高分子製品で比較的品質問題が多いのはブリードアウトと呼ばれる現象である。高分子材料には、成形性を改善したり、難燃性を付与したり、耐久性を上げたりする必要から必ず何か添加剤が数%以上添加されている。
その添加剤が表面に染み出してきて(ブリードアウトして)品質問題を起こす。このブリードアウトと言う現象は、高分子材料では必ず発生している。すなわちブリードアウトが生じても品質問題となっていない場合がある。
実は高分子製品を設計するときに、ブリードアウトを100%防止しようとすると製品設計などできない。ブリードアウトしてもそれが品質問題とならないような設計ならば可能である。
また、積極的に高分子のブリードアウトを利用している分野もある。例えばタイヤは、常にワックスが表面にブリードアウトしている状態になっており、その黒く美しい(?)外観を保っている。外観の美しさだけでなく紫外線によるゴムの劣化防止にも役立っている。
50年以上前のタイヤでは、時々粉を吹いているようなタイヤが存在した。ワックスが表面にブリードアウトして結晶化したために白い粉を吹いたような状態になっていた。
これは、品質問題となり、その改良が求められたが、その時ブリードアウトしない目標を設定できなかった。なぜなら、全くブリードアウトしないタイヤでは、ゴムの劣化が早まったからである。
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小学生か中学生の頃にアルミ缶のリサイクルについて夏休みの自由研究で取り上げた。まだ、鉄缶が主流で、アルミは電気代の塊と言われていた時代である。
アルミの地金はボーキサイトから取り出すときに大量の電気を消費するので、鉄の2-3倍の価格だった。ただ比重が軽いという理由で、軽薄短小(高度経済成長の時代の市場ニーズを表す合言葉)ブームのけん引役だった。
主に自動車エンジンに使われて自動車を軽量化するのに役立っていた。カンズメについても鉄缶をアルミ缶とすることで軽量化できるので、一部の鉄缶がアルミ缶に置き換わりつつある時代だった。
ただコストが高い材料なので、鉄缶の置き換えには疑問符がついていた。そこで当方はリサイクルの視点でアルミ缶置き換えの優位性を夏休みの宿題として取り上げた。
小学校にあがる前、まだ近所に戦争で壊れた建築物が残っていて、そこに住み着いていたおじいさんは鉄缶を拾い集めて生活をしていた。この記憶は鮮烈で今でも思い出され、戦後10年以上経っても名古屋大空襲から完全な復興ができていなかったことを示している。
この時子供は街にあふれた鉄缶を遊び道具にしていた。今の時代のように残飯がついて捨てられていた鉄缶は無かった。ごみの鉄缶でもきれいだった。食料が大切にされた時代である。
もし、この鉄缶がアルミ缶だったなら、子供たちは遊び道具ではなくお小遣いの足しにするために拾っていたただろうと思う。鉄缶はごみとして拾っても1円にもならなかったが、当時アルミ缶は一缶2円-5円前後で売買されていた。
重量ではなかったのだ。そのため、鉄缶はごみとして転がっていたが、アルミ缶は落ちていたら皆が拾ったので普及量も少ないこともあり、ごみとして見かけたことが無かった。そこで夏休みの自由研究として思いついたのだ。
リサイクルは、東京オリンピック頃まで生活の一部だったように思う。古新聞や古雑誌は高値で売買されていた。古くなった金属製品も廃品回収業者が集めに来た。業者の中に金属をかじって材質を確認している光景もあったが、よく見かける金メダルをかじったりする行為も本物かどうか確かめるその名残かもしれない。
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20年以上前までPETの射出成形体について世間の関心は低かったが、この20年ほどの間に良好な射出成形体を得るための技術に関する特許出願が多くなった。
先日100円ショップでPETの射出成形による透明コップを見つけてびっくりした。10年以上前のデータで恐縮するが、2004年頃まで廃PETボトルは無料もしくはお金が付いて取引されていた。2006年以降から有料となり2010年頃には30-40円前後でごみが取引されるようになった。
環境対応樹脂としてPETボトルのリサイクル材が注目され、ニーズが拡大したためだ。当方は2010年にPETボトルリサイクル樹脂の開発をするために早期退職日を2011年3月11日に設定してえらい目に遭ったが、その後の特許状況を見ると廃PETボトルの射出成型技術に関心が集まっているようだ。
PETは、結晶化速度が遅く、結晶化するときには一気に結晶化が進行するので射出成形しにくい樹脂といわれて、押出成形によるフィルムやベルトかブロー成型によるボトル以外では利用されていなかった。
はるか昔はエンプラの一つだったが価格が下がり、一気に世の中にPETボトルが溢れるようになった。しかし、このPETボトルのゴミはしばらく用途もなく、低価格で取引されてきたのだが、今は環境対応樹脂というプレミアがついてバージン材(150-200円/kg)よりも高い樹脂が存在するという。
当方が射出成型用樹脂を開発した時には、ペレット化された状態で70円/kg前後で入手できたのだが、もうこのような低価格では入手できないようだ。おそらくPETボトルのリサイクル業者はかなり潤っているはずだ。
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繊維補強により靭性が向上し、同時に繊維の高い弾性率の効果が生かされるので、うまく設計できれば複合材料は高強度材料となり、構造部材に最適である。
写真会社で超迅速現像処理を可能とする高靭性ゼラチンバインダーを開発している。今はほとんど目にすることのない銀塩写真フィルムでは現像処理が必要で、これを短時間で行うためには、高速搬送と急速乾燥プロセスに耐えうるゼラチンでなければならい。
こんにゃくゼリーを喉に詰まらせる老人が問題となり、こんにゃくゼリーが割れにくいと思われているが、これは多糖類と水との複合材料で高靭性の材料である。写真用ゼラチンは、動物の骨に含まれるコラーゲンから抽出されたアミノ酸の直鎖状ポリマーで疎水部分もあり、そのゲルは脆い。すなわち、靭性が低い。
このゼラチンの脆さを改善するためにラテックスを添加してゲル化させる技術が開発された。しかし、ラテックスを添加するとゲルが柔らかくなり、傷がつきやすくなるので、これを硬くするためにシリカゾルを併用する技術が古くから使われていた。
ところが、ゼラチンへシリカゾルを添加した時に、その一部の凝集体ができることが避けられない(シリカゾル表面の界面二重層が不安定となる)。この結果生成した凝集体が破壊の起点となって靭性を低下させる。ゆえにせっかくラテックスを添加し靭性を向上させても、硬度を上げるために添加したシリカゾルの影響で思うように靭性を上げることができず、割れにくく傷がつきにくいゼラチンバインダーを製造するために現場のノウハウが大きく影響した。
そこで、シリカゾルの超微粒子をコアにしてラテックスを重合するコアシェルラテックス技術が開発され、この技術のおかげで、従来よりも脆くなく傷がつきにくいゼラチンバインダーを開発できた。
しかし、この新技術で開発されたゼラチンバインダーの力学物性を計測してみると、靭性は上がったが、硬度は添加されたシリカゾルの量に相当する値がえられていない。
そこで、シリカゾルをミセルとして用いたラテックス重合技術を開発して、それをゼラチンに添加したところ、このゼラチンよりもさらに硬く脆くないゼラチン薄膜を開発できた。その結果、コアシェルラテックスを添加したゼラチンバインダーを用いた写真フィルムよりも現像処理時間を短くすることが可能となった。
このゼラチン薄膜の話は、以前この欄で紹介しているが、超微粒子との複合化で高分子の靭性が改善された事例である。このゼラチン薄膜について電子顕微鏡でシリカゾルの凝集体を探しても、それが全く含まれていない驚くべき結果だった。
また、この結果と過去の技術によるゼラチンとの比較を行い、どの程度の凝集粒子がゼラチンの靭性を低下させているのかも明らかとなった。なお、この技術は写真学会ゼラチン賞を受賞している。
シリカゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は世界初であり、商品化されて5年後にゾルをミセルにするアイデアの論文が科学雑誌に紹介されるような先端技術であったにもかかわらず、高分子学会技術賞に落選している。
この時審査員としておられたアカデミアの先生は新しい技術ではない、と否定されていたが、とんでもないことである。発言の重みを考えていただきたい。面白いのは学会賞の審査基準を読むと選考において間違いがあっても間違いではないという言い訳が書いてある。
アカデミアの先生は何が真実であるかを正しく見極めるの仕事だ、と昨日書いた背景でもある。STAP細胞の騒動で一流大学の学位審査の状況が明るみに出たが、大学はまず知の砦である信用を社会から取り戻さなければいけない。
大学の批判は、当方の学会賞や学位の事例以外に子供が人質になる可能性があり、なかなか社会が声を上げられないが、現在のアカデミアの状況は学術会議も含め社会感覚からのずれが大きいことを指摘しておく。
工業製品で欠陥品を社会に送り出すと品質問題として社会から批判を浴びる。未熟な科学者を博士として社会へ送りだしても品質問題として取り上げない状況に胡坐を書いてはいけない。
博士課程まで出ると就職口が少なくなると言われるが、この原因が品質問題であることに気がつかれていない。これはそれを指摘することがタブー視されているからだ。
修士卒、学部卒、高専卒、高卒、中卒と学歴があり、初年度の給与は、この順に低くなるが、5年以上勤務すると民間会社ではすでに給与における学歴差が小さいか無くなっている。ちなみに亡父は明治生まれの小卒だが仏壇には内閣府から頂いた、当方がどれだけ今後努力しても届かない位記が備えられている。
高卒で10年企業で実務を経験した人材と博士卒と比較した時に、どちらが企業で歓迎されるかは、あえて書かないが、これは社会と大学の齟齬ではない。情報化社会ではどこでも誰でも知を入手できる時代である。すなわち、企業における形式知と経験知の蓄積の結果である。この問題に関心のあるかたはお問い合わせください。
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強度が弾性率と靭性をパラメーターとする関数、という経験知を3回に分けて紹介した。これは、セラミックスや金属、高分子すべての材料開発を経験してたどり着いた経験知である。また、当方以外にこのような経験知を身に着けている技術者は多い。
弾性率について科学では物質固有の値があるという前提であるが、靭性については、未だに議論されているパラメーターである。かつてK1cという応力拡大係数が話題になった。金属やセラミックスでは、弾性率よりもばらつきが大きいが、欠陥との相関が認められ、形式知として検討されていた。
ちなみに靭性値は弾性率と欠陥サイズ、欠陥の存在確率で決定されるらしい、というところまでたどり着いた。しかし、これでは科学の形式知にはならない。
それでも、サンプルの強度試験サンプルの厚みが薄くなると、強度があがる現象、すなわち厚みが薄くなると破壊しにくくなる現象をうまく説明できた。
ただ、高分子材料では、この靭性値のばらつきが、金属やセラミックスよりも極端に大きく、その原因を科学的に説明できなかった過去がある。ゆえに未だ形式知とはなっていないが、経験知としては使用可能なので、シャルピー衝撃試験やアイゾット衝撃試験として、採用されている。
靭性値は形式知ではないが、最初に述べたように、材料の強度を説明するために必要なパラメーターである。ゆえにJISやISOでその計測方法やサンプルの作成方法などが細かく規定され、測定することが推奨されている。
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昨年7月からレジ袋有料化となり、1年経った。折り畳み式の買い物袋が必須の時代になったのだが、どうしてもレジ袋が欲しい時がある。海洋ゴミの問題を考慮するとこのような場合でも我慢しなければいけないのだが、便利さに負けてポリエチ袋を購入してしまう。
この時けしからんのは、店によって価格が様々で、単なるポリエチレン袋を10円で売りつけるところもある。ポリ乳酸の袋ならば我慢できるが、紙袋含めこのようなエコ対策袋でも通常5円である。
コロナ禍前は夜だけ営業していた焼き鳥屋があるが、コロナ禍となり、早い段階からテイクアウトをやっていた。最も、コロナ禍前でも焼き鳥だけのテイクアウト販売があったのだが、店に入る必要があった。
それが店頭に机を並べて店に入る手間を省くとともに、昼間も営業するようになった。商材も焼き鳥だけでなく、夜営業時の酒のつまみをすべて並べるようになった。お弁当迄販売している。
ところが大半はプラ容器、それも密閉性の悪いプラ容器なので汁が漏れる。しばらくして焼き鳥については、タレをかけずにタレ袋が添付されるようになった。おそらくお客からクレームでもあったのだろう。
しかし、油状の汁がわずかながら漏れるので、ポリエチ袋を購入することになる。この袋の値段が10円なのだ。それもサイズは1種類しかないので、二つ三つ焼き鳥のパックを購入するとレジ袋代だけでも2-30円となり、時には消費税よりも高くなる。
もっとも海洋ゴミを考慮して自前の袋に入れ、汚れれば洗濯すればよいだけである。頭では理解できていても便利さに慣れてしまっているので高いと思いつつレジ袋を購入している。
焼き鳥屋ではこのような調子だが、魚屋で刺身などを購入するときには、サービスでレジ袋代を値引きされても魚に気を遣って保冷袋を用意している矛盾した生活である。
環境問題は待ったなしだが、企業の環境対策でもこのような矛盾が生まれる可能性をトヨタ社長は指摘しており、カーボンニュートラルで世界の潮流は電動化一色でも、日本国内の電力事情からエンジンを残すという。
トヨタは水素エネルギーにも力を入れており、社長の強いリーダーシップで環境問題と真摯に取り組んでいる。環境問題は、ファッションの時代が終わり、解決の実績を出していかなければいけない時代となった。無料でもレジ袋を使わない習慣を徹底したい。
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クラシックファンは、形式知を重んじる科学のような楽しみ方で音楽を聴いているようだが、クラシックファンから見ると野卑な音楽に聴こえる分野(例えばポップスやロック、ジャズその他演歌など)の音楽ファンは、ノリがよければそれでよい、という気楽な楽しみ方で音楽を聞いている、と思う。
例えばどれを聞いても同じようなコード進行に聴こえてしまう演歌でも、詩の内容に入っていけるかどうかが、すなわち詩の世界にノレれば十分にその歌を楽しむことができる。
石川さゆりの天城越えのような非日常の世界に松本清張を知らなくても入ることができるのは歌唱力によるところが大きいと思っている。無理やり詩の世界に引きずり込まれるような歌唱力がある。35年前聞いたときには歌いだしの流し目をみただけでその世界感に落ちた。とても20代に思えない演歌の歌唱力だった。
ジャズではノリをグル-ブ感と言ったりするが、昔は年寄りでもノリやすかったスイングが主流だったが、今はスピードアップし、その速度についていけずノレない曲も出てきた。リーリトナーが限界である。
これより早くなると息切れしたりする。だからアップテンポのロックは雑音以外の何物でもない。ロックならばシカゴやボンジョビまでである。年寄りは無理をしてこのような音楽を聴くより、クラシックを聴いて眠りに入ったほうが良いのかもしれない。
渡辺貞夫のファンが多いのは、昔のスイングからフュージョンまでリズムの幅が広いだけでなく、メロディーラインの美しさもあり、クラシックファンでも聴きたくなる曲があるからだろう。童謡のような懐かしいメロディーもある。多くの曲がノリ易いテンポである。
当方の好きな音楽をここで論じるつもりは無くて、ノリという感覚の重要性伝えたかった。最近マテリアルインフォマティクスという分野がにぎわっているが、あれをAIでやってしまうのは面白くなくて、人間の頭で大量のデータにうまくノル方法を伝授したい。
その方法とは、多変量解析を用いて手動でデータを操作しながら解析を進めるのだ。但しデータの捏造をするのではない。例えば主成分分析を用いた場合ならば、第一主成分と第二主成分における分布を見る以外に、他の象限のデータにおける分布の眺めるのである。
ここでノリが大切で、思いつくまま主成分の軸を変えながらデータの動きを見るのだ。データ群の変化にうまくノルことができると思わぬ発見がある(悩んでいた問題にヒューリスティックな解が得られる)。
30年以上前、電気粘性流体の耐久性改良問題を主成分分析で解決したが、当時はPC9801程度の能力のコンピュータでもうまくノルことができて、一晩で結論を出すことができた。
逆にうまくノレナイ時でもノレナイ理由を考えてゆくと、それなりの発見がある。PPSの金属音が心地よく鳴り響く中間転写ベルトの押出成形の現場を事例に説明する。現場には、そのシーンだけでなく音にも多数の情報が含まれている。
それまでキンキンと高音の心地よくない音にもかかわらずリズミカルに流れてノッていたのに、突然バスドラムの不規則なリズムが鳴りだした。それは、まったく不規則でうまくノレない。この瞬間にカオス混合のアイデアが閃いている。
科学では論理が重要であるが、日々の営みの中で進められる技術開発では、このようなノリも重要である。うまくリズムにノレないならば、それはそれで新たな機能の発見につながったりするので、現場と生データを大切に扱いたい。
勘で研究開発をやるな、と昔よく言われたが、今でもヤマカンはあまりあてにならないが、「感覚」は技術開発で重要である。すなわち暗黙知の部分だからである。情報にうまくノリながらそこから新たなデータを見出すのは暗黙知が刺激されるからである。
多変量解析は、それまでの積み上げられたデータにより経験知や形式知まで刺激できる。アカデミアでマテリアルインフォマティクスが流行りだしたのは、偏った科学の見方で現象に潜む新しさを見つけにくくなったからである。
若手将棋指しがコンピュータ将棋に熱中するのをヒントにAIを使いだしたのかもしれないが、まだ人間の頭でも技術の視点に立てば新しい機能を自然現象の中に見出すことができる。ボケていない。若手研究者には到底追いつけない経験知と暗黙知が年寄りには備わっている。
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2015年にストローが鼻に刺さった亀の紹介があり、脱プラスチックが騒がれるようになった。また、プラスチックが完全に分解されず、マイクロプラスチックとなり、人間の体内から見つかるとますますプラスチックごみの問題に対して厳しい意見が出てくる。
20年ほど前に環境関連の法律が多数施行された。当時環境問題の対策として生分解ポリマーがもてはやされた。しかし、マイクロプラスチックスで進行する海洋汚染が報告されて、この生分解ポリマーに対して環境問題の解決策となるのか疑問符がつくようになった。
また、エジプトのミイラにまかれたセルロースがその原形をとどめているのを目にすると、現実の高分子の劣化速度が実験室のそれよりも長いことが想像される。
かつて、高分子の劣化が学会で議論されていたが、その一つに紫外線照射で高分子が分解し劣化する問題があった。この時は高分子材料を利用する視点で研究されていたので耐久性を向上させる各種添加剤が検討されている。
この添加剤の中には有害なものも存在するということで、今その見直しが行われており、添加剤メーカーにとってプラゴミ問題はビジネスチャンスとなっている。ところがこの問題について海洋汚染の研究が進むにつれ他の現象が見つかって、その解決は一筋縄でいかないことが見えてきた。
脱プラスチックが叫ばれるようになったのは、海洋汚染の実態がひき金だが、このやや過激なフレーズは科学の現状を考えると一つの正解を示している、と言わざるを得ない。
科学の視点では、すなわちプラごみ問題を科学的に解析してゆくと、脱プラスチックが正解となるのだろうけれど、我々の身の周りを見ると今更脱プラスチックなど不可能である。
しかし、ここで絶望的になる必要は無い。本欄で書き続けてきているように、科学は一つの現象の見方であり、科学の視点で難しくても、他の視点でみれば解決策があるかもしれないのだ。
それはこれまで技術開発されてきた製品について科学で100%リベールされていないことからもご理解いただけると思う。すなわち技術開発では、科学で解決策が無くても何とかしてきた歴史がある。
高分子の劣化について、これまで科学的に解析され、その対策のために添加剤が開発されてきたことを先に述べたが、その添加剤が用いられていても海洋ゴミでは高分子が太陽光で分解され、二酸化炭素を発生し、マイクロプラスチックスになって漂っている。
この現象について詳細を省略するが、これまでの高分子の劣化と崩壊に関する科学の研究について見直しをしなければいけないのではないかと考えている。海洋汚染の問題を考えていると、これまでの高分子劣化研究がタコつぼの奥にこびりついた水垢を調べていたような印象を受ける。
ちなみに学生時代から当方は学会活動をしていたが、就職して初めての学会活動は、始末書を書く、書かないでもめていた時に、その上司から頼まれて発表した「高分子の崩壊と安定化研究会」である。
ポリウレタンの熱分解について当方の研究成果を発表したのだが、新入社員の始末書問題では、このことも考え合わせるとなぜ成果を出した当方が書かなければいけなかったのか理解不能(注)。ちなみにポリウレタンの熱分解研究は上司に指示されたテーマではなく、難燃化技術を開発していた過程で疑問が出てきてその解決のためにサービス残業して行っている。
入社し2年経っていないという理由で残業代をつけることができなかった。それゆえ、サービス残業ではない、という説明を上司から受けたり、「趣味で仕事をするな」と言われながら研究を進めた思い出がある。
環境問題は暗いテーマであるにもかかわらず、地球規模の問題でスケールが大きすぎて考えていても落ち込まない。一方、FD問題やこの始末書問題は、それに比較すると小さい問題であるにもかかわらず、トラウマとなっているので暗くなる。部下を指導される立場の方は、その部下の老後も考えてやってほしい。
(注)「世界初の新技術を開発してほしい」という希望も製造部門から出されていた、と伺っている。そこで張り切って、当時の新素材ホスファゼンのプレポリマーを新規開発し、工場試作の成功を実現している。この試作の交渉を新入社員ができるわけではなく、また試作は製造部門も参加していたので両部門合意が取れていたはずである。そもそも失敗したわけではないのに、市販されていない素材を使ってすぐに事業展開ができないという理由で、新入社員に始末書を書け、と言う命令は、未だに理解できない。今でいうところのパワハラに負けて始末書を書いているが、始末書に燃焼時の熱でガラスを生成しポリマーを難燃化する企画を添付できて、それを実用化できた一連の出来事を同期に話しても笑い話になってしまうのがつらい。実話である。今以上に当時はパワハラが横行していたが、日本中の新入社員もパワーにあふれていた時代である。
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ストローが鼻に刺さったウミガメや太平洋ゴミベルトの話題で環境問題は新たなステージになった。そのとたんに脱プラスチックスの大合唱である。
このような現象は当方の若い時にも経験があり、「脱」の字が週刊誌の紙面を踊ったが、篠山紀信氏の海に半分浮かんだ山口百恵の水着写真が出て沈静化し、その後人気が上り坂の段階で彼女は突然の引退である。
「脱–」というタイトルは刺激的であるが、少し想像力を働かせれば不可能な対象に対して用いるべきではない。期待だけ膨らませておいて何も実現せず、みかけの解決案で満足し、本質的な問題解決に至らない。
脱プラスチックと言う前に脱石油のほうが本質に近くなる。しかし、この脱石油も身の周りの状況を見れば現実的な解ではない。そもそも「脱」ばかりを頭に描きたくなる性分の人が問題なのだ。
「脱」ではなくプラスチックをはじめとした工業材料を「自然界と調和させる技術」が今求められている。この技術について、ご興味のあるかたは弊社へお問い合わせください。
科学では真理が一つが大原則となり、このような場合に自己矛盾を起こしかねない。環境問題は、科学的に明らかにする必要があるが、その解決策は、科学的である必要はなく、科学的な矛盾をうまく解決し自然界とうまく調和していることこそ重要だ。
それは、「脱」の大合唱に応え写された一枚の写真、水着が必然となった篠山紀信氏の写真のようでもあり、自然界がプラスチックスを邪魔者扱いしていない姿である。そのような姿を技術で創り出すのが環境技術であり、2か月後のセミナーで講演いたします。
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15年前に特許が公開されているが、PPS/6ナイロン/カーボンの組成で製造された半導体ベルトは、非科学的な高次構造のコンパウンドから製造されている。特許は非科学的でも技術で実現できれば権利として成立する。
フローリー・ハギンズ理論では、PPSと6ナイロンの相溶は否定される。しかし、この半導体ベルトでは、大半の6ナイロンがPPSに相溶している。
この半導体ベルトは、科学の理論で否定される組み合わせにおいて相溶とスピノーダル分解を制御して現れるカーボンのソフト凝集体が分散した高次構造となるように設計した。
すなわち、コンパウンド段階でPPSと6ナイロンとを相溶させて、押出条件の制御により、6ナイロンをわずかにスピノーダル分解を起こして析出させて、カーボンをその相分離し始めた6ナイロン相にソフト凝集体として閉じ込めている。
このような高次構造設計は科学的に考えていては絶対に思いつかないアイデアである。
このようにこのアイデアを話したところ一流コンパウンドメーカーの技術者から笑われたので自分でそのようなコンパウンドを製造できるプラントを建てなければならない事態になり、ゴム会社時代と同様の徹夜業務をする機会に「恵まれた」。
3か月で立ち上げたプラントから目標となるコンパウンドが出来上がった時に、その仕事のために中途採用された若者は腰を抜かしたが、当方はその瞬間それほど感動しなかった。
むしろ非科学的視点で現場観察をして、コンパウンド設計を思いついたときに高純度SiCの合成に初めて成功した時と同様の感動を体験している。
非科学的な機能で制御された現象に出会う機会は多くてもその瞬間を常時とらえるためには、科学で固まった頭を一度ほぐす必要がある。
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