フェノール樹脂にナノレベルのシリカを分散する手段としてポリエチルシリケートを使用する必要はなく、フィラーとして販売されている安価なアモルファスシリカを使えば良い、というアイデアはすぐにひらめく。しかし、フェノール樹脂の難燃性改良をどのように実現するのか、という問題は未解決のままである。
この問題については、樹脂の難燃化技術の定石通り、リン酸エステル系難燃剤を使用すれば良いのでは、ということになり、アモルファスシリカとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせでクラチメソッドによる実験計画法を行った。このクラチメソッドとは、タグチメソッドが日本で知られていなかったときに、当方が開発したメソッドである。
ゴム会社では入社すると技術者全員統計的品質管理の通信教育を受けさせられた。そしてその受講修了後、日科技連が推進していた同様のタイトルのBASICコースを一年受講する、というカリキュラムで統計的品質管理手法と問題解決法を徹底的に身に着けさせられた。さらに実務でそれらを活用することが義務になっており、研修課担当者のフォローがさらに一年間あった。
ところが、せっかく学習した実験計画法であったが、実務でうまく結果が出ない場合が多かった。しかし、うまくできない、手法がおかしい、などということは受講直後正直に言えない。会社が1名当たり50万円前後の費用をかけて新入社員の教育に採用している統計手法である。定年退職するまでこの会社で仕事をしてゆこうと決心していた当方は、実務にうまく使用できない手法を前にして悩んだ。そこで考案したのがクラチメソッドだった。
当時習った実験計画法では計測値をラテン方格の外側にそのまま割り付ける方法である。このラテン方格の外側にわりつけられた計測値のかわりに、タグチメソッドの感度に相当する相関係数を割り付けて実験したのだ。すなわち、改善効果を相関係数で評価するようにしたらどうなるか、と工夫して実験計画法を使ってみたところ、どんぴしゃで良好な制御因子の組とその値が見つかるようになった。
当方は会社の研修で習った手法を用いて問題解決できればよく、当時それがどのような理由でうまく改善できる仕組みになっているのか深く考えなかったが、ちょうどその時田口先生がタグチメソッドを開発されていた時代(注)でもあるので、無駄なことを考えなくて良かったと思っている。
さて、シリカ変性フェノール樹脂天井材の開発では、外側に割り付ける信号因子は、シリカ量を変量したときの極限酸素指数あるいは脆性の値を用いる場合が多かった。この時極限酸素指数の測定方法も便利に測定できるように改良し、会社から改善提案賞を頂いている。これはゴム会社で貢献を認められて頂いた唯一の賞である。(高純度SiCの事業化では随分と貢献したつもりであるが、----。)
(注)1979年に経営工学シリーズ18として田口先生の「実験計画法」が日本規格協会から発刊されている。その本に書かれた分散分析の手法に損失関数の記述がある。当時企業では、日本科学技術連盟の統計手法が企業内教育で使用されており、そこには損失関数の概念は述べられていない。当時実験計画法だけでも数冊本を買い込んだが、この田口先生の書籍が一番読んでいて面白かった。但し、この書にはタグチメソッドは書かれていない。
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昨日の続きで、フェノール樹脂天井材の開発について。
フェノール樹脂天井材の開発は、難燃性評価用の炎から逃げるように膨らみ合格した可燃の硬質ポリウレタン発泡体に置き換わる商品として企画された。国内で多発した火災の反省から評価法が見直され、難燃性の規格レベルも高くなり、ポリウレタンではゴール達成が難しいので、フェノール樹脂が選ばれた。しかし、フェノール樹脂でも発泡体になると難燃性能が著しく低下するので新しい技術が要求され、無機高分子で変性する技術を提案した。
最初に検討したのは、ケイ酸ソーダから抽出したケイ酸ポリマーの変性効果である。これは当時発表されたばかりの研究成果があり、形式知により良い結果が出ることが見えていた。すなわち、可燃性の有機成分の一部を無機成分で置換すれば、単位重量当たりの発熱量は必ず少なくなる。発熱量が抑制された結果、不完全燃焼となり炭化促進されるという仮説があった。また、無機成分として用いるケイ酸ポリマーの抽出方法もセメントの分析技術として公開されていた。
この実験結果は仮説通りになり、無機成分が多いほど難燃効果が高かった。また、フェノール樹脂そのものが炭化しやすい樹脂だったので、ケイ酸ポリマーを増加すれば燃焼後も構造材としても使用可能なレベルの材料ができた。しかし、問題となったのはTHFやジオキサンを使用してケイ酸ソーダからケイ酸ポリマーを抽出するプロセスである。
作業環境に悪い有機溶媒を使用するだけでなく、抽出過程も考慮すると、かなりのコストアップになりそうだった。そこで当時半導体用途で市場に出回り始めたポリエチルシリケートに着目した。この化合物は、テトラエチルシリケートを加水分解し、重合させた液状のケイ酸ポリマーの重合体である。タンクローリーで購入すればkgあたり800円という難燃剤として捉えると安価な価格であった。
しかし、実験を始めてすぐに挫折した。フェノール樹脂と混合するとすぐに二相に分離するのである。また、混合攪拌し二相に分離する前にフェノール樹脂を硬化させようと酸触媒を増加させると、ポリエチルシリケートが加水分解し、シリカとして沈殿し、その形態でフェノール樹脂に分散して狙った効果が得られないのだ。
仮説から期待された実験結果は得られなかったが、この時思わぬ発見をした。超微粒子が分散したフェノール樹脂の脆性が著しく向上するという複合材料の形式知どおりの材料が得られただけでなく、燃焼試験後の炭化したサンプルの靱性も向上しており、難燃効果は小さかったが、燃焼前と燃焼後の力学物性改良技術として使える成果だった。
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現在でもゴム会社で続いている異色の半導体事業の心臓部の技術である高純度SiCの合成技術は、形式知よりも実践知や暗黙知の占める割合の高い技術だ。会社を創業してから外国からの問い合わせがあったり、最近は国内のメーカーからこの技術に関係した特許出願があったりと少しブームの兆しがあるように思われる。
高純度SiCの注目されている本命のマーケットはパワートランジスタの領域で、ハイブリッド車や電気自動車に必要なインバーターの重要部品である。すでに市場が立ち上がり始め、川上では6インチウェハーの生産が開始され、川下では高級オーディオアンプにも普及し始めた。
オーディオアンプへの普及は、高純度SiCの開発に成功した時に一番最初に思いついた分野である。1980年初めにすでに高級オーディオ市場ができつつあり、パワートランジスタのニーズが見えていたので期待した。
また、ゴム会社の基盤技術として音や振動分野を制御する技術開発が活発に行われていた時代であり、音の見える化技術やその評価技術を用いた新幹線の騒音対策壁デルタの発明などオーディオ市場につながりそうな気運が社内にあった。また、その技術の担当者の一人は定年退職後オーディオ専門店を始めている。
パワートランジスタへの夢を育てる環境はあったが、実際にその夢を会社へ提案するきっかけは、既にこの活動報告に書いたように、社名からタイヤを取り除くCIの導入時に行われた創業50周年記念論文の募集である。
この記念論文に応募する時、フェノール樹脂天井材の開発を担当していて、フェノール樹脂へ水ガラスから抽出したケイ酸ポリマーを相溶させたり、その技術の発展形としてポリエチルシリケートの相溶を検討したりしていた。この時は、科学的方法こそ技術開発の王道という時代で、形式知100%のアプローチだった。
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高分子に微粒子を分散するために、その表面を修飾する方法はよく用いられる。カップリング剤や低分子配位子が使用される場合が多い。しかし困るのはその副作用である。
化学修飾された微粒子と高分子の組み合わせによっては、混練プロセスで微粒子から化学修飾した分子がはずれる問題がある。高分子と微粒子だけを混練してストランドを押し出したときには何も起きなかったが、化学修飾された微粒子を用いたときにダイスウェル効果を起こす場合は、微粒子表面の分子が発泡現象を引き起こしている。
低分子カルボン酸や低分子アミンで酸化物微粒子を化学修飾した場合などとナイロン系の樹脂と混練するとダイスウェル効果を起こすことが多い。ポリエステル系の樹脂でも起きる場合がある。教科書には、このような副作用について述べられていない。実体験して分かる実践知である。
それでは、このような場合の微粒子の表面処理はどのように行ったら良いのか。カップリング剤は一つの答えであるが、カップリング剤でも現象が起きた経験を持っている。おそらく一番無難なのは高分子の吸着機能を利用した微粒子の表面処理だ。
この技術については、特許出願を20年近く前に行っているが、あまりPRしていない。重要な実践知であり、暗黙知でもあるから、という理由ではない。写真学会からゼラチン賞を頂いているが、高分子学会技術賞は受賞できなかった。もし受賞できていたら公開していたかもしれないが、落選したので公開する機会が無くなった。
しかし、中国で混練技術の指導をしているときにこの方法をいろいろ試してみると、副作用の無い大変良い技術手段であることが分かってきた。過去に超微粒子シリカを分散したゼラチンの改質技術だけしか実績が無かったが、超微粒子の分散など高分子の吸着現象をつかった表面処理方法は現在のところ失敗は無い。日本の某企業で技術を公開したが、残念ながら採用していただけなかった。しかし、中国では砂漠に水をまくが如く何でも素直に吸収してくれる。
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高分子の混練の難しさは、混練されている高分子の状態をそのまま観察することが難しいためと思っている。オープンロールの混練でさえ、すべての状態を観察することが不可能である。ましてやバンバリーや二軸混練機ではオープンロールに比較し見えない部分が圧倒的に多い。
10年近く前、上海の某大学で混練の専門家と称する大学教授の怪しい研究室を見学した。自己紹介ついでに行われたプレゼンテーションはどこかで見たような資料だったが、説明が中国語になっていたのでコピペではなかった。
最も怪しかったのは、二軸混練機の動作を可視化し研究を進めている、という話だった。実験装置を見せていただいたら、混練機のシリンダーの一部がガラスになっており、実際に高分子が混練されて流動している状態が見えるようになっている。
そして目の前で、紅白のペレットをその二軸混練機で混練して見せ、一様のピンクになったストランドを示しながら、高分子の流動がよくわかるでしょう、と言っていた。確かに紅白のまだらになった状態からピンクに変色する過程を見ることができたが、それで何がわかるのか。
質問をしたら、混練されてゆく状態を見ることができる、という回答以上のご返事を頂くことができなかった。可視化できるようになっている装置ではあったが、温度計以外のセンサーがついておらず、目で見て楽しむ以外目的の不明な装置だった。
さらに怪しかったのは、ポリエチレンにナノカーボンを分散する技術について、この装置で研究していると言っていたことだ。そしてカーボンナノチューブの分散した真っ黒で薄く引き延ばされたポリエチレンシートを見せてくれて、太陽光にかざして見ると光が見える、と誇らしげに語っていた。当たり前の現象にドヤ顔されても返す言葉が無い。
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今年もまもなく紅白歌合戦を視聴することになる年の瀬である。何とか会社は5周年を迎えようとしている。今年はなぜか高分子の混練に関する質問が多かった。ゆえに来年1月末に混練の講演を&Techの主催で行うことにした。
高分子の混練は、形式知だけではどうにもならない分野である。しかし、「形式知でどうにもならない」ということを理解している人が少ないので指導するときに大変苦労する。2005年には、コンパウンドを購入していた某メーカーの技術サービスから「素人はだまっとれ」と言われた。仕方が無いので、黙ってコンパウンド工場を短期間で立ち上げ、コンパウンドを内製することにした。
この時の生産ラインでは世界で初めてカオス混合の連続装置が無事稼働した。手作りに近い装置だったが、未だにトラブルが無いので、この装置とコンセプトは異なるが動作がよく似ている、4年間開発を続けてきた新しいタイプを弊社から販売することにした。
高分子の混練の実践知は、ゴム会社で新入社員の研修と3ケ月間ではあるが電卓でマクスウェルモデルの計算を行っていた大変優秀な指導社員から教えていただいた。理論派であったが、混練の形式知は当てにならない、と明確に否定し、実践知を科学的に観察を中心にご指導してくださった。
残業代も無く、深夜まで業務を行うという、今ならばブラック企業と呼ばれるような指導環境ではあったが、ゴム配合の考え方やロール混練の暗黙知に至るまで丁寧にご指導いただいた。濃厚な教育環境は、今から振り返るとバラ色に輝いており、ロールで混練されていたゴムだけがブラックだった。
高分子の混練だけは、現場の指導がどうしても必要と感じている。言葉で技術がどこまで伝わるのか、当方はあまり自信は無い。講演会でもそのようにお話しする予定である。40年近く前の指導社員も同様の発言をしていたが、実践知や暗黙知の伝承の難しさだろう。
ちなみに指導社員は、一連のゴム開発プロセスを説明後、ご自分が加硫したゴムサンプルをくださり、このサンプルと同じ物性のゴムができるようになったら、次のステップに進みます、と言われた。そのゴールを達成するのに1週間ほどかかったが、よく短期間で達成できたね、と褒めてくださった。この時は1週間会社に泊まりながら混練の練習をしていた。
複雑な配合処方になるとプロセシングの影響がその物性に大きく現れるようになる。単純な配合であったPPSとナイロン、カーボンの三成分系でさえ、混練条件でその電気電子物性は大きく変動し、カオス混合を用いなければ到達しない世界が存在した。カオス混合技術は、新入社員時代のロール混錬の技術から生まれた成果であるが、関心のある方はお問い合わせください。
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高分子の混合分散の形式知として、フローリー・ハギンズの理論(以下FH理論)が教科書に書かれている。すなわち高分子の混合分散を科学的に論じる時にはこのFH理論を用いることになるが、FH理論の考え方は科学として正しいかもしれないが、当方の実践知や暗黙知から眺めると、怪しい理論である。
フローリーはノーベル賞も受賞されているので、当方のような技術者が彼の理論を論じるにはおこがましさを感じるが、FH理論は、高分子技術の実務のシーンでよくみかける現象やそこに潜む機能を実用化したい時には重要な理論となるので、コンサルティングの時には必ず一言、仮に不遜と思われても、この理論の批判を行うことにしている。
理由は、パワー半導体用原料として知られるようになった高純度SiCのポリマーアロイを用いた低コスト合成法やPPS・ナイロン相溶中間転写ベルト、ポリマーアロイ下引き、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶したレンズなどの発明を可能にした実践知から見ると、大変不完全な理論だからだ。
換言すればFH理論を批判的に見てきたので、これらの機能を実現できた、といったほうが適切かもしれないし、科学にとらわれない技術開発の重要性を説明する時の良い事例になるだろう。
今年京都大学からもこのFH理論に疑問を投げかける研究が発表された。それは、植村卓史工学研究科准教授や北川進物質―細胞統合システム拠点教授らのグループが開発した技術である。これは、新たな機能性材料の開発につながる成果で、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで7月1日に発表されている。
FH理論で知られているように、ポリマーは同じ種類同士で集まる性質があり、異なる種類の混合は、ナノ(10億分の1)メートルのレベルでは難しいとされてきた。
グループは、微小な穴が無数に開いたジャングルジムのような構造を持つ多孔性金属錯体(PCP)の内部で異なる種類のポリマーをそれぞれ合成した。その後、薬剤を使ってPCPを除去することにより、それらを混合することに成功した。
発泡スチロールの原料であるポリスチレンと、アクリル樹脂の原料であるポリメタクリル酸メチルもこの手法を使い、ナノメートルレベルで混合し、耐熱性を上げることができた。他のポリマーの組み合わせにも適用し、片方の材料の耐熱性などを向上させることが期待できるという。
アカデミアからもFH理論に反する事例が公開されたように、高分子の混合分散についてFH理論にとらわれ過ぎると新しいアイデアを生み出したいときに障害となる。この分野では、特に科学にとらわれない自由な発想が大切となる。
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高分子には、室温で固体のものから液体のものまで存在する。室温で固体であっても、加熱すると溶融体に変化する高分子は、樹脂あるいは熱可塑性ゴムと呼ばれている。加熱しても溶融体にならず熱分解し、さらに高温度で熱処理すると炭化した残渣を大量に生ずる高分子も存在する。
高温度で溶融体を生ずる高分子や室温で液体の高分子についてその状態は、科学的に解明されているように思っている人が多いが、解明されているのは特殊な場合だけであり、大半は未解明と言っても良い状態である。その昔フローリーにより体系化された高分子科学は、高分子を溶媒に溶解した状態、それも2%未満の希薄溶液の状態で研究された成果である。
教科書に書かれた高分子の性質の大半はこの科学に基づいているため、実務で遭遇する高分子の姿はしばしば教科書とは異なる。ところが教科書と異なる非科学的現象に遭遇した時に無理やり教科書の記述で理解しようとする人が多いのにはびっくりした。
科学の時代なので、教科書に記述された事柄で理解を進めても不都合はないが、教科書の記述とは異なっている、あるいは教科書に書かれたパラダイムと異なっているという認識は持ってほしい。すなわち、科学的に論じても間違いが無い部分と科学的に不明な部分とを認識しながら現象を眺める習慣は、高分子材料を扱う時に重要である。
この習慣を忘れると、例えば、樹脂を融点(Tm)以上で加熱した時に流動性を示すようになるが、この融体が高分子一本一本ばらばらの状態で流動している、という誤解を生じる。この誤解を持ったまま現象を眺めていると、現場で絶対に解決できない問題を生み出すことになる(注)
。
大半の樹脂は、Tm以上で加熱し混合しても高分子一本一本ばらばらで均一な状態にならない。これは粘弾性測定の実験を注意深く行うとそのように納得できるデータが得られる。すなわち、融体に含まれる高分子の一部が未溶融で存在する、と仮定しなければ説明のつかない現象を見出すことができる。そしてこれが科学だけでは理解できない現象を引きおこす。
(注)そもそも実務で遭遇する現象の大半が非平衡状態であることを忘れているのが問題
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射出成型では金型に樹脂が押し付けられるのでボツは発生しない、と思っていたら、昨年面白い体験をした。中国のローカル企業を指導して、高い難燃性を有するPC/ABSの独自処方を開発した時だ。
横軸にPCの含有率をとり、縦軸に衝撃強度や引張強度の値をとった軸でグラフを書いたところ、公知の変化を示すグラフが得られた。引張強度が10%程度グラフ全体で低めになっている点以外は、異常のないデータに見えた。
ただ、全サンプルが10%前後低め、というのが少し気になったので、引張試験片の破断面観察を行ったところ、PCの未溶融物質で形成されたドメインがすべてにおいて観察された。大きなものでは0.5mmほどの大きさのドメインを見つけた。
たまたま上海近郊で知人が樹脂の混練事業をやっていたので、そこの二軸混練機を借りて混練してみたら、某ローカル企業と同一処方の配合で引張強度が20%ほど向上した。破断面観察を行っても異常は見つからなかったので、こちらがまともなデータなのだろうと考えた。
さて問題は某ローカル企業の二軸混練機である。L/Dは42程度で外観に異常はない。フィルターもオートチェンジャーがついている立派な装置である。表示温度が高めに出ているのか、と疑ったりしたが、熱電対に異常はなかった。
一通りの点検をして、スクリューとシリンダーの隙間が怪しいのではないか、と疑った。樹脂を流さないでスクリューを回転したところ、異音はしないが優しい音色である。おそらくこの二軸混練機ではポリマーアロイの混錬は不可能だ、と総経理に伝えたら、何とかならないかと言ってきた。
新しい二軸混練機を買うことを勧めたら、修理してくれと言う。さすがにそれは当方には無理だ、と答えたら、翌日その混練機メーカーの技術者を連れてきて、一緒にやってくれと言う。どうも通訳からうまく総経理へ話が伝わっていなかったようだ。
仕方がないので、スクリューセグメントをメーカー推奨の状態から変更し、さらにカオス混合装置を取り付けるように提案した。
2ケ月後にできあがったカオス混合装置をセットし、混練したところ、驚くべきことに引張強度が20%程度上がったのだ。そして破面観察を行っても未溶融物は見つからなかった。昨年高分子学会から招待されて講演したが、カオス混合装置がものすごい発明であることをもう少し宣伝すべきだった。
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高分子成形体で発生するボツ対策はノウハウであり、この欄で書きにくい内容である。公知事項の範囲で書こうとすると読み手からは靴の裏から足のかゆいところを書くような状態になる。また、思いつくまま書いているので、読み手には余計に分かりにくい内容になっていると思う。もし疑問に感じたらいつでも問い合わせていただきたい。
フィルム成形をしていてボツを見つけると、まずボツの分析を行う、というのが一般的なアクション。その時の分析手段は、電子顕微鏡や光学顕微鏡が一般的だろう。まず、目で観察する、というのは、小学校で習う科学の姿勢である。
ボツを目視で観察し、原因が分かることもある。すなわち、異物が原因でボツが発生しているときには、何らかの手段でその部分を観察すると容易に原因を特定できるので、対策に結び付けることが可能である。
まず大きな異物であれば、フィルターワークで対策できる。その異物がコンパウンド外から入ったものであれば、クリーンルームの作業に切り替えたり、作業着対策や作業者の訓練で解決できる。コンパウンドに添加されたフィラーが原因であれば、分散を改良したり、フィラーを変更したりして対策を進める。
とにかく、見える化で原因を特定できる時には、その原因を除去すればボツを減らすことが可能となる。しかし、それでもボツを0にはできないのが一般的で、フィルム製造の実技では毎度問題になる定番の品質欠点である。すなわち、見える化を行っても正体不明のボツがあり、その対策がわからないのでボツを0にできないのだ。
この正体不明のボツは、高分子の未溶融体であり、科学では理解できない現象である。もしできるという人がいれば教えて頂きたい。少し技術的センスのある人ならば、正体不明のボツを集めて、熱分析を行うだろう。DSCや粘弾性測定を行うと正体不明のボツの姿が見えてくる。GPC測定も情報を与えてくれる。
正体不明のボツの姿がおぼろげながら見えてくると、その対策を考えることになるが、これが大変なのである。ここでも少し書きにくい。コンパウンドの混錬の話になるのだが、ここにたどり着いた人は弊社にご相談ください。良い方法がある。(明日もボツ)
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