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2021.07/05 靭性を上げるには(3)

繊維補強により靭性が向上し、同時に繊維の高い弾性率の効果が生かされるので、うまく設計できれば複合材料は高強度材料となり、構造部材に最適である。


写真会社で超迅速現像処理を可能とする高靭性ゼラチンバインダーを開発している。今はほとんど目にすることのない銀塩写真フィルムでは現像処理が必要で、これを短時間で行うためには、高速搬送と急速乾燥プロセスに耐えうるゼラチンでなければならい。


こんにゃくゼリーを喉に詰まらせる老人が問題となり、こんにゃくゼリーが割れにくいと思われているが、これは多糖類と水との複合材料で高靭性の材料である。写真用ゼラチンは、動物の骨に含まれるコラーゲンから抽出されたアミノ酸の直鎖状ポリマーで疎水部分もあり、そのゲルは脆い。すなわち、靭性が低い。


このゼラチンの脆さを改善するためにラテックスを添加してゲル化させる技術が開発された。しかし、ラテックスを添加するとゲルが柔らかくなり、傷がつきやすくなるので、これを硬くするためにシリカゾルを併用する技術が古くから使われていた。


ところが、ゼラチンへシリカゾルを添加した時に、その一部の凝集体ができることが避けられない(シリカゾル表面の界面二重層が不安定となる)。この結果生成した凝集体が破壊の起点となって靭性を低下させる。ゆえにせっかくラテックスを添加し靭性を向上させても、硬度を上げるために添加したシリカゾルの影響で思うように靭性を上げることができず、割れにくく傷がつきにくいゼラチンバインダーを製造するために現場のノウハウが大きく影響した。


そこで、シリカゾルの超微粒子をコアにしてラテックスを重合するコアシェルラテックス技術が開発され、この技術のおかげで、従来よりも脆くなく傷がつきにくいゼラチンバインダーを開発できた。


しかし、この新技術で開発されたゼラチンバインダーの力学物性を計測してみると、靭性は上がったが、硬度は添加されたシリカゾルの量に相当する値がえられていない。


そこで、シリカゾルをミセルとして用いたラテックス重合技術を開発して、それをゼラチンに添加したところ、このゼラチンよりもさらに硬く脆くないゼラチン薄膜を開発できた。その結果、コアシェルラテックスを添加したゼラチンバインダーを用いた写真フィルムよりも現像処理時間を短くすることが可能となった。


このゼラチン薄膜の話は、以前この欄で紹介しているが、超微粒子との複合化で高分子の靭性が改善された事例である。このゼラチン薄膜について電子顕微鏡でシリカゾルの凝集体を探しても、それが全く含まれていない驚くべき結果だった。


また、この結果と過去の技術によるゼラチンとの比較を行い、どの程度の凝集粒子がゼラチンの靭性を低下させているのかも明らかとなった。なお、この技術は写真学会ゼラチン賞を受賞している。


シリカゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は世界初であり、商品化されて5年後にゾルをミセルにするアイデアの論文が科学雑誌に紹介されるような先端技術であったにもかかわらず、高分子学会技術賞に落選している。


この時審査員としておられたアカデミアの先生は新しい技術ではない、と否定されていたが、とんでもないことである。発言の重みを考えていただきたい。面白いのは学会賞の審査基準を読むと選考において間違いがあっても間違いではないという言い訳が書いてある。


アカデミアの先生は何が真実であるかを正しく見極めるの仕事だ、と昨日書いた背景でもある。STAP細胞の騒動で一流大学の学位審査の状況が明るみに出たが、大学はまず知の砦である信用を社会から取り戻さなければいけない。


大学の批判は、当方の学会賞や学位の事例以外に子供が人質になる可能性があり、なかなか社会が声を上げられないが、現在のアカデミアの状況は学術会議も含め社会感覚からのずれが大きいことを指摘しておく。


工業製品で欠陥品を社会に送り出すと品質問題として社会から批判を浴びる。未熟な科学者を博士として社会へ送りだしても品質問題として取り上げない状況に胡坐を書いてはいけない。


博士課程まで出ると就職口が少なくなると言われるが、この原因が品質問題であることに気がつかれていない。これはそれを指摘することがタブー視されているからだ。


修士卒、学部卒、高専卒、高卒、中卒と学歴があり、初年度の給与は、この順に低くなるが、5年以上勤務すると民間会社ではすでに給与における学歴差が小さいか無くなっている。ちなみに亡父は明治生まれの小卒だが仏壇には内閣府から頂いた、当方がどれだけ今後努力しても届かない位記が備えられている。


高卒で10年企業で実務を経験した人材と博士卒と比較した時に、どちらが企業で歓迎されるかは、あえて書かないが、これは社会と大学の齟齬ではない。情報化社会ではどこでも誰でも知を入手できる時代である。すなわち、企業における形式知と経験知の蓄積の結果である。この問題に関心のあるかたはお問い合わせください。

カテゴリー : 一般 高分子

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