まずPCだけからなる相が観察されることもある。このような場合に厄介なのはそれほどの強度低下が無いために品質問題を見落とすことがある。
このような材料で成形体を製造すると、テープ剥離という品質問題が起きる。すなわち、未溶融のPCが表面に現れ、それがテープのように薄皮として剥離したりする問題だ。
テープ剥離という品質問題と樹脂の劣化寿命とが結びつかないかもしれないが、ウェザーメーターで耐久試験を行うと靭性値に劣化問題として観察されることがあるので厄介だ。
最初に紹介した脆性破壊と延性破壊のミクロ構造が存在するような材料でも、耐久試験結果が悪くなる場合がある。ただし、いつでも再現よく劣化するわけでもないのでややこしい。
このように、高分子のフラクトグラフィーを実施した時に訳が分からなくなるようなことも生じる。これを承知して実施すればフラクトグラフィーは有効な方法となるが、わけのわからない問題を生み出して悩むようであれば、場数を踏んだ専門家に相談した方が良い。
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金属についてその寿命予測はほぼ科学的に可能である、と信じられており、金属の疲労により生じた事故についてフラクトグラフィーによる解析が裁判の判例として存在する。
しかし、高分子材料についてその手法は未だに金属のように信頼できる手法として普及していない。しかし、品質問題が起きたときにその原因解析を行うために破断面の情報は重要である。
破断面の解析、フラクトグラフィーを成功させるためには、破断直後の汚染されていない破面が重要である。問題の起きている現場で、マクロレンズによる破面の写真撮影だけでも原因解明ができる場合がある。
最近のデジタルカメラは画素数が高いのでマクロレンズで等倍撮影後、デジタル画像を拡大することにより数十ミクロン以上のボイドあるいは異物を見つけることが可能だ。
そして、そこを起点にして同心円状の模様を探し見つかったならば、ほぼそこが破壊の起点となった可能性が高い。さらに、平滑破面と凸凹破面が連続して見つかると、その材料が破壊に至ったシナリオを描くことが可能だ。
すなわち、平滑破面では破壊エネルギーの伝播速度が速かったためにできた可能性が高く、凹凸破面はその速度が遅かったために形成された、と推定される。
これらは金属におけるフラクトグラフィーの手法をそのまま当てはめているのだが、樹脂材料ではよくあてはまる。加硫ゴムでも同様の現象が観察されたりするが、平滑破面かどうか悩む場合も存在する。
また、異物が見つかった時に異物よりも大きいボイドがその異物の存在していたところにできていたりして、異物が原因となったのかボイドが原因となったのか不明となる場合がある。
高分子のフラクトグラフィーでは、時に説明が難しくなる破面が観察されたりして、いつも成功するとは限らないが、材料の破壊で発生した品質問題を解決するときに有力な手段となる。ところが、科学的ではないという理由で解説書が少ない。
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高分子のクリープ現象は、金属やセラミックスのクリープ現象より複雑である。例えば高純度SiC成形体のような材料でも1450℃以上で観察可能なクリープが起きるが、これは拡散クリープである。
室温で実験を行うと天文学的な観測時間となる。そこで高温度で加速実験を行ってクリープ速度を求め、時間に対する変形量のマスターカーブを描くことが可能で、これが実際の現象とよく適合する。
金属やセラミックス材料では時間温度換算則を用いてこのような実験を行い、構造材料の設計を行っても市場でクリープによる品質問題を発生することは稀である。
例えばシリコーン半導体製造に用いられるダミーウェハーは、過去に高純度石英が用いられてきたが、クリープによるたわみ変形の問題があった。
シリコーンウェハーの加工温度におけるSiCのクリープ速度は石英のそれよりもはるかに遅い。シリコーンウェハーが大口径化されたのでSiCダミーウェハーはこの分野の必需品となった。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイ前駆体を用いた高純度SiC製造プロセスは40年以上前に当方により発明された。日本化学会技術賞も受賞しているこの製造方法は高純度SiCを経済的に製造できる優れた技術である。
この技術の発明により、高温度構造材料として用いられていた高純度石英の問題が解決され、信頼性の高い高純度構造材料の設計が可能となった。
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