ロジカルシンキングのようなセミナーは、当方が社会人になった頃すでに存在した。ビジネスプロセスを科学的に進めようという考え方である。マーケティングのための市場解析や株価解析など科学的に進めた方が良いかもしれない。
しかし、科学的方法には、仮説設定により排除された現象をどのように扱えば良いのか、という問題が常につきまとうことを憶えておいた方が良い。
あるいはモデル化でも同様である。仮説に基づきそれを検証するためにモデルを作成すると、モデルから削り落とされる部分が必ずでる。
分析や解析、あるいは調査結果の説明などは科学的に説明を進めた方が理解されやすいし、印象が良いのは言うまでもない。しかし新たなイノベーションを起こそうというアイデアをひねり出すときに科学的方法だけでは不十分な時がある。
今不確実性の時代などと言われ続け、未来予測が難しい時代と思われている。故ドラッカーまで「誰も見たことのない未来が始まる」と遺稿となった「ネクストソサエティー」で述べる始末だ。
不確実だろうがなんだろうがビジネスに成功するためにはイノベーションを起こさなければならない。その時既存の科学的方法を採用しているビジネスプロセスだけで十分だろうか。弊社ではヒューマンプロセスとも呼べる方法を研究開発必勝法としてセミナーで公開している。
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高校数学で学ぶ証明問題の解答に必要条件と十分条件で論理を明示的に展開しないと×になる問題がある。実は「=」が必要十分な関係を示しているので、全ての問題が必要十分関係を議論しているわけだが、証明問題には、わざわざそれを明示しなければ正解とならない問題がある。ゆえに推論に向きがあることを高校を卒業した人ならば誰でも知っているはずなのだが、卒業すると忘れてしまう。
それは日常の思考や科学で現象を考えるときに無意識に必要条件から考える癖が身についているからだ。いわゆる科学で脳みそが汚染された結果である。この前向きで推論を進める癖は簡単に矯正できる。現象の結果から考えれば良いだけだからだ。すなわち現象の結果や結論を明確にして逆向きに推論を進めるだけである。
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無機材質研究所で卵をかえすことができ、さらに共同研究を進めてフェノール樹脂を助剤として用いる高純度焼結体製造技術や粉末の粒度調整技術など様々な成果を出すことができた。この高純度SiCの事業は、ゴム会社で現在も続いているが、無機材質研究所との共同研究の成果や住友金属工業とのJVの歴史は、当方の転職後隠されてしまった。
当方の転職は、住友金属工業のJVの業務と電気粘性流体の業務を担当しているときに起きた、データフロッピーを何者かに破壊される、という事件がきっかけだった。2枚まで壊されても黙っていたが、3枚目が壊されたとき、目撃者もいたことと、その壊し方がM氏のフロッピーを当方のデータフロッピーへべたコピーするという方法だったので、犯人を特定することができた。
犯人も同席する会議の席で、この事件の問題を訴えたところ、研究所では事件を隠す方向で動いた。その結果、当方の立場が悪くなり、せっかく出口が見えた高純度SiC事業を残して、ヘッドハンティングの会社が紹介してくださった写真会社へ転職することになる。写真会社を選んだのは、転職後の業務がそれまで担当していた業務と全く異なっていたからである。
その後、写真会社で某学会賞の審査委員を担当していたら、住友金属工業とのJVの歴史までをそっくり隠した開発の歴史が書かれた高純度SiCの事業化という候補技術の推薦書が出てきた。そこには無機材質研究所との共同開発の歴史が無いだけでなく、受賞者としてふさわしい無機材質研究所研究員の名前が載っていなかった。
このあたりはこれ以上詳しく書けないが、結局この年の審査には落ちて、無機材質研究所を含めた形の推薦書が出しなおされて受賞するという結末である。
産学連携の問題を考えるときに、このような不誠実が原因となる問題をまずつぶさない限り、健全なアカデミアとなるような産学連携など実現できないと思っている。
ゴム会社の創業者は誠実に産学連携を進められた。その精神はゴム会社に残っていたが、あいにく研究所にはその香りもない状態だった。当方が入社したときのゴム会社は研究所の風土と商品開発部隊の風土とがたいへん異なる会社だった。
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先行投資のおかげでゴム会社に高純度SiC合成技術の研究開発環境が整った。そのため3年間の留学予定を1年弱で終えることになった。しかし、ここから住友金属工業とのJVをスタートさせるまで、いわゆる開発の「死の谷」を歩くことになる。
ファイセラミックス棟の起工式の日に入院された上司が竣工式の日に亡くなられた。その後ほぼ1年程度の間隔で管理職が代わり、開発が迷走することになる。
多段湿式法によるペロブスカイト粉末の開発やSiC長繊維の開発、SiCるつぼの開発、窒化ケイ素の開発、窒化アルミニウムの開発、ECDの開発、セミソリッド電解質の開発、切削チップの開発、SiCヒーターの開発、燃料電池電極の開発、Li二次電池電極の開発、その電解質の開発、電気粘性流体の開発など高純度SiCの事業化を推進しながらいろいろなテーマを担当した。
この間、無機材質研究所だけでなく、三重大、阪大、東北大、都立工業試験所などミニ産学連携研究を多数行っている。そのとき費用対効果の評価では無機材質研究所がトップだった。理由は企業からの持ち出しは人件費だけだったからである。他は奨学寄附金で手当てできる場合にはそれですませたが大学によってはまとまった金額が必要な場合もあった。当時はTLOが無かったので金額は先生の希望額で決まっていたようなところがあった。
ただ、無機材質研究所だけは、過去の実績から、なにがしかの研究プロジェクトへゴム会社が参加する形式の産学連携体制だったので、費用発生は無かった。すなわちパイロットプラントで試作された高純度SiC粉末を無機材質研究所に提供して、フェノール樹脂を助剤にしたホットプレス焼結や常圧焼結、高純度SiC粉末の粒度調整技術などが共同研究のテーマとして進められ、基盤技術の無かったゴム会社では、砂漠に水が吸収されるがごとく、みな成果となっていった。
しかし、これらの成果は住友金属工業とのJVが立ち上がるまで、マーケットが見つからなかったので生かすことができなかった。ただしすぐには生かされなかったが、基盤技術として残り、JVでは当方の0.5人工数しかマンパワーを避けなかったにもかかわらず、順調に立ち上がった。
0.5人工数しか避けなかった理由は、高純度SiCの担当者が当方一人であり、他のテーマとして電気粘性流体の開発も担当していたからである。過重労働(注)という表現を通り越して、毎日手品をやっているような仕事の進め方であった。その手品の種は、JVを始める前に産学連携で進められた無機材質研究所との共同研究成果だった。
(注)ファインセラミックス研究棟が立ち上がり、当初20名弱のプロジェクトでスタートしたが、その後Li二次電池の技術が日本化学会賞を受賞するとそちらに人員が配置され、年々人数が減少し、最後に管理職もいなくなり、広いファインセラミックス研究棟に当方一人になった。これはさすがに寂しかったので結婚して気分転換し、それまで独身寮からファインセラミックス研究棟まで徒歩3分の生活から、一時間の通勤時間が必要となる生活に変わった。この一時間の通勤時間は、気分をリフレッシュするには十分な時間だった。精神衛生上問題となる環境だったが、なすべきことが明確だったので夢実現のためストレスを自己実現に転換するよう努力した。取締役が厳しい方であったが、学位取得などの方向を示してくださったおかげで道に迷うことはなかった。また、製造した粉体を自分で販売してこい、という指示も、気分転換の機会ととらえ営業の真似事もしていた。この仲人までしてくださった役員も交代すると、予算が0となった。ただし研究開発管理部長がここでは書きにくい特別な手当てをしてくださり、名目上の予算は0であったが、設備以外は従来通り研究開発できる状態だった。そのおかげで住友金属工業小嶋荘司氏の依頼で高純度SiC粉体を10kg供給することができJVを立ち上げることができた。半導体治工具に関する共同出願特許が当時の両者の関係を示している。
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セラミックスフィーバーのさなか、当方の無機材質研究所へ留学した経緯についてすでにこの活動報告で書いている。すなわち、社長方針の一つにファインセラミックス分野への進出が出ていたが、ゴム会社にはセラミックスの専門家がいないという理由で研究所の管理職は前向きに取り組んでいなかった。
そして小生の留学先もゴム会社で留学実績が多い米国アクロン大学と安直に決められた。当方は高純度SiCの事業ビジョンをすでに企画として提出していたが、研究所内では企画として扱っていないばかりか、留学先も当方が望んでいるところではなく、語学留学の色彩が濃い研修先と思われた。
しかし、人事部長などのご尽力があり、当方の希望通り無機材質研究所への留学が決まったが、留学して半年後に行われたゴム会社の昇進試験に落ちた。この試験問題では、どのような新事業を推進したいかと問われていたので高純度SiCの事業について、企画でまとめた内容を記述したところ0点がつけられた。
この採点は研究所の管理職が行っており、人事部長からのフィードバックでは、これまで昇進試験で0点という得点はつけられた実績はなく、留学を終えた3年後の職場についてよく考えておくようにと電話で指導された。当方は悔しさで、採点者が後悔されるように頑張ります、と答えるのが精いっぱいだった。
この出来事を電話の横で聞かれていた無機材質研究所I総合研究官がすぐに行動を起こされ、その後の所長はじめ諸先生方の対応は素晴らしかった。当方のビジョンを実現可能かどうか、それを確かめるためのチャンスとして1週間だけ自由に研究できる期間を小生にくださったのだ。
そして小生はこのチャンスを生かしてフェノール樹脂とポリエチルシリケートの相溶した前駆体ポリマーを使った高純度SiC合成技術を4日で「完成」させている(注)。
ここで「完成」という言葉を用いているのは、この時の0.5g程度うまく合成できた条件で半年後パイロットプラントの建設を行っているからである。基礎研究もしていないのにいきなりパイロットプラント建設という常識外れの進め方に、どうしてなったのか。
それは研究所の責任者である取締役の交代と研究所の組織再編成があり、ゴム会社の研究所のマネジメントがうまく機能していなかったためである。
昇進試験に落ちたおかげで訪れたチャンスにより、留学中は研究テーマとして扱わない約束だった高純度SiC合成法を無機材質研究所で成功させることができた。しかし、それでも動こうとしない研究所を見かねた本社の幹部の方々が、研究所建設に必要な先行投資の社長決裁をとるための舞台を用意してくださった。
たった一回の実験で得られた、0.5gの高純度SiCの粉末を手に、社長の前でプレゼンテーションを行い、ファインセラミックス研究所の建設と2億4千万円の先行投資が決まった。
(注)この時、真黄色の3CタイプSiC粉末がたった一回の焼成で得られたのでSTAP細胞並みの騒動に発展するところだった。ちなみに当時高純度のSiC粉体を得るには、レーリー法を用いて何度も2000℃以上の高温度で昇化ー再結晶を繰り返す必要があった。すなわち、原料価格が仮に低純度品の100倍以上だったとしても高純度SiC合成法として極めてコストパフォーマンスの良い手法であることが瞬時に判明したのだ。30年以上前のセラミックスフィーバーでは、この高純度合成法についてレーザー法やプラズマ法など様々な取り組みも行われていた。簡単に高純度SiCの大量生産が可能な、当方の発明によるプロセスが世間に与える影響の大きさは容易に予想された。そこで、無機材研では、特許出願だけ行い、すべてを秘密にする処置がとられた。当方も素直にその指示に従った。ゴム会社の研究所と本社人事部にはすぐにこの状況をレポートとして送っているが、本社側が迅速に体制づくりに動いたにもかかわらず、研究所ではレポートの内部回覧さえされなかったという。ホモポリマーからSiC繊維を合成する矢島先生の研究から数年後に、この研究の原料よりも低価格なポリマーアロイを前駆体にしたSiC合成法が生まれている。すぐに発表されていたなら、STAP細胞並みの騒動になっていたことは当時のセラミックスフィーバーと呼ばれた社会状況から明らかだった。理研と異なり無機材質研究所の冷静な対応が素晴らしかった。この研究が無機材研から新聞発表されたのは、当方が日本化学会年会で発表することが決まってからだった。
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おいしいカレーライスを科学的に作り出すことが可能だろうか。おそらく一つの真理として導き出すためには、「おいしい」という定義から入らなければならないだろう。仮に定義できて、おいしいカレーライスを作り出すことができたとしても、汚い実験台の上で食べたならその味もだいなしになる。
そこで食べる環境までもおいしい定義に入れるとしたら、この定義そのものも大変に難しくなってくる。しかし技術的においしいカレーライスを作ることは可能だ。またそのためのルーを開発することも容易で、その証拠に市場に行けばいろんなカレールーが店頭に並んでいる。
どんなに安いルーでも父親が愛情込めて作れば、香辛料が機能してカレーと呼べる料理になっておれば、少なくとも家族は、「おいしいカレーライス」と言ってくれる。
だから、おいしいカレーライスを科学的に作り出すことが難しくても、香辛料の機能を損なわないようなプロセスを用いる限り技術的には容易である。また、おいしいカレーライスを作るためにあえて科学を道具として使う必要はなく、食べる人を想像しながら愛情を込めて作れば良いのである。
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先週末土曜日の山本先生のご講演のタイトルは「破壊的イノベーションと触媒化学(日本の強みと弱み)」であり、アカデミアのお立場から研究の意味と構造、その構造を踏まえて市場にGame Changingを促す破壊的イノベーションをどのように起こすのかをご自分の体験から説明された。
その中で産学連携における企業側への注文として、真のボトルネックとなる課題をアカデミアに提示して欲しいと語られた。また、大学の真の役割はCreating Shared Value であり、企業固有の内的テーマを持ってこられても困る(ここまでの強い言葉では言われていないが---)と申されていた。
当方が12年間在籍したゴム会社は、産学連携で成功体験のある会社だった。BR01と呼ばれる合成ゴムを京都大の「基礎」研究を基にした共同研究(「応用」研究)で開発し実用化している。そして、半官半民の合成ゴム会社を設立し、この会社も世界的な合成ゴム会社に育てている。すなわち京都大学古川教授は、新しい有機金属触媒で高分子重合プロセス分野に山本尚先生の言われた破壊的イノベーションを起こされたのである。
これらは創業者の力量による成果である。もちろん事業成功のために関わった方々の努力も大きいが、このBR01成功の前に、大阪工業試験所の「基礎」研究へ無条件大規模寄付を行ったりしていた伝説を聞き、産学連携における経営者の役割は大きいと感じている。ちなみにこの寄付の話は、無機材質研究所所長から伺った話で創業者の伝記には書かれていない。
世界的なゴム会社を育てた創業者は経営者としての能力以外に、先の無機材質研究所長の話によれば、アカデミアに対する造詣も深く、産学連携に熱心だったという。
創業者の実績のおかげで、セラミックスフィーバーのさなか門外漢の素人の留学が難しい無機材質研究所へ、ゴム会社の一社員が入所することができた。ちなみに当時の無機材質研究所にはセラミックスメーカーからの留学生が定員以上に在籍しており、満員御礼状態だった。
当方はSiCの研究グループを希望していたが、そのグループでは2年先まで留学生の予定が詰まっていた。しかし、ゴム会社の産学連携におけるアカデミアへの貢献実績から特別に留学を許可されたのだった。ただし、条件として企業からのテーマの持ち込みは禁止されており、無機材質研究所のテーマをお手伝いすることが前提にあった。すなわちポリエチルシリケートとフェノール樹脂の透明な前駆体を原料とした高純度SiCの研究は留学終了後ゴム会社で行う、という条件になっていた。
この条件で当方が最初に担当したのは、SiC単結晶の異方性に関する研究で、小生は半年間にSiC単結晶に異方性ができるスタッキングをシミュレーションするプログラム作成や2H単結晶の3Cへの転移その場観察、6H単結晶の転移のその場観察、窒化ケイ素単結晶の熱膨張その場観察で成果を出している。これらを短期で実績を出したので明日の話につながっている。特に2200℃まで単結晶を安定に固定できる接着技術を開発した功績を褒めていただいた。
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山本尚先生は有機合成分野における触媒反応の権威で、「基質支配の反応」を御研究されてきた。ほとんどの有機反応は、「反応剤支配の反応」であり、今世紀に入りこの反応の分野で破壊的イノベーションが進行しているという。
すなわち、当量反応であった化学プロセスが触媒反応に塗り替えられているという。そうしたイノベーションを起こされた先生のご経験から、昨日のアカデミアの研究構造が語られている。
すなわち、先生は、アカデミアで未知の学理を探求され「純正」研究を進められた。そこで培われた「基礎」研究を応用研究まで展開され、有機合成の世界に破壊的イノベーションを起こされた体験を語っておられたのだ。
この、先生が実践された「応用」と「純正」に向かう真の「基礎」研究では、目標に沿った学理を世界で初めて見出すことが要求される。そして「純正」研究の目標では、流行を追わず、また狭い分野の科学技術にとらわれない融合研究領域を目指すべきで、新しい学問を創る気概が必要だと述べられている。
そしてアカデミアの研究者は未知の基礎学理を見つけ、新しい世界のイメージストーリーの提示が必要だと指摘し、それにより「Game Changing」を成し遂げると述べられた。
これは、アカデミアの研究の構造の視点で述べられた破壊的イノベーションのおこしかたであるが、ドラッカーも述べているパラダイムの変換による破壊的イノベーションの起こし方のアカデミア版と感じた。
先生は、研究を誰のために行うのか、という視点でも、応用研究と純正研究の違いを説明されていた。前者が人のためであり、後者は自分のためだ、と明確に言われた。このあたりは、研究者として年を重ねても純正研究だけをやり続ける姿勢について批判されている。
ご自身の研究について、アカデミアの研究構造に基づく説明でまとめられていたので、途中から参加したにもかかわらずご講演の意図を理解できた。しかし、産学連携における企業側への期待がうまく実行されるかどうかは難しいと感じた。企業側の問題は、もっと次元の低いところにある。
企業側の問題以外に、先生は指摘されなかったが、「今の時代の」アカデミア側の問題もある。すなわち「末梢」研究に走り、それをもとに「純正」研究を行うアカデミア側の問題である。当方はこれを「技術が科学を牽引し始めた」と以前この欄で指摘している。
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3日(土)に山本先生のご講演を拝聴した。時間を間違えて30分程遅刻したので、空いていた最前列に座ることになった。偉い先生のご講演であることはこの空席の状態から理解できたが、遅刻して一番前に座らなければならない事態で学生時代の授業を思い出した。
ところで福井大学客員教授を勤めさせていただいたとき、授業では後ろの席と前の席が詰まり真ん中ががら空き状態だった。前の席を占拠していたのはすべて留学生だった。このとき大学の授業で後ろから席が詰まるのは日本人特有の習性と知った。
遅刻したので最初の30分を聞き逃したが、inventionとinnovationについて説明しているスライドが映し出されていた。基礎という新しい学理から純正研究を進めてゆくのが発明とか創意で、これは理学であり、順問題を解くことになる。応用研究から基礎という新しい学理を追求するのは工学であり、逆問題を解くことになる。そしてこれがイノベーションを引き起こすと説明されていた。
途中から伺ったので意味不明だったが、その次に、アカデミアの研究構造と称して上田良二先生が考えられた四象限模式図を用いて説明された。
研究には社会に役立つ「応用」研究と自分の探求心から行う「純正」研究があるという。そして、会社で行われる研究は、既存の学理による「末梢」研究であり、当面役に立たないような「純正」研究は、未知の学理を求める「基礎」研究から生まれると、四つの象限を説明された。
すなわち、第一象限には「純正」、第二象限には「応用」、第三象限には「末梢」、第四象限には「基礎」と書かれたスライドが映し出されていた。inventionとinnovationとを説明したスライドと同じような説明をされているようにも聞き取れたが、現在のアカデミアの99%が「末梢」に基礎を置く「純正」研究と説明された点は、非常に的を得ていると思った。
すなわち99%の大学は、「末梢」研究を基に「純正」研究を行っているという。残り1%の大学だけで「基礎」研究から「応用」研究を進めており、これが重要で、この流れだけが破壊的イノベーションを引き起こすという。
この説明は理解しやすく、アカデミアの現状を憂慮されているお気持ちが伝わってきた。そのお気持ちから企業へのお願いとして、真のボトルネックとなる課題をアカデミアへ提示していただきたい、と述べられていた。
すなわち、産学連携によりアカデミアの研究が影響を受けたり、TLOがなぜうまくゆかないのか等わかりやすくご説明され、大学の真の役割は共有価値の創造(Creating Shared Value)と一つの結論を講演の中盤で提示された。このことで、前半産学連携におけるアカデミアの問題を話されていたのだと想像できた。
偉い先生のご講演に遅刻し失礼をした以上は、一生懸命理解する覚悟で拝聴したが、アカデミアの深刻な問題の構造を考えることになり、後半に話された先生の御研究までもその延長の感覚で聞いていた。
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高分子学会の年会では、学生のためのキャリアカフェなどの企業ブースがあったため、企業の方々も会場に多かった。日本化学会の年会では規模が大きいので企業研究者の参加が少ないように見えるが、高分子学会の年会では、発表こそ少ないが、出席者は多いように思われた。
企業研究者の数はアカデミアよりも多いはずなので、本来は、発表者も参加者も同じくらいが理想だと思っている。これが小規模の研究会になると企業研究者の割合は多くなるが、この研究会の内容によっては、アカデミアが圧倒的多数という状態も見受けられる。
こうした企業研究者のばらつきは、明らかに研究発表について序列あるいは価値判断をしている結果である。若い頃に興味があったので出てみたい研究会があり出張を申し出たら、上司から仕事に関係ない無駄な研究発表を聞いてどうするのだ、と言われた思い出がある。
民間のセミナー会社の講演会は4万円前後であるが、学会開催の研究会のたぐいは1万円程度で、また発表件数も多いので、一件当たりのコストパフォーマンスが高い、とか説明し何とか出張許可を頂こうとしたら、その高いと言っているセミナーで聴いてきて欲しいのがあるからこちらへ行ってこい、と言われた。
そのセミナーは難燃剤のセミナーで業務に直結はしていたが、残念ながら自分の知識の範囲以上の情報は無かった。しかし、組織で働く立場として出張報告には「時間の無駄だった」とは書けず、「知識の整理ができた講演会」というコメントを書くのが精一杯だった。
源氏物語の研究で光源氏の恋に新しい真理が見つかったとしても、その価値を感じる人は源氏物語ファンに限られるかもしれない。しかし自然科学の研究では、それで新しい真理が導かれている限り、技術者にとって、そこに新たな機能や問題解決のヒントになるコンセプトが潜んでいないか、考えるだけの価値がある。
今アカデミアは、求められた真理について研究との関係に関する考察を加えるだけではなく、それがどのような新しいコンセプトを人類に提案しているのか、あるいは人類に役立つどのような機能を見いだしたのか、など真理の一般化や汎用化の考察を夢でも良いから自ら「しなければいけない時代」だと思う。素粒子研究などでは、壮大な夢物語が語られ、時としてそれをばかばかしく思ったりして自分の年齢を感じたりするが、その他の分野の研究者も見習う必要があるのかもしれない。
(注)本来は人生に関わるという理由で、光源氏の恋についても価値を感じなければいけないのかもしれないが、古典に興味が無ければ記事さえ読むこともない。文学の研究の価値を問われても分からないが、自然科学の研究は、人類が営みとして自然から新しい機能を取り出す活動を必要とする限り価値がある。昨日名大工学部応用化学科の卒業生の集まりがあり、山本尚先生のご講演を聞くことができた。明日からこの先生のお話についてまとめる前に、当方の科学の研究に対する考え方を本日書いてみた。
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