昨日80万円のローンを手取り10万円も無い新入社員が会社業務を行うために上司から命じられた話は、今なら大問題だろう。当時のこのような今の時代では信じられない話がまだあるが、少し笑える話を書いてみたい。
研究費を節約するために、OHP用紙の代わりにPETフィルムの元巻から切り出して使え、という指示が研究所長から出された。当時OHP用紙の価格が1枚100円近くした時代である。
1枚当たり1/5程度の価格となり、研究所の使用量を考慮すると大きなコストダウンになるという。そして、複写機の横に切り出しやすいようにA3幅のPETの巻物が置かれた。
A4幅になっていなかったのは、保管場所含めコストを抑えるためだったようだ。このA3幅のPETの元巻が設置されてから、複写機の故障が多くなった。A4サイズに利用者が断裁して用いていたが、2枚に1枚程度詰まるのだ。
しかも連続供給ではなく一枚ずつの処理しかできない。ひどい時には5枚に1枚成功する場合もあった。PETの巻き癖が原因とわかり、OHPとして使用する前に切り出して実験室の片隅に放置し巻き癖をとるように指示が出た。
その後もなんやかやと問題が起きたが、この所長が異動されたとたん、どなたかがPETの巻物を処分され、市販のOHP用紙を使用して良いことになった。
ゴム会社の研究所ではこのようなことまでしてコストダウンを行っていた一方で、当方の使用していた電気炉が突然出張中に廃棄される、というもったいないことも行われていた。
一人で住友金属工業とのJVを立ち上げた直後の出来事だが、我慢している。JVにより、その電気炉の使用頻度が減る話を事前にしていたが、廃棄までされるとは思っていなかった。
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表題がニュースになっていたのだが、それほど深刻ではなかったのである。まず、常識的な結論を書くが、業務上必要なモノは、雇用主が支払うのが原則である。ゆえに教師が自腹を切って学校の備品を購入するのは、問題である。
しかし、業務上必要かどうかわからないものについて、試し買いをどうするのか、という問題が残る。これは緊急性が無ければ、教師間で募金を募り、購入したらよいのではないか。
50年近く前の実話を書く。パソコンが出始めたときに、「花王のOA、パソコン革命」という本がベストセラーとなった。タイトルが少し間違っているかもしれんが、このようなタイトルだった。
そこでゴム会社の研究所でOA員会というプロジェクトが立ち上がり、上司がOA委員長となり、当方は事務局に任命された。事務局長は当方を3か月指導してくださった方である。
会議で議論の末に、薬品管理をOA化しようとなった。理由は、半期に一度の棚卸や消防検査の時に1週間ほどかけて全所員が在庫確認する業務が発生し、この手間が省けるので効果が大きいからである。
ところが、システム開発のためのパソコン導入は、予算が無いからしないという。予算外で申請する方法もあるかと思い、見積もりを取ったところプリンターまで揃えると100万円を超えた。
ベストセラーの本には、16万円でできると書いてあったので、これが問題となり、とりあえずプログラムを開発してからパソコンを改めて検討しなさい、という極めてバカげた指示が出た。
プログラム開発用のパソコンが無かったら、システム開発などできないのである。そこで秋葉原に行き、改めて見積もりをとりなおし、ローンの書類まで作ってもらって上司と交渉したところ、80万円のローンの保証人の欄に上司が印を押し、「それほど必要なら君が購入しなさい」となった。
当時月給は手取りで10万円無かった時代である。事務局長は、半年後までプログラム開発などしなくてよい、と言ってくださったが、それではアウトプットも出ない、と答えたら、OA委員長の責任でしょう、となった。
しかし、次のOA委員会では委員長が独身寮にパソコン1セット入ったようなので、薬品管理システムの進捗報告を聞きたい、などと平然と述べている。
しかたなく、80万円のローンをしてパソコン1セット購入し、薬品管理システムを開発、無事研究所のOA化のアウトプットを出すことができた。ちなみに研究所には、ソードの2CPU構成のパソコン1セット150万円を購入している。
これは、自腹の深刻化を越えて、悲惨な思い出となった。DX黎明期の実話である。これがきっかけとなり、コンピューターサイエンスを独学で勉強することになった。
カローラDX1台分のマイコン1セットはその後10年実戦で活躍した。多変量解析のシステムを早くからこのマイコンシステムで稼働させていたからである。
16ビットPC9801が登場しても8ビットマイコンでしばらく仕事ができていた。業務にコンピュータを導入する、あるいは問題解決をコンピューターで行う習慣は、1年間遊ぶお金もなくなったローンのおかげで身についた。
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知識労働者の時代、と言ったのはドラッカーだが、知識が身についておれば、教養人か、といえば、そうではない。このことに気がついたのは、最近である。
身に着けた知識の多さと教養の高さは異なるものである、と思うようになった。換言すれば、難しい問題を幾つも解けるのは、知識の多さであるが、だからといって、それが教養の高さに結びつかない。
教養とは、人生を豊かに楽しめる知の働かせ方も身に着けていなければならない。当方は難問を解くのが人生の楽しみであるが、これは必ずしも教養の高さではないのだろうと最近自分の学習姿勢を反省するようになった。
具体的に言えば、ギターが若いころの趣味の一つであり、今もそれが続いている。しかし、それで身についているのは、ギターという楽器の構造であり、それに使われる材料の知識や音楽理論であり、ギターを弾く楽しみは二の次になっていた。
教養の高い人であれば、ギターを弾いて楽しむところまで極めようと思うのかもしれない、これが当方の反省である。また、教養とはそのようなものかもしれない。
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先日田中投手の200勝をかけた試合は散々だったようだ。当方は見ていなかったのでニュース記事からの想像でこの欄を書いている。
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昨日書こうと思ったが、結構関心が高いようで、いろいろな人がいろいろなことを書いている。例えば200勝投手を多く輩出しているのは巨人らしい。
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これは、今回の田中投手の入団履歴から、巨人と言うチームが能力のあった功労者に対して、記録達成に協力的に取り組んできた結果、と言う解説があった。
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これは大切なことである。当方の学位についてもT大で論文を勝手に出されたり、金銭を要求されたりして、審査を辞退したところ、中部大学が審査料だけで学位審査を行ってくれると言うので改めて学位論文を書き直している。
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おかげで自分のまとめたい内容でまとめることができ、当方の学位論文100冊はすぐに希望者へ実費で配布された。それだけでなく、機能材料に要約版を掲載する話など出てきて大変だった。
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だいたい、草案を出したらそこからちゃっかりと自分の名前で論文を出す先生もすごいが、奨学寄付金を要求してくる先生もすごい。公務員と言う自覚があるのかどうか疑いたくなる。
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さて、田中投手の試合だが、前日に10名ほどで焼肉パーティーをやっていた、という記事があった。そのパーティー費用は田中投手が全部支払ったそうだが、試合では、皆カチカチになってエラー続出と言う解説があった。
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このような記事はどこまで信じてよいか不明だが、まさか焼き肉パーティーが翌日の試合に影響したとは思えない。むしろ達成者の少ない200勝という記録を他の選手が過剰に意識した結果だろう。
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昔のように先発完投型の試合運営ではなく、投手は分業体制になったので、なかなか200勝という勝ち星そのものも取りにくくなった。昔は300勝を越える投手もいたが、今は投手の起用方法からよほどの能力が無ければ200勝は難しい時代である。田中投手は2群落ちしたが、今シーズン200勝の大台を是非達成してほしい。
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現代を「知識労働者の時代」と表現したのはドラッカーだが、AIの登場でその知識労働者の立場が揺らでいる。例えば、形式知について、AIに質問さえ適格にできれば、もう専門家は必要ないと言える。
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むしろ、chatGPT登場時に話題になったプロンプトエンジニアリングの専門家一人おればよい。ところがこのプロンプトエンジニアリングは、少しコツを覚えれば誰でも専門家になれる。
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弊社ではそのための教材を用意しており、セミナーの依頼があればいつでも対応可能である。当方は外部セミナーでこれからの技術者はPythonとプロンプトエンジニアリングを身に着ける必要性を指導している。
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専門家以外に形式知で稼いでいる職業は、すべて何らかの影響を受ける。弊社は経験知と暗黙知を中心に活動してきたのでAIの登場で、日本においてむしろ仕事が増えるのでは、と期待している。
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AIの弱点が経験知に依存した回答に現れることは、ハルシネーションの問題を考えるとすぐに理解できる。例えば、高分子のフラクトグラフィーでは、プロンプトの工夫が必要で、これを行わなければ、新バージョンでもうまく解析できない。
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高分子のフラクトグラフィーができることに驚いたのは2年前だが、金属やセラミックスの形式知から器用に回答を生成してくれる。
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この事実は、アカデミアの高分子物性研究者を慌てさせるかもしれない。なぜなら、この分野でフラクトグラフィーは、学問として完成していないのである。
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学問として完成していない知をセラミックスや金属で体系化された形式知から学んで回答をする、この「芸」は驚異的である。このような芸ができても、タグチメソッド解析プログラムのPythonコード出力になるとうまくできない。
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それらしいコードを吐き出してくれるが、ハルシネーションがよくわからないコードであり、逆に害がある。タグチメソッドについては、第一次AIブームの成果で生まれたエキスパートシステムのような考え方でAIを構築しないと難しい。
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評論家は、セレンディピティーで解けばよい、という答えで良いかもしれないが、技術者はモノを作り出さなければいけない。トランスサイエンスの問題を解決する方法が必要になってくる。
パーコレーションの問題については1950年代から数学者によりいろいろ議論されて現象が明らかになったが、それは数理モデルとしてであり、この数学者たちの結論を勉強しても今回の問題は解けない。
数式があるから、それでシミュレーションを行い、データ駆動で、と頑張ってみても、恐らく答えは得られないかもしれない。
このような問題では、現象のふるまいに着目しオブジェクト指向で解く以外に方法は無い。たとえそれが非科学的な方法であっても、答えを得る方法としてオブジェクト指向がだれでもその方法を理解し共有化できる唯一の方法かもしれない。
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1980年代にセラミックスフィーバーが起きた時、「セレンディピティーで問題を解きなさい」というのが流行った。これは答えを言っているわけではないのに、皆は答えを聞いたように思い、とりあえず実験を行い、データを出して当たりを引けるように頑張った。
その段階で、データ駆動で行っていることに気がついていない。そのうち、気の利いた人が、コンビナトリアルケミストリーという言葉を言い出した。
これは「組み合わせ論」に基づいて列挙し設計された一連のケミカルライブラリーを系統的な合成経路で効率的に多品種合成する為の実験手法とそれに関する研究分野」とWIKIに説明されている。
早い話が、総当たりで組み合わせた配合を検討し、当たりを見出す方法である。この段階で非科学の領域に足を踏み出したことに研究者は気がついていない。
コンビナトリアルケミストリーそのものを効率的に行う方法を研究する分野が、アカデミアで研究として成立しているのも笑える。
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科学の方法で考えて解けない問題は、非科学的な方法で解かなければいけない。仮説など設定している暇に少しでもいろいろな条件で実験を行い、データを出して考えておればいずれ正解にぶち当たる。
そこから生まれたのが、1980年代に流行したセレンディピティーという概念である。トランスサイエンスという概念で困ったからセレンディピティーという概念が生まれたのだ。
偉い先生たちは、非科学的という言葉を使いたくなかったのかどうか知らないが、セレンディピティだけを流行らせた。自分で分からない問題を、セレンディピティで解きなさい、としたり顔で説明される先生もいた。
不思議なのはこのような先生に頭を下げる経営者が多かったことだ。何も答えを出していないのに、偉い先生は印籠を出せば、答えたことになったのだ。裸の王様と同じである。
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昨日の問題の難しさは、科学的に解こうとすると解けないところにある。すなわち、科学で問うことができても、解けない問題である、ということだ。
このような問題をトランスサイエンスといい、1970年代のアメリカで生まれた概念である。その後セレンディピティーなる概念も生まれているが、何故かセレンディピティーだけ当時日本に伝わり、トランスサイエンスが日本で注目されるようになったのは21世紀になってからである。
1980年代の日本はバブル景気であり、どちらかと言えば後ろ向きの印象があるトランスサイエンスという概念を嫌ったのかもしれない。
このトランスサイエンスの問題を日本の高分子材料トップメーカーが6年間研究開発しても解けなかった。すなわち、科学的に攻めていても解けない問題は、どんなに頭の良い人でも科学的に解けないのである。
頭のよい人たちの問題点として、自分たちが考えてできなかったから誰もできないだろうと考えるところである。問題というものは、解き方を変えれば簡単に解ける、というよりも、解かなければ技術ができないのであれば、非科学的な方法で解決しなければいけない。
科学が唯一の問題解決法ではないのだ。ちなみに産業革命は科学誕生以前に始まって現在に至る。科学が成立していなくても産業革命は始まったのである。
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コロナ禍前に終了したある国研のホームページに、素材と生成物とが1:1対応関係の材料技術開発を目指す、というよくわからないプロジェクトがあった。
こんなプロジェクトを誰が企画したかどうか知らないが、そのようなプロジェクトでも税金が10億円ほど年間使われるのである。理事長にやんわりと皮肉を言ったら、理事長はよく中身を理解していない。
このあたり、あまり書くと嫌われるので本題に入るが、機能材料と言うものは、素材の配合設計とプロセス設計が1セットである。同一配合でもプロセスが変化すれば、生成物も変わる。
ゆえにプロセス抜きで配合だけで1:1に対応する技術の研究開発は、意味が不明である。有機合成ならば、プロセスが決まれば、生成物は、仕込みの原料で構造は一義的に決まる。
しかし、高分子のコンパウンディングや無機材料では、配合と生成物との1:1対応をプロセス抜きで語ることはできない。無機材料で結晶材料を目指す場合には、高分子のコンパウンディングよりも1:1対応を取りやすい。
しかし、高分子のコンパウンディングでは、混練機のスクリューセグメントによりコンパウンドの高次構造が変わり、結果として配合が分かっても混練技術が無ければ、同一コンパウンドを製造できない、ということが起こりうる。
当方は20年ほど前に、国内樹脂トップレベルのメーカーと6年間研究されて開発されたコンパウンドの配合をそのまま変更せず、混練プロセス設計だけを変えて、半年で、似て非なるコンパウンドの開発に成功し、製品を立ち上げている。
トップレベルと言われたコンパウンドは海島構造だったが、当方の開発したコンパウンドは、χが正の値であっても相溶したマトリックスのコンパウンドであり、その成形体は全く異なる物性を示した。
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