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2015.12/11 射出成形体のボツ

射出成型では金型に樹脂が押し付けられるのでボツは発生しない、と思っていたら、昨年面白い体験をした。中国のローカル企業を指導して、高い難燃性を有するPC/ABSの独自処方を開発した時だ。
 
横軸にPCの含有率をとり、縦軸に衝撃強度や引張強度の値をとった軸でグラフを書いたところ、公知の変化を示すグラフが得られた。引張強度が10%程度グラフ全体で低めになっている点以外は、異常のないデータに見えた。
 
ただ、全サンプルが10%前後低め、というのが少し気になったので、引張試験片の破断面観察を行ったところ、PCの未溶融物質で形成されたドメインがすべてにおいて観察された。大きなものでは0.5mmほどの大きさのドメインを見つけた。
 
たまたま上海近郊で知人が樹脂の混練事業をやっていたので、そこの二軸混練機を借りて混練してみたら、某ローカル企業と同一処方の配合で引張強度が20%ほど向上した。破断面観察を行っても異常は見つからなかったので、こちらがまともなデータなのだろうと考えた。
 
さて問題は某ローカル企業の二軸混練機である。L/Dは42程度で外観に異常はない。フィルターもオートチェンジャーがついている立派な装置である。表示温度が高めに出ているのか、と疑ったりしたが、熱電対に異常はなかった。
 
一通りの点検をして、スクリューとシリンダーの隙間が怪しいのではないか、と疑った。樹脂を流さないでスクリューを回転したところ、異音はしないが優しい音色である。おそらくこの二軸混練機ではポリマーアロイの混錬は不可能だ、と総経理に伝えたら、何とかならないかと言ってきた。
 
新しい二軸混練機を買うことを勧めたら、修理してくれと言う。さすがにそれは当方には無理だ、と答えたら、翌日その混練機メーカーの技術者を連れてきて、一緒にやってくれと言う。どうも通訳からうまく総経理へ話が伝わっていなかったようだ。
 
仕方がないので、スクリューセグメントをメーカー推奨の状態から変更し、さらにカオス混合装置を取り付けるように提案した。
 
2ケ月後にできあがったカオス混合装置をセットし、混練したところ、驚くべきことに引張強度が20%程度上がったのだ。そして破面観察を行っても未溶融物は見つからなかった。昨年高分子学会から招待されて講演したが、カオス混合装置がものすごい発明であることをもう少し宣伝すべきだった。

カテゴリー : 一般 高分子

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