高分子の難燃化技術から半導体にも用いることが可能な高純度SiCを合成できる技術シーズが生まれた話は、、ゴム会社の50周年記念論文への投稿がきっかけである。
この50周年記念論文の募集は、高分子の難燃化技術のテーマを遂行していた時の行事である。担当業務との関係から記念論文に書く内容は、ゴム会社の売り上げの3割弱しかなかった化工品事業と決めていた。
また社長方針にはファインセラミックス事業を起業する、という内容が含まれていたので、半導体用高純度SiCの事業は社長方針にも沿っており、50周年記念論文のテーマとして適切である、と思った。
しかし、審査員は社外の大学の先生だったので、同期の友人が指摘したとおり社長方針とは無関係の視点で記念論文は選ばれ、高純度SiCの論文はボツになった。記念論文がボツになっただけでなく、無機材質研究所留学中に行われた昇進試験でも、新規事業について述べよ、という作文テーマでも0点がつけられた。
この作文テーマでは、翌年同じ内容で100点となるのだが、このあたりの事情についてゴム会社の昇進試験の内容に関わるので詳しくかけないが、とにかく高純度SiCの研究テーマは、一度会社からダメだしを頂いていた状況である。
しかし、高分子難燃化技術の企画で始末書を経験していた当方にとって、大した事では無かった。また、技術内容については無機材質研究所のお墨付きもあった。STAP細胞のようなできるかどうか分からないような研究ではなく、誰がやっても再現可能な世界初の有機高分子と無機高分子の均一混合という画期的な技術という自信があった。
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高分子プリカーサー法による半導体用高純度SiCの合成技術では、科学的に説明できない電気炉の暴走という現象が起きたため、たった一回の実験でベストのプロセスが見つかった。真摯に努力してきた結果神様が幸運を届けてくれた、と素直に信じている。
ドラッカーの言葉であるが、知識労働者が誠実で真摯に努力することの重要性を示す体験に、高分子分野でも遭遇した。それは定年退職前の5年間単身赴任して担当した中間転写ベルトの開発の時である。
PPSと6ナイロン、カーボンの3成分を混練したコンパウンドを外部のコンパウンドメーカーから購入し、押出成形で半導体ベルトを製造する技術を開発していたテーマを途中から引き継いだ。10の9乗Ωcmという高抵抗を導電性の高いカーボンで実現するという難易度の高い技術である。
パーコレーション転移という現象をどのように制御するのか、という大きな問題である。6ナイロンが邪魔であったが、処方はすでに決まっていたので、変更することができない。全体の方針も処方も決まっており、専門家の誰がみてもほとんどうまくいかないと思われるテーマを途中で引き継ぐ意味をサラリーマンならご理解頂けると思うが、その様な状況でも真摯に努力した。
その結果PPSと6ナイロンの相容を実現できるプロセシングを開発することができた。このプロセスで起きている現象は、フローリー・ハギンズ理論では説明できない。しかし、真摯に開発の努力をした結果、技術で実現できた。
30年近い研究開発経験から、技術で実現できるかもしれない、という予感はしていた。最初は外部のコンパウンドメーカーにお願いしてその技術を開発して頂くつもりでいたが、技術サービスの方に素人は黙っとれ、と言われた。仕方がないので、休日一人で実験し、可能性を探った。
成功する感触を得たので中古の二軸混練機を購入し、プラントを立ち上げた。この時定年間際の職人と、転職してきたばかりの若い研究者の協力が得られ、短期間にプロセスを立ち上げることができた。科学では否定される現象を扱った技術であったが、実現できる自信があれば、真摯な努力を続けると成功できる。技術とはそういうものだ。
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多くの犠牲者を出した御嶽山の噴火は予知できなかったという。今どき信じられない話だが、地球物理学の進歩がその程度なのだろう。一方今回の噴火については、なぜ休日に起きなければいけなかったのか、という疑問が残る。確率として2/7という低率である。
かつて無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学中に不思議な出来事があった。ゴム会社から留学して半年後に昇進試験があった。昇進試験は論文形式であり、新規事業について答える問題だった。
社長方針として、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスを新事業の三本の柱として育てる戦略が出されていたので、半導体用高純度SiCの事業について、独自の新規製造方法を開発し、市場参入したいという解答を書いた。答案は0点だったそうだ(しかし、当時始めた事業は今でも続いている)。
当時留学先の上司にあたる総合研究官I先生がその結果を心配されて、1週間だけ無機材質研究所で自由に研究して良い、と許可をくださった。会社から推薦されて留学してきたエリートが昇進試験に落ちたのである。大変心配してくださったことに感謝し落ち込んでいた気分も少し晴れ、留学を終えたら研究しようと思っていた高分子プリカーサー法による高純度SiCの新合成法を1週間で完成させることにした。
この新合成法は、高分子プリカーサーの出来不出来により、生成するSiCの純度が変化する、と予想されていた。しかし、その後の研究でSiC化の条件の寄与も30%程度あることが分かったが、当時はそのような情報は、特許にも論文にも書かれておらず公知では無かった。
1週間という短い研究期間ではSiC化の条件まで検討する時間は無く、論文に書かれた典型的な条件で電気炉の温調器のプログラムを組んで運転した。実験中は、電気炉の前で八百万の神にお祈りをしていたら、突然電気炉が暴走した。あわてて安全スイッチを切ったところ温度が下がり始めたので、あわててメインスイッチを入れたがまた少し設定温度よりも上がったため切断し、実験を終えた。
独特な温度パターンでプリカーサーがSiC化されたわけだが、翌日電気炉の中を見て驚いた。真黄色のSiCが得られていたのである。慌ててI先生をお呼びしたところI先生も一発で高純度SiCができたことを驚かれ、プリカーサー法の威力に感心された。
プリカーサーには、化学量論比でシリカと炭素が含まれていたが、その後SiC化の反応条件を検討したところ、この時の条件がベストであった。この時得られた高純度SiCの粉末を社長にお見せし、2億4千万円の先行投資を頂いたのだが、何故電気炉が暴走したのか、科学的に説明できていない。
20世紀に科学は著しく進歩した。しかし、未だに科学では説明できない現象が存在する。その中で人類は生活している、という謙虚さを忘れてはいけないのだろう。かつて民主党時代にいつ起きるのか分からないことにお金を使うより、という発言(注)があったらしい。
しかし、その様な状態だからお金をかけて研究しなければいけない、という発想にはならないのだろうか。原子力発電の再開の方向でもあるので地球物理学の研究に力をいれても良いように思う。この問題は、www.miragiken.com でも取り上げてみたい。
(注)火山の観測に使われた予算が減らされたことについて、民主党時代の仕分けが話題になっている。発言の趣旨は異なる、という言い訳もされているようだが、有名な「二番ではダメですか」という科学技術行政に対する無知な発言もあったので、疑われても仕方がないだろう。政治家は官僚よりも勉強できる立場にあるのだから、科学についてもよく勉強して欲しい。
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フェノール樹脂天井材は実用化されたが、その検討過程でエチルシリケートとフェノール樹脂をうまく混合できなかったことが気がかりだった。周囲の有識者は、フローリーハギンズ理論から当たり前だという。
確かにエチルシリケートとフェノール樹脂とではSP値が大きく異なり、χは極めて大きくなる。ただ、軟質ポリウレタンフォームや、硬質ポリウレタンフォームのようなリアクティブブレンドを経験した感覚から、リアクティブブレンドならばフローリーハギンズ理論に無関係で高分子を均一分散できる、と思っていた。
教科書どおりにχを信じる限りにおいては、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂との混合は、検討してもムダである。しかし、リアクティブブレンドであればχとは無関係に二種の高分子を均一混合できるはずである。
すでに活動報告でこの後の行動を書いたが、プロジェクトが解散した後のフェノール樹脂の処分を一人で担当して、この問題を考えた。高分子の難燃化技術から高純度SiCの技術シーズがその後誕生している。
フェノール樹脂天井材の開発を終えて無機材質研究所へ留学することになるのだが、高分子の研究から全く畑違いのセラミックスの研究にもかかわらず、技術の視点で材料を開発してきた影響で違和感は無かった。
科学分野で専門的に研究されている方の多くは、専門分野が変わることに躊躇される方が多い。例えば有機化学からセラミックス分野への専門の変更は、ほとんど受け入れられないだろう。
しかし、技術者は材料技術や電気電子技術といった専門分けはあるけれど、どのような技術でも担当できるケースが多い。また、材料技術者が電気電子部品の会社に勤めたならば、昨今の御時世では、それができなければリストラの対象となるだろう。
科学分野は真理を追究するためにロジックが中心となり、厳密なロジックを構築するには専門性に秀でた人が有利である。対して技術開発は、ヒューマンプロセスの占める領域が多く、専門性よりも幅広い問題解決力の秀でていることが求められる。このあたりについては、www.miragiken.com の最初の部分で少し議論しています。
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ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合は難しかった。見かけ上うまくいったように見えても、析出したシリカ微粒子が大きくなり、シリカゾルを分散した方が良い結果となった。
この原因は、当時公開されたデータからポリエチルシリケートの加水分解速度が酸触媒で加速されるためとわかっていた。水ガラスから抽出されたケイ酸を混合する条件との違いは、エチルシリケートが加水分解したときにエタノールを生成する点である。
水ガラス抽出物はジオキサン-THF混合溶媒に分散して用いているが、両者はフェノール樹脂にとっても良溶媒だった。ケイ酸の抽出は大変だったが、目標仮説を証明するための実験としては大した検討も不要で便利だった。
水ガラス抽出物とフェノール樹脂の混合物でも高純度SiCの前駆体になるが、ポリエチルシリケートを用いたときよりもコストが不利になる。さらにすでに水ガラスとフェノール樹脂の組み合わせ特許が出願されていた。
種々の条件を検討した結果、シリカゾルの分散を検討することになったが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合がうまくゆかないことが気がかりだった。
さらに特許を調べてみても、カーボンブラックとエチルシリケートとの組み合わせ、あるいはフェノール樹脂とエチルシリケートとの組み合わせ特許が存在したが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせ特許は存在しなかったので、成功すれば世界初の事例として特許出願できる可能性があった。
たかが二種類の物質を混合するだけの技術であったが、そこには科学的な制約が存在した。フローリー・ハギンズ理論である。
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フェノール樹脂にシリカゾルとリン酸エステルとを組み合わせて高防火性フェノール樹脂を実用化したのだが、シリカゾルをフェノール樹脂に分散する技術は、意外と簡単であった。
一般に高分子へナノオーダーの超微粒子を分散しようとすると、分散前に凝集している超微粒子をばらばらにするために剪断力をかけねばならない。当時高速回転を発生できる混合器が開発されており、シリカゾルを分散可能な剪断流動を容易に発生できた。
レゾール型フェノール樹脂の粘度は、硬化前の分子量に依存し、低分子量タイプから高分子量タイプまで様々な樹脂が販売されていた。但し酸で硬化後のフェノール樹脂の防火性能は、分子量や触媒の酸の種類に影響を受ける。ゆえに高速でモーターに負荷をかけないために単純に低分子量タイプを選べば良いというわけではない。
また硬化速度の調整も重要で、フェノール樹脂が硬化するまで流動性が残っているのでシリカゾルの再凝集が生じる。この問題はパーコレーションを考えると解決でき、添加量を調整すれば解決できる。
たかがシリカゾルをフェノール樹脂へ分散するだけでも様々なノウハウが存在したが、ポリエチルシリケートをフェノール樹脂へ分散するよりは簡単であった。複雑な反応条件の問題を含んでいなかったからだ。
高分子の高速撹拌は、強力な剪断流動を発生し、ナノオーダーの分散を実現する。一般の二軸混練機の構造ではせいぜい800回転/分が限界だが、当時トルクは低いが約2000回転/分可能な攪拌機が存在した。単純なプロセシングだけで解決できる技術は易しい。
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硼酸エステルとリン酸エステルとを組み合わせることで、オルソリン酸のユニットをホウ素で固定化できた。この考え方を発展させると、ホウ素でなくてもAlでもSiでも良い、というアイデアが浮かんでくる。
軟質ポリウレタンフォームの次に高防火性フェノール樹脂天井材のテーマを担当した。この天井材の開発でさっそく試してみたら、目標仮説をすべて実現できた。さらにケイ酸エステルであるエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせは、高純度SiCの前駆体である。
すなわち高純度SiCの前駆体のアイデアはこの時生まれているが、一度諦めたアイデアなのである。高防火性フェノール樹脂の天井材開発で、エチルシリケートとリン酸エステルの組み合わせを検討した時に、エチルシリケートがうまくフェノール樹脂に分散しなかったのである。
それだけでなくレゾール型フェノール樹脂を用いたときには酸触媒を使用するのでエチルシリケートが加水分解してうまくゆかない。プロジェクトメンバーから諦めるように言われた。しかし、シリカを分子状態でフェノール樹脂に分散したかったので、水ガラスからケイ酸を抽出してそれを分散することにした。
これはうまくいったが、始末書が頭に浮かんだ。水ガラスからケイ酸を抽出するときに、THFやジオキサンを使用し、コストが高くなるからである。とりあえずモデル実験と称して実験を進めていたら、シリカゾル粒子程度の大きさでもうまくリン酸ユニットを補足できることがわかった。
すなわちシリカゾル粒子でも凝集しないようにフェノール樹脂に分散すれば、ナノオーダーなので燃焼時にはリン酸ユニットをうまく補足してくれる。さらに都合の良いことに線形破壊力学の教えるところであるが、ナノオーダーの超微粒子がマトリックスに分散するとそのマトリックスの靱性を大きく改善できる。
シリカゾルを凝集すること無くフェノール樹脂に分散する技術は、燃焼前のマトリックスの靱性を上げただけで無く、形成されたチャーの靱性も向上し、さらに簡易耐火試験においてひび割れも起こさないという効果も示した。こうしてシリカゾルとリン酸エステルを分散したフェノール樹脂天井材は実用化された。
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ホウ酸エステルを用いたリン酸ユニットの固定化というアイデアは大成功であった。当時手元にあった各種リン酸エステル系難燃剤と組み合わせ、50種類ほどの処方を組んで実験を行い、多変量解析を行ったところ、ホウ素原子の効果が著しく高いという結果が出た。
ホウ酸エステルだけをウレタンフォームに添加して実験してもLOIを高められる上限は19で、無添加の場合の18.5に対して0.5ポイント程度しか高めることができない。しかし、リン酸エステルと組み合わせた時には、25程度まで高められる効果がでた。
実験計画法で確認したところ、ホウ酸エステルとリン酸エステルには交互効果が存在した。すなわち燃焼時にホウ酸エステルとリン酸エステルの間に何らかの相互作用が存在してホウ素原子の難燃効果を高めているという結果が統計的に得られた。
燃焼後の残渣の化学分析からボロンフォスフェートが生成していることが分かった。どの程度の温度でこの化合物が生成しているのか確認するためにTGAで調べたところ、300℃前後には、ボロンフォスフェートが生成している。
TGAの微分曲線からこの生成したボロンフォスフェートの酸素遮断効果と炭化促進効果で、ポリウレタンの熱分解速度のピークが100℃もずれることまでデータで得られている。すなわち燃焼時の熱でオルソリン酸が揮発するのをとめてやるだけで、ホスファゼン並みの難燃効果が得られたのである。
始末書を書いたことで生まれたこの技術は、高分子の難燃化をリン系の化合物で行う時の重要なヒントを示しており、今このヒントのおかげで新たな難燃化技術が生まれようとしている。人生は本当に長い。不幸な出来事のその時は、目の前が一瞬真っ暗になるが、誠実に真摯に努力を続ければ不幸な出来事も幸運な思い出に変わる。すべてがそうであるとも思わないが、万事塞翁が馬という名言は本当だ。
昨今利益が上がっている時のリストラが盛んだが、リストラされる方はそれをチャンスととらえ、積極的に攻めの姿勢で受け止めることはできないか。リストラするほうも湿っぽいリストラではなく、明るく送り出すリストラがあっても良い。未来技術について www.miragiken.com では、明るいリケジョで物語を進行しているが、リストラチームによる物語も考えたりした。しかし誤解を受けるといけないのでリケジョの明るい話で未来技術を描いています。
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当時夜中の11時まで実験をやっていても残業代を申請していない。高純度SiCの事業立ち上げまでの6年間死の谷を歩いたが、この時にも残業代の請求は0である。いまなら労働基準法で大きな問題になっただろうが、当時はおかまいなしである。
ただ、研究開発を担当していて残業代が欲しいと感じたことは無かった。それよりもゴム会社には大学よりも優れた研究開発設備が充実している点に感謝していた。それらが無料で自由に使えるのである。手続きをふめば学会発表も可能であった。
この2年半後のことだが、難燃化技術の研究開発から生まれた高純度SiCのテーマでは2億4千万円の先行投資を受け、専用の電子顕微鏡まで買うことができた。さらに超高温TGAを開発してSiCの反応速度の研究ができて、この研究をもとに学位を取得できた。
労働基準法違反以外に今ならばパワハラや逆セクハラと騒がれるような状況もあったが、会社への貢献と自己実現の目標が明確だったので、それを辛いと感じなかった。この頃の職場環境は様々な問題を抱えていたので、その後のサラリーマン人生で問題が起きたときにこの頃を思い出すことが多い。
多くの企業は市場で競争原理に基づく厳しい環境で戦っている。当然企業内はその影響を受け厳しい職場環境が出現する。その中で個人はどのように対処しなければいけないのか。
高分子の難燃化技術を担当していたときに、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの開発、硼酸エステル変性フォームの開発、そしてシリカ変性フェノール樹脂を開発して、これらで体得した技術を活用して前駆体法による高純度SiCの新合成法を完成させた。
職場環境は劣悪でも、会社への貢献と自己実現を忘れなければ、個人は組織の中で活用されたのである。その組織で貢献と自己実現が難しい、と感じたときに個人は静かに去ることを心がければ新聞沙汰になるような事件は起きないと思われる。
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ヤミ実験をやっていると上司の主任研究員から、新入社員には残業代は無い、と言われた。素直に、残業申請はしませんから実験だけやらせてください、と願い出たら、何も言われなかった。
翌日、夜7時頃楽しそうに仕事をしていたら、趣味で仕事をやるな、と注意された。いや、趣味では無く始末書のために実験をやっているのです、と答えたら、始末書を早く書くように、と言われた。
一週間ほど実験を行い、ジエタノールアミンとホウ酸とを無溶媒で2時間以上反応させると耐水性のあるホウ酸エステルが合成されること、このホウ酸エステルとTCPPと混合しTGAを測定すると、TCPPだけでは600℃で1%以下の残渣しか残らないが、混合物ではボロンホスフェートが生成し、リンの90%以上が残ることがわかった。残る課題はこれが軟質ポリウレタンフォームに配合されたときに、機能を発揮するかどうかである。
適当な配合で軟質ポリウレタンフォームを合成したところ、ジエタノールアミンが触媒として働くために発泡バランスをとることがかなり難しくなりそうだ、とわかった。しかし、うまくできなかったポリウレタンフォームのLOIを測定してびっくりした。1ポイントも向上していたのだ。さらにTGAを測定して、600℃における残渣にボロンホスフェートが生成していることを発見した。
守衛が部屋に入ってきて名前を聞かれた。気がついたら夜の11時を回っていた。翌日主任研究員に呼び出され、叱られた。そしてすぐに始末書を書くように言われた。目標仮説を実証できる機能の確認ができていたので、始末書にはホスファゼンの研究開発により実用可能な新しいシーズが見つかった、と書いた。
主任研究員からすぐにそのシーズを説明せよ、と問われた。始末書はこれで良いのか、と尋ねたら、しばらくすったもんだのあげく、新しいシーズの話を少しずつリークしていたら、始末書の末尾に謝罪文が付け加わえられ、始末書騒ぎは完了となった。
サービス残業や過労死などが社会問題になっている。労働基準法に照らして考えてみると新入社員の頃の行動と上司の対応には問題があった。しかし、楽しい思い出として残っている。
始末書など気にかけず実験をしている姿を見て、「少しは反省した姿を」とアドバイスしてくださる優しい先輩もいた。始末書に至る経緯を周囲は見ていないのだ。そもそも仕事は結果しか見られていない、という現実を学んだのもこの時である。
労働基準法を含む研究開発のマネジメントについて、この頃の経験で学んだ項目は多く、さらに高分子の難燃化技術について30年後の未来でも活用可能なレベルまで学ぶことができた。この体験から30年後の未来に向けてどのような技術開発テーマが存在するのか「www.miragiken.com 」で紹介しています。
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